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【老舗和菓子探訪】乃し梅は、チョコになると山形の今になる。乃し梅本舗 佐藤屋「玉響」という、老舗の静かな発明

「乃し梅」という名前には、少しだけ距離を感じる人もいるかもしれません。

山形の銘菓。老舗の味。昔ながらのお土産。

けれど、乃し梅本舗 佐藤屋の「玉響(たまゆら)」を見ると、その距離がふっと変わります。

白餡と寒天でチョコレートと生クリームをつなぎ、その上に乃し梅を載せた「和の生チョコ」。

これは単なる和洋折衷ではなく、乃し梅を今の暮らしへ手渡し直すための菓子なのだと思います。




乃し梅を載せた、和の生チョコ「玉響」とは

玉響たまゆらは、山形の老舗・乃し梅本舗 佐藤屋がつくる、乃し梅を載せたチョコレート菓子です。

白餡と寒天でチョコレートと生クリームをつなぎ、「和の生チョコ」のように仕立てています。

公式サイト掲載時点では、次の入数が案内されています。

* 6個入:1,620円
* 12個入:3,240円
* 18個入:4,860円

価格や販売状況は変更される場合があります。

また、過去の佐藤屋公式発信では、暑い夏の時期に販売を休止する場合があると案内されています。購入前に公式オンラインショップなどで、最新の在庫と販売時期をご確認ください。

