見出し画像

第6話|デュラはん、オッさん、おじいちゃんの国|創作大賞2025エンタメ原作部門

「えと、怒っ……たよね……?」、
乙彦は、おろおろしている。

デュラはんは、わかりやすく激しい女なのだった……まずは、気性が(ああ、他のことはもちろん知る由もない、だって出会ったばかりだ)。

「もうサイアク!オトヒコ、何がサイアク、あなたわかっているか?」、リップを引くだとか(傷隠しに)スカーフを巻くだとか、外出の支度をせかせかとしつつ、彼女はぼくをにらんだ。

「……なんでしょうか」

「怒ってる女に、『怒ってるの?』聞くはサイアクなんですね、それとあと!なんで怒ってる、あなたまったくわかってないよ、これまたサイアクです!」

「すいません」、
って、当然だがわからないわけじゃない。
乙彦が戦うことに否定的だから、彼女のしてほしいことの真逆だから、デュラはんは怒っている、機嫌を損ねて瞬間湯沸かし器状態にしてしまった。
わかっているのだ、でもそう反論しても火が炎になるだけだ。
「とにかく」、
マンガの描き文字みたく、空中に「ぷりぷり」と書いてあるようなぷりぷりっぷりを漂わせているデュラはんが、リビングを横切ってきた。
彼女は、さっき部屋に来て最初に開け、その後エアコンの電源をつけたとき閉じた、ベランダのサッシ窓を再び開けた。
サンダルを履いて外へ出つつ、外を見ている。

「オトヒコ、しのごろう言わず、、、、、、、、、この漬物石ツケモノイシと戦って、びしっとやっつけてくれないと、わたし、いつまでも病院行けませんから。ほんとう、困らせますから」、後ろでに縛られたまま⸻もなにも乙彦が縛ったのだけど⸻、畳に横たわっている和装の女をあごで示して、デュラはんは言う。
「漬物石……?!」、

わかんない言葉や概念ばかりぽんぽんと現れてくる。
倒れている彼女の登場以降、もうずっと。
それで、乙彦の脳は、もうだいぶ考えを追いつかせるのに、疲れてはいる。
これが小説やマンガの読者であればページをパタンと閉じればいいところ、乙彦にはこれが現実で当事者だ。なりがかり上、もうついていくしかない。

「あっ、きたきた!ここ、ここ⸻」、デュラはんは最初片手、すぐに両手で、空中に向かって手を振っている。
(……今度は、なんだいな)、
テーブルのところで座りながらベランダ越しの空を見ていると、現れたのは4羽のカラスたちだった。
なにか、大きいものを運んできている。
よく見ようと、乙彦もベランダに出る、靴のまま(そういえば彼女の部屋でしかも畳敷きなのに、ずーっと靴のままだった、もしかするとこれも彼女の怒りを買っているポイントだったりしたりする……?)

空を見ると、鴉たちは4羽どころか数十羽は羽ばたいていて、カァカァ、ギャアギャア、翼と啼き声で空を支配するほどだ。
そして、部屋に最も近づいている4羽の鴉たちが運んでいるのは……、
(あれって……)
デュラはんの着る、深緑色のドレスだ。
それを見て乙彦は、コップのお茶をくいっと飲み、それから考える。

(そうか、たしかに、鞍馬山から松ヶ崎のこのマンションへ転異動リィプのとき、「服は身につけず、置いていく」って説明だった。
鴉たち、それを「上」から運んできてくれたということか……。
ん……、待て、だとすると、俺やデュラはんが、いまげんに、、、着てる服や履いてる靴ってのは、いったい……)、

そう思いつつ、椅子に座る乙彦が自分の下半身に視線をやると、
⸻い?
なんということか、ズボンもパンツもなにも履いていない。
着ていたはずのYシャツも、着ていない。
すっ裸のフル○ン状態。
それで優雅にお茶、しかもマスカットフレーバーティーなんざ飲んじゃってる。
(えええ……ほんと、どゆこと……)、思いつつ、ベランダに目をやると、

ブウゥーーッとお茶を噴きかけて、ギリこらえた乙彦だ。
なぜなら、デュラはんがたったいまという感じで、ミントグリーン系の下着アンダーウェアを履き終えた動きをしていたからだ(他のカラスたちが、下着も山から運んできたらしい)。
そして、空中にワンピースが浮かび、彼女に寄ってくる。
1匹の鴉が嘴に加え、うんしょと、うんしょとホバリングして、手に取りやすい位置まで寄せている。
襟口に顔を通し、レモンイエローのスカーフをひっぱり外に出して、デュラはんはくるっと部屋のテーブル、乙彦の方を向き、

