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第4話|デュラはん、オッさん、おじいちゃんの国|創作大賞2025エンタメ原作部門

「……ちょっと、わたし……、おかしいに、なっていました。
少しだけ前、猿、なにか不思議な猿、の、ヨウカイ?に、襲われた。
わたしの命、たぶん、狙っていましたから……、
それで、あなた、その猿があなたに化けたですか、あるいは、その子分、とにかく、追ってきたんだって、わたし考えた。
……びっくりすること、ばっかり。ずっと、近ごろわたし、に、起こります」、

隣で、やはり白い馬に突っ伏した姿勢の女が、乙彦の背中へ語りかける。
多少はたどたどしいけれど、彼女の日本語は、会話として成立するレベルにある。
少なくとも、乙彦が英語で話すよりも、ずっと自然に日本語を使う。

「うん……。さっき、《視て》ました。
なんか、なんて言っていいのか……。
びっくりすること。それ、ぼくも、同じです……」、

白馬の背に突っ伏している乙彦は、言いながら背中側にいる女の方へと体の向きを変えようとする、そこで

「ピキン!」

と腰に痛みが走るから、乙彦の顔が歪む。

(ヒィッ……いててて。やっばいなぁ)、

反射的に背がのけぞる。そして、これも反射的に左手を地面にぱんとつくと、そこでまた別種の鋭い、予期せぬ痛みがてのひらから、走る。

(うごっ!)

それを受けてまた、背中に、ビシイッと痛みが走る(作者注:ぎっくり腰って本当、こういうふうにさんざんな感じだ。書いててエアで痛くなる)。

《あぁ》、何かに気づいたふうに、《コエ》が響く。
《同期やるのビギナーだから、微調整チューニングできなくてまるっとかぶって、共感覚を起こしてるな。だから、《●※☆》が猿の刀をつかんだ時の傷を、同じ場所を同じ深さ切られて痛いって、感じちゃってるわけか》

(えーと、脳内の《聲》の方、念じればいいんですか、届きますかね。
あなたは、いま、ぼくがこうして触っているあなたは、この白い馬さんで、神様。
と思えば、正しいでしょうか……)

《まあ、そうです》

(さっきの、この女の方に起こったことの映像も、見せてくれてありがとうです。何か……、それがなんなのか、ぼくにはわかんないですけど、彼女の役になんらか立つため、俺はここに呼ばれた。……って理解で、合ってますか)

《そうね、合ってる》

(馬が、神さまの使いとか、神さまそのものであるんなら、ぼくのこの腰とか彼女の手の傷も、パッと治してくれちゃったら、最高なんですが……)

《や、そういうのは、ちょっとやってないんで》

困惑気味の《聲》が、乙彦の中で響く。
(あ、はい、そうなんですね……)
《病院に行ったほうが》、えっそんな普通な見解?
《何か問題でも?わたし、現実的なんです。
ああ、で、傷癒したりは専門外だけど、病院に行くのを助けたりはできる、君たちふたりが。
……というか、いま、状況的に助けないとまずいかもで、ねえちょっとふたり、いますぐに視てもらっていい?》、

ちょっとでも楽な体勢にゆっくりと変えながら、乙彦はまた馬の背の上に突っ伏した。すぐ後ろで女も⸻さっき、名前なのか、カミが《●※☆》と言っていたのが聞こえたけど、正直まったく聞き取れなかった⸻同じように伏している気配だ。
目を閉じた状態から、おそるおそる、《目を開ける》。

《これは……》
「わたしの部屋」、乙彦の背中の後ろで女が言った、「あっ、金庫マイセイフ!」

「そう、こじ開けさせる業者が呼ばれてがたがた始まったと、鴉たちから連絡が入った。
女は、泉司晴詩ぜいじはるしに食い込みたがっている、「アテンダー」だかなんだかの。この女の判断でやってる。
『そうした敵対的行動に走ったのは、我が国の憎むべき邪神・八百万ヤオヨロズが憑いている仕業に決まっているから、彼女が痕跡を有する書類から何から徹底して祓うべきだ』
なんて言って。
いまのこれも、一匹の鴉に窓のところに張り付いてもらって、ずっと監視してもらっていたのだけど、ドアはきっちり締め切られてしまって鴉たちが中に入れない。《●※☆》が戻って、止めさせるのがベスト、それ一択だ。喋ってる場合じゃない、すぐ行こう」
「えっ」
気づくと、乙彦は《昏いどこか》に立っている。
足元を見ると、小川のような流れがある。
水面が、不思議に白く輝いている。
(どういうことだ、いまのいままで、ぼくは山中で、白い馬に突っ伏していたはず……)
そして、身辺の異変に気づく。
さっきまでくていた服も靴も、何もない。裸だ。
唖然としていると、後ろから誰かが、腕をさわる。
「わたしです」、女だ。
「この川を、一緒に歩いて、登ります。
川に足を浸してしまうと、周囲のことはもうほぼほぼ見えなくなりますが、先へ向かう川の帯だけ、はっきり見えます。
しばらく歩いて進むと、光があります。
光は見える見えないもなく、強烈な輝きを放って、そこにあります。
光のなかへ入れば、あのことわたしたちはひとつになり、あのこは駆けてマンションへ向かいます。
それで、あの……、お願いがひとつ、ありますよ。
このまま、わたしの先を歩いてください、それで光に着くまで、いや光に入ってしまう最後まで、前だけ向いて、後ろのわたしは決して振り向かないでください。
……どうして言うと、わたしも服を着てませんから、恥ずかしだからです」

