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「水破産」ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~

(第七十七回)企業のガバナンスのあり方が変わる?

前回はワイナリーにとってのB Corp認証の意味を考えました

前回は、B Corpの認証取得が難しくなったこととからめて、ワイナリーにとっての認証取得の意味みたいなお話を書きました。コストに見合う認証であれば、マーケティングツールとして使えるわけですが、カネ・ヒト・事務手続きのコストが上がるとその位置付けが難しくなってくるんじゃないの?という問題意識です。企業は社会貢献を最優先すべき、という考え方とは合わないところがありますが、やっぱり稼がないとサステナブルにはならないという意見に抗うのは難しいですよね。

2026年になっても水に絡んだ気候変動の影響が頻発

さて、2026年になってもワイン産地での気候変動に関連した被害の話が頻発しています。フランスのボルドーでは40日連続で雨が降ったとか、オーストラリアのヴィクトリア州でも洪水被害が出ているとかいった、過剰な降水の話がある一方で、水不足についてもいろいろと問題が起きています。

「水の私有化」への制裁が強まる

最近のわこさんNoteでは、カリフォルニアのサンルイスオビスポ郡などでは、2026年の地下水管理法(SGMA)に基づき、農業用井戸の流量制限に違反した農家に対し、高額な罰金と汲み上げ停止措置が断行されるなど、「水の私有化」への制裁が強まっていると書きました。

世界的に水が不足、アマゾン川流域が干上がる

水が世界的に足りているのか不足しているのか、ということでいえば、圧倒的に足りません。気候変動だけでなく乱開発の影響も大きいですが、世界の肺と言われているアマゾン川流域の熱帯雨林が干上がってきているという状況は、2025年のCOP30がブラジルのベレンで開催されたことで世界に報じられました。気候変動が差し迫った生存の危機である、ということを感じさせるものでした。

水システムの債務超過、「水破産」を国連大学が提言

その「水不足」とか「水ストレス」とかいう、これまで使ってきた言葉に対して、それが不十分だと断じて「水破産(Water Bankruptcy)」という言葉が提唱されました。これは、2026年1月20日に国連大学がまとめた報告書に記載されたものです。ここでは、現状を時がたてば回復することを前提にしている「一時的な危機」ではなく、自然の再生能力(Hydrological Means:水文学的予算)を恒常的に超えて、システムが「債務超過」に陥った状態であると断じています。

人為的に水の予算管理に失敗したと断じている

気候変動による蒸発・降雨パターンの変化だけでなく、経済活動による森林破壊、土壌劣化、不可逆的な地下水槽の圧縮(=地下水のくみ上げ過ぎで地盤沈下が生じている)などが、地球の「水の貯金(地下水・氷河・湿地)」を使い果たしたことを意味している、つまり人為的に水の予算管理に失敗して倒産状態に向かっている、と言っているわけです。なかなか衝撃的な物言いで、もう少し大きく扱われても良い話ではあります。

「水破産」は実際に経済の血流を止めようとしている

「水破産」が実際に経済の血流を止めようとしている例は、農業以外でも起きています。これまで何度か指摘しましたが、欧州ではライン川などの大河川の水位が低下したことで舟運が停止し、サプライチェーンがしばしば分断されています。

また、フランスでは原発がジロンド川とかローヌ川といった河川流域(ワイン産地でもありますが)に作られていて、水位低下で冷却水不足となり原発が出力制限を余儀なくされる事態も毎年のように起きています。半導体製造でも水を大量に使用しますし、データセンターの冷却水としても水は重要だったりします。

「水のボラティリティ」にもつながる

改めて、水は農業の問題だけではないわけです。さらに言うと、水不足の原因である気候変動と相まって「水循環の極端化」につながると考えられています。つまり、冒頭に上げたような、旱魃の反面で豪雨が起きやすくなる、ということです。この「水のボラティリティ」が経済の不安定化につながることになります。

「水破産」は企業の経営リスクになっている

日本では「水はタダ同然」という感覚がまだ根強いかもしれませんが、グローバルサプライチェーンを持つ日本企業にとって、海外拠点の水破産や豪雨被害は「操業停止」という経営にとっての大きなリスクになっていると言えます。

「水」への対処はすでに投資家から求められていますが…

そうした状況ですから、「水」にどう対処するかはサプライチェーン管理の不確実性、将来のキャッシュフローの不確実性につながる「サステナビリティ課題」として企業に問われていると言えます。今回の「水破産」提唱の前から、世界の機関投資家は企業に対して「水ストレス」にどう対処するかについての対応やシナリオ分析を求めています。それがTNFD(自然関連財務開示タスクフォース)やCDPといった開示規制、様々なESGスコアにも反映されてきています。

「自社の節水」だけではなく「共倒れリスク」管理も必要に

今回の「水破産」問題は、「自社の節水(効率化)」だけではリスクを回避できないのでは?という投資家側の問題意識とリンクしてきています。企業がどんなに効率的でも、隣接する農家や自治体が水を使い果たせば、その工場の資産価値はゼロになる。この「共倒れリスク」にきちんと目を向ける必要がある、ということです。その点では、今のESGスコアなど企業単体のリスク管理をしているだけでは不十分で、地域全体が運命共同体なのだ、という視点の評価が必要だ、ということにもなります。

