【フォトアルバム】薔薇の季節 vol.3 原種 2
日本と中国の原種を中心に。画像45枚。
目次
1) Rosa rugosa(ハマナス)
2) Rosa × maikwai(Rosa rugosa、maikwai系統 食香バラ '豊華')
3) Rosa multiflora(ノイバラ)
4) Rosa multiflora var. adenochaeta(ツクシイバラ)
5) Rosa × uchiyamana(ロサ ウチヤマナ、サクライバラ)
6) Rosa luciae(テリハノイバラ)
7) Rosa hirtula(サンショウバラ)
8) Rosa laevigata(ナニワイバラ)
9) Rosa chinensis(コウシンバラ)
10) Rosa banksiae(モッコウバラ)
1)ハマナス

rugosaはラテン語で、シワのある、の意。葉のシワが顕著。
海岸好きで潮風に耐える。東京近郊では、葛西臨海公園、ひたち海浜公園で観察可能。
日本原産。北海道の道花。自生南限は鳥取県。
順光写真ではわかりにくいが、花びらは薄い。茎にトゲが多い。


実生で淡いピンクの花が出現し、当園で管理していたが・・・。
コガネムシが大発生した年があり、気づいたときには根がなかった。
ピンク花の出現はときどきあることらしい。

2)ハマナス マイカイ系統


大久保直美氏は、芳香を分析して、
R.rugosa(ハマナス)とR.acicularis(オオタカネバラ)の交雑を推定。https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201502296728991254
内陸部で栽培されていることから、オオタカネバラとの交雑はありそうな話。
しかし、あまりにもルゴサの形質が強すぎる。
内陸の隔絶が長期に渡り、その土地にいるポリネーターの好みに合わせて、
芳香の成分構成が分化していっただけかもしれない。

ガクに腺毛が目立つ。子房部分はツルツル。花茎のトゲは少量。(クリックで拡大)
サカタのタネ社は、植物を仮称のまま、放出してくれる貴重な機関でした。
僕は放出のたびに、買っては調べで、楽しんでいました。
インターネット以前、同定遊びは、英語文献を読む研究者の楽しみでした。
いつか、時間があれば、当時の同定話について、書きましょう。
小杉先生は、そのサカタのタネ社のプラントハンターを務めていました。
2015年に退職され、現在、謎の植物の放出はありません。
2018年ごろ、おそらく最後になりそうな、ハント品の放出がありました。
担当は、もちろん、小杉先生です(退職後の顧問期間でした)
以下で、小杉先生の筆をお楽しみください。
サカタのタネ 園芸通信 東アジア植物記 小杉波留夫
食香バラ(R)[その1] モダンローズと玫瑰(メイクイ)
食香バラ(R)[その2] 玫瑰鎮(バラの村)への旅路 その地理と歴史
食香バラ(R)[その3] 謎を秘める玫瑰(メイクイ)
食香バラ(R)[その4] 玫瑰(メイクイ)を科学する
食香バラ(R)[その5] 栽培と利用
情報は十分でしょう。
さあ、現物を評価しようではありませんか。
まずは花の香りを嗅ぎ、次いで、ローズティーを試します。
香りは甘い。フェニル系の花っぽさ(フローラル香)が少ない。
通常のバラはフローラル香があって、あまり食用に向かないのですが、
本種はそうではない。
かといって、果実っぽさ(フルーティ)、つまりエステル香でもない。
トップノートが際立つ、アルデヒド香でもない。
シトロネロールとゲラニオールがメイン。
とにかく、シンプルな甘さでくせがない。
農研機構の大久保直美氏の分析通りです。
フェニル系の成分を悪くいってしまい、好みの方には申し訳ないです。
本来なら、香りにコクを出し、花らしさを出す成分です。
僕の学生のときの有機合成の課題が、フェニルエステルでして、
白衣に臭いがついて、どうにもならなかった記憶が。
一般に、香りがよいとされている成分も、量を越すと悪臭に感じられます。
ちゃんと合成できて、目標の純度を得て、単位は取得できましたから、
成分を恨むのはお門違いなのですが。
ティーの評価に進みます。
ガラスポットに3輪放り込み、水道水を沸かした湯を注ぎます。
注いだ直後は、青色を呈しました。
Malva sylvestris(コモン・マロウ)のお茶を想起する色です。
ほどなく、色が消え、やや濁りのあるフラボノイドの黄色になります。
小杉先生が言った通りです。
さて、賞味を・・・。うーむ、よい香り・・・。えっ、甘いよ?!
ヒトの味覚は、フレーバーに振り回されるので、あやしいのですが、
それを考慮してなお、明らかに甘味があります。
この花弁、糖分多めっぽい。旋光度を測ってみたいところです。
現地では、花びらを月餅の餡に入れるとか。
何、餡を揚げまんじゅうにする? それ、きっと美味しいやつ。
あいにく、サカタのタネ社からの食香バラの販売は終了していますが、
当時の放出で購入した種苗業者から、購入できることがあります。
機会があれば、スイーツ向きのバラ、'豊華'の風味をお試しあれ。
3)ノイバラ

