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もみじ饅頭の老舗は、なぜ白いレモン菓子をつくったのか。藤い屋「淡雪花」と広島レモン

淡雪花と書いて、「あわせつか」と読みます。

広島・宮島でもみじまんじゅうを作り続けてきた藤い屋が手がける、白いレモン菓子です。

広島県産レモンを使った羹を、ふわりとしたギモーヴで挟み、表面には細かな氷餅をまとわせています。

藤い屋といえば、まずもみじ饅頭を思い浮かべる人が多いでしょう。

その老舗が、もみじの形でも、あんこの菓子でもない商品を作った。

もみじ饅頭の老舗は、なぜギモーヴを使った白いレモン菓子を作ったのでしょうか。

淡雪花あわせつかをたどると、広島レモンを主役にする商品開発と、百年続く老舗が、新しい人との接点をどう作ってきたのかが見えてきます。




「淡雪」と「雪花」が、一つの名前になった

淡雪花あわせつかという名前には、菓子の姿そのものが重なっています。

藤い屋の公式オンラインショップでは、「淡雪」と、雪のひとひらを花に見立てた「雪花」という二つの言葉を重ねて名付けたと説明されています。

淡雪は、降っても、やがて淡く消えていく雪です。

雪花は、空から落ちてくる雪片を、一輪の花のように見る言葉です。

淡雪花あわせつかの表面には、細かく砕かれた氷餅がまとわされています。光を受ける白い粒は、雪のかけらにも、花びらにも見えます。

その内側には白いギモーヴがあり、さらに中央には淡い黄色のレモンかんがあります。

外側は静かで白い。

けれど、中には瀬戸内のレモンがあります。

古い日本語のようにも聞こえる名前と、マカロンにも似た現代的な造形。その間にある距離まで含めて、「淡雪花あわせつか」という菓子なのだと思います。

ギモーヴに挟まれたレモン羹。淡雪花の魅力は、味だけでなく断面の透明感にもある。

「しゃり、ふわ、ぷるん」は、何からできているのか

淡雪花あわせつかの特徴は、三つの異なる食感が、一つの小さな菓子に組み合わされていることです。

藤い屋や広島市は、その食感を、
「しゃり、ふわ、ぷるん」
と表現しています。

最初の「しゃり」は、表面の氷餅から生まれます。

氷餅は、餅を凍らせ、乾燥させて作る素材です。細かな粒にして表面へまとわせることで、雪のような見た目と、最初に触れる繊細な食感を加えています。

次の「ふわ」は、外側のギモーヴです。

ギモーヴは、果実のピューレなどにゼラチンを加え、空気を含ませて固めるフランス由来の砂糖菓子です。

マシュマロに似ていますが、果実の香りと、柔らかな口どけを前に出しやすい菓子でもあります。

淡雪花あわせつかでは、このギモーヴにも広島県産レモンの果汁と果皮が使われています。

中央の「ぷるん」は、広島レモンを使った羹です。

藤い屋の商品ページでは「琥珀羹」、公式通販や広島市では、より分かりやすく「レモンかん」と案内されています。本記事では、以降「レモンかん」と表記します。

寒天を使ったレモンかん
ゼラチンと空気を使ったギモーヴ。
餅を凍結乾燥させた氷餅。

淡雪花あわせつかは、和菓子と洋菓子を見た目だけで組み合わせた菓子ではありません。

異なる素材と技法を重ね、三つの食感が順に現れるよう設計された菓子です。


レモンを「脇役」ではなく、主役にする

淡雪花あわせつかは、もみじ饅頭とは別の菓子を作ろうとして、偶然レモンにたどり着いたわけではありません。

開発の出発点には、広島レモンがありました。

藤い屋4代目の藤井嘉人氏は取材の中で、2013年に広島で開かれた「ひろしま菓子博2013」をきっかけに、レモンを脇役ではなく主役にする菓子として、淡雪花あわせつかを考えたと説明しています。

