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創作『あさってイエロー、まっさかピンク』第10話・「まっさかの」③

(前回第9話のあらすじ)
はなぞの館跡地から、市役所の人の声かけをきっかけにアスカル幸手へ向かうことにした岩永灯多いわながとうたは、途中で出会ったたちばな真弓の導きで「ユースさって市長の立候補者・応援人演説会」会場に着く。
小学生の時の仲間である野ノ守芳子やのもりよしこらの出番は終わってしまっていたが、橘真澄ますみの隣の席につき、2人目一色士陽いしきしょうの演説を聞く。表面上はチャラい感じながら彼の演説に引き込まれる灯多。
3人目の女性がこれから演説を始める。


3人目の候補者、羽中碧はなかあおが立つ舞台袖の下では、座席から立ち上がった橘真弓たちばなまゆみが袖に寄り、カメラを構え、慌ただしく撮りはじめた。

橘さんは、灯多の座る最前列真ん中左端の、通路を挟んで隣に座っていた。
なので、頭はずっと舞台の方へ向けていても、その様子がわかった。

(なんだか……、あからさまにさっきまでと違うなぁ、たちばなさんの動き)

一色士陽いしきしょうの演説の時は、たしか、冒頭に自席から立ち上がって撮って、すぐストンと腰かけて、それきりだった。
それがいまは、小刻みに移動し、構え、撮り、せわしなくやっている。

かと思うと、「取材-PRESS-」の腕章を付けた中年男性カメラマンもいつのまにか袖下にきて、撮影をしていた。

(ほんと、有名人なんだな……、いや、元・有名人と言うべきか……)、

アナウンスが羽中さんを呼名すると、彼女は中央の演台に歩き⸻長身、170以上ありそうで、背筋がしゃんと伸び颯爽としている⸻、僕らの方を向いて一礼すると、メモを取り出して話しはじめた。


「皆さん、こんにちは。私はさちの手高校新3年、羽中碧と申します」、
会場に響き渡る、低く落ち着いたその声。
場内から、「碧せんぱーい!」の声が飛ぶ。

「羽中先輩、校内に女子の親衛隊みたいのがいるんです!」、
会場の空気が緩んだところに、右隣の「まゆみちゃん」がさっと囁いた。
「しんえいたい」、灯多は驚きつつ、小声で復唱する。

声の方に軽く微笑んでから、羽中さんはすぐまた話しはじめた。

「私が今回ユースさって市長に立候補したのは、料理の力、『食』が持つ力を使って幸手を盛り上げていくなら、私がいちばんそれを達成できそうだ、と考えたためです。

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、私は小学5、6年生の時、大きな料理コンテストで優勝しました。

それがきっかけで、1年と少し、Eテレで『クッキンスターズ魔法学校』という番組で、生徒役の一人「あおちゃん」として、出演していました。

その後、中学は東京の中野区に引っ越して中学に入って……、ちょっと引きこもってしまいまして、それで、高校入学と同時に母の実家に戻ってきました。今は、栃木市内に住んでいます」

羽中さんは、もうメモを見ていない。

「幸ノ手高校を選んだのは、正直なところ、『私を直接知っている人が少なそう』、そんな消極的な理由からでした。

でも、幸高を選んで良かった。そう心から言えます。
ここでいろんな友達や先生たちに出会えたから、元気に生活できていると思っています。
私は、幸高に恩返しがしたいです。

私は、去年の後期から、生徒会執行部に入り活動をしています。
その中で、幸高と幸手市の間の「包括的連携協定(※)」を知りました。
それで、幸手市にも何かしたい、と強く思うようになりました。

私は今は、熊谷の焼肉屋さんでアルバイトをしており、「食の現場」の最前線にいます。
一方、時間のある時に家で様々な料理を作って、試行錯誤したりしています。

私がユース市長に当選した暁には、小学生の頃から続く料理への情熱を、「幸手レシピ」の開発に集中してやっていきたいですし、発信も頑張りたいです。

たいしたことはないんですが、以前にテレビに出ていた知名度もこの際使って、自分ではなく幸手市の取組として、アピールしていけると思っています。

もちろん、市が行うこと、あるいは行政の課題は、食だけ、料理だけだなんて思ってはいません。
卒業後は栄養系の大学か専門学校に進みたいのですが、その準備と並行しながら、市政のこともしっかり、勉強して責任を果たします。

