創作『あさってイエロー、まっさかピンク』第7話・はなぞの館はなぞの館⑥(+過去ストーリーの主要修正箇所お知らせ)
(前回まで)
小学5年生の岩永灯多は、普段の学校生活でははなぞの館のことを口外せず、気ままにその場所へ通う。
そこで出会った、不思議な吸引力を感じさせる少女・れいも気になりつつ、少し前まで好きだったが隣町に転校してしまった野ノ守芳子のジョギング姿を見かけ、気になってそわそわ再来を待つ日々を送る。
ある日、灯多はとうとう再び彼女の姿を見かける。
れいに誘われて彼女ははなぞの館を来訪し、館にいる子たちの中に入る。

今の僕は⸻、
ええと、つまり、小5だった世界から5年経ち、2026年3月24日火曜日という世界にいる。
高校の1年生が終わって、春休み中。
4月が来れば、高2になる。
僕は今、ここ、つまり5年前にみんなでタイムカプセルを埋めた場所にきて、ひとり、みんなを待っている。
腕の時計を見る。
16時17分。
天気は、薄曇り。
夕暮れに向かいそうな空。
風はない。
気温は、ブレザーの制服にコートなしという服装でいて、ちょうどいい⸻暑すぎも寒すぎもしない。
出る時に私服とさんざ迷って、私服で出かけて、やっぱりと全部脱いで、制服に着替え直した。
通う学校に対する思い、複雑だ。
情けない、打ちのめされているが基本でいて、同時に誇ってもいる。
勢いのある進学校、その名前に縋る僕がいる。
花粉対策で、マスクをしている。
掛けているメガネは、特に花粉症対策仕様ではなく、いつもの普通の。
今の僕は、もう幸手に住んでいない。
小5の終わりに引っ越したからで、幸手に来たのは、5年ぶりだ。
今日は家にいて⸻部活は無所属⸻、最寄り駅から東武線で幸手駅に着き、駅前でレンタサイクルを借り、しゃこしゃこ漕いでここまで来た。
昔の経験と記憶で、地図アプリは使わずにたどり着けた。
花堤小の校舎を目指し、その隣に行けばいい。
30分ほど前、|16時前とかには、もう着いていた。
大きな木に背中を預けてしゃがみ、ポメラでこれを打っている。
ポメラというのは、昭和とか平成でいうワープロ専用機で、ノートPCと違い余計なものがついていないから「ついネット見ちゃって」とかがなくて済む。
小説家志望なので、いつも持ち歩く用にしている。
いやそれにしても……、
と、言いたくなる、書いて残さずにおれないことは、もうひとつあるけど……、
まずは。
誰一人来ない、それってほんと、どういうことだよと。
ここが、みんなとの待ち合わせ場所のはず……、
はず……だよね?
