【063】 胡椒と鷹の爪
私の父は、唐辛子のことを胡椒と呼ぶ。子供心にモヤモヤしていたのだが、面倒なので質問も指摘もしなかった。大人になってから、同じく唐辛子を胡椒と呼ぶ人に出会した。聞いてみたら、父と同じ九州出身だった。
これは方言なのだ。
そこで調べてみると、ざっくりの傾向が分かった。関東で言うところの唐辛子の呼称は、
北海道・東北・北陸:南蛮
関東:唐辛子
関西:とんがらし
九州・四国:胡椒
だから、柚子の唐辛子和えが柚子胡椒な訳だ。では、関東で言うところの胡椒、九州・四国では何と呼ぶのか? それは西洋の胡椒「洋胡椒」らしい。
胡椒の原産地はインドである。胡とは、チャイナにとっての外来品であることは、「【059】 うっせえ! うっせえ! うっせえ! うっせえ!」で説明した通りだが、インドは西洋なのか?という疑問が残る。
コロンブスは、胡椒を求めて西周りでインドを目指し、辿り着いたのが西インド諸島。アメリカには胡椒はなくて、代わりに唐辛子を発見し、「これが胡椒だ!」とヨーロッパに持ち帰ったのだが信じて貰えなかった。実際ウソである。
欧州では唐辛子は全くと言っていいほど流行せず。しかし白人が植民地化していったアジアで普及した。現代のメキシコでは唐辛子は好まれているが、インディオは野生動物を忌避させる目的で、唐辛子を畑の周囲に植えていたそうだ。本来、人間の食べ物として認識されていなかった植物なのだ。
さてここで、日本・チャイナ・英語の胡椒と唐辛子の名を比較してみよう。日本:チャイナ:英語の順だ。
胡椒:胡椒:Black pepper
唐辛子:辣椒:Red pepper / Hot pepper / Chili pepper
ピーマン:菜椒:米 Bell pepper / 英 Green pepper
パプリカ:紅甜椒粉:Paprika
英語のパプリカとは唐辛子の粉末であり、ピーマンのような野菜を指すのは日本だけ。英語ではピーマンもパプリカも同じ Bell pepper である。Red Hot Chili Peppers は、唐辛子の名前全部載せ。
鷹の爪は、江戸時代に日本で開発された短くて辛い唐辛子の固有品種名。命名の理由は「【039】 ズイヨーとは」で説明したように、鷹が縁起物だからであろう。
鷹の爪を乾燥して粉末にしたのが一味唐辛子。七味唐辛子は、鷹の爪、紫蘇、麻種、胡麻、陳皮の五つが基本で、残りは芥子の実、生姜、青海苔などいくつかバージョンがある。
麻種とは、種ではなく麻の実。陳皮とはミカンの果皮。陳は古くて良いもの、の意味で、ミカンの皮は古いほど薬用効果があると信じられた。
ちなみに未成熟なのが青唐辛子で、成熟したのが赤唐辛子。胡椒の実を皮ごと挽いたのが黒胡椒、皮を剥いたのが白胡椒。
アブラナ科アブラナ属カラシナ(芥子菜)の種から作られるのが辛子で、和芥子、洋芥子はカラシナの品種が異なる。洋芥子に酢、糖を加えてターメリック(鬱金)で色付けした調味料がマスタード。
実は七味唐辛子には、もう一つ欠かせない材料がある。それは、チャイナでは日本花椒、英語では Japanese pepper と呼ばれる植物。次章ではこれを見てみよう。
