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創作『あさってイエロー、まっさかピンク』第9話・「まっさかの」②

(前回第8話のあらすじ)
はなぞの館の跡地でかつての仲間を待つ岩永灯多のもとにやって来たのは、幸手市キャラクター「さっちゃん」の着ぐるみをまとう女性。さっちゃんを迎えに来た市役所の男性に「これからアスカル幸手で昔の仲間たちが登壇する」と聞き、灯多は自転車で同施設へ向かうことにする。
途中の道で女子生徒と危うくぶつかりそうになった。彼女もまたアスカルが目的地で、迷っているならついてくるよう言われ、漕ぎ出す。

国土地理院地図/GSI MAPSを保存・一部加工

自転車でその女性の後ろについていく、のイメージは、灯多の中ですぐに崩れた。
彼女のほうで、灯多の自転車と並走し、
「質問してアスカルに向かうとしようか」
と、決めたようだった。

ちょっと凸凹しており、道幅は広めなのに車は通らなそう。
そんな農道のずっと続く直線を、わりと速目に漕ぎながら、女性生徒は僕にいろいろ投げかけてきた。

名前、今いくつ、学年は、住みどこ、学校どこ?
まず聞かれ、彼女も同じく自己紹介していく。

それで、彼女の名(橘真弓)と属性(さち高生で春から2年生、同い年、新聞部所属)なのだと灯多は知った。

漕いでいると、幸手の例のカラフルガスタンクが、どんどん近くなってくる。
その割と近くにアスカル幸手はある。
もう、アスカルのライトグリーン色の屋根も、自転車の向きによってはちらちら見えている。

「で、今日はまたどうして、ここにいるの」、
「小学生の頃の仲間と会う約束をしていて、でも待てど来なくて、そうしたら市役所の人が、そのうちふたりがアスカルで……」、
橘さんが同い年とわかり灯多はタメ語に移している、「ええとなんだっけ、『子ども市長』じゃなくて……」
「『ユースさって市長』ね。『子ども店長』じゃないし!」、
彼女が笑う。

こども店長KODOMOTENCHOU」なんてよく知っているなぁ、と灯多は彼女に感心した。
彼は「ゾンビ打」で知った言葉だ。
検索で知ったが、その単語が世に出ることになったテレビCMは灯多の世代が生まれた時期オンエアされていたもので、普通知らないはずだから。


「そう、で、その『ユースさって市長』って、何なの?」

初めて灯多が質問のターンになった。検索し深掘りはできていない。

幸手うちの市長さんがはじめたことで……、元々、選挙の時の公約だったのかな。
若い人、とくに小中高とかのうちから、政治に形だけじゃなく、もうほんとに、リアル政治に少し、関わってもらおうってことみたい。
今回がまさに最初、初代チャンプを選ぶから、まだ何がどうなるか、『はじまってもいねえよ』だけど。
いま、幸手ここってどんどんお年寄りばかりになっていて、若い人に魅力をアピールするには『普通じゃ足りない』って思ってるみたいで」
「そうだったんだ……、ぜんぜん知らなかった」。

もちろん「チャンプって!」とか、たぶんだけど「はじまってもいねえよ」は北野武の映画『キッズ・リターン』からの引用で橘さん映画好きかなとかは思いつつ、初めて聞くその概念に興奮していた。

3月下旬当時の灯多には、政治のことなんて縁遠かった、あるいは、「縁遠いもの」って先入観しかなかった。
公民の授業で習って制度を暗記するもの、程度。
だから、まさか自分たちが現実の、大人たちの政治に関わるとか、考えもしていなかった。

「私はどうしてここにいるかっていうと……、ってか、もう絶対『所信表明演説会・交流会』が始まっちゃってるのに遅れてるかというとですね、もう最悪にうっかりで、部室にカメラ忘れちゃって!商売道具で相棒の!いやー、ほんとありえないよ」、
彼女が首から下げているゴツい●●●カメラがそれなのだろう。
「ねえいまって何時?」
灯多は腕時計を見て、16時44分、と告げる。
「ぎゃぼー(※)」、
橘さんが叫んだ、「いそぐよっ!」
自転車に加速を込め先行し、漕いだまま彼女がぴっと立つ。
夕暮れ時の農道のアスファルトに、影が長く生まれる。
次の瞬間、がむしゃらに超絶に漕ぎはじめたから、灯多も慌ててペダル踏む脚に力を込めた。

