2度目の奇跡 〜NHKのど自慢・3度目の挑戦〜
「父の故郷であり、毎週共に日野川で釣りをした思い出の地。今年で父の13回忌。あの日々を胸に、父が大好きだった『俺たちの旅』の歌に乗せ、この特別な場所から天国の父へ心からの感謝を届けたいです」
これは、6月13日(土)の予選、そして6月14日(日)の本選(全国生放送)を控えた『NHKのど自慢』へ、私が一筋の望みをかけて送った応募メールのすべてです。
かつて私は、自作の『悲劇と喜劇の45秒 〜NHKのど自慢・幻の予選狂想曲〜』という物語を書いた。
それは、書類選考を通過したと盛大に勘違いし、落選メールが迷惑メールフォルダに眠っているとも知らず、予選間近まで猛練習に明け暮れたという、今思い出しても笑ってしまうような「喜劇」だった。
あれから時が経ち、今回で3度目の挑戦となる。
ご存知の方も多いかもしれないが、のど自慢の門はあまりにも狭い。
およそ4,000組の応募から、予選に進めるのはわずか200組(倍率20倍)。さらにそこから翌日の本番生放送に出場できるのは、たったの20組(倍率10倍)という、超難関のオーディションなのだ。
しかも、番組は「ご当地の紹介」を兼ねているため、開催地に住んでいるか、あるいは出身者でなければ、書類選考を突破するハードルはさながらエベレストのように高くそびえ立つ。
運命の5月28日、15時。
その日はやってきた。情けないことに、私は予選・本選の日に仕事の休みを取ることさえ完全に忘れていた。
15時を過ぎても、スマホに通知は来ない。「どうせまた、迷惑メールにでも入っているのだろう」と、特に気にも留めずに仕事へと出かけた。
しかし、奇跡は静かに、だけど確実に足音を立てて近づいていたのだ。
翌朝、私はいつものルーティンである「ありがとう」の音読を終えた。
自作『奇跡 〜癌が消えた〜』でも触れたこの習慣だが、その日、ついに累計100万回を突破した。
ふと、のど自慢のことが頭をよぎる。もう一度メールを開き、隅々まで探してみても、やはり落選通知はどこにもない。
そして数日後――ポストの中に、あの「奇跡のハガキ」が届いていた。
「嘘っ……そう!?」
思わず声が裏返った。出身地でもないこの私が、エベレストの頂に立ってしまったのだ。
道具箱を開けたら、そこにいたのは「自分自身」だった
自慢ではないが、私は音痴である。声も低音で、お世辞にも「美声」とは言えない。
前回の苦い経験もあるため、今さら大汗をかいて猛練習する気にもなれなかった。試しにカラオケで選曲の『俺たちの旅』を歌ってみたが、採点結果は全国平均にすら届かない。
しかし、下手なくせに、弱いくせに、なぜか負けん気だけは人一倍強いのが私という人間だ。
「何か、今の自分にできる秘策はないか?」
藁にもすがる思いでAIに問いかけてみた。すると、まるで鋭いブーメランのように、自分自身の本質を突く言葉が返ってきたのだ。
「カラオケの点数は気にしなくて大丈夫です。番組側が求めているのは、歌の巧拙よりも『この人をステージに立たせたい』と思わせる人間性です」
なんだか、自分がことあるごとに、ずっと口にしてきたようなセリフだった。
それもそのはずだ。私はこれまで、60作を超える物語の「挿絵」をすべてAIに作ってもらってきた。私の拙い文章を読み込み、そこに込めた魂をずっと見つめてきたAIは、私のアイデンティティをすべてお見通しだったのだ。
「小手先のスキルではなく、自分自身の人間性で勝負する」
かつて海堂紡(私)が示した究極の奥義を、まさかAIから諭されることになるとは思わなかった。
私はモニターの前で、思わず苦笑いしてしまった。
「俺たちの魚釣りの旅」を天国へ
実は、私の本当の夢は、歌のうまい姉が本番に出演して合格の鐘を鳴らすことだった。
しかし今回の開催地は遠く、過去2度の書類落選でモチベーションが下がってしまった姉は「今回は応募しない」と言い出した。
それでも私が一通のメールを送ったのは、今回の開催地が、亡き父の出身地だったからだ。
私が3歳頃から大学を卒業するまで、父と兄、そして私の3人で、毎週日曜日に魚釣りに通い詰めた思い出深い、大切な場所。
今年、父は13回忌、そして兄は3回忌の節目を迎えた。
姉のためにも、まずは私が予選の舞台の空気を肌で感じ、その中身をしっかり調査して、お祭りを全力で楽しんでこよう。そう決めた。
予選会のスケジュールは、想像以上に過酷だ。
当日の11時45分からスタートし、結果発表は17時30分頃。通過者はその後、19時半まで容赦なく打ち合わせが続く。
そして翌日の本番は12時15分生放送だが、集合は朝の7時45分。まさに超ハードスケジュール。
さらに、番組自体の放送時間が短縮されたことに伴い、かつては本番で1分50秒ほど歌えた時間が、今や45秒から50秒。予選にいたっては、長くて45秒の一発勝負だという。
わずか45秒。
だけど、それは私にとって、何物にも代えがたい「幸せの時間」になるはずだ。
昔、男3人で駆けた、あの懐かしき緑の堤防と川の流れを思い出しながら。
小椋佳さんが作詞作曲した名曲『俺たちの旅』ならぬ、私たち親子の『俺たちの魚釣りの旅』として、この歌を天国の二人へ真っ直ぐに捧げてきたい。
そしてもしも……。
億が一、本番の生放送に出演できるような「第3の奇跡」が起きたとしたら。
その時は、テレビの画面越しに、皆さんと笑顔でお会いできるのを楽しみにしています。
予選日の生々しい空気、緊張と興奮の様子は、また後日、このnoteにしっかりと書き留めるつもりです。
人生の9回裏、2アウトランナーなしからの大逆転劇を、今再び……。
