第4部古墳時代(1)大和王権
#18 応神天皇と渡来の技術 ― 海の向こうから来た新しい風
夕暮れの光が山の端に沈み、囲炉裏の火が赤く揺れた。タチは火の前に座り、少し緊張したような顔をしている。神話の世界から抜け出し、いよいよ“人の歴史”が始まることを感じているのだろう。
おばばは炭を寄せ、ゆっくりと語り始めた。「さて、今日は“応神天皇”の話じゃ。古墳時代の真ん中あたり、クニが大きくなり、人が増え、技術がぐんと進んだころの話じゃ」タチが首をかしげる。
「応神天皇って、どんな人なんだ?」「一言で言えば、“新しい風を受け入れた王”じゃ。海の向こうから来た技術や人々を受け入れ、クニを大きくしたんじゃ」おばばは火の揺らぎを見つめながら続けた。
「昔の日本は、海に囲まれた島国じゃが、海は“壁”ではなく“道”じゃった。朝鮮半島や中国から船が来て、鉄、織物、窯の技術、文字の知識――さまざまなものが運ばれてきた」タチが目を輝かせる。
「じゃあ、渡来人って、技術者だったんだな」「そうよ。応神天皇の時代には、特に多くの渡来人がやってきた。鍛冶、機織り、土器づくり、農具の改良――彼らの技術は、ムラの暮らしを大きく変えたんじゃ」
おばばは手を広げる。「たとえば“須恵器”。あれは高温で焼く硬い土器じゃが、渡来人が窯の作り方を教えてくれたからできたものじゃ。古墳の周りに並べられた埴輪も、技術の進歩があったからこそ作れた」
タチがうなずく。「じゃあ、古墳時代って、ただお墓を作ってたんじゃなくて、技術がどんどん入ってきた時代なんだな」「そうよ。鉄の農具が広まり、田畑が広がり、収穫が増えた。布を織る技術が進み、衣服が豊かになった。窯が改良され、硬い器が作れるようになった。暮らしが変われば、ムラもクニも変わる」
おばばは続けた。「応神天皇は、こうした渡来人を大切にした。彼らを“品部(しなべ)”として組織し、技術ごとに集めて保護した。技術は宝じゃ。昔の人はそれをよく知っておった」タチがぽつりと言う。
「なんか、今の日本の“ものづくり”の原点みたいだな」
「そうじゃ。古墳時代は、ただの古い時代ではない。今の日本の“技術の土台”ができた時代なんじゃ」
おばばは火を見つめながら続けた。
「そして、応神天皇の時代には、もうひとつ大きな変化があった。“クニのまとまり”が強くなったことじゃ。大王(おおきみ)の力が大きくなり、各地の豪族がそのもとに集まるようになった」
タチが息をのむ。「じゃあ、ここから“ヤマト政権”が本格的に動き出すんだな」
「そうよ。古墳が巨大になったのもその証じゃ。大王の力が強くなれば、古墳も大きくなる。技術が進めば、さらに大きくできる。古墳は“クニの力の見える形”なんじゃ」
おばばは立ち上がり、炭を整えた。「さて、次は“仁徳天皇と巨大古墳”。あの大きな前方後円墳が、どうやって作られたのか――その裏にある庶民の暮らしを語ろう」タチの目がまた輝いた。
囲炉裏の火は、次の物語を待つように静かに揺れていた。(つづく)