ひとりだけの時間が長いと、不安になる。
そして、そもそもがここに着いた時、実はいきなり、衝撃を受けている。
衝撃は今も続き、心は動揺しまくっている。
驚き、戸惑い、揺れ。
スクショするみたく記録に残したい一心で、こうやって文字を打って、何とか平静を保っている。
とりあえず……、僕が今こうして待っている「みんな」について。
5年前の今日、タイムカプセルを埋めたメンバー。
アキト、吾田暁斗。
リン、徐凛果。
スー、三戸好子。
ホー、野ノ守芳子。
僕、そして、れいさん。
この6人。
れいさんは僕らと違いスタッフだった(はずだ)から、当時、あの館に来ていた子どもって、アキトリンスーホー僕でフルメンバーだろうと思う。
それ以外の子に会うとか、一緒に遊ぶとかしたことがない。
いつも5人が揃うというわけでもない。
行ってみて、来ている子が僕一人だけってことも、ぜんぜんあった。
あ、と言っても、はづきばあばは、基本的に常に館に居てくれた。
なので、留守宅に不法侵入しているということではない。
いつも開け放たれている横開きの大きな扉から入って、
「こんにちはー岩永でーす」
と言うと、はづきさんか来ているスタッフの誰かが出てきて、迎えてくれた。
先にアキトだけいて、あるいは後から来て、ふたりのときもあった。
女子の誰か、つまり徐凛果だけとか三戸好子だけ、もしくは野ノ守芳子だけのときは、ふたりで部屋にいるのは僕が気詰まりで、館の探検や、外の林にいることが多かった。
面子が3人以上になると、落ち着けて部屋にいたりもできた。
もっとも、「空気を読んでいるようでいて、あるいは察知した上で、敢えて平気で『読まない』にいく」のが僕の自然であり、それは学校のクラス内でも親とでも他の場所でもあまり変わることもなくそうだった。
はなぞの館でもぜんぜんそう、いやむしろそうであるようそうあるよう、周りが放置してくれていた。
でも別にだからといって……「ひとり遊びが苦じゃないどころか楽しい」からといって、それがすなわち「集団行動が苦手」ということでもなかった。
屋根裏部屋の窓外の屋根にひとりで座り、本や漫画を読んでいて⸻それは「野ノ守さん待ち期間」が終わって当の彼女が館にいるようになっても別に普通に続いた⸻、階下や庭から
「トータ、きてー」
と呼ばれれば降りていった。
呼ばれるのは、外で鬼ごっこをやるとか、部屋のテーブルでゲームをやるとか。
あとは、もぐもぐタイムだ。
はづきさんか、まりあさんが、美味しいものを作ってくれるのだ。
5年前の今日、2021年3月24日。
それは、僕の引越しの前日で、はなぞの館に行く最後の日だった。
おやつには、リクエストで、おむすびとカレーが出た。
最後に出して欲しいおやつを聞かれて、はづきさんのおむすびかまりあさんのカレーか迷って、そうしたら両方出た。
当日は、みんな、居てくれた。
はづきさん、まりあさん、れいさん。
あまり見かけないし、野菜や資材なんかを運び込んだらすぐ帰りがちな将門さんも、その時はとどまって、いてくれた。
テーブルには、6人。
大人たちは、座りきれないで、ソファテーブルの人もいた。
鮮やかな黄色のテーブルクロス、各人の目の前にはお茶のコップとスプーン、おむすびの皿、カレーの皿。
いただきますの祈りを終え、あらためて目の前を見る。
色が躍っていた。
お皿なんかの色も鮮やかだし、おむすびの上にはシャケのオレンジ色、焼きたらこの朱色。
そして、カレーが、……生まれて初めて見る色だった。
色でびっくりして、味にもびっくりした。
めちゃくちゃ美味しかった、家でも給食でも一度も食べたことのない未知の、そして驚きの、味わいだったからだ。
みんなの顔をさーっと見る。
おいしそうな顔ばかりがあった。
幸せな思い出のひとつだ。
それから僕らは、食器を片付けて洗った後で、ペンと紙を渡された。
この日、タイムカプセルを埋めてみよう、それで5年後の今日の同じ時間に、集まって掘り返してみようと、そういうことになった。
それで僕らは、はづきさんからのお題、
「5年後、自分はこうなっている!」
を想い、書き込んで、封筒にしまった。
紙も封筒も、触ったことのない素材だった。
僕には、何らか自然の手触り、まったくわからないけど虫とか植物の営みが生む何か、そういうものが感じられた。
夕陽の中で、僕らは館の外に出て歩き、タイムカプセルを⸻カプセルというけど、実際は封筒の入った「おどうぐ箱」みたいな箱を⸻埋めるための場所を探して、花や草地の中を歩いた。
場所が決まって、アキトがスコップで穴を掘り、その穴に埋めた。
夕陽の中で、ぼくはれいさんの横顔に見惚れてしまい、
(はっ!こんな姿、野ノ守さんに見られたら……!)
