環境表示ガイドラインってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~
(第八十二回)取り組みそのものがガバナンスのテスト
前回はワインのマーケティング・ツールとしてのGIのお話
前回は、気候変動が続く中でマーケティング・ツールとしてのワインのGI (Geographical Identification:地理的表示) は特に欧州のワイン産地でサステナブルでいられるんでしょうか?というお話をしました。気候変動の問題が深刻化するけれど、土地は動かないなかでその土地のマーケティングをどうしましょう、ということですよね。時代と環境の変化を受け入れてその時々のベストを追求して、それを伝えていくことになるのかな、と本人としては一応整理をつけた感じです。
今回は「環境表示ガイドライン」改訂のお話
で、環境つながりにもなる今回のお話なんですが、「環境表示ガイドライン」ってご存じですか?これは環境省が「主に自己宣言により環境表示を行う事業者および事業者団体を対象に、望ましい環境表示を目指す上で必要な環境情報提供のあり方について整理し、まとめたもの」ということになっています。で、このガイドラインが2026年3月に改訂されました。guideline.pdf
そもそも「環境表示ガイドライン」って?
いろいろなところで、「環境にやさしい」的なラベルを見ることがありますよね。これについてのガイドラインです。
お役所として環境負荷が小さい消費を推奨
お役所としては、製品やサービスを購入する際に、環境を考慮して、必要性をよく考え、環境への負荷ができるだけ小さいものを選んで購入する、いわゆるグリーン購入を後押ししたい、ということが根っこにあります。グリーン購入法ってのがあって、政府機関にグリーン購入を義務付けるとともに、地方公共団体や民間企業にも努力してね、とお願いしています。
環境ラベルは、このグリーン購入を促進する効果が期待されています。グリーン購入が広がることで、環境負荷のより小さい製品開発努力が行われたり、リサイクルが推進されてサーキュラーエコノミーが拡大したりすることが期待されています。
「なんちゃってエコ」批判がつきまとってきました
ただ、このラベリングに関して、「なんちゃってエコ」が含まれているのではないか、という批判は付きまとってきました。硬い言い方をすると、「グリーンウォッシング」、つまり見せかけの環境配慮ってやつです。
「なんちゃって」が企業のレピュテーションリスクに
これまでは、「地球にやさしい」、「サステナブルな未来へ」といった耳当たりの良い言葉を並べていれば、実質はともかく、なんとなく企業の好感度にはプラスだったのかな、と言えます。しかし、この「なんちゃって」がレピュテーションリスクになりうるという状況になってきています。
「グリーンウォッシュ」してるんじゃない?
しっかりと環境対応の体制が整っている、といった理由でESG評価機関から高いスコアを得ている「ESG優良企業」が、消費者やNGOから「グリーンウォッシュだ」と告発されるケースがいろいろと出てきました。
欧州の事例
欧州では2023年末、消費者団体(BEUC)が欧州委員会に対し、飲料大手3社(コカ・コーラ、ダノン、ネスレ・ウォーターズ)を告発しました。これを受けて2025年にかけて進展した動きは、まさに今回のガイドラインが禁じる「イメージ先行」の典型例です。
「100% recycled」は誤解を与える、という批判
この3社の製品では、ペットボトルに「100% recycled」とか表示していましたが、実際にはキャップやラベルはリサイクル素材ではありませんでした。「ボトル全体が100%リサイクル素材」という誤解を消費者に与えることが、不当表示とみなされました。また、矢印が円を描く「リサイクル・ループ」のロゴを多用し、プラスチックが永遠に循環し、環境負荷がゼロであるかのような印象を与えました。製造プロセスで発生する膨大な廃棄物やエネルギー消費について触れていなかったことも批判の対象となりました。
ブランド毀損を避けるため是正が進んでいるそうです
結果として、コカ・コーラなどは2025年、表現の修正に合意しました。「100%」と書く場合は「(キャップ・ラベルを除く)ボトル本体のみ」と注釈を同じフォントサイズで併記することや、環境負荷がゼロであると誤認させる「緑色の自然イメージ図」の使用を控えるといった、具体的な是正が進んでいるそうです。
「組織(Entity)」としてのガバナンスが評価されていても、「製品(Product)」の物語に誠実さが欠けていれば、ブランドが毀損するということです。
日本でも誤解を招く表現には景品表示法による是正措置
日本では、そこまでの批判とは言えなそうですが消費者庁による「景品表示法(優良誤認)」が適用される事例がありました。2022年末、消費者庁は「生分解性(土に還る)」を謳ったカトラリーやレジ袋を販売していた10社に対し、一斉に措置命令を出しました。理由は「特定の条件下でなければ分解されないのに、どんな環境でも土に還るかのような誤解を与えた」こと。これは、今回のガイドラインが重視する「条件の明示」と直結しています。
ガイドライン改訂でウォッシュ予備軍増加?
