サラシナアクター 第一場面 私たちは”運命”に出会う
あらすじ
舞台は2023年の大阪。コロナウイルスの影響もあり灰色人生だった陰キャ少女 兎良野歌音は、同級生の美少年 猪頭満と運命的に出会う。
出会いをきっかけに歌音は凪途高校演劇部、神才 御国佐倉の演技を目撃。
演劇への思い、ワクワクが爆発した歌音は満と共に演劇部に飛び込んでいく。
一癖も二癖もある先輩たち、クセの強い同期、思った以上に悪辣ジコチューだった佐倉先輩、そしてそれぞれ抱え隠す裏の苦しみ。
周りに流され続け、灰色だった歌音の生活はどんどん変わっていき、同時に成長していく歌音につられ、周りもまたそれぞれの問題に向き合っていく。
演劇を通じ灰色の青春は色を宿す。自分探しのラブコメ青春群像劇。
登場人物 <一話劇中劇での配役>
兎良野 歌音 <>
(とよの かのん) 白い髪と黒い瞳、ちんちくりんな陰キャ少女
部活モノとしては違いなく主人公。
成長し引っ張っていく子
まあまあおバカで運動音痴。自己肯定感が低い
その自己認識が無意識に潜在能力を縛っている
猪頭 満 <>
(いのがしら みちる) 血のような赤髪と目のかっこかわいい美少年。
歌音の物語を始め、献身的に支える王子様。
優等生な素直クールでユーモアもある
なぜかスタミナだけ皆無
内面の”月の裏側”をあざと賢く隠している
小鳥遊 白夜 <>
(たかなし びゃくや) 突然やかましくなる長髪陰キャ男子
スケッチをよくする。
あと陰キャレベルがたまに低くなる
後々の準主役キャラその1
赤城 環 <>
(せきじょう たまき) 綺麗な赤髪の永遠の美少女
ファンクラブが即行できるタイプのマドンナ
後々の準主役キャラその2
御国 佐倉 <悪魔>
(みくに さくら) 性格の悪いクソ先輩。
だが舞台では役問わず人を魅了する神才
折れそうな細い腕が歪に見える美青年
だがアクロバットが上手い
ある意味ラスボス。歌音のもう一つの目標
明鳥 ならか <配信者>
(あけどり ならか) 超元気娘、長身の愉快な部長
会話に「~☆」をつけたがる
楽観的だが、「演劇」にはかなりストイック
木下 つむぎ <店長>
(きのした つむぎ) ほわっとタイプの陽キャ青年。面倒見がいい人
副部長で、部長のならかと滅茶苦茶仲がいい
星崎 佳穂 <ウェイトレス>
(ほしざき かほ) ふとまし気味の穏やかな美少女
演技面では佐倉級の逸材
佐倉のことになると口が悪くなり、早く回る
成宮 唯華 <サラリーマン>
(なるみや ゆいか) 面倒見の良い爽やかイケメン
帰りが遅くなりがちなバイト勢
兄弟との兼ね合いで「イチカ」と呼ばれたい
鬼道 彼方 <照明担当>
(きどう かなた) 寡黙マイペースな大男
身長トップのスポーツマン
先輩勢で唯一「総合文化祭」を経験していない
世界観、前提共有
私立凪途高校 大阪の私立高校。偏差値的には中のやや上くらいだが、部
活動周りで話題になることが多く、それなりの人気校。
作中現在で話題の部活は「ダンス部」と“「演劇部」”。
どちらも昨年度に全国大会に出場し話題となった。
凪途高校演劇部 三年前に創立。三年生五人、二年生三人の八人で活動して
いる演劇部。前年度で「総合文化祭」に出場し、新進気鋭
の強豪として話題になった。
演劇部のイメージ通り、変人が多い。
“凪途変人九頭竜”の半数近くが演劇部関係者。
登場人物は基本関西弁。そのため関西弁でない・出ることが少ない人物はまず「関西圏外から越してきた・生まれが大阪ではない」「関西弁を避けて話そうとしている」のどちらか。
作中時間までに起こった出来事は“基本史実準拠”。
特にこの作品で大事な事象は、20年に発生した「新型コロナウイルス」のパンデミック。
この三年間に学生時代を過ごした子供達が感じた“理不尽”との決別も大きなテーマ
本編
暗い教室、Jポップが流れていて、蓄光テープで舞台が仕切られている
舞台上には机が山のように積まれ、勉強的なモノ(単語帳とかノートとか)と遊び的なモノ(ゲーム機とかトレカとか)が所狭しとばらまかれている
観客席では観客がざわざわと開演の時間を待っている
その様子を舞台袖から少年が呆然と見ている
教室に流れる曲がテンションの上がるものに変わる。少しにっこり、堂々と舞台中央に足を進める。
真ん中にスポットライトが差す。光を受けた少年は、開演の挨拶を始めた
「皆さん、こんにちは!凪途高校演劇部です!本日は私たちの公演にお越しいただき誠にありがとうございます!