「怒ってるから言いたくないだけど、わたしめっちゃ優しいだから教える!
あなたの服と靴とリュック、鴉たち山から運んだ、そこちゃんとお礼して!」

(おお、それはたしかにお礼が必要……)、
乙彦は思い、ぎっくり腰が発動しないよう気をつけながらテーブルの椅子から立ち上がり、ベランダに向かって数歩歩いたところで、いきなり、あることに気づく。

「……え、デュラはんごめん、ちょっと、服、持ってきてほしいんだけど……」

「は、意味わかんない!自分でくるだよ、ありえない!亭主万博ばんぱくか!」
最後のデュラハン恒例の「言いまつがい(※)」、とうとう時事ネタを入れてきている(※  「ほぼ日刊イトイ新聞」では恒例の概念。no+eが「#なんのはなしですか」で盛り上がるとき、両者に特段の対応関係はないのだけど、作者はなんとなくこれを連想しちゃっている)。

「ごめんて。いつもなら、普通に、なんでも自分でやるほうだし、行きたいよ、けど、ぼくいま裸で、それでベランダに出たらやっぱ、まずくないかなって……。
……ほら、きみにだって迷惑かけるかもだよ、もしこのままベランダ出たら例えばたまたま見かけたマンション上階の人から
『あの部屋に、裸の男ががいました!』なんて、通報だってされるかも……」、

「ああ、その意味では、その心配はいらんのですよ」、デュラはんの口調問題はとりあえずスルーして、それはどうしてと乙彦がたずねると、

「このマンション全体が、《●★☆○》、つまり、白い馬の《虜稀TALEとりこまれている》に、とりこまれているですね。
これちゃんと話すと1時間ぐらいかかる、なんでいまは稀哲ひちょりますけれど、ようは、マンション全体いま、リアルな世界と切り離されています。
ほかのお宅の人たちは、そうね、石化したみたいになってます」

「新しいこと、知らないことが大洪水で、もうわけわからん……」

「がんばって乙彦、なんとかついてきて、わかって……!
『月世界の常識、地球の非常識』じゃないけど、だんだんにじゃなくいっぺんにばーっと喰らって、しんどいよねきっと?
でも、《わかって》くれそう、それ、あなたが選ばれた理由でもあるのから!」

そう言って励ますデュラはんがいるベランダに、乙彦(素っ裸)は出ていく。

(とんでもない事態に、巻き込まれている。
けど、俺、どこかでこれを望んでいたのかもしれない。
ずっと、こうなるのを夢見てたのかもしれない⸻。)

デュラはんは、裸の乙彦にさわり、抱き寄せる。

「ありがと、一緒に《戦う》、決めてくれて、嬉しい……」

(あ、まだ《戦う》は言ってないんだけど……)、
デュラはんは、間違いなく強引な女なのだった。
そして、デュラはんが顔を寄せ、乙彦のおでこに自分のをぴたっとくっつけた時に、映像が、直に入ってくる。

「これがさっき話した、馬が《虜稀TALEとりこまれている》でマンションまるっと取り込んでいる、いまの状態。
鴉の目を借りてる、ライブ映像だね」

「どぅえっかぁーーーっ!」、俺は叫ぶ。

「ね。いま、ここ、こういう状態。
わたしも安心して病院行けないし、マンションの皆さんのためにもだよ。
早く、解決しなきゃ、だね。」

「解決……」、聞くでもなし、乙彦は口から発した。
何を意味しているのか、わかっていたからだ。

気絶している和装の女、名乗りは「櫻国櫻子さくらくにおうし」。
いまデュラはんが《流し込んだ》情報によると、泉司春詩ぜいじはるしと各種のコンサル契約を結んでおり、最近では「公私にわたるパートナー」と吹聴。
泉司が頂点に立つ「八百祓会やおはらええ」でも幹部クラスに食い込み、やにやに発言権を増している。

「ううう……」
櫻国の意識が、戻りつつある。

(この女と相対し、《戦う》……)

乙彦は、それでも、迷いつづけている。

(《戦う》……《戦う》……。

《戦う》、それって、いったい、なんなんだ……。)


(←  第5話 ・ 第7話 →)

いいなと思ったら応援しよう!

山本蛇内 yamamotojanai スキとフォローくだされば(気に入ってくださるなら、でね)十分なのであります! いつか有料記事に挑戦しますので、その時までチップ取っといてください笑