とひとり慌てたが、野ノ守は僕のことなど全然見てはいなかった。
僕の立つ位置から見たら、ぜんぜんあさってというか、真逆というか、中川の方向を見ていた。
暮れなずんでいく夕陽。
広い広い空に、たくさんの色があった。
基調は、雲のやや不穏な濃灰色と、薄紫色。
そこに、差すような、鮭桃色。
雲の切間から、黄色の陽の光が、地球のこの地にも光を当てている。
遠くの方は、まだ薄青色。
僕も、体をその方向へ向き直して、しばらく空を見ていた。
「そっか」
僕は、ひとりごちる。
空の色が甦って、気付けた。
5年後の今の空の色と、違う。
まだ早いのかも。
僕はあの時、時間を見ていなかった。
だから、(だいたいこのぐらいだろ)って来たけど、実際はもっと遅いのかもしれない。
それにしても……、
いや、ほんとうに、それにしてもすぎることが……、
少しは落ち着いた、けど、まだ、僕は動揺している。
だって。
はなぞの館、もう、どこにもない。
館も、あの緑も、消えてなくなってしまっている。
建っていたはずの場所は、工事の白い囲い壁に広く囲まれて、ほとんど更地になっている。
当時の名残は、ほぼない。
あれだけ繁っていた木々にしても、草や花たちも、きれいさっぱり、ない。
わずかな名残で、とても大きな木⸻たぶんタブノキ⸻が、囲い壁の外に立って、残っている。
当時は、ほかにも周りに大きな木がたくさん、普通に、あった。
だからとくだん意識もしなかったけど、こうなってみるとこの木に意味が出てきてしまう。
あの、5年前の時と場所の実在を、証明しつなぐ、物質として。
待ち合わせの場所は、5年後にも、あったのだ。
木の下、僕がいま座るすぐ隣には、古い木製のお堂がある。
屋根の赤茶色の塗料ははげはげで、脚はちんまい蟻たちの通り道になっている。
ただ下草は抜かれており、手付かずというわけでもないようだ、少なくともお堂の周囲に関しては。
このお堂の4本の脚の下の、土の中に、僕らはタイムカプセルを埋めた……。」
*
自転車が急に止まる音、そして、誰がか駆け寄ってくる足音が耳に飛び込んできて、灯多はポメラの画面からぱっと顔を上げ、そちらを見た。
(第8話に続く)
この小説はフィクションです。
実在の人物・団体とは関係がありません。
(お知らせ・過去の話内の主な=大きめな、公開後修正箇所です)
第0話(登場人物・キービジュアル)
【人物の新規追加】寧呂はづき
花堤小に隣接する「はなぞの館」の家主。「はづきばあば」と呼ばれる。
【人物の設定変更】まりあ
館の当主で「ばあば」ではなく、「スタッフ的存在(市関係者らしい)」に変更。
【人物の設定変更】岩永灯多
①通う高校を、「幸手市立桜高校」から「越谷市内の私立高校」に変更。
②キーボード部所属を削除(無所属)。
第1話(異聞)
【描写追加】入水直前だというのに、巡礼の娘のお腹が鳴る。そこからの「食べたい、食べさせてあげたい」心情描写を追加。
第2話(はなぞの館①)
【設定変更反映】灯多の自己紹介で、高校を変更。
第3話(はなぞの館②)
【描写追加】将門さんが「野菜を持ってきてくれる人」であることなどの灯多の語りを追加。また、将門さんの画像を新規追加。
第4話(はなぞの館③)
(変更なし)
第5話(はなぞの館④)
【設定変更反映】まりあ→はづき(ばあば)の設定変更の反映。また、はづきの初登場時の画像を新規追加。
第6話(はなぞの館⑤)
【設定変更反映】まりあ→はづき(ばあば)の設定変更の反映。
以上です!🙇
今回で「はなぞの館」が終わり、
次回から新章となります。
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