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第7話|デュラはん、オッさん、おじいちゃんの国|創作大賞2025エンタメ原作部門

んばばばっと、乙彦はベランダで、服を身につける。
足は、靴下を履かず裸足でいて、ベランダから室内に戻る。
リビングのフローリングをぺたぺた通り抜け、和室に入る。
足裏が、新しい畳の感触をとらえて、気持ちよさに目を細める。
後ろ手に縛られたまま横たわる、櫻国櫻子さくらくにおうしの側に一度ひざまずき、何か考えているふう、、で、眺める。
それから、立ち上がる。
後ろについてきたデュラはんへ向き直って、もう一歩歩み寄り、両手で彼女の腕をとる。
彼女の目を見つめ、乙彦は口を開く。

「わかったよ、わかった。
これから、彼女と《戦う》。
でもデュラはん、あのね、《戦う》のやり方、ぼくにまかせてほしい。
ぼくが思う《戦う》、一度まず、そのやり方を信じてほしい。
もしきみが『なんか違う』って内心、不満に思ったとしても、ぼくのやり方をリスペクトして、見守っていてくれる?」

口をひょっとこっぽく尖らせ、眉間に皺を寄せ、上目遣いをしてみせる。
「うー、どうしたもんかなぁ」を、彼女なりの顔ジェスチャーで示している。

「……わかったよ、OK。いいよ」

「よかった、ありがと」、

乙彦はデュラはんに笑いかけ、次に、またその場で片膝をついた姿勢になって櫻国に向き直り、語りかけはじめた。

「気づかれましたか。意識、戻られましたでしょうか」

「……ええ、まあ……」、
顔の表情は無表情を貼り付けているふう、、の櫻国が、返す。

「ぼくのことは、もう情報が入っている感じですか。どのくらい、ぼくについては存在がバレてというか、わかられて、、、、、んだろな、って話なんですが……」

「まあ、そりゃあ、ねえ……」、
櫻国の目が、少し泳ぐ。
日頃、フェイクなど労せず弄しているだろうに……と思いかけて、

(いや、実は、こうやって必死でいるのかもだな、日ごろ。
「嘘で食べてく」ことに……)

ほんの少し前ベランダでシャツを着ているあたりの時、乙彦は、《脳裏》をひとつの《思念》がかすめていくのに(おおっ!)と思った。
それでそれをむんず、、、と《握っ》て、検分してみた。
それによって、実際に目で見たわけではない光景でひとつ、大事な情報を《見聞》できたのだった。
それで、(まだ、春詩たちには、ぼくが何者か、つかめていない)。
そう、確信ができた。

※   ※  ※   ※  ※   ※  ※   ※  ※  

実は、このわずか前の時では。
鞍馬山の山中で、一大バトルが展開されていた。

普段は鴨川河畔など、京都一円に棲むヌートリアの八百万ヤオヨロズたちに動員がかかっており、かれらは鞍馬山に分け入って、徒党を組んで歩いていた。
山中を逃げているはずのデュラはんを探し、捕らえるために、だ。

アライグマ八百万やハクビシン八百万も、別の方角から鞍馬山中に入っている。
ちなみに、彼ら捜索隊は種の違いを超えて、揃って、
「(何かの映画の)エージェント」、あるいは「(何かのTV番組の)ハンター」
的な出立ちに身を包んでいる。
これが彼ら独自の美意識なのか、あるいは泉司クライアント要望オーダーなのかは、ちょっと謎である。


山頂から少し下ったあたり、細い道の端。
ヒトの衣服と靴、そしてビジネスリュックがある。
先頭で先導する、出町橋ヌートリア八百万が、それを目にする。

衣服は、デュラはんと乙彦、ふたりのもの。
リュックは、乙彦が持ち歩いていたものだ。
スマホ、ノートPC、手帳兼ノート、携行ポーチ、仕事先でもらった資料、行動食(※)などが入っている。
(※  山行用語で、休憩時にとる軽食。豆情報として乙彦のお気に入りは、ドライいちじく、小魚アーモンド、夏場以外でチロルチョコなど)


〈睨み〉でそれを監視していた泉司晴詩ぜいじはるしが、すかさず〈欲する〉。

【おい!それ。
そのリュック。
持ってこい、ここに。
や、まず、中身だ……。そこで出してみろ。俺に、〈視〉させろ】


ぎゃあぎゃあ、があがあ。
上空から声が迫る。
リュックをまさぐり、〈視〉はじめているヌートリア達の上から、鴉達が強襲を開始した。

といっても鴉達は、直にヌートリア達に襲いかかる動きは見せない。
模造刀や改造エアガンをふりかざすかれらの頭上近くを低空飛行し、咥えていた葉袋、カシワホオノキほか大きめの葉にくるんで運んでいた中身を、撒き散らしだす。

袋の中身は、植物の葉を乾かし、細かく砕いて、粉状にしたものだ。
それは、まだヒトが発見・分類していない山漆ヤマウルシの一種で、鴉達はそれを「鬼の漆」と呼んでいる。

ヌートリアが1匹、2匹と、手にする武器を放り出し、目をおさえてうずくまり、うめきはじめる。
地面に転がり、のたうちはじめる。
ヌートリア達全員、目が焼けるように熱く、開けていられない。
苦悶の叫びを発することしか、できないでいる。

地上から1メートルほどの中空に、人影がいきなり現れ、たん、と降り立つ。

黒いローブのようなもので、全身をすっぽり、覆っている。
頭には、匿名者のアノニマスマスクをかぶっている。
他の荷物は鴉達に任せ、かれは乙彦の黒いリュックを手に取り、片方の肩に担ぐ。
そして画面の奥、先の道へと、速足で歩き去っていく。
とうとう、見えなくなる。