日本原産。
花期は5月。
詩歌の中では、薔薇(そうび)と発音される。
水を好み、川辺に多い。東京近郊では、多摩川の土手で多く見かける。

品種ではないので、花弁の幅や花色に個体差がある。


つぼみがピンクを帯びる個体。

つぼみのピンクに加え、花弁の先もピンクを帯びる個体。
4)ツクシイバラ


托葉の形はノイバラと同じ。ノイバラの変種とされる。

花は基準種より大きめのピンク。色の濃さには個体差がある。
5)サクライバラ

R. multiflora(ノイバラ) と R. chinensis(コウシンバラ)の交雑と推定されている。
托葉の形は、R. chinensis var. spontanea(コウシンバラ、スポンタネア系統)に似ている。
交雑親の推定は、最終的には、形態ではなく、DNAを頼まなくてはならない。
6)テリハノイバラ

日本原産。
花期は6月と遅く、山あいでは7月になることもある。

照葉の名の通り、葉にツヤがある。
よく見かけるのは川辺だが、海岸の環境にも耐えるらしい。

花柱の根元に毛がある。(クリックで拡大)

植物園でラベルがないと同定は難しい。
近縁の何かの保全預かりである可能性を否定できない。
6月20日に満開であることから、テリハノイバラを仮定しておく。
研究者による訂正に応じます。


花柱の根元に毛がある。(クリックで拡大)
7)サンショウバラ

日本原産。
自生は富士箱根地区に限られる。箱根町の花。

Rosa roxburghii normalis(イザヨイバラ、一重タイプ)に似る。差異は細かい。
中国山間部のR.roxburghii normalisの祖先が、
何かのきっかけで箱根に定着し、隔絶期間が長くなり、hakonensis状態になったように見える。
日本列島はユーラシア大陸とつながっている期間と、海を隔てて離れている期間があって、
日本列島全体が、固有種が出現しやすい条件にある。
真偽はさておき、富士山以外、日本水没の生き残りかとか、
大陸から海峡を渡った哺乳類または渡り鳥が落とした一粒が固有種化したとか、
空想するのは楽しい。
僕は映画「風の谷のナウシカ」のチコの実のラストシーンが好きだ。


花茎、子房周り、ガクに太いトゲがある。

トゲのある果実(落果を裏側からみた画像)。魚のハリセンボンと勝負できそう。
8)ナニワイバラ

中国原産。
和名は、難波の商人が苗を商いしたことからとされる。
他の樹を支えにして高く伸び、枝を下垂させて咲く。

純白の大輪花。
香りは、ブドウ、ムスク、クチナシを合わせたような感じのある謎めいた甘さ。
花期は、4月下旬から5月上旬で、やや早い。

子房周りと花茎に細いトゲがある。

トゲが赤みを帯びる個体。

葉は3出で皮質。
枝のトゲは少なめだが、大きく鋭い。
他の植物に自分を引っかけて登るのに役立っているように見える。
9)コウシンバラ

学名が示す通り、原産地は中国。
花色や重ねがばらつく状況は、広い大陸ならありそうな話。
日本でふつうに見かけるのは、ピンクのセミダブルで、'Old Blush'と呼ばれる系統。
日本には平安時代に渡来。

常緑で四季咲き性。沖縄では決まった花期がない。
この四季咲き性が、モダンローズに受け継がれた。

花色や花形の幅が大きい。
中国で栽培されていたグループを、キネンシス・ファミリーと括ったと言ってもよい。
欧州への登録がなされた時点で、すでに野生種と栽培種の分別がつかない状態だったようだ。
それだけ古くから愛されてきたということだろう。
プラントハンター、スレイター氏が欧州に持ち帰ったのは、キネンシスの赤花の個体。

花色がマゼンタのタイプ

矮性の変異種。
矮性変異は、品種改良の交配親として有用。
10)モッコウバラ

原産地は中国。日本には江戸時代に渡来。
基準種(normalis)は白の一重。
花期は早く、4月中旬から5月上旬。

庭園には好んで八重が植えられる。

トゲがなく、病虫害もなく、作りやすい。
かつて当園にもあったが、ある程度の大きさで処分した。
毎年、切り詰めると、小さな庭でも管理可能な大きさに保てるが、
本来、大きくなる樹種であり、アーチ、フェンス、棚仕立てが向いている。



白花種に比べ、房咲き性が強く、ボリュームがある。
庭園で最もよく見かけるのは、黄花・八重タイプ。

大きく育てると、本領を発揮する。
花が小さいからといって、樹も小さいとは限らない。
またー(^^)/
※2026年5月28日、写真8枚を追加。
写真・文 瀬戸 裕紀
[ 薔薇の季節 シリーズ目次 ]
vol.1 バラの庭園
vol.2 原種1 欧州
vol.3 原種2 日本・中国