公演に先立ちまして、皆さんにお約束してほしいことがあります。
一つ目に“演者の妨害をしないこと”。公演中に許可なく舞台に上がったり演者に触ったりするのはNGです!
二つ目に“観劇の妨害をしないこと”。デカい私語は周りに迷惑なのでやめてくださいね。スマホの電源も切ってもらえれば幸いです。
そしてぇ……三つ目っ!“リアクション、たっくさんくださいっ!”この公演はこの場の全ての人と共に作っていくものです!なので、面白い時は笑ったり、感動した時は泣いたり、色々見せて欲しいですっ!
……おっとまもなく上演のお時間です。どうぞお楽しみくださいっ!」
「──以上、猪頭(いのがしら) 満(みちる)でした!またお会いしましょう!!」
スポットライトが落ち、舞台は暗くなる
「歌音〜〜!!起きなさ〜〜いっ!!」
「……ぁ」と声をこぼし、兎良野 歌音が目覚める。最悪な寝相、白い髪はぼさぼさで、黒い目には生気が見えない。
髪を直しリビングに出ると、両親が食卓を囲んでいる。父はコーヒー片手にスマホに目を向けている
「おはよう。お父さん、お母さん」と力なく挨拶をする
食卓にあるのは典型的な一汁一菜の朝ご飯
笑ってしまうくらい盛られているが、気にせずに食べ始める
「…歌音。どうだ、学校楽しいか?」
バクバク食べる箸が止まる。何か言うことも申し訳なくて「…うん、楽しいよ」とだけ返す
母にぽかぽか叩かれている父をよそに再び箸を進める。
「昨日、○○ホールディングスの入社式が3年ぶりに従来の形式で行われました。新型コロナウイルスの発生から3年、各企業は未曾有の危機から立ち直りつつあります」
ニュース番組の音が流れる。コロナウイルスの脅威がさも終わったように伝えている
冷めた目でテレビを見ながら「ごちそうさまでした」と手を合わせた
玄関口
淡々とスニーカーを履き、マスクをつける
「そろそろ外していいんじゃないかしら」
「いいよ。5類でもコロナは怖いもん」
母の見送りのもと、父と共にマンションの一室を出て駅に向かう。
電車では父と別れて一人、通勤ラッシュの人混みに押されててんやわんや
その後、通学路でも、教室での朝礼でもずっと一人。マスクをした人ははちらほらいる
高校の廊下 移動教室のためクラスの陽キャグループの後に付いて行く
(……やっぱり変わるわけないよね)
苦しい顔で、目をゆっくり閉じる
凪途高校1年3組での自己紹介
「わたっ!わっわっわたっわたっわわわわ……!わたっわたしっ!わたしは!!…えっと、え~…と…あ、あのっ!!」
男子が吹き出す。つられてクラスの三分の一くらいがクスクス笑いだした
「兎良野さん、無理しなくていいよ。いったん整理してからにしようか」
席に戻る。「次の人~」との担任の言葉を遠くに聞いて、苦い顔
(わたしの青春にはワクワクが一つもない。ただ、過ぎるだけの時間だった)
東京の小学、中学時代を思い返す。自己紹介失敗して、誰にも話しかけられず、呆然としている
グループでつるんでいる男子たち、じゃれあいながら廊下を行く女子二人、窓の外を見れば男女の告白現場がかすかに見える
そのどれからも遠い場所
「……あのぉ」
みんながマスクをつけた姿に。声はマスクに阻まれ届かない
(変わると思ってた。だって“大阪”って楽しい人たちのイメージだし、華の…JKだし?少しは期待してたんだ
…はっきりわかったよ。どこでだって、いつでだって、同じなんだ
“運命”なんてわたしにいるワケない)
(仕方ないよね、わたしはただの陰キャなんだから。高校も……え!?)
