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【事例紹介⑥ 技術系スタートアップ】「負け戦だと分かっているのに、やめられない」──博士起業家が“戦う市場”を変えるまで

※本記事は複数の支援経験を基に再構成した事例であり、実在の企業・人物とは関係ありません。
成果を保証するものではありません。


■ 背景

相談に来られたのは、
理系博士号を持つ技術者で、ある技術分野で起業した30代の経営者。

・起業から約2年
・社員も複数人雇いながら事業拡大を図っている
・複数の企業と直接取引があり、技術力は評価されている
・既に月次黒字、年次でも黒字化の見込み

相談の入口は、
「次の成長段階も視野に入れた事業を作りたいので、壁打ちをしてほしい」
というものでした。

外から見れば、
技術も実績もある、堅実な技術系スタートアップ。

しかし、話を深めていく中で、
本人の口から出てきたのは、こんな言葉でした。

「最近、正直しんどいんです。
勝てない気がしているのに、何を変えればいいのか分からない」


■ 表に見えていた“問題”

当初、相談内容として挙がったのは次の点でした。

・低価格品の流入により、価格差で顧客が流れている
・市場はニッチで、大きな成長は見込みづらい
・価格競争に巻き込まれ、売上がじわじわ下がっている

話を聞くうちに、
「新規参入企業が悪い」
「不公平な競争だ」
という感情も滲んでいました。

本人も頭では理解していました。

・技術勝負では消耗戦になる
・市場は伸びない
・このままではジリ貧

それでも、
「今の事業を続ける」以外の選択肢が、
見えなくなっていたのです。


■ 本当の詰まりはどこにあったか

整理していく中で見えてきたのは、
問題そのものよりも「前提」が固定されていたことでした。

・この会社を続ける前提
・日本市場で自社として勝つ前提
・競合と同じ土俵で戦う前提

そして何より、
「起業した以上、ここで勝たなければならない」
という、本人も気づいていなかった思い込み。

技術・事業・感情がすべて混ざり、
身動きが取れない状態
になっていました。


■ 支援で最初にやったこと

※解決策は出していません

この面談で、
具体的な対策や改善案は、ほとんど提示していません。

代わりに行ったのは、
視点を分けて、並べることでした。

① 投資家の視点で見たらどう映るか
・技術や経験そのものの価値
・事業の形に閉じない評価のされ方

② 会社と人生を切り分けて考える
・この市場で戦い続ける合理性
・売却やモデル転換という選択肢

③ 国や立場をまたぐキャリアの視点
・自社で勝つ以外の関わり方
・技術者として価値を発揮する別の盤面
・起業家として得た知見を、後進の起業家に活かすという選択

あくまで、
「こうすべき」ではなく、
「こういう盤面もあります」と並べただけです。


■ 1時間後に起きた変化

話の終盤、彼は少し笑いながら言いました。
心なしか表情も柔らかくなっていました。

「そういう視点、全然なかったです」
「一気に楽になりました」
「来てよかったです」

解決策が出たわけではありません。
意思決定をしたわけでもありません。

ただ、
・「続けるしかない」という前提
・「負け戦を戦っている」という自己認識

これらが一度ほどけた。
それだけで、思考は前に動き始めました。


■ この事例から分かること

この相談で起きたことは、とてもシンプルです。

・技術の問題ではない
・能力の問題でもない
・戦略の細部でもない

前提が混ざっていただけ。

整理されると、
・今やるべきこと
・やらなくていいこと
・今は決めなくていいこと

が自然に分かれていきます。

経営が動き出す瞬間は、
正解を知ったときではありません。

「選択肢が増えた」と気づいたときです。


■ まとめ

・優秀な経営者ほど、前提に縛られやすい
・技術・感情・責任が混ざると、視野は狭くなる
・解決より先に、「整理」が必要なケースは多い

この事例は、
「経営を良くした」話ではありません。

経営者が、
もう一度「考えられる状態」に戻った。
ただ、それだけの話です。

そして、それこそが
次の一手が生まれる“スタート地点”になります。

※このような「事業は成立しているが、前提が固定されて身動きが取れなくなる」相談は、
技術系・専門職の起業家を中心に、増えている印象です。もし、あなたの中に言葉にできない「詰まり」があるのなら、それは能力の問題ではなく、ただ視点を整理するタイミングなのかもしれません。


もしあなたが今、

・事業は成立している
・致命傷はない
・でも、どこかで「このままでいいのか」と感じている

そんな状態にあるなら、
それは能力の問題ではありません。

ただ、
視点が混ざっているだけかもしれません。

初回は、
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著者プロフィール

熊谷 篤(くまがい あつし)
実戦経営アドバイザー/中小企業診断士

年間400件以上の経営相談を行い、
承継後3年以内の承継者を中心とした伴走支援を実施。
VCでのIPO支援や、年商100億円企業の改善支援など、
多様な現場で成果を創出。

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