年収も暮らしもようやく人並みに。でも、心は穴が空いたまま。【第3話】
おはようございます。
月曜の朝。
いかがお過ごしですか?
私は今日、これから重たーい会議がありまして。
うちの会社、会議で議案を通すときは、
出てくる質問の全部に、
納得のいく「説明」がいるんです。
一つでも詰まったら、そこで終わり。
その資料を、今回、初めて部下に任せてみました。
いつもは、自分でやってたんです。
そのほうが、確実だから。
でも、それじゃあいつまでも、私がやり続けることになる。
……と、頭では分かってるんですけどね。
正直に言うと、ちょっと心配で。
任せたくせに、さっきも資料をこっそり見直したい衝動を、
ぐっとこらえてました。
責任は私がとればいい。
それは、いい。
でも——出す以上は、通さないと、いけませんから。
そんな、任せることに、そわそわしている松田です。
……なんて、今でこそ「任せる」なんて言えるようになりましたけど。
昔の私は、任せるどころじゃありませんでした。
何もかも、自分で抱え込んで。
それなのに、空回ってばかりで。
今日は、そんな「必死なのに、うまくいかなかった頃」の話を
したいと思います。
▼前回は、かごの中から羽を広げて、初めて自分の意志で「投資の会社」を選んだ、というところまでお話ししました。
第2話を読んでいない方は、こちらからどうぞ。
新しい生活の始まり
人材派遣の工場勤務から、「投資の会社」の営業職に転職。
驚いたのは、暮らしのほうでした。
下駄箱もない、風呂とトイレが一緒の……。
まるで下宿部屋から、いきなりレオパレス。
家賃も、電気も、水道も、全て会社持ち。
部屋には、電子レンジと、
なんと、エアコンが……エアコンがついてたんです!
社会人になってから、エアコンのある生活なんて、
一度もありませんでした。
お金なんてありませんから、引っ越しは、
レンタカーで軽トラを借りて、友人に手伝ってもらいました。
汗だくで、荷物を運び込んでいました。
ひと息ついて、なんとなく、リモコンのスイッチを押してみる。
すうっと、冷たい風が、降りてきました。
汗が引いていく。それだけのことなのに。
電気代を、気にしなくていい。
そう思った瞬間、なぜだか、ちょっとだけ、目の奥が熱くなりました。
ああ、自分は今、ちゃんとした場所にいる。
かごの中で、ずっとたたんでいた羽を。
少しだけ、広げてもいいのかもしれない。
孤独から一変。
驚いたのは、住まいだけじゃなかったんです。
この会社は、前回の仕事では考えられない「文化」があったんですよ。
お昼を食べに行くと、必ず、上司がおごってくれる。
「俺と同じメニューでいいか?」
最初は、戸惑いました。
それまでの私は、誰かと一緒にごはんを食べること自体が、
ほとんどなかったんです。
それが、毎日です。
おかげで、食費は驚くほど減りました。
でも、ありがたかったのは、たぶん、お金のことじゃない。
一人で寂しく食事をしていたのが、少なくとも昼食については、上司たちが一緒にご飯を食べてくれる。
「いただきます」を、ひとりで言わなくていい。
たった、それだけのこと。
なのに、胸の奥が、じんわりあたたかくなるんです。
そして、もう一つ。
この会社、とにかく飲み会が多かった。
人によっては、しんどいのかもしれません。
でも、もともと私は、お酒が好きでしてね。
それも、ひとりじゃなく、仲間と飲む。
あの時間が、たまらなく楽しかったんです。
おいしい食事と、お酒。
仕事終わりに、それが待っている。
正直、夢見心地でした。
エアコンの効いた部屋。
おごってもらえる昼。
お酒の並ぶ夜。
ずっと、かごの中にいた私が。
気づけば、ちゃんとした暮らしの中に、立っていたんです。
このまま、何もかも、うまくいく。
——そう、思っていました。
人の2倍以上働いているのに……
暮らしは、見違えるほど良くなりました。
でも、肝心の仕事は、うまくいかなかったんです。
当時、中途入社という立場もありました。