ふと目を開けると前に誰もいないことに気付く
仰天し、周りを見渡す。どこの廊下かわからない。思うままに過ごす人が何人かいるが、話しかける勇気はない
あたふたして、周りが見えなくなっていく
(どうしよう!どうしよう!このままじゃわたし、授業に遅刻しちゃう!!
……というかこれ、迷子として呼び出されちゃうパターンじゃない?)
呼び出されるイメージをしてみる
「1年3組兎良野歌音さん。○○先生がお探しです。至急職員室に…」
顔が青ざめていく
(そうなったら終わりだね。子どもみたいって。いじめられちゃうのかな今度こそ。……それは……やだなぁ)
頭を抱えながら足を進める。階段に足をかけた途端、足を滑らせてしまう
諦めて目を閉じる
そこに、誰かが駆けつけ手を取った
「大丈夫ですかっ!!」
目を開け振り返ると、猪頭 満が反対の手で手すりを持ちながら震えて支えていた
非日常のトキメキに眼がうっすらと輝く
持ち上げられた反動で押し倒してしまう。だが、満は優しく笑った
「ふふ、良かった」
「さて改めて、大丈夫ですか貴女。ふらふらしていましたが」
「え、あ、はい。だ、大丈夫で…」
「大丈夫なわけないでしょう青い顔で。何があったのですか?」
言うべきか迷い、うつむく。呼び出されるイメージが言葉を飲み込ませる
顔を上げる。少年は、優しい顔で「言ってごらん。」と語り掛けた
「…ま、ま……まい、ごです」
「なるほど。……場所は?」
「へ?い、いやわたし、かっこ悪く、ないですか?」
「そこは今気にすることではありません。……場所は?」
理科室前
満に頭を下げまくっている。裏では授業初めのチャイムが鳴っている
「ほら今ならギリギリ遅刻じゃないですよ!」
「い、いやわたしがそうでもアナタはそうじゃないですし申し訳ないのでこれで問題ないかと!!」
「そう思うなら早く行ってほしいのですがっ!?」
言い合っているところに3組の女子が扉を開ける。「あ~~!!兎良野さん!!!」と大声
「ん?みちるやん。授業大丈夫なん?」
「あ、柚木さんでしたっけ。この子任せていいですか?」
「おんええよ?」との言葉を聞くと、満はさっさと走り去っていった
「納得いかないようなら昼休み、4組に来てください!しっかり話し合いましょう!」
走り去る姿を呆然と見守る。目前で「お~い」と手を振る同級生にも気付かない
昼休み 4組教室
満の後ろをおどおどと歩く
教卓前の席に座った満に促され、その後ろの席に座った
「さてと…まだ謝り足りないと?」
「は、はい!ぜ、全然足りません!!1日くらいは言いたいです!!」
(いやそれは迷惑だろぉ)と苦い顔の満。すぐ表情を切り替え、妖しい微笑みを浮かべる
「そこまで言うなら、私に恩を返せる良い方法があるのですが
………聞きます?」
「聞きますっ!!」
放課後
階段をしっかりと降りながら話す二人。
「本当に放課後大丈夫なのですか?」
「だ、大丈夫、です!元より遊べる友達いませんので!!」
「それ自慢じゃないです」
ぎこちない作り笑いを浮かべる。
満は「やっぱり」と言いたげなあきれた表情をするも、すぐに真顔に戻す
そして、さっとスマホを取り出した
「……ついでです、なっておきますか友達」
「スマホ出して」とジェスチャーする満。あまりの軽さに「……ほへ?」と声が出た
教えられながらLINEの友達登録
(猪頭 満、さん)とここで歌音は初めて名前を知った
シャクヤク、ボタン、ユリが並んだアイコンをじっと見つめている
「い、いいんです、か?わたしなんかが…」
「そんな重いものではないですよ友達って。最初の一歩はわたがしより軽くていいのです」
ぽかんとする
その傍ら満もまた名前とアイコンを見つめている
中学校の入学式、「入学おめでとう!」の看板横で控えめにピースする歌音がアイコンに設定されていた
「兎良野歌音さん。いい名前ですね。…ってこれ、天久(あめくも)附属?」
「!?あ、はい!そうです!東京のっ!!」
「やっぱり。私も東京です、天久は近所でしたよ」
「へ、へえ…そう、ですか」と相槌を打つ