この菓子で興味深いのは、チョコレートと生クリームの間に、白餡と寒天が入っていることです。

白餡。寒天。チョコレート。生クリーム。そして、乃し梅。

チョコレートを洋菓子のまま扱うのではなく、一度、和菓子の素材と技法の中へ通している。

佐藤屋が玉響たまゆらを「和の生チョコ」と表現する理由は、見た目だけではなく、この成り立ちそのものにあります。

佐藤屋の原点ともいえる「乃し梅」。江戸期の気付け薬に由来し、完熟梅の酸味を生かした山形銘菓として受け継がれてきた。

乃し梅は、薬の知恵を菓子へ変えて生まれた

乃し梅本舗 佐藤屋は、山形市十日町に店を構える老舗菓子店です。

創業は文政4年、1821年。

店の原点となる乃し梅は、完熟した梅の酸味を生かした山形銘菓です。

佐藤屋の公式説明によると、そのもとになったのは、江戸時代まで山形に伝わっていた、梅を煮詰めてつくられた気付け薬でした。

それを伝えていた薬屋の生まれである初代・松兵衛が菓子屋を始め、代々の工夫を経て、明治初期に現在へつながる乃し梅の形が完成したとされています。

つまり、乃し梅は、はじめから完成された伝統菓子だったわけではありません。

梅をどう生かすのか。
どう保存するのか。
どのような形なら、菓子として届けられるのか。

土地の気候、薬の知恵、寒天、保存と乾燥の技術。さまざまな工夫が重なって、現在の姿になりました。

伝統という言葉からは、変わらないものを想像しがちです。

けれど、長く残ってきたものの多くは、その時代の人が受け取りやすい形へ、何度も整え直されてきたものでもあります。

玉響たまゆらもまた、そうした乃し梅の歴史の延長にあります。

「玉響」は6個入、12個入、18個入で展開されている。山形土産としてだけでなく、贈り物としても選びやすい構成になっている。

なぜ、老舗の乃し梅はチョコレートと出会ったのか

佐藤屋の公式サイトには、「和菓子をちょっと自由に」という言葉があります。

この「ちょっと」という表現が、佐藤屋の菓子づくりをよく表しているように思います。

「自由に」だけなら、伝統から大きく離れていく印象を持つかもしれません。

けれど「ちょっと自由に」であれば、元の場所を大切にしながら、そこから半歩だけ外へ出てみるような感覚があります。

玉響たまゆらは、まさにその半歩から生まれた菓子です。

乃し梅をやめるわけではない。
乃し梅を、過去のものとして扱うわけでもない。

乃し梅が持つ酸味や薄さ、余韻、山形らしさを、チョコレートという別の形へ移しています。

佐藤屋八代目は公式ブログで、若い人にとって乃し梅が少し古く見える菓子になっていたことに触れています。

乃し梅を知らない人にも、その面白さを届けるにはどうすればよいのか。

その試みの一つとして、乃し梅とチョコレートが出会いました。

昔からあるから食べてほしい、と伝えるだけでは、届かない人がいます。

山形の銘菓です、と説明されても、それを自分の暮らしへどう入れればよいのか分からないこともあります。

だから老舗は、ときどき、今を生きる人が手を伸ばせる形をつくる。

玉響たまゆらは、乃し梅を別のものへ変えたのではなく、乃し梅を現在の言葉へ翻訳した菓子なのだと思います。

老舗は、止まっているから老舗なのではありません。

動き続けながら、それでも残っている。

玉響たまゆらから見えてくるのは、そうした老舗の姿です。


「玉響」という名前が残す余韻

玉響と書いて、たまゆら。

命名の具体的な意図そのものとは別に、実際に食べたあと、この名前は菓子の印象によく似合うと感じました。

「たまゆら」という音には、短い時間や、かすかな気配を思わせる響きがあります。

チョコレートは、口の中でゆっくりと溶けます。
そのあとから、乃し梅の酸味が立ち上がり、味が消えたあとにも、かすかな輪郭が残ります。

「梅チョコ」と呼べば、商品の構造はすぐに伝わります。
けれど、「玉響たまゆら」と名づけられていることで、ひと粒を選び、口に入れ、消えていく味を追う時間まで、菓子の一部になるように感じます。

「和菓子をちょっと自由に」という佐藤屋の姿勢は、伝統を守るだけでなく、いま食べる人の感覚へ菓子を開いていく態度でもある。

山形土産としても、手土産としても選びやすい

玉響たまゆらは、菓子としての発想だけでなく、手土産としてもよく設計されています。

佐藤屋は、生チョコレートのような印象を持ちながら常温で持ち運べ、暑い中でもブルームが起きない菓子として紹介しています。

ただし、販売時期については夏季に休止される場合があるため、購入前の確認が必要です。

山形らしさがある。
老舗の背景がある。
チョコレートとしての親しみやすさもある。
6個入から選ぶことができる。

手土産は、味だけでなく、相手に渡したときの会話まで含めて成立するものです。

「山形の乃し梅の老舗がつくっているチョコレートなんです」

その一言から、乃し梅や山形、佐藤屋の話を始められます。

説明できる背景がありながら、何も知らずに箱を開けても、菓子としての美しさが伝わる。

それも、玉響たまゆらの強さです。

佐藤屋は、コーヒーや紅茶に加え、燗酒との取り合わせも紹介しています。

私が実際に食べた印象からも、乃し梅の酸味があることで、一般的な生チョコレートとは少し違う、飲み物を合わせる余地のある菓子だと感じました。

最初のひと粒は、何も合わせずに。

そのあとで、コーヒーや紅茶とともに味わう。

そうすると、玉響たまゆらが持つ和菓子とチョコレート、二つの顔が、より分かりやすくなるかもしれません。


乃し梅は、チョコになると山形の今になる

乃し梅は、山形の土地と、梅を生かす知恵から生まれた菓子です。

玉響たまゆらは、その乃し梅を、今の人が手に取りやすい形へ移しています。

けれど、乃し梅を隠してはいません。

むしろ、チョコレートと出会うことで、乃し梅が持っていた酸味や余韻が、これまでとは違う輪郭で見えてきます。

古いものを、無理に若く見せたのではない。

新しい菓子に、伝統を飾りとして載せたのでもない。

受け継いできた味を、今を生きる人が手に取れる形へ、静かに整え直した。

乃し梅は、チョコになると山形の今になる。

玉響たまゆらという小さな菓子には、老舗が続いていくための、静かな想いが凝縮されている味わいを感じます。


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