連載恋愛小説『彼女にまた会うために、エゴたちが会議を始めた』①
あらすじ
この物語は、ある小さな恋の記憶に基づいています。
登場する人物・地名・出来事は、フィクションとして再構成されています。
けれど、そこに込めた想いだけは――ほんとうのことです。
10年ぶりに、元カノから突然メールが来ました。
「お会いしてお話できませんか?」
――そんな淡々とした文面だったけれど、僕の脳内はその瞬間、祝砲&爆竹&花火大会。
もう、まともな思考は完全停止。心だけは先に駅へと走り出していた。
案の定、僕の中にいるクセ強エゴたちが、次々と円卓会議を開催。
返信文面をどうする? 会うまでに何を整える? 服は? 髪型は? 呼吸は? 表情筋は?
全員がフル稼働し、もはや一人の男が一つの軍団になっていた。
――でも、心の奥には、もっと静かな願いがあった。
「今の俺で、もう一度、彼女に会いたい」
その一心で、三週間をかけて自分を整えた。
髪を染め、服を買い、ノートに話題をまとめ、返信は三日寝かせて送った。
これは、再会のその日までに人生を総点検してしまった男の、
愛と希望と笑える脳内会議のすべてを記録した、
ちょっと切なくて、ちょっとバカで、だけど本気の物語です。
第1章 祝砲と爆竹のメール着信
① 普通の朝、突然の震える通知
朝。
スマホが机の上で震えた。
「ピコン♪」
何気なく画面をのぞくと、そこには、見覚えのある名前が表示されていた。
――彼女、だった。
10年ぶり。
この名前を目にするだけで、心臓が一拍ズレる感覚になるなんて、知らなかった。
僕はそのまま、数秒、固まった。
そして、表示されたメッセージの内容は、たった一行。
「お会いして、お話できませんか?」
……え?
なんだこの一文。
なんだこの破壊力。
言葉の意味はわかるのに、脳が処理を拒否してくる。
10年間、何もなかったのに、突然これ?
今さら「会いたい」って、どういう状況なんだよ。
スマホを持つ手が、じんわり汗ばんできた。
そして――
僕の脳内では、爆竹とクラッカーが一斉に鳴り響いた。
② 10年ぶりの「お会いできますか?」
僕は椅子に座ったまま、スマホをそっと置いた。
もう一度、画面を見る。
さっきの文章は、やっぱり消えていない。
「お会いして、お話できませんか?」
文末の「か?」がヤバい。
“お願い”なのか、“確認”なのか、どっちにもとれる。
10年間の沈黙を破るにしては、あまりに静かすぎた。
その時だった。
脳内の扉がガチャリと開き、彼らが集まりはじめた。
③ 脳内、大騒ぎ
僕の脳内には、「エゴの円卓会議室」がある。
そこでは、事あるごとに人格たちが集まり、議論という名の大騒ぎが始まる。
今回、召集されたのは以下の10人。
【🫣 予測不能パニック型エゴ】
「え、復縁? いや、まさかの勧誘? それとも……なに? なに? ねえ何なの?」
【🧐 自己肯定強化型エゴ】
「これは信頼だよ。“会いたい人リスト”に今でも載ってるってことだよ」
【🕷️ 深読み無限ループ型エゴ】
「“お話できませんか”って、逆に“話したくないけど話さなきゃいけない”可能性あるよね?」
【🔥 恋愛ファンタジー暴走型エゴ】
「来た来た来た来たーっ!! これは完全に“やっぱ好き♡”案件でしょ!!」
【🤐 対応冷静シュミレーション型エゴ】
「“了解、都合の良い日を教えてください”だけ送ればOK。絶対に動揺を見せるな」
【😬 期待抑止防衛型エゴ】
「必要なのは“僕”じゃなくて、“何かのついで”ってだけだよ。勘違いしないようにしなきゃ」
【📚 過去ログ照合型エゴ】
「記録によると、最後のやりとりは“元気でね”の一言。つまりこれは――例外事案!」
【🎭 外面重視営業型エゴ】
「今こそ魅せるとき。“僕、変わってないよ”って雰囲気、全面に出してこう!」
【💘 回想美化エゴ型エゴ】
「……日曜の夜、ソファーで笑ってた顔……まだ覚えてる。会えるんだ、また」
【👑 議長エゴ】
「全員、落ち着け。これは、想定外の連絡。可能性は“喜び”にも“恐怖”にも通じる。ここでの対応が、全てを分ける。議題:これは“本気”か否か?」
こうして僕の脳内で、超高速の大混乱が始まった。
祝砲のような彼女からの通知は、
10年分の静寂を一気にぶち破って、
僕という存在を、ふたたび“物語の主役”に引きずり戻したのだった。
④ バクチク・ラブ・ドーン!
会議室の議長席で、【👑 議長エゴ】が手を打った。
「よし。これより“バクチク・ラブ・ドーン作戦”を開始する!」
「作戦名、ふざけすぎだろ」
【😬 期待抑止防衛型エゴ】が小声でツッコんだが、議長は止まらない。
「彼女の連絡が“何かの用事”だったとしても、それを“再会の祝砲”と解釈する。それが、今回の方針だ」
「爆竹が鳴るのは、祝いのときだ!」
「たとえ打ち上げ失敗しても、俺たちは空を見上げる! 夜空に浮かぶ幻想の再生だ!」
まるで映画の演説シーン。
でも、なぜか、心に響いた。
彼女からのメッセージが来ただけで、
自分が「誰かに選ばれた」気がしていた。
それがたとえ、勘違いでも、夢でも――
僕は、いま、確かに震えている。
⑤ これは夢? それとも試練?
