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認知英文法:叙法とメンタル・スペース


叙法とメンタル・スペース

ジル・フォコニエの「メンタル・スペース」論を細江逸記の「叙法」論(叙実法、叙想法、叙意法)と関連させて考えてみることにする。両者は異なるレベルからのアプローチだが、話し手の叙述内容に対する態度に注目している点で深く結びついている。

叙実法とメンタル・スペース

細江の態度: 事実または現実として述べる態度

メンタル・スペースからの解釈: 叙実法で述べられる命題は、話し手が自分の現在の現実として認識している「基底スペース」(Base Space)の中に位置づけられると考えられる。話し手は、この基底スペースの内容をそのまま聞き手と共有しようとする。

関連: 叙実法とは、主に基底スペース内の出来事や状態を描写し、それを聞き手も共有する「現実」として提示する態度に対応すると言える。

The sun rises in the east.
→ 基底スペース内の普遍的な事実。

He visited Kyoto last year.
→ 基底スペース内の過去のある時点に位置づけられる出来事。

It is raining outside.
→ 基底スペース内の現在の状況。

叙想法とメンタル・スペース

細江の態度: 思考、想像、仮定、願望など、事実として断定しない、心の中の事柄として述べる態度。

関連: 叙想法とは、基底スペースとは異なる認知的なスペース(新しいスペース)を構築し、その中の事柄として叙述する態度に対応。この新しいスペースが、話し手の思考、想像、願望といった内面的な捉え方を反映している。

If I were you,...
→ If が「仮定のスペース」を構築し、
I were youはそのスペース内の非現実の状況を描写。

I wish I were taller.
→wish が「願望のスペース」を構築し、
I were taller はそのスペース内の望ましい状況を描写。

I suggest that he be here.
→ suggest that が「提案のスペース」を構築し、
he be here はそのスペース内の提案内容を描写。

It may be true.
→ may は、命題 it is true を基底スペースに直接置くのではなく、
可能性のスペース」または「確実性の低いスペース」に関連付けて位置づける。

叙意法とメンタル・スペース

細江の態度: 相手に対して意志、要求、命令、願望などに基づき、行為を促す態度。

メンタル・スペースからの解釈: 叙意法で述べられる行為の命題は、これもまた基底スペースから分岐した「新しいスペース」、特に「行動のスペース」(Action Space)あるいは話し手が望む「未来のスペース」の中に位置づけられる。話し手は、この望ましい未来のスペースを構築し、聞き手に対して、そのスペースの内容を現実化(つまり基底スペースに取り込む)するように促す。命令法や Let's、あるいは意志・要求を表す動詞や助動詞が、この目的のためのスペース構築に関連する表現となる。

関連: 叙意法とは、話し手の意志によって規定される、相手の行為に関わる新しいスペース(多くは望ましい未来のスペース)を構築し、聞き手にその内容の実例文との関連:現を促す態度に対応する。

Stop talking.
→ 話し手が望む「話していない未来のスペース」を構築し、
聞き手にその状態を実現するよう促す。

Let's go.
→ 話し手と聞き手を含む「一緒に行く未来のスペース」を構築し、その実現を提案・勧誘する。

You must finish this.
→ 話し手の強い意志に基づき、「あなたがこれを終えている未来のスペース」を構築し、その実現を義務として課す。

結論

ジル・フォコニエのメンタル・スペース論は、細江逸記の叙法論が記述する「話し手の叙述態度」が、われわれの認知システムの中でどのように構造化されているのかについての洞察を与えてくれる。

つまり、細江の叙法論が「どのような態度が、英語でどのように表現されるか」を記述するのに対し、メンタル・スペース論は「その態度に対応する認知的な状況は、われわれの頭の中にどのように構築されているか」という、より根源的な意味処理のメカニズムを提供していると言える。両者は補完的な関係にあり、叙法という現象を言語学的・認知的な両面から深く理解する上で非常に有用な理論と言えるだろう。


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