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『絵本・白峰アカネの冒険』19.確かさ

リンの手下の「風」に飛ばされ岩肌に激突したアカネ。腹部に何かがヌルヌル入り込んでくる感触に目を向けると、松の枝が腹部から突き出していた。

前回はこちら:

 アカネは自分が悲鳴を上げずにいることに驚いた。身体から松の枝が生えていたら、体内で内臓が引き裂かれているのを想像し恐怖で叫び出しそうなものだ。
 ところが、アカネは、ただ口をポカンとあけて自分の身体とそこに生えた松を見ているだけだった。自分の身体が自分のものとして感じられないのだ。

 我が身を他人事(ひとごと)のように眺めていると、下半身の色合いがだんだん薄れ始め、つづいて、下半身の輪郭がぼやけてきた。

 そして、足先が見えなくなった。視界から消えたのだが、だからといって足先の存在が消えたとは感じなかった。それよりも、足先と周りの岩肌の境が消えて、ひとつづきになった感じなのだ。自分の足先は岩で、岩が自分の足先だった。

 続けて脛、ひざ、ふともも、腰......と、身体の下の方から身体と岩肌の境が消えていく。痛くもかゆくもない。代わりに、身体のこわばりが温かく優しい手でほぐされていくような心地よさがある。

――これが、封印されること?

 話に聞いて想像していたのとは、まるで違っていた。生きたまま狭い箱に押し込まれ動きを封じられる恐怖と苦悶を想像していたのに、いま感じているのは、身体がのびのびとほぐれていく解放感だった。

‐―もしかしたら、リンの手下が私を封印しそこなったのかしら?

 アカネがいぶかしんでいると、空中で無数の光の帯が踊り始めた。ひとつひとつの帯は虹の七色のそれぞれに染まり、それらが絡み合い渦を巻いて空間を光で満たした。

 渦が急速に一つにまとまり、そこで光が凝縮されていった。凝縮された光は光球となって激しく震え、ついに炸裂し、周囲の空間を光の砕片で満たした。

 アカネは激しい光芒に目を閉じた。少しして刺激に慣れた目を恐る恐る開くと、目の前の光景が先ほどまでと全く違っていた。アカネは、巨大な光球の内部にいた。驚いて目を見開く。
 光球の中心にひときわ明るい核のようなものがあり、そこから、まるで風が吹き出すように、無数の光の帯が球の外周めがけて流れ出ていた。アカネは、そうした帯のひとつに支えられ、光球内で宙に浮いていた。

 自分を支える光の帯には、さまざまな色と形の生き物が連なっていた。アカネに馴染み深い鳥や獣もいれば、見たこともない生き物もいた。中心核に近づくにつれて、木々や草花などの植物が増えていく。

 ふと、隣りの光の帯に目を向けると、その帯に支えられて、一頭の魔獣がアカネのそばに浮かんでいた。その魔獣は、アカネが今までに出会ったすべての魔獣によく似ているようでいて、どれとも全く違っていた。

 魔獣と目が遭った。恐れも緊張も警戒も感じさせない目だった。もちろん、敵意などみじんもない。魔獣は、まるでうっとりしているように見えた。

――自分も、あんな目をしているのだろうか?
そう思ったとき、アカネの身体の奥で一つの声がした。

「ここは、あなたであり、魔獣でもあり、そして、すべての生きとし生けるものなのです」

――ここは? 「ここ」って、どこのこと? この光球のこと?

アカネの質問に答えたのは、今しがたの声ではなく、アカネの身体自身だった。

――そうだ。そうなのだ。

アカネの心と身体が、いや、アカネという存在が、かつて感じたことのない「確かさ」で満たされていた。

この「そう」には、他にどのようなありようもなく、絶対に永遠に「そう」なのだ。

――これで良い。自分は生まれる前から「こう」だったし、今も、これからも、未来永劫、「こう」なのだ。

確かさにつづいてかつてない安らぎが訪れ、アカネという存在を包み込み始めていた。

次回につづく




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