創作『あさってイエロー、まっさかピンク』第14話・「まっさかの」⑦
(前回までのあらすじ)
幸手市で行われる「ユースさって市長選挙」の「交流会・質問会」の会場に、スペシャルゲストさっちゃんらが来場。さっちゃんは設定上しゃべれないため、隣の西秘書係長が会場の立候補者たちと聞き手に向けた「ミッション・質問タイム」のことを話しはじめた(「空気は読まなくっていい、ここは学校じゃない」……)。
聞きながら、真弓はこの市長選、できることをやり切ろうと決意する。


西係長の話が続いている。
早く椅子から立ち上がりたくて、橘真弓はうずうずしていた。
まだ、椅子から腰を浮かせないまでも、いつその時が来てもいいように心の準備はしている。
その時とは、つまり、「取材開始」だ。
一般人、しかも未成年者である質問者たちには、カメラを向けないつもりだ⸻事前に許諾を取るべき、というのが真弓のポリシー⸻、その分、もはや公的な存在である3人の立候補者たちのことはもう、めったやたら、しっちゃかめっちゃか、撮りまくりたかった。
私的な感情ではなく、幸の手高校新聞部のエース(自称)として、
「『サチノテ・タイムス』を、最高クオリティにするのだっ!」
その、公的な使命感がある。すべてはそれに基づいて動いている真弓だ。
「はいっ、と、いうことで」、
西係長は隣、司会を務める女性⸻「ユースオブ幸手の集い」、略称「つどい」のチーフ、猪原希帆さん⸻に、マイクを渡す手振りをしつつ、
「私たち大人は、ここで、いったん部屋から退散します。
それではみなさま……、後ほどまた、お会いする、かもです!」。
さっちゃん、西係長、プレスのカメラマンが部屋の外に出て、観音開きの扉がまた閉まった。
猪原さんの後ろの壁面から、スライド音と共に白いスクリーンが降りてきた。
「ここで、念のため、『ユースさって市長に選ばれるとどうなるの?』を、簡単におさらいしておきますね。
併せて、正面の画面、こちらもご覧ください。

「まずは、選出、つまり選挙ですね、今一度確認しますと。
被選挙権は、『市内在住・在学・在勤の、15〜17歳の者』。
選挙権は、『市内在住11歳〜22歳の者』と、こうなっています。
ユースさって市長のことを、英語で縮めて……、ユースあるいは英語的にはヤングの『Y』、市長のメイヤーで『M』、『YM』なんて呼んだりします。
私たち、『集まり』の中では普段そう呼びますし、市長はじめ役所の中でもそう呼ぶ人が多いです。
こう言うだけでツウっぽくて人に差をつけられます、今日からぜひ『YM』呼びを」、
と猪原さんが言うと、笑いが起きる。
「市長候補者は、概ね高校生年代が想定されています。
けれど、資質さえあれば中学3年生でも選ばれうるし、学校に通っているかは条件ではないですから、中学を出て働いている場合でも被選挙権があります。
そして、YMに関しては、『幸手市民であることがマスト』ではないです。
例えば他所から市内の企業に来て働いているとか、幸高に通っている、でもOKです。
任期は、2年です。
一方の選ぶ側は、これは、幸手市民の青年世代限定、になります。
11歳なので、選挙が行われるタイミングによりますが、可能性だけですと小学校4年生から投票できますね。
今回、4月早々に選挙ですが、例えば4月1日生まれだったりすると、学校が始まると新5年生、という子たちが投票できます。
市内在住で年齢要件を満たせば、例えば大宮の高校に通っていても、あるいは東京に通勤していても、OKです。
逆に、住民票上の住所が幸手市外だと、残念ながら選挙権はありません。
ちなみに私たち「つどい」のメンバーでも、他市から関わってくれている人は今回、選挙権なしです。
ここアスカルに投票箱と用紙を準備しての投票と、専用アプリとIDを用いてのオンライン投票、2パターン用意されています」、
スライドのページが次へ進んだ。
一部から、ざわめきが起こる。