※   ※  ※   ※  ※   ※  ※   ※  ※ 

がちゃり。

櫻国櫻子が、縛られ横たわっている。
その傍らで、乙彦が立膝をついている。
乙彦の後ろに、腕を組んで立つデュラはんがいる。
かれら和室の3人が、音の方へ、目線を向ける。

ドアが開き、入ってきた男が、リビングを通って近づいてくる。
白髪ロングヘアで、髭も白。サングラスをかけている。
黒系の服に身を包み、乙彦のリュックと、匿名者のアノニマスマスクを手にしている。
年齢は不詳、だが、乙彦よりずっと上に見える。

「ちゅぃっす!
やーすっげえな、馬さん、でっけえええなぁー、驚いたの南野なんのって、なんの小錦、南野陽子みなみのようこってね」

「あっ、黎分れいぶんさん」、打ち解けた感じでデュラはんが言う、

「乙彦に紹介するだね。こちら、黎分さん。
鴉の八百万ヤオヨロズのひとりで、いつもほんとう、助けてもらってるよ」
「ドゥオモねーフィレンツェノリで」、
見た目よりもノリが軽い。というか、初対面でも平気でノリで喋るタイプか。
「俺はあれよ、デュラはんの会員番号001ジーロジーロワンだかんね、国際電話。どこまでも推す、身を捧げる、この決意。本人前にして言うと、照れさせっけどね」
「は?照れませんが別に」、
デュラはんがツンデレのツンだ、はからずもかはかってか。
「けどよ昔はあれよ、義経、源義経に修行をつけたのも、実は俺よ」、
黎分さんの「都合悪いことは耳に入らないもんね」的スルースキルは、あやかって身につければ人生で役に立ちそうだ。
乙彦がそんなふうに考えていてリアクションの言葉がこないので
「んだよォ〜オイ、ノリ悪いな、オッちゃん、ええ、よぅ」
と言ってくる。
「ダメですよくないっ」、
デュラはんがすかさず割って入る、
「『オッちゃん』、言いますは、初対面のに、ちょっと馴れ馴れしい感じます。せめてもの、『さん付け』にする、礼儀です」
「さん付け、それだと……」、乙彦が言い、
「『オッさん』、だわなぁ」、黎分が乙彦と顔を見合わせる。
大きくにやっとしてから、
「じゃあ、『オッさん』てなことで、決まーりだな!」
「えええっ……」
「急に親しみ湧くわァ、なー、オッさん」、
年上世代の昭和感にあてられて、「なんだかなぁ」と乙彦がチベスナ顔で思慮深くなるのは、リアル職場でもこの馬の中の《世界》でも、とくだん変わらない。

「それでそれで、それででで、よ」、
黎分が軽快に言う、
「オッさん、この漬物石はん、、、、、と、《戦う》でしょ」
そしてなんとなく、その言い方で、乙彦はピンときている、(もしや、「デュラはん」なんて言い出したの、この人が最初だったんじゃ……)

「ですね、《戦い》ます。
ぼくのやり方で、ですが」

「そーな」、黎分が、ニカっと口を曲げる。
「果報もんよなぁ、オッさんは、なぁ。デュラはん、信じるって。
無条件で、信じるって。
なんでかって、あんただからって。
……う、う、うっ!
ク、ク、ククク……クウアァァァァーッ!
お、おっ、俺、俺よぉぅ……、
ほんっきで、あんたさんが、オッさんが……、うらやましいぃぃぃ……」

黎分が、その場でしゃがんで、泣きはじめた。
(こらえきれず、一部、啼くのもまざった。)
涙がこぼれる、ティアドロップ涙がこぼれる型サングラスの、後ろから。
そして、レンズの下の方をよく見ると、「Ra-ven」と(「Ray -Ban」ではなく)書かれたシールが貼られていた。

「黎分さん」、
乙彦は立膝の脚を変えながら、腕を回し、彼の肩を抱く。
「たったいま、会ったばかりですが、こうしていても俺は心で《視て》います。
これまで、デュラはんを助けてくれた場面の数々が、《流れ込んできて》います。
もともとは春詩側というか、死商側にいたのに、寝返ってくれたんですね。
それで、俺も、げんに助けてもらって、皆でリュックや服を持ってきてくれて。
本当に、感謝です。
手伝ってくれた鴉達にも、お礼を伝えてくれませんか。
そして、俺もあなたを、あなた方を、助けます。
環の中の平穏と調和ピース・アンド・ハーモニー》、目指していきましょう。
今後も、よろしくお願いします」

※   ※  ※   ※  ※   ※  ※   ※  ※ 

がちゃり。

黎分と、デュラはんは部屋を出た。
やはり、血が止まらない首と手の傷は心配で、病院へ向かってもらうことにした。
デュラはんは、

「約束違うんです、遺憾です。
《戦い》見届けるまで、わたしは行かんです」

とちょっと抵抗したが、逆に黎分が諭してくれた。
「ままま、絶対大丈夫でしょ……」、そこから急に乙彦の顔の間際まで寄せて来て

「オッさん、大丈夫で、合ってんだよ、なァァァァ?
……あれだぞ、これだけ引っ張った、読んでくだってる方々に、だぞァァァァ!」


そう問われても、そこは、わからないけど。
ぼくは、ただただ信じるやり方で、世の中と関わっていく。
ぼくにできることって、もう、それしかないや。


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山本蛇内 yamamotojanai スキとフォローくだされば(気に入ってくださるなら、でね)十分なのであります! いつか有料記事に挑戦しますので、その時までチップ取っといてください笑