創作『あさってイエロー、まっさかピンク』第16話・「まっさかの」⑨

(前回までのあらすじ)「ユースさって市長」を目指す3人の候補者たちへの質問会の開始直後、一色士陽に対して幸の手高校新聞部の橘真弓が「幸高生ではなく他校なのに幸高の制服着用」、「学校アピールをしない理由」、「在籍校の許しを得て出馬したのか」「学校が遠いが本当に両立できるのか」と質問をまくしたてた。他の候補者にも質問を多く持つという彼女を進行役の猪原希帆が制し、「一人一問、3人が同時回答」などその場でルールを変更。あからさまな自分への規制に、真弓は、ままま、面白くない。
〜今回も継続、短め(?)。本文2,165文字〜

「うううーう、うーうう……」、
顔と姿勢と。
盛大にボディランゲージしてよこす真弓を見て、猪原は身を寄せ少しかがみ、彼女の耳へと囁いた。
「真弓ちゃん、時間の制約もあって、今回はごめん!
代わりじゃないけど、幸高新聞部記者として、他の若いみんなの質問、みんなの声。しっかり、拾ってあげてほしいんだよね。
今回は、わたしたちでも印刷費用を計上して、「サチノテ・タイムズ」の増部分に貢献してるし。なのでこちらで配布もいろんな場所で、頑張るから。
橘真弓記者様!しっかりお仕事お願いしたくです」
それで、真弓の気分は少し、切り替わった。

「はい、それでは、次に質問がある方は……」、
猪原がさっき立っていた場所へ戻り呼びかける。
すると、会場のあちこちで手が挙がる。
それを見て、真弓はバッと席に座り、椅子の背に無造作にかけてあるコートのポケットに手を伸ばし、メモ帳とペンケースをを取り出す。
その最中も、耳では声を拾う。
写真は撮らず、ボイスレコーダーも使いはしなかった(※)。
クラシカルスタイル。耳と目と手をフル活用。
耳で、質問者や候補者たちの声を聞く。
目で、表情や素振りを見逃さないようにする。
手で、ペンを握り、メモ帳に文字で言葉を書きつけていく。
ペンを走らせるメモ帳の上は、シンプル……というか、文字が荒々しく疾走しているわけだが、脳内ではこの時真弓は、こんな感じにレイアウティングしていた。



あくまでも、これは、脳内。
まだ、紙で世に出るとかデータ化され送信されるとか、していない段階。
真弓の個人的な嗜好だとか、偏見に依るもの。
であるから、紙面に反映したりはしない。
これから作っていく幸の手高校新聞部発行の「サチノテ・タイムズ」最新号は、「選挙公報的な紙面となる」、その意識は彼女の中でもう蠢めいているわけで、こんな、碧先輩だけ華美にするとかは、ない。
もちろんそうなのだけど。
真弓のこの少し前までのイメージでは。
YM、ユースさって市長のなり手は、「羽中碧その人」以外ではまったく、ありえなかった。
(でも)、
真弓は思う。
野ノ守芳子や一色士陽が「ならない」と、決めつけていた嗜好や偏見は、「冷凍庫の奥にずっと夏からあるアイス」みたいにカチコチのはずだったけれど……、
ここで話を聞いていると、なんだか、溶けていく。
まず、結構「喋れている」。3人ともにだ。
例えばYM当選したとして、「2年目」をめぐる質問(Q5、高3)。
新高3の羽中と一色には進学(就職)先1年目、新高2の野ノ守には高3。
「その大事な時期、どう両立する気、やれる?ちゃんとプランある?」、
その、明らかに試す質問。
三様に乗り切ったが、真弓的採点では、この時間の加点トップは野ノ守、次に一色。……ただ、碧先輩は元々の知名度が2人と全然違う(上だ)から、俄然優勢は動かない、現時点で言えば。
以上が真弓の見立て。
会場の印象としてはどうだろうか。
野ノ守はちょっと意外なほど上手だ。
回答の内容だけでなく、発声や表情なども採点要素だが、演劇的な才能もありそう。
そして一色も、回答の字面だけ眺めると危なっかしく思えるかもだが、現場としてはおどけた言い方や態度で、まずは笑いを狙いにいくのがキャッチーだ。
「彼女が来ている」も、チャラッとした雰囲気醸しながらの誠実さ・堅実さアピールに、結果、なっている。
そこまで計算づくで言っているのか、それか全然天然、あるいは違う要因だか(彼女に言わされたとか)、そこはもう「知らんけど」だが。
(ぜんぜん「なりそうにない」、とも、言えないかも、だなぁ……)
など考えていると、皆で回して使っていたワイヤレスマイクがひどいハウリング音を響かせた。
それを猪原さんたち運営スタッフが直している、はんぱな間の時間が訪れたので、真弓はこれまで撮った写真を眺めはじめた(「第13話・まっさかの⑥」の場面まで時間が戻ってきた)。



これまで撮った画像を見ることに没頭し、周囲の様子を拾うのを怠っていたか、気づくと(マイクは直っていて)猪原さんが話しはじめていた。
「質問の手が上がらないので、では、私からも質問させてください。
『YMの任期後、あるいは任期中、地元を一度は出てみたいですか』。
えっと、少し補足します。実は私は今、幸手ではなくて、神奈川県内に住んでいまして。
1月に転居しました、仕事の都合で。
今日もですが、最近は通いで戻ってきてはいますが、『ユースオブ幸手の集い』の活動に高校の頃からかれこれ6年ぐらい関わってきた私自身も、ひとつ転機を迎えています。
そんな個人的な思いも込みで、この質問を3人にさせてもらいます。
さあ、いかがでしょうか」
(第17話へ続く)
※「写真は撮らず、ボイスレコーダーも使いはしなかった」
前者は青少年の個人情報保護のため(撮影許諾を撮ってもいないし)、後者も同様に「盗み録り」になってしまうため。
質問はグイグイいく真弓だが、その辺りの記者としての倫理観は確か。
ちなみに彼女の尊敬する記者は、TBSラジオの澤田大樹記者。
☆野ノ守候補が答えている、幸手市内のガスタンク。
カラーリング本当かわいいのですよ😀💕
画像で表現してもみましたが、この記事にも写真ありです。
気になった方は、是非見てやってください〜
この小説はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係がありません。
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