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かごの中の鳥だった私が、初めて自分で「人生」を選んだ夜。【第2話】

おはようございます。

出勤してすぐ、やらかしたことがあって。

ノートパソコンのACアダプタを、家に忘れてきたんです。

「やばい!これじゃぁ仕事ができない」


でも、こういうとき、何か利点はないかと探すのが、
私のいつものクセなんですよね。


そう思って周りを見たら、ふと、隣のデスクにアダプタが一つ。


出張中の同僚が、置きっぱなしにしていたものでした。
会社支給の、同じ機種。

「捨てる神あれば、拾う神あり!」

かなり昔の、ある曲の歌詞にもありましたね。

そう口に出して、その日はなんとか乗り切った松田です。

お互いの忘れ物で、なぜか助かってしまった。
マイナス同士がくっつくと、プラスになるのかもですね(笑)

……思えば、私の20代のどん底も、
そんな『マイナス同士の不思議な出会い』がきっかけで、
少しずつ動き出しました。


前回の第1話では、
22歳の私が、どれだけ深いどん底にいたか、という話をしました。


1年で7回の事故。
膨れ上がる借金。


心が壊れて、逃げるように会社を辞めた。

世界のすべてが、敵に見えていた頃の話です。

▼まだ読んでいない方は、こちらから。
(ちょっとだけ、読む覚悟がいるかもしれません)

さて。
逃げるように会社を辞めた私が、
その後どうなったのか。


もちろん、「めでたし、めでたし」というわけにはいきません。

結局、逃げグセがついたままでは、どん底から、
なかなか抜け出せないものなんですよね。

 


