創作『あさってイエロー、まっさかピンク』第17話・「まっさかの」⑩
(前回までのあらすじ)
「YM」こと「ユースさって市長」選挙の候補者3人への質問会。
幸の手高校新聞部の橘真弓は(多めすぎる)質問を封じられてぶすくれる。が、気を取り直して記事のための記録に専念する。小学生から社会人までの会場、オンライン双方の参加者から質問が出、3人が答えていく。
司会者の猪原希帆も質問。
「幸手を、あるいは今住む地元を、出たいですか?」
(あらすじと本文 2,029文字)


「住まいの拠点を、という意味でですね。
いかがですか、考えがまとまった方から……」、
司会の猪原さんが投げかけると、まずは一色士陽がひょいと手のひらを上に返し、渡されたマイクを握って、候補者3人が横並びで立つなかで半歩前に出た。
「僕はぁ!
さっき言った通りで、アメリカとかぜんぜん世界どこでも出ますね、出たいっスね。
『でも必ず幸手に戻る』って、家業継ぐんでね、それもうわかっているからこそ、そーしたいんスよねー」、
橘真弓は、耳で声を拾い、それを手に連動させている⸻メモノートに素早くペンを走らせて、
「アメリカetc. 世界どこでも」、
「かならずサッテもどる家業」、
「それわかってるから」
と書き付けていく。
やや間があって、次に手を挙げたのは、羽中碧。
「私の場合は、幸手ではなく栃木市になるわけですが、そうですね、できれば出たくないです。
今の家、環境にいる、気持ち的な安心感が大きいので。
ただ、第一志望の大学が、東武線、JR川越線、また東武線と乗り継いで2時間半かかるので、『大学の側で一人暮らし』と頭によぎらないでもないです。
そもそも大学に受かるか現状未定なので、『取らぬ狸の皮算用』みたいな話なんですが、気持ちとしては出たくない。
そして、高校卒業と共に幸手と縁が切れてしまうのではなく、YMになってこの街を深く知っていって、沼ってしまったら、いつか、未来で、たとえば職場を決めるとか、結婚して住む場所を選ぶーなんてとき、ベースを地元栃木に置くのか幸手なのか、必ず迷うはずです」
「とらぬたぬきの……」、
書きつけながら、真弓は思う、
(クールビューティーが学生服着て歩いてる碧先輩の口から諺とか飛び出すと、もうギャップ萌えが発生するの、ずるいッ……!)
最後にマイクを握ったのは、野ノ守芳子。
「私の場合は、進学したい大学が京都にあるので、かならず一人暮らしを選ぶことになります。
私が専門的に学びたいのは、先ほどホールでの演説会でも触れましたが、『くじ引き民主主義』というものです。
なので、『くじ引き民主主義』の研究をしていたり、実務で関わっている先生のもとで学びたいです。
すると、2年後はわかりませんが今のところ、私が住む五霞町から通える大学にはいらっしゃらない、各地に皆さんおられます。
なので、必ず外に出ますが、学びを深めキャリアも積み、そうして必ず幸手に戻ります……」、
ひと呼吸おいて、野ノ守候補は彼女特有の、澄んだアニメ声で言った。
「その時、私は市長に立候補しているはずです」
会場に走るざわめき。
しかし。
ざわめきなどまるで聞こえないが如く。
平然と、超然と、彼女は口をひらいた。
「このユースさって市長選ではなくて、本当の幸手市長選に立候補している、という意味です」
真弓は忙しく手を動かす中、ちらと前を見る。
一色氏と碧先輩の表情を目でとらえる。

「……正直な話、今回ユースさって市長に立候補したのは、その実績づくり、そして進学の資金調達のためもあります。
YMは、1ヶ月で5万円、報酬をいただけます。
12ヶ月60万円、任期2年勤め上げれば120万円。
120万円あれば、進学費用として、親も間違いなく助かりますし」
「賭けに出るなぁー、かますなあぁぁ野ノ守芳子ッ……」、
小さくそう呟きつつ、真弓は芳子の発する言葉を、虫ピンで留めるように大事に、ノートに書きつける。
彼女の声、言葉。
表情。立ち姿。
何より、この選挙に出てきた動機を語る、中身、言葉のところ。
それにより開示されていく、野心、将来展望、経済感覚。
(認めざるを得ない)、
今や野ノ守候補こそが、完全に場の空気を掌握している。
思いつつ、スッと立ち上がり、一枚撮る。
画像を見る。

(私の気持ちもつかまれてしまった……かも)、
真弓は俯きつつ、ニヤッとした。
野ノ守候補からマイクを受け取り、猪原さんが言う。
「……3人とも、かなり本音で話してくれたのかな、アピールしているかなと思いました。ありがとうございました。
はい、それでは、会場撤収時間も間もなくになってきました。
次がラスト、最後の質問ということで。いらっしゃいますか」、
「秒で」どころか「瞬で」、シャープペン放り投げん勢いで、真弓がぐあんと手を上げながら立ち上がりつつ、
「はいッ質問します」、
叫ぶに近い声で発した。

(第18話に続く)
この小説はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係がありません。
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