【088】 獬豸と水犀
(*写真は奇蹄目サイ科インドサイ属インドサイ)
チャイナには一本角の幻獣は三ついる。
まずは「【084】 贔屓と狼狽」で紹介した龍・牛・羊のキメラの「獬豸」。獬豸は、人々に紛争が起ると現れ、道理が通っていない側を一本角で突き殺して食べてしまう。ここから正義と法治を司る幻獣となった。
続いて兕:一本角の水牛、そして犀:一本角の豚。
獬豸、兕、犀の元ネタはインドサイだと推察する。チャイナにサイはおらず、ライオンと同じく幻獣の扱いであった。実在動物としてのサイのチャイナ名は犀牛。
サイは世界に五種がいる。
シロサイ・クロサイ:アフリカの二本角。
スマトラサイ:スマトラ島の二本角。
ジャワサイ:ジャワ島の一本角、メスには角がない。
インドサイ:北インド・ネパールの一本角。
インドサイの学名は Rhinoceros unicornis。
マルコ・ポーロはジャワサイをユニコーンだと思い込んでいたらしい。一本角の哺乳類は、遺伝子欠陥の個体を除けば、ジャワサイの雄、インドサイ、海獣のイッカクしかいない。
狛犬の源流は「【086】 師子吼と狛犬」で説明したように、師子吼からの石獅だと考えるが、石獅には角はない。よって日本の角あり狛犬は、獬豸像が混ざったものと思われる。
また二体の石獅は左右対称で、いずれも口は開いており、日本の狛犬とは異なる。現存する日本最古の東大寺の狛犬も二頭とも口が空いているので、いつから神社の狛犬が「阿吽」になったのかは分からない。
さて、獬豸、兕、犀に明確な違いはなく、同一視されることもある。犀は、日本では亀の甲羅を持ち、波の上を走る幻獣「水犀」となって、日光東照宮や久能山東照宮、北野天満宮などで彫刻された。
犀のような樹皮の植物は樨。日本では、木犀=白い花の銀木犀、黄色い花は金木犀と呼んでいる。キンモクセイの名付け親は牧野富太郎。
兕觥とは、様々な幻獣を模った青銅の酒の器。獨角兕大王とは、明代の伝奇物語『西遊記』に出てくる孫悟空らの強敵、烏鶏国の偽国王だ。烏鶏国の元ネタは烏孫。紀元前に現代のキルギスタンあたりを本拠地としたトルコ系の西戎。烏孫は、月氏を駆逐したとされる。
「【059】 うっせえ! うっせえ! うっせえ! うっせえ!」で言及した「胡」=北狄+西戎。「胡」の字の成り立ちは、古い月=月子の蔑称でないかと私は考えている。チャイナでは、古くて良い物=老、古くて悪い物=古、を使う傾向があるからだ。蒙古が好例で、蒙とは道理に暗い、無知、愚かの意、訓読みは蒙い、である。