かごの中の、一羽の鳥


自動車ディーラーを逃げるように辞めた私が、

次に見つけたのは人材派遣の仕事。

派遣先は、家からずいぶん離れた工場でした。

正直、どこでもよかった。
どうでもよかった、

というのが、本当のところです。


夏の朝。

エアコンなし、
ラジオだけがついた、10万円の軽自動車のハンドルを握る。

アクセルを全開にしても、時速60キロがやっと。

車が大好きだったはずの自分が、こんな車に乗っている。

夢も、希望もない。

一言で言えば、「不甲斐ない」。

その気持ちで、いっぱいでした。


工場の仕事は、基板づくり。

ベルトコンベアが、基板を運んでくる。

機械がチップを、カシャカシャと高速で取り付けていく。

私の仕事は、そのチップが入った「マガジン」を、補充すること。

ただ……それだけ。

カシャカシャという音が止まると、

赤いランプが点く。

空になったマガジンを、交換する。

カシャカシャ、赤ランプ。

また、交換する。

カシャカシャ、赤ランプ。

また、交換する。

機械の指示に、従うだけ。

早いも、遅いもない。
上手いも、下手もない。

自分がいなくても、たぶん、誰かがやる。

自分じゃないと『いけない』っということは、なにもありません。

12時間。同じ場所に立って、同じ動きを、繰り返す。


ある日、ふと思ったんです。

以前の職場は、人間に振り回されて
そして今の仕事は、機械に振り回されている

ほんと、かごの中の鳥と、同じだな。

そう思ったとき、自然と、涙が流れていました。


仕事そのものを、否定するつもりはありません。

ただ、私はそこに、『やりがい』を見つけられなかった。

いや……見つけようとしなかった

そう言うほうが、正しいのかもしれません。

毎日、決まった時間に職場に移動。
決まった作業をして、決まった時間に家に帰る。

家に帰れば、
生きるためだけのご飯を食べて、
世界から逃げるために、
酒をたくさん飲んで、毛布を頭からかぶって寝る。


羽は、たぶん、あるんです

でも、どうやって飛ぶのかが、分からない。

それすら、分かりませんでした。

前向きな言葉を、久しぶりに発した日


そんなある日のことです。

学生時代からの友人に、こう誘われました。

「女の子が三人来るんだけど、男が一人足りないんだ。
頼むから、参加してくれないか」

正直、気が進まない。

こっちは、借金まみれの、かごの中の鳥。

誰かと楽しく過ごすような気分には、とてもなれない。

でも、昔からの友人の頼みです。断りきれず、
しぶしぶ、その席に行きました。

そこに、いたんです。

一人の、女性が。

なんというか、妙に気が合いました

彼女も、仕事のことで、悩んでいました。

うまくいかない。

しんどい。

そんな話を、ぽつぽつと、こぼしていく。

気づいたら、私は、こう言っていました。

「そうだよね。厳しいよね。……でも、大丈夫だよ」

言った後、フッと、笑ってしまいました。

借金まみれで、かごの中にいて、
布団の中で妄想することだけが、
唯一の楽しみだった自分が。

誰かに、「大丈夫だよ」と、言っていたんです。

いや。
自分自身に、言ったのかもしれません。


缶コーヒー二つぶんの、デート

彼女と、会うようになりました。

とはいえ、私の財布は、相も変わらずです。

毎月最低限の返済額を返し、
軽自動車にガソリンを入れたら、もう何も残らない。


まともなデート(まともなデートって、何だろう……)なんて、
できやしません。

ファストフードのセット
(当時、1000円もあれば、二人分は買えました)
で、食事。

あてもなく車を走らせて、
無料でやりすごせる、公園や海岸の駐車場に停める。

缶コーヒー片手にどうでもいい会話で、ひとときの幸せを感じる。

それが、精一杯

彼女は、文句ひとつ言いません。

安心する」と、言って笑顔を見せてくれる。


でも、その笑顔を見るたびに、
心臓が、誰かに握られている感覚がするんです。


寂しい思いを、させているんじゃないか。

最初は、そう思っていました。

……いや。
そうじゃない。


そんな余裕なんか、ない。

本当に嫌だったのは、彼女に何かをしてやれないこと、
じゃない。

何ひとつできない、小さな「自分」でした。

甲斐性のなさ。
本当に、情けない……。


いままでの私は、嫌いなものを聞かれたら、
迷わず「自分自身」と答えるような人間です。

でも、この日の自己嫌悪は、いつもと少し違ったんです。

いつもなら、酒を飲んで、布団にもぐって、
お金持ちになって、何不自由していない生活を妄想する。

その夜は、できませんでした。

ぬるくなった、まだ半分以上残ってる缶ビールを握りしめたまま。

このままじゃ、だめだ。

足元で、空き缶が、コンッと鳴った。

不思議でした。



何もかも「どうでもよかった」はずの自分の中で、
その言葉だけが、ちゃんと熱を持っていた。

変わりたい、というより。
この人の前で、情けないままではいたくない。
ただ、それだけでした。


そして私は、それまでの自分なら、
考えもしなかったことを、考え始めます。

一攫千金……。起死回生……。


このかごから、一発で抜け出す方法はないか。
そうやって行き着いたのが、「投資の会社」でした。


お金で、すべてをひっくり返す。
世の中、お金があればなんとかなる

今思えば、ずいぶん危なっかしい発想です。

でも、人生のどん底に入ってから初めて、自分で『選択した道』でした。

かごの中で、ずっとたたんでいた羽を、
おそるおそる広げてみる。


その広げ方を思い出させてくれたのは、たぶん、彼女でした。

かごの戸が、開いた音


人が変わる瞬間って、たぶん、大それた決意なんかじゃ……ない。

今まではとてもできなかった。
『心の声』を、従ってみる。


他人から見れば、大したことではないかもしれません。

でも、あの夜の私には、まるで世界がひっくり返るくらいの、
一大事でした。

翌週、私は派遣会社に、辞める意思を伝えました。

工場の機械は、相変わらず、カシャカシャと鳴っていました。

私がいなくなっても、何ひとつ困らない。

それを分かったうえで、私は、かごの戸に手をかけたんです。

ドキドキしながら、押してみる。
きい、と。

戸は、思っていたより、あっさり開きました。
拍子抜けするくらい、簡単に。

派遣時代に、気づいたことがあります。

世の中なんて、敵だと思えば、敵になる

だけど、案外、
優しいもんだと思えば。現実のほうが、少しだけ、優しくなる。

そんなもんなんですよね、おそらく。

そういえば。

第1話で、一冊の本のことに、少しだけ触れました。 私の人生を、変えた本。

あれと出会うのは、もう少し、先の話になります。

このときの私は、まだ、その本のページを、一枚もめくっていないんですから。

それでは、また次回。

おはようございます、で会いましょう。

▼第3話はこちら


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


私は、特別な人間ではありません。

むしろ失敗ばかりしてきました。

でも一つだけ、確信していることがあります。

人は、何歳からでも変われます。

このnoteでは、どん底から立て直す中で気づいたことを、
少しずつ書いています。

しんどいとき、隣にそっと置いてもらえる文章を届けたい。

深刻にならず、真剣に。

なんとかならないことはありませんよ。

松田海都

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