「自社のビジネスを守るために水管理に責任」を要求するAWS 3.0

で、こうした問題意識の焦点が合う形で、3月に国連の2026年版世界水開発報告書「Water for All People: Equal Rights and Opportunities(すべての人のための水:平等な権利と機会)」が発行され、3月22日(世界水の日)にAWS規格Ver. 3.0(以下、AWS 3.0)が公式に発効しました。ぶった切り要約すると、「ただ節水する時代(AWS 2.0まで)」から、「地域全体の水管理に責任を持つことで、自社のビジネスを守る時代(AWS 3.0)」に概念が変化したと言えます。

AWSは国際認証、水関連の情報開示の妥当性を裏書き

AWS規格(International Water Stewardship Standard)は国際認証なのですが、認証取得が上に書いたTNFDやCDPといった開示の妥当性を裏書きするものとして使われています。認証取得していると「グリーンウォッシュしてません」と言いやすくなるわけです。

地域全体の水管理を管理すべきリスクとすることを要請

AWS 3.0が浸透すると、「自社が節水してます」では不十分で、地域全体の水管理を「不可抗力」ではなく「管理すべきリスク」とすることが求められて、認証を取っていないと水問題による将来の操業停止リスクを放置していると解釈されるかもしれません。つまり投資家にとって、AWS認証の欠如は単なる環境対策の遅れではなく、物理的リスクに対する「取締役会の監督不全」と映るリスクがあるということです。

コーポレートガバナンスの考え方を修正しなきゃいけないかも

これって、もしかするとコーポレートガバナンスや企業のサステナビリティ関連情報の開示の考え方を大きく修正しなきゃいけなくなる問題かもしれません。もちろん、コーポレートガバナンスの主目的は「企業価値の最大化」です。いかに社内資源(ヒト・モノ・カネ)を効率的に管理・活用・成長させて企業価値を上げていくか、が問われているのは間違いないです。

自社が存立する流域の維持に責任を持つ必要

しかし「水破産」を意識しなければいけなくなると、自社の存立基盤である流域という共有財産(コモンズ)の維持に責任を持つことが将来の企業価値にとって、重要な「リスク管理」になってくるとも言えます。つまり水リスクを織り込んでいない将来の企業価値の見通しは、その信憑性が疑われることになるかもしれません。

「ウォーター・スチュワードシップ」

流域のリスク管理については「ウォーター・スチュワードシップ」と言われることもあります。これは単純に言うと、単なる節水からより能動的な責任ある管理をしましょうということです。

もう少し踏み込むと、「わが社は環境に良いことをやっております」と表明することから「水リスク管理については、流域全体の保全を含めてわが社がなすべきこと、という経営判断として対応します」に変化する、ということです。

ビジネス継続のための経営戦略としてのAWS 3.0

関連して、AWS 3.0は「コレクティブ・アクション(集団的アクション)」を求めていますが、これは慈善事業ではなく、「自社のビジネス継続権(License to Operate)」を確保するための、高度な政治的・経営的判断になります。十分に経営戦略なのです。

サステナビリティ関連の別の問題意識とも紐づきます

上場企業の経営者さん、また大変になりますね、と思われるかもしれません。ただ、わこさんとしては、この話を書き進めていくうちにいろんな問題意識が紐づいてきました。例えば、サステナビリティ開示における「シングル・マテリアリティ」と「ダブル・マテリアリティ」の問題や、「企業の利益」って何だろう?といったことです。どちらの問題も誰もが納得する正解はないんですが。

AWS 3.0は「ダブル・マテリアリティ」の概念

前者については、何のことやらわかりません、という方が世の中の大半だと思います。企業が、環境問題などの影響を考えて情報開示するときに、自社への影響を考えれば良い、という考え方と、自社の活動が及ぼす影響も含むべきだ、という考え方の違いです。

たとえば、「水不足は自社の操業停止リスクで、最大限このくらいの売り上げに影響します」というのがシングル。「自社が水不足による操業停止回避のために地下水をくみ上げる。結果として地域の関係者の水へのアクセスを悪化させる」というのがダブルです。水のみの問題ではありますが、AWS 3.0は「ダブル・マテリアリティ」の概念のようです。

他者や環境を犠牲にして利益を得るべきではない

後者については、サステナビリティの大家、オックスフォード大学のコリン・メイヤー教授が「資本主義再興」という近著で提唱されているお話です。「利益は、他者や社会の問題や課題を解決することでもたらされるが、他者や環境、社会を犠牲にしても得ることができる。問題を生み出して利益を得るべきではない、といった考え方をベースに資本主義の新しいかたちを考える必要がある」、ということです。

フィードバック効果を考慮した中長期戦略が必要です

どちらにせよ、言えることは、それぞれの企業は自社の利益の最大化を考える際に、その後のこと、つまり自社の活動がその次のステージでの事業環境に影響し、そのフィードバック効果を考えながら、自社の企業価値を中長期的に向上させることを考えなきゃいけなくなった、ということですね。

持続可能な利益の境界線の引き直しが必要かもしれません

稼ぐことは絶対条件ですが、その「稼ぎ方」が将来の事業基盤(流域)を食いつぶすものであれば、それはもはや利益ではなく「資本の取り崩し」に過ぎないのかもしれません。その点では、水破産時代のガバナンスとは、この持続可能な利益の境界線を引き直す作業だとも言えそうです。

妄想上等

今回は「水」の問題に限定したお話ではありますが、世界の政治情勢なども含め、中長期の経営戦略を考える際には一段と想像力が必要になってくるということです。もちろん、経営者だけじゃなくて、政治家も我々もですけどね。妄想上等です。


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