もう何が起きているんだかさっぱりだが、とりあえず「わかった」と言い、乙彦はざぶざぶと川を歩きはじめる。
昏いどこかを、見通せないものの不思議と怖さは感じない空間を。
急いだ方がいいはずだから、速足だ。
(どことなく、あれに似ているかもな)、と乙彦は思う。
昔、誰かと行った、豊洲の「チームラボプラネッツ」の、水に入るエリア。
プロジェクションマッピングで泳ぐ鯉が綺麗だった。
いま、乙彦が、そして後ろで女が歩くここは、人工的に舗装され整えられた流れではない。
天然の、そこがぼこぼこした小川という感じだが、足の感触に不快さはない。ぼこぼこしていても、つるつる、滑らかで、足裏に心地いいまである。

(……ところで、俺も女にお尻を見られながら歩くって、だいぶ恥ずかしいんだけどなぁ……)、

乙彦には身体的コンプレックスとしていくつか抱えているけど、
「全身が毛深くて、お尻まで毛が生えている」
もそのうちの一つだ。


「ふふ、へー、そうなんですね……。オツヒコさんは、なんか、かわいいなんですね」、女が初めて笑う。
心が、まだ、《同期》でつながっているのか。
「そんなの、ぜんぜん、問題って思ったことがない。NIくにの男は、結構みんな、生えてるもん。日本じゃ誰がそれが恥ずかしいだよ言うの、脱毛するべきだよって、誰が教え込ませる?たぶん、お金だよ、それやるは。」

「そうかもしれないけど……あ、ところで、あの金庫の中には何が入っているんですか」、乙彦が聞くと女は、
「パスポート、査証ビザ、カード何種類か……、あと大事な書類や写真。どうしよう、開けられて、見られる、すごく困る!」
「さっきの場所は、どこなんだろう、京都か、東京か、別の場所か……」、
乙彦が聞くと、
「京都、駅で言うと、松ヶ崎です、烏丸からすま線の。そこのマンションを、借りて住んでいます」。
松ヶ崎だと、場所によっては、乙彦が京都本社ほんしゃ時代に、社用車で通っていたエリアかもしれない。


歩いていて、足裏が、つるっとすべった。
踏ん張ろうとして、乙彦の腰に、あの「ピッキン」が走る。
「わっ」
思わず声を上げてしまう。
背中に、さっと、感触が走る。
女が、後ろから支えてくれた。
だが、奇妙に硬い。
この感触は、手のひらなのか?まったく違う何かであるような……。
礼を言うテイで、なにげなさを装い、振り返って見てやろうとすると

「ダメッ見ないで!」

と制される。
直感的に、そうしたほうがいい、そうしないと破滅的なことになると思い直せて、「ハイッ!」と言い、乙彦はまた前に向き直り、速足を再開する。



「あっ、光、光が見えてきました」、

女が後ろから、じゃぶじゃぶと足を動かしながら、言う。
「光に飛び込んだら、一瞬です。もう、あのこは《駆け出して、飛び込む》準備がばっちり、整ってます。
向こうに着いたら、さっき、着ていた服を思い出すといいです。
服は、実際としては、あの山の中に置いていくけど、向こうの部屋みたいな場所、、、、、、で《実態になった》あなたが、ぼく裸だ恥ずかしい!ってなると、戦いに影響が出ますから……」
「……戦い?」、
看過できない単語だ、乙彦は聞き返した。
「はい、私たちは、これから戦います」、女はこともなげに言う。「部屋にいるあの女、たぶん普通の人ではなく、カネ死商ヤミトリに堕ちた、八百万ヤオヨロズのひとりです。でも、だいじょうぶ、あなたなら」
「待って、ちょっと待って。ぼくは、格闘技の経験もないし、弱い男です。どうして、戦うのに、選んだのがぼくだったんですか……、選んだのが、きみなのか、カミなのかは、わからないけど……」
「そんなのは、あたりまえです」、
女は晴れやかに言った。
「さっき、同期させてもらって、あらためて、確信しました。
あなたは、いわゆるオカルトの類は、ほとんど何ひとつ、信じていないですね。
けれど、あなたは、八百万ヤオヨロズのこと、ずっと、共にありました。
それは、あなたの生きてきた時間ヒストリーと、関係があった。
あなたには、準備、、が、密かに、でもちゃんと、あったですね。
それ、月が見ていた。
それ、あなただった理由です。
あっ、光です、《勢いよく飛び込んで》」

それは声掛けでも助言でも指示でもなく、まるで呪文プロンプトだった。
乙彦は問答無用で飛び込んでいて、光に包まれた。

「この光」、
乙彦は思った、これはあの光。
あの静かで小さな砂浜で、秋の夜に横たわっていた時間、涙が出るほど光に満ちた大きな月を抱きしめた、月に抱きしめられていた時間の、あの光そのものだと。

涙が溢れてきた。
実際には、目から涙を流していたのかは、わからない。
けれど、奥底から込みあげる強烈な感情のままに、熱いものをとめどなく溢れさせていたことは、間違いなかった。
乙彦が乙彦という名前ではなく、いまここの存在でもなかった時間にいた頃、かれは⸻男か女かどちらでもなかったか、ヒトか獣か、あるいは魚か虫か草木か、石か岩か、風か波か、定義はわからないけれど⸻たしかにそこにいた。
その時に、たしかにこの光を、感じたのだ。

《あの光は、この光。
そうだ。
思い出した》

乙彦は光の中に入り、なくなり、あるいはただの宇宙生命コスモゾーンのひとつになり、いくばくかしてまた乙彦になったので、光の外へ踏み出した。


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山本蛇内 yamamotojanai スキとフォローくだされば(気に入ってくださるなら、でね)十分なのであります! いつか有料記事に挑戦しますので、その時までチップ取っといてください笑