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バランスト・スコアカード(BSC):戦略を成果に変える超重要フレームワーク

経営における非常に重要なフレームワークの一つに、バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard BSC)というものがあります。

このフレームワークは経営の健康診断のために利用され、課題を明らかにし、企業価値を向上させるための戦略立案と実行を助けます。

これを使いこなせるかどうかが、経営力と言ってしまって問題ないほど、本当に重要なフレームワークです。


今回は、バランスト・スコアカード(BSC)に関して Kaplan & Norton による 4本の著作の内容をできる限り正確に見ていきます。経営者はもちろん、各種 KPI を設計し予実管理をする経営企画室向けの記事です。また、将来的に経営者を目指す人であれば、知っておくべき内容かと思います。


■ バランスト・スコアカード爆誕: Kaplan & Norton (1992)

Kaplan, R. S., & Norton, D. P. (1992). The Balanced Scorecard—Measures That Drive Performance. Harvard Business Review, 70(1), 71–79.

このフレームワークは「財務指標だけでは企業の真のパフォーマンスは測れない」という問題意識により開発されたものです。

このフレームワークが登場する以前の経営管理は財務三票(B/S、P/L、C/F)依存性が高かったのです。過去志向的(結果の報告)であり、短期志向的でした。そして無形資産(人材・知識・顧客関係)を評価できないという問題もありました。

要するに、このフレームワークが登場する以前の経営は、将来の競争力を十分に測れない状態にあったと言えます。

この論文のコアは、企業価値創造の因果を、長期的視点から明らかにし、その測定可能性を力強く打ち出した点にあります。

それらは、4つの視点の提供と、それら4つの因果関係の提示にあります。以下、原典に可能な限り忠実に、この論文が示すところを説明します。

オリジナル論文(1992年)の表現。現在、一般的に浸透している表現とはかなり異なります。

1. Financial Perspective(財務の視点)

財務の視点は、企業の戦略およびその実行が最終的にどのような経済的成果をもたらしているかを示すものです。売上成長、収益性、投資効率などの指標を通じて、株主価値の創出を評価する役割を担います。他の視点での改善活動は、最終的にこの財務成果へと結びつくことが前提とされ、全体の成果を統合的に示す「結果指標」として位置づけられます。

2.Customer Perspective(顧客の視点)

顧客の視点は、企業が選択したターゲット市場および顧客セグメントにおいて、どのような価値を提供し、どのように認識されているかを測定するものです。顧客満足度、維持率、市場シェアなどの指標を通じて、企業の競争ポジションを評価します。この視点は、財務成果を生み出すための中間的な成果であり、顧客にとっての価値提案を明確にする役割を持ちます。

3. Internal Business Perspective(内部ビジネスの視点)

内部ビジネスの視点は、顧客価値と財務成果を実現するために、企業がどの業務プロセスにおいて卓越すべきかを明らかにするものです。製品開発、製造、サービス提供などのプロセスにおいて、品質、効率、革新性といった観点から測定されます。単なる業務効率ではなく、戦略的に重要なプロセスを特定し、競争優位を支える活動に焦点を当てる点に特徴があります。

4. Innovation and Learning Perspective(革新と学習の視点)

革新と学習の視点は、企業が将来にわたって価値を創出し続けるための能力、すなわち成長と改善の基盤を評価するものです。新製品・サービスの開発能力、人材のスキル向上、組織の学習能力などが含まれます。この視点は、他のすべての視点の基盤となり、継続的な改善とイノベーションを通じて、長期的な競争力の維持・強化を支える役割を持ちます。

経営学の世界では「実務と理論をつないだ歴史的論文」とされます。ただし、学術的には実証的に弱いとされる点には注意も必要かもしれません。Harvard Business Review は実務ジャーナルであり、学術的な意味での査読はないので、学術的にはそうした評価になります。

それと、個人的にはとても気になるのは、現在、世界で広く普及している表現では「イノベーションと学習の視点」が「学習と成長の視点」として、すり替わっているところです。

また、顧客の視点と内部ビジネスの視点が並列である(内部ビジネスの視点にはマーケット・ドリブン性が高く、顧客満足に合わせて作り込む必要がある)ことも、現在の表現とは異なります。

BSC を実務で使っている人にとっては、改めて、原典にあたることの重要性が感じられるのではないでしょうか。


■ 戦略の実行を支えるシステムに進化: Kaplan & Norton (1996)

Kaplan, R. S., & Norton, D. P. (1996). Using the Balanced Scorecard as a Strategic Management System. Harvard Business Review, 74(1), 75–85.

この論文によって、将来の業績評価ツールとして提案されたBSCは、戦略を実行するためのマネジメント・システムとして再定義されました。

この論文以前は、多くの企業は戦略は立案していたものの、それを現場の行動に上手くつなげられず、結果として戦略を十分に実行できていないという課題がありました。

そこで本論文は、まず戦略やビジョンをBSCのフレームに従って、具体的な目標や指標に分かりやすく落とし込むことを提案しています。

そして、それを組織全体に伝え、部門や個人の目標と結びつけていくことも提案しました。さらに、予算や投資計画とも連動させることで、戦略に基づいた資源配分を推奨しています。

最後に、実行結果を振り返り、戦略そのものを見直すというプロセスを提案しました。

戦略 → 各種 BSC 指標化 → 行動 KPI 管理 → 結果 → 学習 → 戦略修正

重要なのは、戦略を一度決めて終わりにするのではなく、実行しながら学び、修正していく点です。BSCは、戦略と日々の業務をつなぎ、組織全体を同じ方向に動かすための仕組みとなったのです。


■ BSCを経営に実装する方法論: Kaplan & Norton (1996)

Kaplan, R. S., & Norton, D. P. (1996). The Balanced Scorecard: Translating Strategy into Action. Boston: Harvard Business School Press.