早く追いつきたい。
いや、正直に言えば——出世して、ガンガン稼ぎたかったんです。
誰よりも早く出社し、外国の市況の資料を印刷し、
新聞をデスクに並べて、その日の準備を始める。
日中は、ひとりでも多くのお客様に、100万ドルの笑顔を振りまく。
可能な限り提案を重ねて、結果、誰よりも遅くまで、
会社に残っていました。
……なのに。
成績は、いつも真ん中より、少し下。
そして、私には、どうしても勝てない相手がいました。
同い年の、彼です。
彼は、私とは何もかも正反対でした。
出社は、いつもギリギリ。
お客様と会う数も、私よりずっと少ない。
そして、誰よりも早く、スタスタと足早に帰っていく。
なのに、成績は、いつもトップ。
それも、圧倒的に。
私は、彼に、一度も勝てませんでした。
一度も、です。
毎晩、誰もいなくなったオフィスで、ひとり思っていました。
これだけやって、なんで、勝てないんだ。
自分の、何が、足りないんだ——。
かごの中の鳥はかごのまま
不思議でした。
お金は、入ってくるようになった。
生活も、人並みにおくれるようになった。
そして仲間もいる。
ずっと望んでいたものが、手に入っていたというのに。
なぜか、心の奥に、ぽっかりと穴が空いているような。
そんな感覚が、消えなかったんです。
稼いだお金は、気づけば出ていきました。
「スーツは、最低でも10万以上のものを着ろ」
「時計は、ブランド物じゃないと話にならない」
なんか、見栄を張らないといけない。
高価なものを身に着けて、それで自分の価値を高めないといけない。
そういう世界でした。
夜は、夜で。
あんなに楽しかったはずの酒の席が、いつからか、
飲まないと、やっていられない時間に変わっていました。
そして、いちばん奥のほうに、ずっと、
見て見ぬふりをしていた問いが、ありました。
——この仕事。続けられるのだろうか……。
お客様に頭を下げて、提案をして、契約をいただく。
でも、その先で、お客様と一緒に喜べた記憶が、
どうしても、思い出せなかったんです。
私が数字を上げて、よろこぶ。
その裏側で、もしかしたら——。
考えると、足が止まりそうになる。
だから、考えないようにして、また走りました。
ちゃんとした暮らし。
ちゃんとした給料。
ちゃんとした仲間。
かごの外に出られたと、思っていました。
でも、ちがった。
私はただ、もっと立派な、別のかごに、
移っただけだったのかもしれません。
その人は、大阪にいた
そんな、もやもやを抱えたまま、
働いていた、ある日のこと。
私に、転勤の辞令が出ました。
大阪支社。
栄転でした。
でも、気が進みませんでした。
心の奥底の「もやもや」が、場所を変えたところで、
晴れるとは思えなかったからです。
ところが——。
その大阪で、私は、ひとりの人と出会うことになります。
この人が、のちに、私の人生を、まるごと変えてしまうことになります。
たった、二つの言葉で。
しかも、それは、
私がいちばん嫌いだったものを通して、でした。
……それは、また次回。
長くなりました。
今日は、このへんで。
また、おはようございます。
で会いましょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
私は、特別な人間ではありません。
むしろ失敗ばかりしてきました。
でも一つだけ、確信していることがあります。
人は、何歳からでも変われます。
このnoteでは、どん底から立て直す中で気づいたことを、
少しずつ書いています。
しんどいとき、隣にそっと置いてもらえる文章を届けたい。
深刻にならず、真剣に。
なんとかならないことはありませんよ。
松田海都
▼外伝を書きました。よければ第4話の前に読んでいただければ幸いです。
▼第4話はこちら※6月30日7時30分公開予定
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