スマホの通知は、現実だった。
だけど、夢みたいだった。
彼女とは、もう一生会えないと思っていた。
記憶の中だけに残って、
そのまま静かに風化していくと思っていた。
なのに、また会えるのかもしれない。
怖かった。
「また同じ結末だったらどうする?」
「今の僕を見て、がっかりされたら?」
「優しさだけで会おうとしてるのなら?」
心のなかで、そんな声が次々と湧いてくる。
エゴたちは円卓で黙り込み、誰も答えを出せなかった。
その沈黙が、余計に僕を不安にさせた。
⑥ エゴたち、円卓へ集結
再び、円卓にスポットライトが灯る。
【🕷️ 深読み無限ループ型エゴ】がぼそりと呟いた。
「あの人、なんで“会いたい”じゃなくて、“お話できませんか”って言ったんだろうな……」
【📚 過去ログ照合型エゴ】がすかさず応える。
「記録上、“会いたい”って言われたこと、一度もないからな」
【🔥 恋愛ファンタジー暴走型エゴ】が身を乗り出す。
「でもでも! それってつまり、“本当は会いたいけど言えない”ってことじゃない!?」
「また始まったよ……」
【🤐 対応冷静シュミレーション型エゴ】がため息をつく。
【💘 回想美化エゴ型エゴ】が、静かに言った。
「あのときの“友達になってください”……あれも、本音じゃなかった気がするんだよな」
会話が止まる。
全員が、その言葉の余韻に沈んだ。
あの夜。
彼女の声と、笑顔と、あの“最後の言葉”。
――まだ、終わってなかったのかもしれない。
【👑 議長エゴ】が、再び立ち上がった。
「次の議題は、“これは本気か?”だ」
会議の空気が、静かに張りつめた。
円卓の中心には、まだ返信していないスマホ画面。
「10年ぶりの問い」に、どう答えるべきか。
それが、僕たちに課された“次のステージ”だった。
⑦ 会議議題:これは「本気」か?
【👑 議長型エゴ】が静かに言う。
「では、議題を提示する。“この再会は、本気なのか?”」
円卓の上に、彼女からのLINEメッセージが投影される。
『お会いして、お話できませんか?』
【🧠 深読み無限ループ型エゴ】がすかさず噛みついた。
「“できませんか?”って何? 普通、“会いたい”じゃない?」
【📚 過去ログ照合型エゴ】が資料を開く。
「過去データでは、“会いたい”と明言された例はゼロ。代わりに、“また話したいね”が3件ある」
【💘 回想美化型エゴ】が目を閉じ、詩的に語る。
「あの“また話したい”は、きっと“また会いたい”の遠回し表現……」
「うるせぇ!」
【🗯️ 現実逃避ツッコミ型エゴ】が一喝する。
「こいつら全員、恋愛脳でバグってんじゃねーか! まず冷静になれ!」
【👑 議長型エゴ】が落ち着いた声で言う。
「よし、次。復縁特化型エゴ、報告を」
⑧ 「復縁特化型エゴ」が叫ぶ
【💔 復縁特化型エゴ】が勢いよく立ち上がる。
「来たぞ! ついに来たんだよ! この10年、何を待ってたと思ってるんだ!」
「この瞬間のために、俺は毎日“妄想復縁シナリオ”を書き続けてきた!」
円卓の照明がピンクに変わる。
「俺の中ではすでに第2章に突入してる! 再会 → 泣き笑い → 和解 → 手を取り合う → 結婚!」
「妄想、加速しすぎだろ……」
【😓 被害妄想型エゴ】が顔を覆う。
「10年ぶりって……なにかトラブルでも抱えてるとか? 俺を頼ろうとしてるなら、逆にヤバいぞ……!」
【💔 復縁特化型エゴ】は叫び続ける。
「でも! “忘れられない人”が僕だったとしたら!? “会いたくなる夜”が続いた末に、連絡してくれたんだとしたら!?」
【🧘♂️ 妄想ブレーキ型エゴ】が小さく囁いた。
「……彼女の気持ちは、彼女にしかわからないよ」
一同、沈黙。
円卓には、また静寂が戻った。
⑨ 主人格、語彙力ゼロになる
ぼくは、現実の自分に意識を戻す。
スマホ画面には、10年ぶりの彼女のメッセージ。
『お会いして、お話できませんか?』
僕の指が、返信ボタンの上で止まる。
“なんて返す?”
――何も浮かばない。
10年も経ってしまった。
どう言葉をつなげばいいのか、全くわからない。
エゴたちの会議は続いているが、主人格である僕は、思考停止。
完全に、語彙力ゼロ。
頭の中に浮かんでいるのは――
「えっ」「えっ」「マジ?」「ヤバ」「なにこれ」
まるで中学生のLINEグループ。
「てか、俺の語彙どこ行った?」
「エゴ会議のほうが、まだ語彙あんじゃん」
何も言葉が出てこない自分に、ちょっと笑った。
でも、涙も出そうだった。
⑩ でも、どこか静かに震える“何か”
円卓のエゴたちが、ざわざわと動き出す中――
どこかで、ふっと風が吹いたような気がした。
それは、僕の深いところで震えていた“何か”。
【🌙 静かな核心型エゴ】が、ポツリと呟いた。
「……今の俺、ちょっと嬉しいんだと思う」
全員が、その言葉に振り返った。
【👑 議長型エゴ】も、口を閉じる。
【💘 回想美化型エゴ】が微笑む。
「静かに、でも確かに、震えてる。俺たちの“希望”が」
爆竹じゃない。
祝砲でもない。
静かに、静かに。
心の奥で、小さな光が灯った気がした。
そして僕は、返信を打ち始めた。
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