猪原さんが微笑みながら、両手のひらを下に向けて、抑えるようなジェスチャーをすると、再び場は静まり、話を聞く空気が立ち昇る。
「はい。まず、最初に説明すべきなのは、学校での単位認定ですね。
今の段階では、幸高生しかも2年次以降限定にはなってしまうのですが、”YM”、ユース・メイヤーつまりユースさって市長としての活動時間で学校を離れていても、しっかり単位認定されるというものです。
YMに選ばれたひとりだけに、特別の単位「市政連携」が進呈されます。
通常の「LHR」と「総合的な探求の時間」の各1単位と、通常なら「パターン内選択科目」として履修すべき1単位、都合3単位分。
1単位の授業時間は50分ですから、週に150分、学校の時間中にYMとしての活動ができます。
この「市政連携」の単位は、木曜午後に1、金曜午後に2単位で、配置されます。
今回このために、幸高のこの春からの時間割も、教務の先生に無理を言って組み直してもらっています。
また、来年度からの市議会のスケジュールも、先般、調整がされました。
すべてはYM制度の新設のためです。
YMの活動自体は、幸手市と幸の手高校の包括的連携協定の項目のうち、主に「まちづくりと地域コミュニティに関する事項、そして「市の政策に関する評価、支援等に関する事項」に基づいており、学校教育、高校の教育課程というよりも、どちらかというと市の側の立場で動くものです。
とはいえ、授業中の時間にも活動が設定される以上、安心してやってもらうために、単位の保証は制度設計において、マストでした。
例えば、当選者がYMとして市議会の委員会に出席したい、あるいは逆に出てほしいと要請があった場合。
必修の授業があったら、まあ、学業優先ですし、出られないとなる。
そうなると、せっかくのYM制度が死んでしまう。
この事態を避けるため、YM市長が動ける時間と、少なくとも議会日程は合わせる必要がある、という議論がされていました。
幸高からの市庁舎までの行き帰り時間含め、学校を離れてOK、前後期一回ずつレポート、活動報告を出せば、OKとしています。
議会の会期中でないときは、調査の時間に充てられることが想定されています。
YMは、市政全般への調査権を持ちます。
市役所の各窓口の担当者のところへ行って、「こないだ委員会で話題になってたあれ、どういうことですか?詳しく知りたいです」と、バリアを感じることなく質問に行ける。
報酬も、この1年間市議会で継続的に議論されてきました。
一部SNSで話題にもなりました、「それはどうなんだ?」と。
結論は、「YM活動費として、固定で月5万円が支給される」となりました。
「YMは学生であっても、着任すれば「特別公務員に相当する者」、という位置付けになり、その発令に伴う責任を果たしてもらう、それがボランティアつまり無報酬でというのはやはり、違うのではないか。」
という、私たち「つどい」の主張を聞いてもらった感じです。
……えーと、長くなっちゃったな、次もどんどん行きますね。
次のこの「YM(ゆめ)提言」というのは、「ユース・メイヤー」と「夢」両方にかかっているのですが、市議会や委員会での閉会直前のタイミングで発言ができる権限です。
地方自治法上、今はまだ「議員でない者」には、議案への質問権や自主議案提出、そして議決権がない。
しかし、YMは、この「発言」を行使でき、そのことによって、法的拘束力はないものの、議会、市政に影響力を持てる。
無視できないものになる。
一定の圧をかけられる、若い世代としての。
……もちろん、それが聴くに値する意見だった場合には、となりますが。
なので、今回初代のYMになる方には、大変かとは思うのですが、本気で学んだりのところ、忙しく取り組んでいただきたいと思います。
……お金も出ますし」、
と猪原さんが言うと、またウォー!と歓声が上がる。
「市の主催するイベントや発表への出席、会見などのうち、これはぜひアピールしたいものについて、市長と共同で行なってもらうことも想定されています。
基本的には市庁舎内が想定されていますが、ここアスカルだとか、市内の他施設である場合は、その時間も単位認定されます。
また、公共交通機関を使う場合、実費分の旅費が支給されます。
ただし、当たり前なのですが、学生の本分である学業優先、とはなります。少なくとも、市側で「なんでも駆り出そう」的なことは決してしないでくださいねと、私たちからもお願いしているところです」
またスライドが切り替わった。

