【万博】RITE未来の森―温暖化と戦うアベンジャーズ―
はじめに
大阪・関西万博には、各種見学ツアーが存在します。
その一つが「RITE未来の森」。公式サイトにも情報は少なく、万博マニア以外は存在すら知らない幻のパビリオンです。
このツアー、空気中から二酸化炭素を直接回収する「DAC(Direct Air Capture)」という最先端の技術を間近で見学できます。
◾ 参加は激ムズ…
参加は地球環境産業技術研究機構(RITE)の予約サイトからですが、すでに全日程が満員。たまに出るキャンセルを執念で拾うしかありません。

その激レアなツアーに運よく参加できました。
万博の裏で行われる秘密の実験。その謎を探るべく、我々は未来の森の奥地へと向かったのです。
(以下、完全ネタバレ)
潜入、未来のCO₂回収工場
東ゲート付近に集合し、バスで2〜3分。立ち入り禁止エリアへ向かいます。


最初に案内されたのは「ガイダンスホール」。
ただのホールではなく、一枚の木材パネルを折り紙のように畳んだ特殊構造。イスや床材もCO₂抑制素材というこだわりです。

まずは10分ほど映像を鑑賞。可愛らしいキャラクターが施設を説明します。
気候変動の原因となるCO₂の増加に対して、「省エネ」や「再生エネルギー」などで排出を減らすだけでは不十分。排出をゼロにしても、すでに排出した分はなくならないからです。
そこで「RITE未来の森」では、森のように大気中から積極的にCO₂を回収する技術「DAC(ダック)」を研究しているのです。
いよいよ装置と対面
次に2階のテラスからDAC装置を見学。高さ3メートル、横8メートルぐらいの装置が3台並ぶ壮大な光景です。

仕組みは空気清浄機のようなもの。右側の吸気口から空気を吸い、中央のフィルターでCO₂を吸着して除去、そして左側から排出します。

フィルターがCO₂を吸着していっぱいになると、低温低圧の蒸気で処理します。これにより、CO₂が蒸気とともに運ばれ、フィルターが再生されます。


回収したCO₂の行方
次に下の階に移動し、装置の下半分の説明にうつります。

先ほどの工程で生じた蒸気とCO₂の混合ガスをタンクで冷却。すると蒸気が水になって除かれ、高純度(95%)のCO₂が得られます。

最終的にCO₂は白いタンクに運ばれて貯蔵されます。

秘密の"RITEアミン"
装置で重要なのは、フィルターが含む「アミン」というアルカリ性の物質。CO₂は水に溶けて酸性を示すため、アルカリ性のアミンと結合するのです。
アミンには液体、固体、膜の3タイプがあり、この装置ではシリカゲルのような固体アミン(固体吸収剤)を採用。特に「RITEアミン」と呼ぶ秘密の新成分で、フィルターからCO₂を回収する際に省エネを実現します。

CO₂が燃料に化ける!?
回収したCO₂の一部は隣の「化けるLABO」(大阪ガス社)で"e-メタン"という燃料ガスになり、迎賓館での調理に利用されます。

この工程は別のツアーで見学できるので、こちらも挑戦したいところです(やはり予約は激戦…)。
頼れる仲間たち
以上でDAC装置の説明は終了ですが、この施設では企業や大学の共同研究ブースがあり、回収したCO₂の活用や別のDAC技術も紹介されています。
◾ 冷気でCO₂を回収
名古屋大学のブースで紹介するのは、CO₂を冷却してドライアイスにすることでアミンから分離回収する「Cryo-DAC®(クライオダック)」。

面白いのは冷却にLNG(液化天然ガス)を用いる点。液体で輸入したLNGをガス化すると周囲をマイナス160℃に冷却(気化冷却)します。現状ではあまり活用していないこの冷気をCO₂回収に活用するのです。
■ 膜でCO₂を回収
九州大学ブースが紹介するのは、CO₂のみ透過する極薄の膜を使った「DAC-U技術」。大気をこの膜に通してCO₂を分離回収、さらにその一部から燃料ガスなどを合成するのです。

使う膜は厚さ0.00003ミリメートル。髪の毛の太さの約2千分の1というわけの分からない薄さです。

装置が小型で家庭にも設置できるため、室内からCO₂を回収し、炭酸水や燃料を作る日常を目指しているそうです。正直、燃料作るよりその電力でオール電化した方がよさそうですが。

■ CO₂が道路に?
前田道路社のブースは、回収したCO₂の処理先として、道路が有望であることを紹介しています。
具体的には、コンクリートがアルカリ性であることを生かし、粉砕した排コンクリートにCO₂を吸収させ、道路の基礎(路盤材)に用いるのです。

ここで簡単なサイエンス実験。
粉砕コンクリートを入れたペットボトルにCO₂を充填。するとCO₂が粉砕コンクリートに吸収されてあっという間にボトルが潰れます。
粉砕コンクリートがCO₂を吸収することが視覚的に理解できる実験でした。

また、CO₂を原料とする炭酸カルシウムをアスファルトに混ぜ込む技術も紹介されます。
この炭酸カルシウムはアサヒ飲料社の「CO₂を食べる自販機」で合成。これら技術の組み合わせでCO₂を道路に封じ込めるのです。


似た技術ですが、大成建設社と住友大阪セメント社による、CO₂を原料とする人工石灰石を用いたコンクリートも展示。

CO₂という難敵に対して、企業や大学がタッグを組んで対策を進めていく。まるでアベンジャーズのような頼もしいチームです。
CO₂を地面に封印
最後はRITEの取り組むCCS技術(Carbon Capture and Storage)です。

DACで回収したCO₂は、一部は活用するものの大部分は使い道がないため地下に封じ込めます。
地下といってもどこでもいいわけではなく、スポンジのように細かい穴がたくさん存在する特殊な岩石層(貯留層)を選びます。この細かい穴にCO₂が浸透するのです。

また、貯留層の上には、水もガスも通さない岩石層(遮蔽層)が存在し、フタのように塞いでいる必要があります。

再び簡単な実験として、実際の貯留層の岩石に空気を吹き込みます。すると表面のあちこちから気泡が発生。スポンジ状でスカスカの岩石であることがよく分かる実験でした。

貯留層に送り込まれたCO₂は水や鉱物と反応して徐々に一体化します。RITEは20年前から実験を行い、安定な閉じ込めに成功しているそうです。


ここで1時間のツアーは終了。スタンプを押してバスで戻って解散です。

全体的に説明は駆け足でしたが、とても珍しいものが見れました。予約は難しいですが、チャンスがあればぜひ参加して欲しいツアーです。なお、万博後はDAC装置を京都のRITE本部に移して研究を続けるそうです。
ちなみに、見学したDAC装置の一日のCO₂回収量は300~500キロ。日本の排出量から計算すると国民20人分です。正直、あの規模にしては回収量が少なく、エネルギー効率や費用の観点から実用化は遠そうです。
それでも、万博の裏側でこうした技術で温暖化問題に取り組む人たちがいるということはもっと知られて欲しいです。

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