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EUの土壌戦略ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~

(第六十五回)良くも悪くもEUは農業次第なんでしょね

前回は午年相場のお話

前回は、「じゃない方」のわこさんが前面に出て、干支縁起を踏まえた午年2026年の株式市場を語りました。議論の後ろにあるデータが揃ってないとなかなか深いところまでは踏み込めないのですが、日本独自の要因は相場変動のドライバーにはならないんじゃね?という諦観が根底にあるのかもしれません。

今回はちょっとワインにも近づきます

さて、今回もどちらかと言えば「じゃない方」からスタートするわこさんネタですが、世界のワイン産業のサステナビリティを考えるうえで避けて通れない話でもあります。

日本では報道もされないEUの「土壌モニタリング法」施行

12月16日にEUで「土壌モニタリング法」が施行されました。健康な土壌が、農業にとって生産性や害虫への耐性を高めるため、そして栄養価の高い食品の品質と安全性を維持するために不可欠であるということについて、反対されることはあまりないと思います。

実はワイン飲みにとっても大事じゃないかな…

そして、EUの農業部門の長期的なサステナビリティと収益性にとって重要であることも否定はできません。もっと言えば、世界のワインの約6割を生産するEUの動向次第では、世界のワイン産業も影響を受けることになりますね。

土壌劣化はEU全加盟国で問題に

EUによれば、土壌劣化はすべての加盟国で問題となっていて、土壌の60〜70%が不健康な状態にあり、EUは毎年500億ユーロ以上の費用を負担しているそうです。これはラトビアやキプロスといった国のGDPを上回っています。

土壌劣化のすべての側面を対象に適用

土壌モニタリング法は、侵食から汚染、土壌のカバーに至るまで、土壌劣化のあらゆる側面を対象としています。森林、農地、都市部を含むすべての土壌に適用されるそうです。加盟国は土壌の健康状態を監視・評価することが義務付けられます。また、この法律では農民や土壌管理者を支援し、土壌の健康と回復力の向上を支援するとのことです。

単なる環境政策ではありません

実は、この法律は単なる環境政策ということではなく、EUグリーンディールの中核施策の一つであるEUの土壌戦略(EU Soil Strategy for 2030)の一翼を担う位置づけです。

成長戦略の一翼なんです、ってにわかには信じがたい

EUグリーンディールそのものは、これまで正面から取り上げてはいませんでしたが、簡単にご紹介。コヤツは2019年に発表されたEUの包括的な成長戦略で、主要な柱は①2050年の気候中立(気候変動に影響を与えない、要は温室効果ガスの排出を実質ゼロにする)、②生物多様性の回復、③資源循環型経済(サーキュラー・エコノミー)、④ゼロ汚染といったこととなっています。発表されたときは、そうか、環境政策は成長戦略になりうるんだ、ということで当時盛り上がっていた「ESG投資」の後押しとしてもてはやされました。

切り離された産業戦略は以前ご紹介しました

ところが、環境対策を錦の御旗とすると特に短期的に脱炭素には向けた努力と将来にむけた投資のコストの負担が重く感じられたりします。なので、2025年に「産業競争力と脱炭素の両立」を強化する新たな産業戦略として、「クリーン産業ディール」が策定されました。この話のファイナンスに関連する部分を以前取り上げました。

土壌戦略はゼロ汚染と生物多様性のために重要

EU土壌戦略に話を戻すと、この戦略はEUグリーンディールの中で、「ゼロ汚染(Zero Pollution)」と「生物多様性戦略(Biodiversity Strategy)」を実現するためのパッケージとして位置づけられています。

EUグリーンディールの成功に不可欠

欧州委員会は、土壌が食料安全保障、生物多様性、気候変動緩和(炭素貯留)、水循環の基盤であることから、この戦略がEUグリーンディールの成功に不可欠と明言しています。そのため、2050年までに「健全な土壌(healthy soils)」を実現するという長期ビジョンを掲げているわけです。そしてそのビジョン実現のために、2030年までの中間目標と具体的アクションを設定し、その一環として土壌モニタリング法が施行されたというわけです。

長期的に土壌戦略がうまくいくとどうなるか?EUの目論見は

①    農業生産性の維持・向上(自然資本の保全)

サステナブルな土壌管理ができるようになり、汚染土壌が修復され、天候などデータに基づいて肥料や農薬使用が必要最小限にコントロールできるようになれば、農業の長期的な生産性を向上させ持続可能な食糧システムを作ることができるでしょう。そして持続的な食糧システム構築にも貢献

②    炭素貯留市場(Carbon Farming)による新たな農家の収益源

土壌戦略が成功すれば土壌改善による温室効果ガス削減量が測定できるようになります。それをカーボンクレジットとして売れるようになれば、農家の新しい収益源になります。また、EU共通農業政策(CAP)の農家への補助金を温室効果ガス削減量に応じて上乗せすることができるようにするとも言われています。

③    汚染土壌の修復市場の拡大

土壌改良を度合いを測定して数値化できるようになれば、関連する企業にとってはその改善幅に値段をつけることで飯のタネになります。

④    バイオエコノミーの基盤強化

EUはバイオマス利用(素材、燃料、化学品)をグリーンディールの複数領域で重視しており土壌戦略はその基盤となる土壌肥沃度の維持に貢献します。

⑤    自然資本の回復によるレジリエンス向上

気候変動による洪水干ばつ土砂災害のリスクは、EU経済に大きな損失を与えています。土壌戦略がうまくいけば、水保持力の向上や流域管理を通じて、災害コストの削減=経済成長の下支えにつながります。