「駅下スペース(仮称)の話は、なにやら後日、ミッション化されるらしいので、ここでは詳しい説明は割愛します。
専用のさっちゃん着ぐるみは、通常のものと違って、胸に「ユース」の「Y」のデザインがあしらわれた、YMだけが着られるものです。
……正直、私、めっちゃ羨ましいです、着てみたかった!
そして最後、
「他、市として思いや活動支えます!」、
これも実は大事なコンセプトでして、制度は導入が決まって走り出したけれど、余白がまだあります。
逆に言うと、初代YMさんの「やりよう」にかかっているとも言える。
どんなことを発信するのか。
それは幸手市の振興につながるものなのか。
市の職員や議員さんにと言うよりも、市民の皆さんに届けるために、学びつづけて、アピールする。
ひとりで孤独に学んでつらくなる必要はありません、例えば私たち「つどい」も、シンクタンク的に支えますし。
YM、ユースさって市長について、今の説明で少しでもイメージが膨らんでくださったら嬉しいです。
さーそれではそろそろ参りましょうか、質問タイムということで。
最初に、質問を受けるよ、という方は……」、
猪原さんがそこまで話したところで、会場の一角から
「あーハイハイハイハイハイッ!」、
の声。
と共に、猪原さんがいるスクリーン方向に小走りしている男がいる。
3人の候補者の一人、一色士陽だ。
(いざ!)、
出陣するかのような心境で、真弓は立ち上がる。
真弓の忘れ物のうち、カメラは学校に戻って取ってきたが、腕に巻く「新聞部 幸の手高」の腕章は置いてきてしまった。
それでも、臆することなく、テーブルの間をすすいと抜け前に歩み出て、一色候補が立ちそうな辺りの正面に陣取る。
すると、真弓の両脇に、人影がスッと現れた。

上背がありムキムキなタンクトップ姿の男と、幸高の制服の女と。
男は、一色士陽の応援人の「とびーP」、女は3年の岡朱里衣。
(一色氏の取り巻きたちに、囲まれてる)、真弓にはわかる。
「圧」をかけられているのだ。
「妙な質問すんじゃねーぞコルァ」と。
(「手に魂を込め(※1)」……だ。
ハハ、こんなの、なーんてことないだろって。
引かぬ!媚びぬ!省みぬ!(※2)
科学忍法(※3)、背景透過の術うっ!)
妄想の中で真弓は、周囲へ、背景透過ファイルの背景を拡げていく。
白とグレーの市松模様で、とびーPと岡さんの存在を、消しにかかる。
一色士陽がマイクを口に持っていく。
「じゃ、どぞ、質問ある方はァ……」
「はいっ!」、手のひらをビシッと天に振り上げ、真弓はくっきりはっきりした声で叫んだ。
猪原さんからマイクを受け取ると、
「幸の手高校新聞部の、橘と申します。
一色候補、どうしてあなたは、幸高の制服を着ているのですか。
あなたは、幸高生じゃないのに。馳多本庄の生徒なのに……!」
会場が、大きなざわめきに包まれた。
※1 真弓のこの言葉との関連は不明ながら、『手に魂を込め、歩いてみれば』という、2025年にセピデ・ファルシ氏が監督したドキュメンタリー映画が存在する。
(2026.2.5 関連記事を追加します。)
※2 武論尊・原哲夫『北斗の拳』の登場人物・サウザーが発するセリフ。
※3 70年代のテレビアニメ『科学戦隊ガッチャマン』で主人公たちが使う技
術。真弓はツイ廃(旧Twitter廃人)だった頃、こういう上の世代の文化を
ふんだんに吸収していた……!
(第15話に続く)
この小説はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係がありません。
いいなと思ったら応援しよう!
スキとフォローくだされば(気に入ってくださるなら、でね)十分なのであります!
いつか有料記事に挑戦しますので、その時までチップ取っといてください笑