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創作『あさってイエロー、まっさかピンク』第12話・「まっさかの」⑤

(前回第11話のあらすじ)
ユースさって市長の立候補者3人の「交流会・質問会」の会場に脚を運んだ岩永灯多いわながとうたは、そこではなぞの館で出会い、思慕したれいさんと思われる女性の姿を見かけたが、彼女はすぐに姿を消してしまう。
その後も、今回幸手に来た理由である「はなぞの館にいた人たち」に、自分の来訪に気づいてほしいし話したいのだが、ことごとくうまくいかない。
意気消沈している灯多は、急に自分の腕が引っ張られているのを感じる。

ぐいっと急に重心を移らされて揺らぎ、合わなかった目の焦点が合う。
すると、眼前には青いブレザーの背中があって、そこにストレートの長い髪が揺れている。

(あ……)、

自分の腕の裾をつかんで歩き出しているその人が、徐凛果⸻小学生のひととき、はなぞの館で共に過ごした凛果リンだと、灯多は気づく。

彼女が前で引っ張る動きに、灯多の脚が連動シンクロし、従う。
そうやって、ささっと、若い人たちがわいわい集う大部屋を出る。
引っ張る引っ張られるの縦列JUURETU関係のまま、ふたりは速足で廊下を歩いて行く。

「ちょっ……」、

廊下へ出始め、灯多は発した。
けれど猛然と前を往く凛果リンの背の勢いに、先は飲み込んだ。
脚をたかたか●●●●動かして、とりあえず、ついていく。
引っ張っていく動きの中で、彼女の手が握るのが最初は学ランのそでだったのが、灯多の手のひらにかわっている。
意識すると、少し額がかっと照りそうになる。
けれど、その一方で灯多は思っていた。
(こういう感じ、あの頃もあったかも)、
当時小6だった凛果リンには小4の弟がいて(彼ははなぞの館には来ていなかったけれど)、だから、小5の灯多や暁斗アキトはどこか弟として扱われている感じだった。
「下の年代のお世話」が身に付いていて、自然と体が動く感じ。
泥遊び後、汚れている自分のふくらはぎを、ホースの水と手で洗ってくれるだとかだ。

会場からけっこう離れたエレベーターホールに来たところで、ぱっと手が離れて、凛果リンが脚を止め、くるりと灯多に向き直った。

灯多トータ!5年ぶりっ」

と言って、両手を自分の胸の前でばっと交差させ、両手のひらを内側に向けて、左右10本の指ぜんぶを、ひらひらさせた。
「ハグしているふり」、の動作っぽい。
それを見て灯多は「影絵の鳩」と「DAIGOの”うぃっしゅ”」を思い出したのだけれど、言わないでおく。
代わりに、「うん」だけ言う。

灯多は少し混乱もしていた。
凛果のさっきのあまりにもそっけない態度が、この時、後から来て●●●●●いた。
(そんなふうにできるなら、あれは、あまりにあんまりじゃない……?)
の思いが、心の表面にぬらぬら、み出てきていた。

彼女は少し眉間に皺を寄せて、同時に灯多に一歩歩み寄り、囁くように言う。
「はなぞの館のことは……、これで」、
言うと、ぴっと立てた人差し指を自分の唇に当てる。
「え、うん、けど、なんで」、灯多は尋ねる。
「まりあさんのことを、特に気をつけてほしい。
あそこでスタッフだった、関わってたってことは、ぜんぶ秘密で」
「わかった、で、なんでなの」
「まりあさんがいま、どんなことになってるか、ちゃんと知ってる?」、人差し指を唇から話し、凛果は淘汰の目をのぞき込む。
「ちゃんとというか……、ごめん、まったく知らない」
「そっか」、凛果リンは少し肩をすくめ、西洋人みたいなジェスチャーをする。
雨里亜奈あまりあな。幸手市長さんなんだよ」
「いっ?!」、
灯多が歯の隙間から発した音は、びっくりしすぎで「えっ」にならなかった。
芳子ホーとはなぞの館で接点があると知れたら、よくないんだ」
「あ」、灯多は閃く。「ユースさって市長の選挙的にってこと……?」
「違う」、
自分の髪に手を滑らせながら、凛果は言う、
「市長の、まりあさんの名誉に関わるってことだよ。
『自分の子飼いKOGAIを使うのか?、傀儡か、茶番か?』
って出るとこに出るのはさ、ああ、例えば文春砲とかだよね、まずいんじゃないかなって……まりあさん結構天然だから、あんまり気にしていない感じなんだよな、だから私から言ったの、もし灯多に会っても……」、
「あ、それでか」、そっけないまりあさんの顔を思い出す灯多だ。
「大人だけど、ぽわっとしてて、母性本能くすぐられんのよ」、
そこでようやく凛果リンは微笑む。
「なんかわかる」、灯多も微笑み返す。
「そう、スキャンダル沙汰、なんで私はめっちゃ、めっちゃ気になるわけ。
実際には、もう、接触なんてないんだけど、はなぞの館の過去を掘り返されるだけでも、面白おかしく書かれちゃうんじゃないかって。
なので、頼むから、くれぐれも協力よろしくだよ。
あと、私とか、芳子ホーとも、人前で話すとかは、いちおうこの選挙戦の間、やめておいて」
「ん、いいけど……」、
話したい、本当は。
特に、野ノ守さんと。
「これ私と芳子ホーのID」、凛果リンがふせんを差し出して、灯多は受け取る。
「夜にでも、ってもう夜か、帰りの電車とかでメッセージ送って。
グループチャット組も、芳子ホー灯多トータと私で。
そこでいろいろ話す。で、いいかな?」