駅伝の強豪校の監督さんが、ワイドショーやバラエティ番組に出るにあたって、本業もある中で日々一生懸命勉強していると、インタビューでおっしゃっていました。

それを見習って、自分も一年間、ベストを尽くし頑張ることをお約束します。

皆様、力を貸してください。どうぞよろしくお願いします!」

会場は大きな拍手に包まれ、それはとても長く続いた。


その後、羽中碧の応援人として、幸高2年で直近まで生徒会副会長を務めていた女子生徒が演説し、羽中さんの生徒会執行部内での優秀さを讃えた。


ユースさって市長選挙の立候補者は、野ノ守芳子やのもりよしこ、一色士陽、羽中碧、以上3名であるようだった。

市の副市長が短く講評し(「まさに三者三様で、皆さん選びがいあるんじゃないですか?」とニコニコしていた)、その後に選挙管理委員会の方が登壇し、「今回の選挙のルールをおさらいします」、と選挙までの流れを説明した。


「投票は1週間後の今日4月1日水曜日。投票所はここアスカル幸手で用紙投票、あるいは専用アプリを使っての電子投票(以下、アプリのダウンロード方法など説明していたがここでは割愛)」


「大人の公職選挙法のルールを横引きするのに加えて、ポスター貼りは行えない、街頭演説にも制限があるなど独自ルールが多い。立候補者も選ぶ側の人たちも、よくよく読んで気をつけてください」


「立候補3人用に、市がu+ex+oユーテクスト社のアカウントを用意し、記事を投稿できるようにするので、それで追加アピールを。
選ぶ側もそれをよく参考にして」


「エンタメ的要素というか、立候補3人には、市長から途中で追加ミッションが課されたりする。市の専用ホームページやアプリの通知でお知らせします」

などが説明された。


壇上の市の人たちは目まぐるしく変わり、その場で最後にマイクを握ったのは、灯多がはなぞの館跡地で会った西係長だった。


「この後の時間のことで、ご案内します。
この後、立候補者との交流会・質問会が予定されています。
場所は、ホールを出て、同じ階をアリーナ側へ、半円描くように移動するとある、「研修・会議室1・2」で行います。
小中学生の皆さんは、保護者さんの「承諾書」がないと参加できませんのでご注意ください。
高校生年代の皆さんは参加自由ですので、奮ってご参加ください。
ただし、選挙違反行為にはくれぐれもご注意くださいね!
会場のお菓子をあげるよ、は、ギリセーフにします」、で笑いを取っていた。


座ったまま、隣の「ますみちゃん」を灯多がちらっと見る。
と、ますみちゃんも僕に話しかけようとしていたようで、
「あの、この後、どうしますか?」と灯多に尋ねた。
「家が実は幸手じゃないんだけど、出たいなって思ってます」、

……出席したいモチベーションの最も巨大なものは、もちろん

「野ノ守さんに会う、話す!」

なのだが、それは彼に言わないでおく……。

「あとひとつ、気になってるのが……」、僕が駅前でレンタサイクルを借りた時、時間が「17時まで」だったのがずっと気になっていた。
というか、この時点で、すでに間に合っていない。
「それは、そだ、真弓に交渉させてみます、市の人に。そういうの上手なんで」、と、荷物を手に立ち上がった。
「ほんとですか」、
灯多も座席前のリュックを手に立ち上がる。
「というか、ふたりってどういう関係なんですか、もしやの……」
「あー、わかりづらいんですけど、俺ら双子なんです、二卵性」、
とても説明慣れした感じで「橘ますみちゃん」がさらっと言う。

彼の漢字名(「真澄」)を聞いたりしつつ周囲の人の流れと共に移動し、次の会場前に着く。受付で名前や連絡先を書くっぽく、混み合っている。


部屋は大きくて、長テーブルを合わせた大テーブル状態のシマが7、8つあって、半分以上埋まっている。
グループで談笑する人、ひとりで座っている人、様々だ。

真澄さんが奥の方に2人並びで空いているテーブルを見つけ、「んー、あそこにしますか」と言う。
「あれ、橘さん……、あ、真弓さんの席確保はいいんですか」
「あの人はほっといて大丈夫です!」
先に歩いていく真澄さんを追うように、部屋を横切る。
立って何やら打ち合わせしている人たちを見て、
(高校生なのかな?もっと上な雰囲気がしてる)
と感じる。

灯多は腰掛けて、まず母親にメッセージを送る。
幸手に来ることも言わずに出てきたので、夜ご飯は遅れることは言わないとだ。
「ユースさって市長」と聞いても何が何やらだろうと感じつつ、こういう時は具体名を出した方が早い(気になれば検索するだろうから)とそう書く。
「ノリでその会合に参加している」と。

打ち終えて、ふっと顔を上げた時に、目を見開いてしまう。

会場内で、紙皿に乗ったお菓子を各テーブルに配っている女性、数メートル向こうにいるその人のその姿に、目が釘付けになってしまった。

(……れいさん?)

(第11話に続く)

※「包括的連携協定」
現実の、幸手市と幸手桜高の同協定を参考にしています。

第9話第11話
第0話(登場人物・キービジュアル)

この小説はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係がありません。

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