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ボテガ・ノートン破綻でアルゼンチン・ワインってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~

(第七十一回)ワインネタのはずなんですが…

前回は桔梗ヶ原メルローの垂直テイスティングのお話

前回は、あまりにも楽しかった、シャトー・メルシャンの桔梗ヶ原メルローの垂直テイスティングのお話をしました。2013~2016年、それぞれの年の天候要因や醸造の取り組みに思いをはせながら、日本ワインでも長期熟成の可能性が十分に見込める高い酒質のワインを造ることができるんだ、ということを改めて認識した次第です。2015年のシグナチャーは本当に素晴らしいワインに仕上がっていました。日本ワイン、いろんな論点はありますが、これからも飲んでいきます。

アルゼンチンは南米のワイン大国です

今週もワインネタです。ネタは変わりますが、サステナビリティという軸は変わりません。アルゼンチンは2024年のワイン生産量で世界第5位、消費量で第8位のワイン大国です。赤ワインではマルベック、白ワインではトロンテスが特徴的で、ブラインドテイスティングで国当てするときは、大体この二品種がカギとなります。

中心産地はメンドーサ、家族経営のワイン生産者が多いです

ワイン生産地として著名なのはアンデス山脈のふもと、高原地帯のメンドーサ地域になり、アルゼンチンのワインの3分の2くらいがこの地域で生産されるということです。メンドーサには多くのワイン生産者があり、規模は大小さまざまですが、多くが家族経営です。

アルゼンチン・ワインを代表するブランドの一つ、ボデガ・ノートン

その家族経営の老舗生産者の一つにボデガ・ノートンがあります。正確なシェアとかはわかりませんが、輸出市場での認知度は高く、アルゼンチンを代表するブランドの一つと言えます。日本でも、エノテカさんとかがアルゼンチン・ワインの代表格として販売していたりしますので、ワイン飲みの間ではそこそこの知名度があるんじゃないかと思います。

ボデガ・ノートンが破産手続きを申請

このボデガ・ノートン、実は昨年末に「再建型の破産手続き」を裁判所に申請しました。国によって制度が違いますが、経営破綻して会社更生手続きに入ると考えてよさそうです。今のところ、ワインの生産や出荷は継続できるということのようなので、ボデガ・ノートンのワインが買えない、ということにはならなそうです。

クリスタル製品で有名なスワロフスキー家による家族経営

同社は1895年にメンドーサのルハン・デ・クージョに設立されました。その後、1989年にクリスタル製品で有名なオーストリアのスワロフスキー家に買収され、同家による家族経営が行われてきました。同社は非上場なので、詳細な業績データは公開されていないのですが、報道では、約640億ペソ(約4,300万ドル)の負債を抱えた状態で、メンドーサの裁判所に「再建型の破産手続き(concurso preventivo)」を申請しました。

資産凍結されて再建計画策定へ

裁判所は資産(畑・ブランド等)の凍結と、アルゼンチン在住取締役の行動制限を決定しています。また、500以上のサプライヤーなどへの未払いを抱えていて、地域経済への影響が懸念されていると報じられています。さらに2027年4月までに再建計画がまとまらなければ企業の売却や清算に進むとされています。

会社は産業全体の危機のため、と言ってます

会社側は声明で、「国内消費の崩壊」「輸出の減少」「コストの持続的な上昇」という産業全体の危機の中での措置だと説明し、事業継続と雇用維持のための予防的な再建手続きだと位置づけています。

さてさて、それが本質的な問題なんですかね?

これだけだと、わこさんが繰り返し指摘している、世界のワインの供給過剰問題がアルゼンチンの老舗生産者にも及んだんですね、という話に聞こえそうですが、今回はもう少しひねりが入ります。振り落とされないようについてきてください。

3つのキーワードは違う軸の話

会社側コメントにある3つのキーワードは、重なる部分はありますが実はそれぞれ違う軸のお話です。

「国内消費の崩壊」は構造問題とマクロ経済要因の合わせ技

「国内消費の崩壊」は、構造的なワイン消費の変化とマクロ経済要因の合わせ技です。アルゼンチンの業界団体 Bodegas de Argentina によると、2014年比で国内ワイン販売量が約50%減少し、2023/24年には 8.01億リットルと「過去20年で最悪の水準」とされています。

国内消費が10年で半減、って嗜好の変化だけで説明できますか?