レモンは、料理や菓子に香りや酸味を加え、全体を引き立てる素材として使われることが少なくありません。

けれど、主役として扱われる機会は、それほど多くありません。

そこで藤井氏は、広島レモン自体の魅力を伝えられる菓子を考えました。

氷餅を表面に使ったのも、洋菓子のようなギモーヴの姿に、和の印象を加えるためだったといいます。

白い見た目も、不思議な食感も、単なる意外性のためではありません。

レモンを主役にしながら、藤い屋が作る菓子として成立させるための選択でした。

淡雪花あわせつかは、「もみじ饅頭の次に何を作るか」ではなく、「広島レモンを、どうすれば一つの菓子の中心に置けるか」という問いから生まれたのです。


レモンは、広島の何を持ち帰らせるのか

淡雪花あわせつかを、単に「レモン味のきれいなお菓子」として見るだけでは、少し足りません。

広島にとって、レモンは単なる香りづけではないからです。

広島県の資料によると、県内のレモン栽培は明治31年に始まったとされています。

瀬戸内沿岸と島しょ部の温暖な気候は、寒さを嫌うレモンの栽培に適していました。

令和5年産では、広島県のレモン生産量は全国の約48%を占めています。

もみじ饅頭が宮島の風景を持ち帰る菓子だとすれば、淡雪花あわせつかは、瀬戸内のレモンを持ち帰る菓子といえるかもしれません。

もみじ饅頭には、もみじの形があります。

淡雪花あわせつかには、白い雪のような姿の中に、広島レモンがあります。

同じ藤い屋の菓子でありながら、持ち帰らせる広島の風景が違います。

一方は、宮島ともみじ。

もう一方は、瀬戸内とレモン。

淡雪花あわせつかの白さを通して見ると、広島土産の記憶に、淡い黄色の風景が加わります。

広島県はレモンの生産量日本一。淡雪花のレモンの香りは、瀬戸内の土地の記憶ともつながっている。

もみじ饅頭の老舗が、なぜギモーヴを作れたのか

藤い屋は1925年、宮島で創業しました。

4代目の藤井嘉人氏は、和菓子店と洋菓子店の双方で修行した後、2013年に家業を継いでいます。

藤井氏は取材の中で、現代の生活では、あんこに触れる機会自体が減っていることへの危機感を語っています。

誕生日には洋菓子のケーキを食べ、日常のおやつにも洋菓子が多い。あんこの味を知らない世代も現れている。

その状況で、昔からの商品だけを並べ続ければ、伝統は次の世代へ届くのでしょうか。

藤井氏の発言は、淡雪花あわせつかの直接的な開発意図を説明したものではありません。

淡雪花あわせつかは、広島レモンを主役にするという別の問いから生まれています。

ただ、伝統商品そのものを現代風に作り替えるのではなく、別の商品やブランドを通じて藤い屋との接点を増やすという考え方は、淡雪花あわせつかにも重なって見えます。

淡雪花あわせつかには、あんこが入っていません。

見た目も、もみじ饅頭とは大きく異なります。

それでも、寒天を使った羹、氷餅、雪や花を思わせる意匠には、和菓子店として積み重ねてきた感覚が残っています。

洋菓子の技法を使いながら、和菓子店であることは手放さない。

淡雪花あわせつかは、もみじ饅頭に代わる菓子ではなく、藤い屋と出会う別の接点を作った菓子と読むことができます。


淡雪花は、一つの味から「型」になった

淡雪花あわせつかには、その後の展開を象徴する出来事があります。

2022年、藤い屋は「淡雪花あわせつか イスパハン」を期間限定で発売しました。

ピエール・エルメの代表的なフレーバーである「イスパハン」と、淡雪花あわせつかを組み合わせた商品です。

ローズ、フランボワーズ、ライチが加わり、白いレモン菓子だった淡雪花あわせつかは、淡いローズピンクの菓子へ変わりました。

藤い屋にとって、これが初めてのコラボレーションでした。

味が変わっても、氷餅、ギモーヴ、羹による「しゃり、ふわ、ぷるん」という構造は残されています。

淡雪花あわせつかは、広島レモン味の一商品から、別の香りや果実を受け止められる菓子の「型」になっていたのです。

発表資料では、淡雪花あわせつかは「藤い屋四代目の代表作」と表現されています。

もみじ饅頭ほど長い歴史はありません。

それでも、別の味へ展開できる輪郭を持ち、外部との協業にも選ばれた。

淡雪花あわせつかが、藤い屋の新しい代表作の一つになっていたことが分かります。


手土産は、説明したくなると記憶に残る

手土産として強い菓子は、味だけで記憶されるわけではありません。

箱を開いたとき、予想していた姿と少し違う。
名前を見て、読み方を聞きたくなる。
そして、贈った人が少し説明したくなる。

淡雪花あわせつかには、その要素があります。

「あわせつか」と読む名前。
雪花を思わせる白い姿。
マカロンにも見える形。

けれど、構造を聞けば、氷餅、ギモーヴ、レモンかんという、さらに説明したくなる答えが返ってきます。

「広島のお土産です」だけではなく、
「もみじ饅頭の藤い屋が作った、広島レモンの白いお菓子です」

と言える。

贈り物は、ただ物を渡す行為ではありません。

その菓子について交わす短い会話も、手土産の一部です。

淡雪花あわせつかを繰り返し手土産として贈ってきたライターの七木香枝さんは、別々の人から三度、「これからもずっとこれがいい」と言われた経験を書いています。

一度驚かせるだけの変わった菓子ではなく、もう一度贈ってほしい菓子になっている。

そこに、淡雪花あわせつかの強さがあります。


もみじ饅頭を変えずに、入口を増やす

淡雪花は、もみじ饅頭の代わりとして作られた菓子ではありません。

広島レモンを脇役ではなく、主役にする。

その発想から生まれました。

ギモーヴという洋菓子の技法を使いながら、レモンかんと氷餅を組み合わせ、藤い屋の菓子として整えられています。

淡雪花は、もみじ饅頭を別の菓子へ作り替えたものではありません。

広島レモンを主役にすることで、藤い屋と出会うもう一つの道を作った菓子です。

変えないものを残すために、その隣へ新しいものを置く。

淡雪花の白さは、老舗のそんな選択を見せているように思います。


藤い屋「淡雪花」商品情報

※価格、販売場所、賞味期限、配送方法は変更されることがあります。購入時には、藤い屋公式の最新情報をご確認ください。


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