過去を思い返してみるが、満のような人と会った覚えはない
「同郷のよしみ、もありますね。気が向いたらいつでも」
途中、横から「みーーーーちゃーーーーん!!!」とデカい呼び声
瞬間、明鳥 ならかが大型犬のように飛びついてきた
「ごめんなみーちゃん!佐倉にはうちらでお灸据えといたから!ムリに手伝…その子ダレ?」
「おはようございます明鳥先輩。助っ人、連れて来ましたよ」
「…すけっと?」と首を傾げる
満は軽くうなずき、ならかは目を輝かせている
演劇部室前、一年生が長蛇の列に。
机を2つ並べただけの受付で、二人で受付をしている
「○○さんですね。ありがとうございます!パンフレットを受け取ってから先に進んでください」
「ぱ、パンフレット、ですっ!!」
「カフェ・サン=ジャン」と書かれたパンフレットを渡す。渡す手は汗でぐしょぐしょで、パンフレットもしわくちゃになっている
数分後、列を掃ききった二人
1ベル(観客に席に戻るよう勧告するベル)が鳴る横でぐったり
「お疲れ様です。やっぱり堪えましたか?」
「う…はいぃ……。緊張、止まらなくてぇ……」
「でも途中からは綺麗に渡せるようになっていましたよ。ナイスファイトです」
サムズアップを見せる満、褒めてもらった嬉しさににへにへと顔が緩む
「だから、これで終わり。朝のことは全部チャラです」
ほのかに青ざめる、満との関係の終わりを肌で感じてしまう
外には「うん」と頷くが心の中では寂しさでいっぱいになる
「……待ってください!わたしお手伝いの理由知らないままでしたっ!」
気づけば、当の本人さえ驚くほど突拍子もないことを聞いていた
「…“私がどうして手伝っているのか”という意味で?」
見るからに顔が引きつっている満、(じ、地雷踏んじゃった!?)とおどおどする
「そうですねぇ…軽い理由ですよ?軽すぎて?どうしようもないというかぁ……?」
「それな~!演劇部何人おっても足りないんよ~~」
さらっと混ざっているならか。配信者を連想するようなパンクな服装をしている
少しの沈黙の後、二人は驚きの声を上げた
「お疲れ2人とも!席残しとるから見てってな~☆」
ならか、嵐のように去っていく
見送った満は「…どうします?」と優しい笑みを向けた
「…行きます!」
先んじて中に入る満
その後ろ姿に (良かったぁ)と零しそうなほど顔が緩んだ
演劇部室内
蓄光テープで舞台が仕切られている。観客席は埋まっていて騒がしい
二人、最奥の二席に向かって歩いていく
「待ってください。ここ…兎良野さん見えますか?」
座ってみると前の人の背中に隠れて舞台が見えないことに気付く
口に手を当てぶつぶつと考え事をする満
満、近くを見渡す。そして、座り膝をポンと叩いた
「……よし。膝、どうぞ」
「「…え。ええ~~~~!!?」」
隣に座る小鳥遊(たかなし) 白夜(びゃくや)共々驚きの大絶叫
「私の背があれば兎良野さんの視点を補強しつつ私も大丈夫。かんぺきです」
堂々とした提案に?を浮かべる
「???……あ、ありがとうございます!」
提案を受け入れ満の膝に座る
隣で白夜はより多くの?を浮かべていた
ドキドキしながら時間を待つ、その後ろで満はパンフレットを探している
「パンフ、私たちの分ありましたっけ」
「「……あ」」
その傍ら、白夜が挙動不審に
「ぃ、いやいやナイナイ!!ここで赤の他人参上さあこれがパンフだよとかありえないだろ許されないだろ生かしてはおけないだろウザすぎマジウザ大炎上ホントお前そういうところだぞというかさあだめだだめだ炎上だ魔女狩りだそんなことしてはいけない終わってしまうしまう何もかも終わってしまう燃えてしまう燃えてしまう……」
頭を抱え、ただ自らに言い聞かせるように言葉を垂れ流す
観客席全体が困惑を隠せない
ただひとり、満は表情なく観察、それから白夜の肩を叩く
「親切を無下にする人間だと思いますか私たち」
「!ンなワケないですどうぞっっ!!」
差し出されたパンフレットを手にしたり顔の満
(こ、これが……陰キャに優しい陽キャ!!