法的枠組みの整備とデータ整備はそこそこ順調らしい

素晴らしいです。あとはこれがちゃんとできるか、ということですね。EUによれば、EUとしての法的枠組みの整備とデータ整備はそこそこ順調に進んでいるらしいです。

農業部門の抵抗と加盟国間の温度差が難題

しかし、農業部門の抵抗と加盟国間の温度差が難題のようです。農業部門の抵抗については、以前もEUの政策を扱ったときにお話してますが、農業従事者の方々がトラクターでデモしたり道路封鎖したりということが時々起きます。

対策は短期的にコスト増に

土壌戦略の中でも、農薬使用量を削減したり耕起(農地を耕すことです)を制限したりということが言われています。これらは短期的には収量の減少などコストの増加につながります。

耕起制限って?

耕起制限というのは聞き慣れないですね。農地を深く耕したり頻繁に耕したりすると、浸食が増加しやすくなったり、土中の微生物が減少したりするとともに、有機物の形で土中に固定されているCO2が分解して放出されるということです。結果的に災害対策にも生物多様性にも脱炭素にも悪影響が及ぶわけです。

加盟国間の温度差は経済格差問題と関連

加盟国間の温度差というのは、EU内部の「南北問題」のような話で、環境政策などでは「あるある」です。つまり、ある程度経済発展して環境配慮できる先進地域(西欧など)と、まだまだ経済成長の優先順位が高い新興地域(中東欧など)の温度差ということですね。新興地域は環境配慮ができていない分土壌改良の余地があって、本当は土壌戦略のターゲットになっていたりするんですが、それどころじゃない、ということです。

短期的なマイナス、乗り越えられますか?

このあたりの短期的なマイナスを乗り越えられるかが、EU土壌戦略がサステナブルになるかどうかのカギを握っているということです。どーかなー?

EUのワイン生産との関係も考えてみましょう

一方で、これで終わるとわこさんNoteとしてはなんとなく物足りないですので、このEU土壌戦略とEUのワイン用ブドウ生産の関係を考えてみましょう。例によってCopilotにEUの主要ワイン産地での土壌リスクを整理してもらいました。

改めて、土壌戦略での重点リスク領域

EU土壌戦略で重点リスク領域として挙げられているのが
- 侵食(Erosion)
- 有機物減少(Organic Matter Loss)
- 干ばつ・水保持力低下(Water Retention)
- 土壌密度上昇(Compaction)
- 汚染(Contamination)
- 生物多様性低下(Biodiversity Loss)
です。

Copilotに整理をお願いしました

それを踏まえて、土壌リスクとそれが高い産地を3つずつ挙げてもらいました。地域によっては「ホント?」というところもありますが、ご覧ください。

◎侵食リスクが最も高い産地

- ブルゴーニュ
- モーゼル
- プリオラート
斜面地 × 集約農法 × 豪雨増加がリスクを高めている、というのがCopilotの整理です。加えて、例えばドウロ川流域(ポートワインの産地)も斜面の浸食がリスクになっています。

◎干ばつリスクが最も高い産地

- トスカーナ
- プリオラート
- リオハ
Copilotは気候変動による乾燥化が顕著と整理しています。もちろんそうですが、これらの地域に限らなくなっていますよね。

◎有機物減少が深刻な産地

- ボルドー
- ピエモンテ
- リオハ
Copilotは化学肥料依存や耕起の影響と指摘しています。ボルドーとかは過去のボルドー液(硫酸銅を使った薬液)の周辺環境(水や水生生物)への影響はあるんでしょうね。

◎土壌密度(コンパクション)が課題の産地

- シャンパーニュ
- 一部のボルドー
- 北イタリアの平地部
Copilotによれば、これらは重機利用が多い(多かった?)とされる地域です。土は耕し過ぎてもダメ、踏み固めすぎてもダメ、ということなんですね。

土壌リスク、実は勉強していたものも

こうやって見ると、Diplomaに向けて各産地のお勉強をしたときに課題として挙げられているものも結構あります。こうした土壌リスクを減少することが、各産地の「テロワール」を維持してそれぞれの産地をサステナブルにすることにつながっていくんでしょうね。

とはいえ、ブルゴーニュの丘に土かぶせたりできますか?

ただし、短期的にはコストがかかります。だれが負担するんでしょう?それから、浸食リスクが高いと指摘されるブルゴーニュは丘の斜面が銘醸地なのでリスクとしてはその通りなんですが、それを修正する(斜面に土をかぶせる?)などということは、畑ごとの所有者が細かく分かれていたりする現状を考えると、現実的じゃないでしょう。そんなことしたら水捌けとかが変わっちゃいますし、すごい反対運動が起きそうです。

土壌戦略プラスアルファが必要な産地があることもややこしい

加えてモーゼルやプリオラート、ドウロ川渓谷のような急峻なブドウ畑は労働力確保の問題もあり、土壌戦略プラスアルファが産地維持に不可欠だったりします。EU共通農業政策(CAP)の農家への補助金に産地によって色を付けたりしなきゃいけなくなりそうですが、それをやるとまたややこしいことになりますぜ。

ワイン産業は土壌戦略の先を行っているけれど、困難さも示す

意識としてはワイン産業はEU土壌戦略の先を行っているのかもしれませんが、同時に戦略の先行きの困難さを暗示している部分がありそうです。

Copilotはドジョウは上手く描けません…


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