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『絵本・白峰アカネの冒険』20.楽園追放

 白峰山の岩肌に封印されたアカネ。その心と身体は、かつて感じたことのない「確かさ」で満たされていた。

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 自分の身体と外界の境が消えてきた。全身が柔らかくほどけ、身体を構成する細胞がバラバラに流れ出し、岩肌に溶けこんでいく。そこには、温かく甘味な安らぎがあった。

――このまま、ほどけ、流れてしまえ。
アカネはそう念じ、そして、その願いはかなえられつつあった。

 突然、背中に強い圧がかかった。アカネは、すでに輪郭が定かでない自分の身体が圧で飛散するだろうと思った。
 ところが、アカネの身体は、逆にまとまり始めた。流れ出た細胞が何かの力で引き戻され、凝集し身体を再構成し始める。
 外界から独立した身体という枠組みが再び形を取り始めた。すると、そこに、身体を岩肌から押し出そうとする力が加わり始めた。

「イヤだ、止めて!」
アカネは声を上げて、自分を押し出そうとする力にあらがった。外界と一体になった温かく甘味な安らぎに、いつまでも浸っていたかった。

 しかし、細胞の凝縮は容赦なく進行し、封印される前の身体感覚が急速に戻ってきた。すると、今度は、身体の動きを奪われていることへの恐怖が湧いてきた。そこに、新たにアカネを岩の中に引き止めようとする力も加わり始めた。押し出そうとする力と引き留めようとする力がせめぎあう中で、アカネも自由への衝動と甘美な安らぎの誘惑の間を行きつ戻りつした。

しかし、ついに、自由への衝動が上回った。
「イヤだ、私を離して! 自由にして!」
アカネは声を上げて、自分を引き留めようとする力にあらがった。自分を押し出そうとする力に身を任せ、感覚がよみがえった足先で岩肌を強く蹴った。

 引き止める力の縛りがウソのように簡単に解けた。勢い余ったアカネは山道に飛び出し。そのまま二、三歩まえに進んだ。脚がもつれて前のめりに倒れるところを、辛うじて地面に両手をつき身体を支えた。

「戻ることができて、良かった」
突然、頭の上から太くて低い声が降ってきた。地面に両手をついたまま顔を上げると、前方の山肌に眉毛のない不気味な男性の顔が浮かび出ていた。
「君は、あそこにいてはならない」
男性がつづけ、アカネのなかに恐れと困惑が広がっていった。

次回はこちら:


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