ヤバい感じの子にも対応してる!!)
2ベル(上演開始を伝えるベル)の音
舞台に木下 つむぎが現れる。カフェの店長の服装
つむぎは、冒頭の満のように開演の挨拶を始める
「そうだ、お二人は演劇初見ですか?」
まさかの会話続きにビクッとする白夜
二人、それぞれに満に顔を向け、軽く頷く
満、鳩に突かれた顔をするもすぐに切り替えしたり顔
「…そっか。いい思い出になりますね」
挨拶が終わる
「どうぞお楽しみください!!」をきっかけに暗転
明転
舞台は街角のカフェ。店長がコーヒーを淹れ味わっている
舞台袖からウェイトレスが焦り走ってくる。扉をぶち破り店内に突っ込んだ店長、コーヒーを思い切り吹き出す
『ちょっと!!?大丈夫か!?』
『んぁ?アタシ何かやっちゃったんかな?』
『うんばっちりやらかしとるよ!?ほらコレ!ガラス張り!!』
床に目を向ける。惨状に青ざめた
『あわわ…やってもうたぁ……!!』
『後悔するよりまず掃除!お客さんの足、傷つけたらあかんよ!』
二人、掃除用具を取りに舞台袖に捌ける
入れ違うように逆の袖からサラリーマンが登場
『……事件現場?』
店員二人、掃除用具を持って帰ってくる。ちりとり滅茶苦茶多め
『ウワァちりとり泥棒!!?』
『ふっふっふっ、ちりとりをよこしなァ!ありったけ……いてっ』
『まずは掃除よ。任せてもええかな』
『はい!お任せください!』と元気に返し、ウェイトレスは掃除を始める
その間に店長、裏口へとお客を案内
『お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません。今日からの新人なもので…』
『なるほど若いですね。てっきり悪魔案件なのかと』
『悪魔も新人も変わりませんよ。行動の読めなさという点では』
談笑の間に掃除が終わる
『店長!キレイになりました!!』
『それでは改めまして…“カフェ・サン=ジャン”へようこそ』
満と白夜、「「へぇ…」」と感嘆
「ぇ、えと…」
「何ですか怪文書さん」
「ぁ、白夜ですぅ。小鳥遊 白夜」
騒がしくなっているか周りを気にしてから、白夜が続ける
「ぅ、上手くないですかあの人たち。やわな俳優よりはるかに上手い演技というか」
「ええ。流石全国出場校だなと」
白夜「全国ッッ!!?」と大声。満がさっと口を抑えつけた
舞台上では、『保育園の休み時間かな?』と言いたくなるくらい幼稚な絵と慟哭するサラリーマンが笑いを取っている
白夜の絶叫は観客の笑い声に紛れていた
「垂れ幕気づきませんでした?」
「…陰キャは見れませんあんな高み」
いじいじする白夜から目を離す満、その時歌音の様子に気付く
食い入るように舞台を見ている
「集中してますね歌音さん」
『ハァ~イ!!画面の前の皆さんごっきげんよ~うっ!!リーチャンネルの時間だよ~☆』
舞台上、配信者が登場。自撮り棒を使って撮影を回している
「あ、明鳥先輩」と満が呟く
「“変人七英雄”…」
「古い。今は“九頭竜”です」
驚く白夜、それをよそに満は、配信者の明るい演技にクスリと笑った
『てなわけで店長サンから誠意のスイーツをいただきました~~☆』
店長がパフェを置いていく。形は整っているが、色が明らか劇物
『いいのですか?まだ私も食べていない試作品ですが』
『ええんよそれで!!体張った分視聴者はつくんやから!!』
『全部食べるんやで。大人の責任や』
『うっさいなぁオジサン。残さんよ、店長に悪いし』
あっけらかんと言ったままに、スプーンですくい、そして食べる
直後『ミ“!?』と奇声を上げテーブルに沈んだ