背景として、若年層の嗜好の変化と高インフレおよび実質所得の低下が挙げられています。若年層の嗜好変化はビールやRTD(Ready to Drink、缶入り飲料のようにすぐ飲めるもの)、ノンアルコール飲料への需要シフトとされていて世界的なトレンドと同様ですが、アルゼンチンの高インフレ(と実質所得の低下)が低価格飲料に需要をシフトさせているという側面も否めないでしょう。

アルゼンチンのワイン産業は内需に支えられてたはずですが…

以前、チリのワイン生産が低下トレンドにあるというお話をしたときに、チリのワイン産業は輸出依存なのに対してアルゼンチンは内需が8割なので安定的だと書いたのですが(だって、Diplomaのテキストに書いてあります)、アルゼンチンの内需も縮小していたんですね。

大量生産の国内向け生産が落ちると稼働率低下で利益は悪化

アルゼンチンの国内消費は、お手頃価格帯のワインに依存していて、クリオラという品種から作られる白ワインがテーブルワインとして最も飲まれています(残念ながら、クリオラは飲んだことありませんが)。おそらく、このテーブルワインのクラスが日常のアルコール飲料として消費が落ちているわけです。この大量生産のボリュームゾーンが落ちると、生産設備の稼働率も相対的に大きく低下しますので、利益は出にくくなることになります。

もともと半分超が大量生産ゾーンだったようですが

ボデガ・ノートンも、開示はないのですが、このテーブルワインゾーンが売り上げの主要部分の占めていたと考えられます。もともとは内需が半分以上だったものが、2010年代後半に輸出が上回り、最近では内需が3割程度まで低下していたという推定もあります。

「輸出の減少」は世界的な競争とマクロ要因の合わせ技

「輸出の減少」は、世界的な競争とマクロ経済要因の合わせ技になります。アルゼンチンのワイン輸出はマルベックが中心で、価格帯としては中価格帯からプレミアムになります。プレミアムの方は根強い需要がありますが、中価格帯は、ライバルがたくさんいます。いろんな産地のカベルネ・ソーヴィニョンとかいろんな産地のシラー/シラーズと争うわけです。

通貨が不安定なのが輸出環境には逆風

そうした中で、アルゼンチンの通貨ペソが不安定だったりします。中長期のトレンドとしては高インフレによる通貨安なので、輸出市場では有利になりやすいはずですが、通貨が不安定だと買い手はいつ買うかといったタイミングの見極めが難しくなり、買い控えをしたりします。

「コスト上昇」は本当にこの国の構造的な要因

こうやってトップラインがダブルで抑え込まれる中で、「コストの上昇」が乗ります。アルゼンチンの持続的なインフレは、コスト上昇につながります。労働コスト、エネルギーコスト、物流コスト、ボトルやコルクなどのコスト、なんでも上がります。通貨安は輸入品のコスト上昇にもつながります。

インフレがワインの割高感を強める面も

それを価格転嫁することができればいいですが、国内市場向けにはワインの割高感を高めます(例えばガラスのボトルは重たくて手間がかかりますから、物流コストは缶より高くなりやすい、とかっていうことです)。通貨安であれば輸出市場では価格優位を維持できそうですが、価格の不安定さは嫌われます。

産業全体の危機が本質?

なるほど、これはボデガ・ノートン固有の問題じゃなさそうです。だとしたら、アルゼンチンのワインってサステナブルではないのでしょうか?

表面的な負債金額が少なすぎません?

先ほど、負債が約4300万ドルと書きました。これが全ての負債金額なのかはわかりませんが、4300万ドルって、67億円弱(1ドル=155円換算)ですよ。その程度で世界的ワインメーカーが立ち行かなくなるんでしょうか?

ボデガ・ノートン独自の問題があるわけです

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