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色褪せぬ蒼き記憶が眠る場所:Oceanlane 『Fade In Time』|感情の設計図#5

クローゼットには、色褪せぬ蒼き記憶たちが眠っている。

大学生のころ、社会人になりたてのとき、なけなしの給料のほとんどを投じて、貪るようにCDを集めていた。気に入ったアーティストが影響を受けたアーティストを辿っては、新たな作品を見つけていった。

サブスク配信はおろか、スマホもない頃。レコード店にあるフリーペーパー、ライブハウスこそが貴重な情報源だった。お金にも彼女にも縁がなかったけれど、そのときはたしかに豊かな時間があった。

そして僕の色彩感覚やアートへの興味は、出会ってきた無数のアルバムジャケットを通して養われたような気がする。

ふと思い立ち、クローゼットの奥から、2004年に出会ったこのジャケットを手に取ってみた。



眠っていた蒼き記憶

街角から広がる青空。横方向に伸びる、少しだけ憂いを帯びた薄雲たち。
よく見ると、奥には飛行機らしき小さな影。

和製エモーショナル・ロックバンドOceanlaneの1st『On my way back home』。

1st『On my way back home』


当時としては珍しい、全編英語詩で限りなくネイティブ発音のツインボーカルが魅力だった。武居創さんの透明感に満ちた声と、直江慶さんのハスキーボイス。そして鉄壁のリズム隊。美しくもメランコリックなメロディとコーラスワークが、多感な時期の僕の心を揺さぶった。


Jimmy Eat World、The Get Up Kids、The Promise Ring、Last Days Of Aprilなど90年代のEmoと共振し、かつOasis、Travis、Radiohead、ColdplayなどUKロックからの影響を色濃く受けた作風。


彼らは2011年に無期限活動休止するまでの約10年間で5枚のフルアルバムを発表。そのどれもが素晴らしいものだったが、抒情的な感情表現、アルバムジャケットの装いの美しさ、シーンに現れたときのインパクトを含め、1stが出た時の衝撃はなにより大きかった。

タワーレコードオンラインに、当時の貴重なインタビューが残っている。

 「メロディーがしっかりあって、そこに左右両方から違うギターのフレーズが絡んでくるっていうか。それによって両方が引き立つ。フレーズは大体家でデモ作ってるときに決まってきますね。無意識で夢中になってると出てくる」。

2004年1月『Bounce』OCEANLANEインタビューより抜粋



消えゆく存在ゆえの美しさ

『On my way back home』には『Everlasting Scene』『Sign』『Ships&Stars』など素晴らしい曲が並ぶ。


※2005年に発売されたスペシャルエディションには、『All You Miss』『Answer to This Flower』などのボーナストラックが収録されていて、それもまた出色だった


そんな中、僕の心に20年以上寄り添い続けてくれたのが、本編の最終曲となる『Fade In Time』だった。

歌詞には無常感が漂う。演奏も抑制的に始まる。
静寂な場所を舞台に「時間の中に消えゆく存在としての僕たち」を静かに、しかし切実に描いている。

ライナーノーツより

We all just fade in time
Will our voices be reminded?
We all just fade in time

僕らは時間と共に薄れ消えてゆく
せめて僕らの声を覚えていてくれるだろうか
僕らは時間と共に薄れ消えてゆく

『Fade In Time』より
ライナーノーツより。本人たちによる対訳が印象的だった。


『Fade In Time』の貴重なライブ音源が残っている。2ndアルバム『Kiss&Kill』がリリースされた際のツアー「Flamingo Flies North Tour」DVDに収められていた。

アコースティックギターのソロから始まり、武居さんの涼しげな声が乗る。ドラム、ベース、エレキギターのアンサンブルは寄り添いながら、徐々に熱を増していく。ギターは歪みを強め、中盤~後半ではシューゲイザー的な音像を深めていく。

終盤”She never replies…” のリフレインからは、他者(おそらく重要な存在、恋人・親・友人など)との断絶が象徴され、静かに収束していく。この無応答の繰り返しは、喪失・諦念・孤独といった感情を強く示唆している。



無常だからこそ想いを馳せる

僕らの人生は喪失と再生の連続だ。とどまるものがないからこそ、今この瞬間を大切に抱きしめ、感情の煌めきを慈しみ、失ってしまったものにもささやかに想いを馳せることができる。失うからこそ、新たに立ち上がるための余白を得ることができる。

前述のとおり、Oceanlaneは5枚のスタジオアルバムを残して事実上の解散となった。彼らの音をリアルタイムで聴く機会はもうなくなってしまったけれど、僕らはこうして素晴らしいエバーグリーンな曲たちにいつでもアクセスし、想いをつなげることはできる。



彼らはシーンの先端を走り、そして去っていった。そこには当時だからこそ成しえた日本のエモーショナルロックのひとつの到達点が詰まっていた。

1stアルバムの帯に書かれていたフレーズを、いまも思い出す。

「友達に教わる前に、君が友達に教えるべきバンド」


この名もなきnoteがいつか誰かの目に触れて、新たな蒼き記憶のきっかけになりますように。



補足:OceanlaneのPeople Tree

Oceanlaneが主に活動したのは、2000年代。いわゆる「emo」が市民権を獲得しつつあるころ、日本ではイースタン・ユースやHusking Beeなどがハードコアパンクを土台にしてシーンを賑わせつつあるなか、全編英語詩のOceanlaneの音楽性は一線を画し、激情よりも抒情的な表現、カタルシスよりも美しさが際立っていた。若干バックグラウンドは異なるものの、Comeback My  DaughtersやLocal Sound Styleとも共鳴するものがあったと思う。

時期をともにするように、エモからポップパンク/メロコアへと振り切ったエルレガーデンや日本語表現にこだわったASIAN KUNG-FU GENERATIONがメジャーでも人気を博す中、彼らが純度の高いエモを鳴らすOceanlaneに注目し続けていたのも偶然ではないだろう。


僕は、音楽の力を、つながりを、信じている。


畑中修介様によるOceanlaneの素晴らしい特集記事もありました。



ご興味を持っていただいた方へ。他の楽曲も👇で紹介しています。
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