先の論文と同年に出版された本です。同年なので、さほど重要な違いはないかと思いきや、そんなことはありません。戦略論から組織行動論、マネジメント論にまで解像度を上げている点が、先の論文とは異なります。

本書は、BSC を単なる指標の集まりではなく「戦略を実行するための具体的な仕組み」として体系化した書籍です。本書の特徴は、企業が掲げる抽象的な戦略を、現場で実行可能な形にまで落とし込むプロセスを明確に示している点にあります。

まず、企業のビジョンや戦略を、財務・顧客・内部ビジネスプロセス・イノベーションと学習という四つの視点に分けて整理します。これにより、戦略を多面的に捉え、どの領域で何を達成すべきかが明確になります。

次に、それぞれの目標がどのようにつながって最終的な財務成果に結びつくのか、因果関係を設計します。ここでは、戦略を単なるスローガンではなく「成果に至る道筋」として描くことが重視されます。

さらに、各目標に対して具体的な KPI と数値目標を設定し、それを達成するための施策やプロジェクトを定めます。

重要なのは、指標を設定するだけで終わらせず、実際の行動や投資と結びつける点です。そして、これらを部門や個人の目標にまで展開し、組織全体で戦略を共有・実行していきます。

本書が強調するのは、戦略は一度決めて終わりではなく、実行と測定を通じて見直されるべき「仮説」であるという考え方です。BSCは、戦略・指標・行動・学習を一体化し、企業を継続的に成長させるためのマネジメントシステムとして機能するのです。

以下の僕の著書では、戦略を「カーナビ」に例えました。目的地と現在地を決めて、提案されるのが戦略です。現在地の変化に応じて、戦略は常に変化するのです。


■ BSCが人的資本経営の中核に:Kaplan & Norton (2001)

Kaplan, R. S., & Norton, D. P. (2001). The Strategy-Focused Organization: How Balanced Scorecard Companies Thrive in the New Business Environment. Boston: Harvard Business School Press.

本書は、BSCを単なる管理ツールではなく「組織そのものを戦略中心に変革する仕組み」として発展させた書籍です。

本書では、BSCを活用して高い成果を上げている企業の事例をもとに、戦略を実行し続ける組織の共通原則が示されています。

その中核は

① 戦略を具体的な目標に翻訳する
② 組織全体を戦略に整合させる
③ 全社員を戦略に結びつける
④ 戦略を継続的なプロセスとして運用する
⑤ 経営者が変革を主導する

という五つの原則です。

特に重要なのは、戦略を一部の経営層だけのものにせず、日々の業務や評価制度に組み込み、組織全体で共有・実行する点にあります。

また、戦略マップの導入により、各目標の因果関係を可視化し、全社で共通理解を形成することが強調されています。この戦略マップは以下です。

「イノベーションと学習の視点」が「学習と成長の視点」に変化しています。

1996年の論文が「戦略を実行するためのプロセス」を示し、同年の書籍が「その具体的な設計方法」を提示したのに対し、本書は「組織全体を戦略志向に変える方法」に焦点を当てています。

つまり、BSCを使って何を測るか、どう設計するかという段階を超え、企業そのものを戦略中心に再構築する段階へと発展させた点に、この書籍の本質的な価値があります。

注目したいのは、かつては最下層にあったイノベーションの視点が、内部プロセスの一部(イノベーションプロセス)として、より具体的なレベルに落とし込まれているところです。

イノベーションは、ビッグワードとしてなんとなく意識すればいいのではなく、具体的なプロセスとして管理すべきということでしょう。


■ 経営者や経営企画室への提言

BSC の存在自体は知っている人も多いでしょう。それでも、BSC を経営プロセスの中核にまで落とし込めている組織は少ないと思います。

重要なのは、今回ご紹介した 4 本の著作をベースとしつつ、BSCを日々の経営実務の中核として全社に浸透させることです。

その本質は、最後の原則として提示されている ⑤経営者が変革を主導するということです。

結局のところ、最重要なのはフレームワークそのものではなく、イノベーションを起こす効率を高めることです。それは「小さな実験」が繰り返されるイノベーション文化の形成にあると結論づけられます。

実務的には、変革リーダーの育成が(イノベーションプロセスにおいて)重要になってきます。単に指示を遂行する真面目な従業員がいるだけでは不十分です。自ら変革を主導する人材が、決定的に不足しています。


■ まとめ

めちゃくちゃ重要な BSC について、可能な限り厳密な説明を試みました。結局のところ、企業のみならず国家まで含めた全ての組織にとっての本質は「戦略の立案と実行」にあるわけです。

その中でも BSC は、使い勝手の良いフレームワークです。もちろん、それぞれの組織が環境に合わせて、独自にこの BSC を修正する必要もあります。

その上で、膨大なKPIの相関分析や、戦略の仮説検証の高速化には、人工知能(エージェント AI )に行わせていくことが、今後の戦略実務になっていくでしょう。

経営者や経営企画室は、まずは改めて BSC に関する認識を正確にしつつ、その上で、独自の運用体制を作っていくことが急務です。それがほぼそのまま、企業価値(株価)に直結していくはずだからです。

特に意識すべきなのは、KPI の固定化を避けるべきところです。絶え間ない変革のリーダーシップこそが重要です。経営を、惰性の KPI 運用に矮小化しないことが大切です。

経営者の皆様、まずは、BSC の活用法について理解し、それを現場まで落とし込むような社内プロジェクトを立ち上げてみませんか?

本稿がそのきっかけとなれば幸いです。



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酒井穣(さかい・じょう) 頂戴したチップは、原則として、何らかの無償ボランティア活動のための資金(例えば交通費)として利用させていただきます。よろしくお願いします。