『お客さ~~ん!!』
『だい゛じょ“ぶ☆”!!!』
ウェイトレスの心配を跳ね除け、スプーンを振るう
『み゛ず!!』
『は、はいどうぞ!!」
“お酢”がグラスに注がれる。『ちょ!それお酢や!』との静止むなしく
配信者、再びテーブルに沈む
『『お客様(さん)~~!!?』』
「本当に、楽しそう」
優しい笑みを浮かべる満、向けられた歌音は全く気付かない
舞台上は打って変わってシリアスな会話。客二人が夢への迷い、葛藤を語る
「ところで…えっと名前」
「猪頭です」
「ぁ、猪頭さん。手伝ってた理由って」
満、再びひきつった顔。今度は淡々と話そうとする
「変なヤツに絡まれて渋々です。すぐ分かりますよ」
その瞬間
『できるわけ無いよなァ!!!お前タチはまだ今にすがっているんだからさァ!!!』
歌音に寒気が走る
悪魔が店側の袖から現れた
はっとして周りを見る。白夜含めほとんどは放心状態。
唯一、満の顔は”怒っている”よう。だが判断しきれるほど顔が見えない。
舞台上 店長と悪魔が対峙する 他の人物は皆寝ている
『夢を肯定する?赤の他人は無責任だよなァ。平気で考えずに口にできるんだから』
『俺はいつだって考えてる。やから今、ここにいる』
『でも結果はこうさ。やっぱり現状維持が良いんだってさァこいつら!!
…てかお前もさァ?瞼ピクピクじゃねえの!』
(怖い…怖い…台詞が鋭くて……でも確かに心を抉ってくる……!)
店長が倒れ、眠りに落ちる。寝息を確認した後
悪魔は、観客席に向き直り、はっきりと客席を見た
『さ、そこな観客諸君』
強い怖気が襲う。悪魔は目を閉じ、諭すような甘い声で話し始める
『夢を見ること、悪いことではないよォ。ただね、それを追えば最後、ずっと傷つき続ける。イヤだよねェ、痛いの』
体が震える、過去を思い返し苦しむ。顔を手で覆う
(……もう、見たく、ない)
『だから、好きに眠ると良い。誰も否定しない
──「生きるべきか、死ぬべきか」
よく考えて見せろよと言うは……』
悪魔が目を開ける。そして怯えた観客席を見渡した
顔が会った歌音は、目を隠しきっていない
まぶしい瞳で、食い入るように舞台を見つめている
(見たくない…はず?)
「……うわぁ」
『ならアタシも…自由でいいよね』
素に戻った悪魔をよそに、ウェイトレスが起き上がる。
『は?今更弟子ヅラすんなよオデウォァッ!?』
『うっさい。自由って言ったんはお前やから!』
投げたちりとりが悪魔をかする
そのままにカウンターに走り出したウェイトレス。その姿がより眩しく見える
(……あれ、あの人(ウェイトレスさん)の演技、あんなに凄かったっけ?)
ウェイトレスの淹れる演技を見ながら考え詰める
目は気付かぬうちに半開き、考えるため閉じたくても目前の劇に目が離せない
『たくさんの幸せ、もらったから。だからお客さんに分けてあげたい。
もちろん、アンタにも』
(…そっか。わたしがあの世界に引き込まれたから、肌で感じてるから……わたしのリアルに、悪魔さんがしたから!!)
気持ちをぐっと呑み込む
いやな顔をした悪魔にカプチーノを提供する画は、あまりにも輝いていた
『ほら、どうぞ?』
(これが……演劇なんだ……っ!!)
学校からの帰り道 どてどてと前に進んでいく。「あの兎良野さん早くないです~!?」との満の言葉も届かない
(すごい……まだドキドキが止まらない…どうしてだろう、こんなこと一度だってなかったのに!)
頭を抱え、一心不乱に歩いていく
気持ちに引っ張られ足はどんどん速くなってく
(今のわたし……あの場所に!立ちたくてたまらないっ!!!)