※2026年の世界では、『スラムダンク』や『HUNTER×HUNTER』が男子中高生の共通言語ではなく、『のだめカンタービレ』もまた同様だ。
でも知っている人は知っているし(「図書館で借りて読んだ」、「親が持っていて家にあった」などで)、いい漫画に男女どうこうもない、なので灯多もそれが主人公のだめの咆哮だと知っていた、なので橘さんの感情が伝わった●●●●●●●●●●●●●●



アスカル幸手の入口脇の駐輪場に着いた。
橘さんがスマホを取り出し、さっと読むと、駆け出しかけて僕を振り向き、

「撮影あるんで行くわ、後で中で!
あと、最前列真ん中、左寄りに『ますみちゃん』いて、隣の端っこ席キープしてもらってるんで席そこ座っていいよ、けっこう混んでるってさ!」、

それだけ言うと、入口にターッと走って入っていった。
灯多もやや小走りでその後を追う。
会場は敷地内の「さくらホール」だ。
外から場内へ入る重いドアを手前に引くと、がぽっと音がして開く。
客席側は照明が落とし気味でうす暗く、ステージ上は明るい。
喋る若い女性の声。
暗いところに来て目が慣れない中、前方に目を凝らす。
「応援人」のタスキをかけ、ブルーの制服姿ではきはきよどみなく喋っている、あれ……、

凛果リン、だよな?)

「……以上の理由で、私は、ユースさって市長として野ノ守やのもり芳子さんを推薦します。
みなさんの一票が必要です、よろしくお願いします!
これで私の応援演説を終わります。ご清聴、ありがとうございました」

場内が拍手に包まれる。

灯多はドアのところに立ったまま、反射的にぱち、ぱちと手をたたきながらも、「きょとんとした気持ち」がまさっていた。
(演説終わっちゃった、聞けなかった……)も、
(5年会わないと……、めっちゃ大人になってる!)も、
(リン、光宮ヒカコー高校なんだ)も、あった。
制服を見てわかった。大宮市内にあり、県下でとても有名な共学校だ。

舞台袖から、幸高の制服を着た女性がとたとた出てきて、演壇にいる凛果とハグをした。
拍手が大きく活気がつき、会場どこかからヒュウッ!と指笛が飛んだ。
ナレーション役の生徒が、
「静かにしてください」
とたしなめ、「これで、徐凛果さんによる、野ノ守芳子さんの応援演説を終わります。二人に大きな拍手をお願いします」、と、今度は拍手を求めた。
二人が深々とお辞儀し、舞台の袖へ消えた。
5年ぶりの野ノ守やのもりさんを見て、
(やっぱ、かわいい……)、
灯多は思わずにいられなかった。



次の候補者が呼名される中、通路を前へ移動しはじめた。

(最前列の、真ん中左の、『ますみちゃん』の、隣の席が空いている……)

たしかに席はあまり空きがないのだが、全くないわけでもない。
勝手に、別の席に座ってもいい気もしたのだが、サッと座れる最端の良い席は空いておらず、最前列左だけ、空いている。
とりあえず、そこを目指す。
条件に合う「ますみちゃん」は、大柄で坊主頭の幸高生だった。

「えっと、スイマセン……『ますみ』さんですか」、

灯多が囁くと、
「あー!」、やはり囁き声で、ニカッと笑って、
「真弓から聞いてます!どうぞどうぞ」
とシートを手で倒し、出してくれた。
「じゃあ、すいません」、灯多は背中のリュックを足元に置いて、さっと座って、前を向いた。
(それにしてもぜんぜん思ってたんと違かったぁ、「ますみちゃん」……)