また、日本の飲料メーカーも「100%リサイクルペット」を素材に使っていますが、これまでは「キャップやラベルはどうなのか」という点に無頓着な広告も見受けられました。今回のガイドライン改訂により、欧州で起きた「キャップ・ラベル除外の明記」が日本でも事実上の義務となり、対応が遅れている企業は「ウォッシュ予備軍」としてマークされることになります。
「イメージからデータへ」の完全移行
これまでの「言ったもの勝ちマーケティング」や企業と製品の「評価のズレ」を是正して、企業の主張に「客観的な裏付け」を求めるのが、今回のガイドライン改定の本質のようです。つまり、今回の改訂を一言で言えば「イメージからデータへ」の完全移行なんでしょう。
細かい話は抜きにして3点だけ
いろいろ上げていくと大変なのですが、以下の3点が特徴といえます。細かいガイドラインの中身に興味のある方は、先ほど挙げたリンク先を見てください。
① 抽象的表現の禁止: 「エコ」「環境に配慮」といった言葉を単独で使うことは、事実上「アウト」になりました。なぜこの製品がエコなのか?例えば製品供給に関わるCO2排出量が○○%減少、とか言わないとかいうエビデンスが要求される、ってことです。
② LCA(ライフサイクルアセスメント)の要求: 製品の一部だけでなく、原料調達から廃棄までの製品のライフサイクル全体で「本当に負荷が減っているのか」というエビデンスが求められます。
③ 説明導線の義務化: パッケージに書ききれない根拠は、QRコード等で即座に参照可能にしなければなりません。そこに例えば2030年カーボンニュートラル戦略との関連とかが書いてあると関心のある人にとってはその企業に対する理解が進みますよね。
ガイドラインに受け身の対応をするとBSJの増殖に
言ってることはごもっとも。大事なことは、この新ガイドラインへの対応をどうとらえるかでしょう。受け身の対応をするのであれば、「また法務や広報のチェック項目が増えるだけだ」、「マーケティングの自由度がなくなる」ということです。下手をすれば、数値の整合性を合わせるためだけに膨大な時間を費やす「BSJ(ブルシットジョブ:クソどうでもいい仕事)」が社内に増殖しかねません。ESGやサステナビリティ課題の情報開示を「やらされ仕事」、「やっつけ仕事」だと考えている企業さんはこんな風にお考えになるかもしれませんよね。
その認識が経営上の大きなリスクです
しかし、わこさんNoteにお付き合いいただいている皆様は、その認識こそが大きな経営上のリスクだとお判りでしょう。
サステナビリティ課題への取り組みは守りでもあり攻めでもあります
サステナビリティ課題への取り組みは、中長期的に企業価値を毀損させないようにする防御でもあり、課題を乗り越えて企業価値を拡大し、資本を呼び込むための攻めの仕組みとも考えられます。今回のガイドラインは、この「攻守」を両立させるためのツールになり得ます。
「なんちゃってエコ」との差別化、やりましょう
これまで真面目に、泥臭くサプライチェーンの改善に取り組んできた企業にとって、このガイドラインは「なんちゃってエコ」競合との差別化になります。LCAデータを、透明性をもって開示することも大事です。原料調達から廃棄まで、すべてに完璧な対応ができている、などと言う方が嘘くさいことの方が多いでしょう。ここは計測方法も含めてまだ課題です、ということもきちんと示すことでむしろ信頼感が上がったりします。
全部できてます、ということほど嘘くさいことはない
それは、LCAのみならず、GHGガス排出のScope3とか、労働者の人権デューデリジェンスとかも同じですよね。問題がない、管理ができている、と虚勢を張るのではなく、まだ問題が残っていて、それをどう改善して(最終的に企業としてどうやって生産性や企業価値を上げて)いくのかを示し、必要であれば株主や従業員、取引先などと対話をしていくことがサステナビリティ課題への取り組みだ、というわこさんのスタンスは不変です。
ガイドラインをサステナブルにできなくするのは簡単
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