想いに駆られ、力強く走り出す
通行人が歩いているが、無意識にさっと避けていた
(ドジなウェイトレスさん、優しい店長さん、不器用なサラリーマンさんに明るい配信者さん……そして人を輝かせる恐ろしい悪魔さん………みんなやってみたい!!手を、届かせてみたい!!みんなに、このワクワクを分けてあげたい!!!)
やがて、脳裏に満の姿が浮かぶ
(いや…わたしが、演じたい…なりたい、人は)
「ハァ・・・ハァ・・・と、突然どうしたんですか兎良野さん!」
駅前広場、大きな木の前でようやく追いつく。満は息切れ状態、一方歌音は興奮で息が荒くなっている
「走るは…ハァ、けっこうですけど!せめて何かしら」
「わたし、あなたになりたい」
「…え」と驚きをこぼす満
勢いよく向き直った歌音の表情は明るく、その黒い目は耀きに満ちている
大きく、演技がかった声で続ける
「わたしね、人には誰にでも“運命”がいるって思ってるんだ。物語を始めてくれる人、主人公にしてくれる人……たくさんのワクワクを、届けてくれる人!!
わたしは、そんなだれかとは無縁だった。誰もいない、何もない、でも暗いのかなんて分からない…そんな人生だったんだ、わたしは。
……でもね!今日は、本当に凄い日だった!いつもから離れたワクワクがずっと押し寄せてきてね、ずっと息がつけなくて……でも、とっっても楽しくて!!!」
「…私が、“運命”だと」
マスクをを外し、スカートのポケットへ
手を差し伸べるポーズを取り、思いっきり思いを伝える
「そうだよっ!わたしの“運命”、わたしの憧れ、わたしの目を照らす淡い光!!
……そんなあなたに、わたしはなってみたい。
月のようなあなたに、わたしはなりたい!!!」
ふとハッとして顔を隠す。無意識に出た言葉に顔が赤くなる
恐る恐る満を見やると、満もこれ以上なく動揺した赤い顔をしていた
「…い、いいんじゃない、ですかぁ。目標は、大事ですし。ええ」
「…!いいの!……です」
「というか!もう敬語はやめにしましょう!さっきのでタメ語願望はわかってますから!」
ビシッと指を向けて話す満。動揺を隠しきれていない
「どうして…なの?」
「“友だち”ですから、ね」
「じゃ、じゃあ……「満くん」と呼んでもいい?」
「当然、です」
「…そっか……わたしたち、“友達”なんだ」
「な、何をいまさら。わたがしより軽くていいって言ったじゃないですか」
「そっかぁ」と繰り返し喜びを噛みしめる。頬が赤く火照った
その傍ら、満は咳払いをして気持ちを落ち着かせた
「で、演劇部入るのですか?そう解釈したのですが」
「うん当然だよっ!!悪魔さんに色々教えてもらいたいもん!!」
堂々とした宣言
満はどこか曖昧な表情で聞いている
「…私も入りますか。演劇部」
「……え、ホント?」
「貴女を一人にしておけない、何か危なっかしいです」
「わた……あぶ……!?」
白目をむいてショックを受ける
くすっとしながらも、満は「それに」と続けた
「私も感じているんです。今日、“運命”に出会ったって感覚が」
歌音と満、それぞれの家 勉強机に宿題を広げ取り組んでいる
歌音は大苦戦しているが、満はもう少しで終わりそう
窓から月明かりが差す。二人、光につられて月を見上げる
満、机の引き出しからヘアピンを取り出す
白いボタン、ユリが寄り添うデザインのヘアピン
ぎゅっと握りしめ、“誰か”に語りかけるようにつぶやく
「『月は自分の光を持たない』って知らなかったのかな、兎良野さん。抜けてるなぁ、ちゃんと見てあげなきゃ。……ああ、でも、言いえて妙かな。
……今度こそ、“月の裏側”は見せないようにしないと、ね」
一方で、歌音はスマホを取り出しLINEを見る
友達欄の満を見て悶絶。明日へのワクワク感で目が輝いている
「わたし、色々頑張る。いつか、自分で歩けるように……あなたに並びたてるように頑張る。だから……」
「見ててね!!満くん!!」「見逃してね、あーちゃん」
二人、同じ月を見上げている