ステージ上では、男子生徒の演説が始まっていた。

パッと見の印象は、チャラッ●●●●としている。
茶色でやや長めの髪に、ネクタイは緩いし、シャツの裾も出している。
その喋り方は、やや幼く聞こえる。
幸高の2(新3)年生で、「一色士陽いしきしょう」というらしい。


「あーボクがぁ、今回選挙これ出たのはぁ、ズバリ売名っす!」

のところで、ドッと湧いたり「いいぞぉショー!」の声が上がる。

「オレはぁ、あ、ボクはぁ、将来Youtuberになるって夢あって、この演説もぶっちゃけその修行だし、あとコンテンツになるからいいかなって、まず、そこです」、

ここで少し間を置いて、会場をいたずらっぽく眺めまわして、

「あとぉ、マジ、モテたいからっす」、

また場内の一部が湧く。
ギャルっぽい声が、ショーちんオメーやべーな、とはやして、また湧く。
「静粛にしてください!」のアナウンスが入る。

「……とか言っちゃうんで、ほとんどの皆さんに、オレ印象最悪でしょ、地に堕ちたっしょ?
でも大丈夫です、堕ち切ったら、もう、上がるだけなんで!」

一色士陽が語ったのは、
「生まれも育ちも幸手なら、家業を継いでこの先もずっとここに住み続ける、100%の幸手愛」そして
「こんなオレだからこそ、見えるものがあるし言えることがある」
という主張だった。

気づくと灯多も、だんだん、彼の語りにひきこまれていた。

(いや、ぜんぜん、あなどれないや)、
灯多は思った。
(こういう角度から、言葉に向かい合っている奴もいるんだ……)。

「ボクが愛してやまないYoutuberさんたちも、最近けっこう、政治のこと言ったりしてて、政治とかクソダサッとか思ってきたんすけど、オレん中でそこ一気に裏返って、いやクールじゃね、ってなってます。

オレェ、いやボクゥ、多分、ビリギャルとかそっち的に、ポテンシャルやばい人なんで、当選したらめっちゃ勉強します、動画上げるときとかかなり裏で調べたりするんで、やり方わかってますんで。
マジ、そこ信じてくださいっ」

そこに舞台袖から、「応援人」のタスキをかけた、黒タンクトップ姿のいかつい若者が袖から歩み寄ってきて、すごい勢いでハグをした。

「ショーちぃぃぃーん!」

「ヴァカはええし!オレまだ喋ることあっから」

「でも先の人たちハグで盛り上がってたから、それ見て5秒で咄嗟に仕込んだじゃん?段取りとかわかんなかったし〜」

「あーコイツがオレの応援人の『とびーP』です、普段は鳶職やってます、コイツも鳶職Youtuber目指してんで、ついでによろしくです」

「あとで交流会の時、インスタ交換しましょう!あとついでに、ショーちんマジいい奴です。オレの応援は以上です」

二人が観客側を向いてお辞儀をした時、場内の拍手は、野ノ守ヤノ凛果リンのハグの瞬間より大きく、歓声も飛んでいた。

(すごいなぁ)

2階席に向けて手を振ったり揚々とガッツポーズしつつ袖に去っていく二人の姿を見て、
(これがエンターテインメントか……)、
と、彼はただただ感心していた。


一色ととびーPの退場後、舞台袖に女性が立った。
アナウンス役の生徒が言う。

「3人目の候補者は、幸の手高校2年生、羽中碧はなかあおさんです」

場内の一部に、女子生徒の悲鳴のような嬌声が起こった。

彼女は、地域のちょっとした有名人だ。
小中学生の料理コンテストで2年連続日本一になり、テレビ番組に出ていた時期があった。
確か、東鷲宮(※)あたりが地元のはず。

幸ノ的に高校に通っているのは、初めて知った。
もっとも、今は芸能活動をしていない「一般人」のはずだから、まったくの他人がどこの高校に通っているか知っている方が変か。
ともあれ、彼女がこれから演説をするようだ。

※幸手市に隣接する久喜市内の地名(駅名)。

(第10話に続く)


第8話第10話
第0話(登場人物・キービジュアル)

この小説はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係がありません。

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