凛果リンの指示で⸻同時に戻ると怪しまれるから、私は少ししてから戻るのでと⸻先に、ひとりで会場の「会議室1・2」に戻り、元いたテーブルに帰る。

もう会場に、まりあさん⸻幸手市長・雨里亜奈の姿はなく、席には紙の深皿に入った豚汁と、割り箸ではない木の箸が、置かれている。

灯多が座っていた位置の椅子には、橘真弓たちばなまゆみが座っていて、(豚汁には手をつけずに、)隣の真澄君と話をしている。

(「二卵性双生児NIRANSEISOUSEIZI」、って単語も、『ゾンビ打』に出てきたなぁ)、
と思い出しつつ、ふたりの姿を交互に見、んーそれにしてもほんと似てないよなぁ、と思っていると真弓が話しかけてきた。

「いっわなっがくんっ!
ねねねねね。いままで、どっこ行ってたのっ?」

目をくりくりさせ、聞いてくる。
「……トイレ?」、灯多が言うと
「ややや、あんな連れションある?バッチリ見てたよー、光宮高ヒカコーの徐さんに、グイグイ引かれて、出ていくの」
「いっ?!」、人生たぶん2度目のその発語を、こんなごく短期間で放ってしまう灯多だ。
まずいなぁ、と思う。なぜって真弓さんは新聞部だし、好奇心の塊感、プンプン漂わせているから。
「知り合い?」
「あー、うん」
「小学校一緒とか?」
「あー、うん」、灯多は好日小、徐凛果は花堤小なので、ほんとうは違う。
「へええええ」、橘真弓のそれは、何か含みのある返しで表情だった。


(嘘をついて、この人に隠しおおせるだろうか……まあ、今日限りで、今後もう接点がない、ってなれば、大丈夫かな……。)

「あ、あーっ!そうだあの、岩永君聞いてくださいよ。
僕ですね、さっき、すっごい電話受けちゃったんです!」、

かなり無理ある間合いで、真澄君が割り込んできた。
同時に、双子のきょうだいである真弓さんに向かって、手のひらを下から上にひょいひょい振り上げるジェスチャーを示す。
「はいそこ座っていないで岩永君に席譲りなさいよ」的なだ。
それで橘真弓は立ち上がって、
「岩永君さ、あとでゆっくり、話聞かせてねぇ〜」、
手をひらひら灯多に振り、会場のどこかへ歩み去った。

灯多は心で真澄に手を合わせつつ、座る。
真澄がその時、何らか察し、気を遣って真弓を退散させてくれたのかどうかのところは灯多にははかりかねた。
けれど、その後にした話は、実のところ灯多の人生を変えるものだった。

真澄にあった電話の主は、高校サチコーで彼が所属するワープロ部顧問の先生からで、真澄君がこの夏の「全国高等学校ワープロ競技大会」のポスターに出ることが決まったというのだ。

「いっ?!」、
人生3度目にして今日3度目の「いっ?!」を、灯多は発した。

そういえば、「橘真澄」、どこかで聞いたことがあると思ったら……、
彼は埼玉県内の高校生の中でも、トップレベルのタイピング実力者だ。

この場が「ユースさって市長選」のために設定されたことも束の間忘れ、灯多は真澄にいろいろを聞いてみた。

ついさっきまで、あーなんでこんな場に来ちゃったんだろと考えていた灯多だったけれど、どどどと来た怒涛の時間を経て、そして隣に同じタイピングの同好の士・真澄君を得て、ようやっとYOUYATTO安らいだ時間が訪れた。
灯多が部屋どこかにいるはずの野ノ守さんの様子を盗み見るのも忘れ、しばしの間夢中で話していると、会場内にマイクで話す女性の声が響いてきた。

見ると、最初に話していた、大学生の司会女性だった。

「みなさん、会場に、スペシャルゲストさっちゃんが着きましたっ」、

拍手が起こり、灯多も真澄君も手のひらを打ち合わせる。
出入口の扉の前に、幸手のマスコットキャラクターの「さっちゃん」と、スーツ姿の男性が立っている。

灯多にとっては、この日2度目の、この組み合わせだ。
ここアスカル幸手に来る前に、会っている二人ペアだろう。
まさに灯多がここへ来るきっかけ、起点となってくれた人(?)たち。

「これから、さっちゃんから、何か発表があるようです!」、

司会女性から、さっちゃんの隣に立つ秘書室の西係長がマイクを受けとった。

「えーと、さっちゃんはしゃべれませんので、私が代わりにしゃべりますね。さっちゃんがこうして
『さって、ここで次のミッション!』
と掲げています。
ユースさって市長候補者の3人にか、あるいは会場にお集まりか、配信でご覧のみなさんにか?
ともあれ、ここで『次のミッション』を発表します!」

(第13話に続く)

※本話で使用した「さっちゃん」のAI生成画像は、幸手市役所商工観光課に事前申請し、キャラクター使用の許諾を得ています。


この小説はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係がありません。

第11話第13話
第0話(登場人物・キービジュアル)


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