【060】 チキン南蛮タルタルとは何か?
まずは、「【059】 うっせえ! うっせえ! うっせえ! うっせえ!」で言及した「胡」=北狄+西戎を深掘りしよう。
チャイナには「天下方万里」と「四夷」という概念がある。天下は一辺が一万里の正方形で、その四辺の外側は蛮族が住む世界。
四つの蛮族とは、東夷、西戎、南蛮、北狄だ。そして天下方万里がどの領域を指すのかは、拙著『中華とはどこか? 地図上に指し示せ』にて仮説を提示してあるので、興味ある方は一読されたし。
南蛮とは天下方万里の南の外側の蛮族。日本初出の文献は『日本書紀』で、「巻第九 神功皇后紀」には以下の記載がある。
仍移兵西𢌞 至古爰津 屠南蠻忱彌多禮 以賜百濟
現代語訳は、
仍て兵を西廻りに移し、古爰津に至て、南蠻の忱彌多禮を屠り、以って百濟に賜う。
忱彌多禮とは耽羅(現代の済州島)とする説が一般的である。百済から見た南方の蛮族が済州島だ。
その後、時が経ち「南蛮」という単語が日本で普及し始めたのは、16世紀の南蛮貿易から。当時の南蛮とは、東南アジア経由でやってくるスペイン人、ポルトガル人のこと。イベリア半島の王国「カスティーリャ」がカステラの語源。
「【059】 うっせえ! うっせえ! うっせえ! うっせえ!」で言及したカボチャ、ジャガイモのように、白人が新大陸から東南アジアに持ち込んで、奴隷に栽培させた植物が南蛮貿易で日本に入ってきた。タバコもその一つだ。
スペイン人、ポルトガル人が南蛮。彼らのライバルのイギリス人、オランダ人は「紅毛」と呼ばれ、南蛮とは区別された。
さて本題に移ろう。
延岡の郷土料理、「チキン南蛮」の語源は「南蛮漬け」であり、この南蛮とは「甘酢」を指している。なぜ甘酢が南蛮なのか?
これは南蛮人(スペイン人・ポルトガル人)が好んだ「揚げ魚の酢漬け」を真似したものが「南蛮漬け」である。原型は「エスカベーシュ」だと考えられる。
エスカベーシュ→揚げ魚の酢漬け→南蛮漬け→チキン南蛮、という流れのようだ。
チキン南蛮は、鳥の唐揚げを甘酢に漬けた料理。これまた「【059】 うっせえ! うっせえ! うっせえ! うっせえ!」で言及したように、「唐」はチャイナ由来ではなく、「外国風」の総称だ。とは言え、「唐揚げ」は Deep-fried と英訳され、油にドブ漬けする揚げ方は日本発祥なのだ。
「若鶏の唐揚げ」も「チキン南蛮」と同じく、個人の料理店が名付けた創作料理である。
台湾ラーメンアメリカンや蒙古タンメンなどのように、名付けに意味不明なインパクトがある方が有名になりやすい。モンゴルでは唐辛子料理は好まれず、蒙古を冠する理由はまったく見たらないのである。
なおタルタルソースの語源は西戎のタタール人であり、世界で通用する単語だ。チャイナ名は韃靼醬、韃靼とはタタールのこと。
チキン南蛮タルタルの語源は分かった。では「鴨南蛮」とは何なのか?
