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農産物の容器は、なぜ「空」のまま何百キロも運ばれているのか。

スーパーに並ぶイチゴのパック、トマトのトレー、ブドウの化粧箱。消費者はその中身の品質には注目するが、容器がどこから来たかを気にする人はほとんどいない。

実は、これらの容器の多くは、産地から遠く離れた工場で成形され、「空のまま」トラックに積まれて産地まで運ばれている。中身が入っていない、ただの箱やトレーを何百キロも輸送しているのだ。

この記事では、農産物の包装に隠れた物流コストの構造と、それを解消するための発想について書く。

「空気を運んでいる」という物流の矛盾

農産物用のプラスチックトレーや容器は、かさばる割に軽い。つまり、トラックの荷台は容積でいっぱいになっても、重量はスカスカだ。積載効率が極端に悪い。

しかも、農産物の容器には季節性がある。イチゴのシーズン、ブドウのシーズン、それぞれで必要な容器の形状やサイズが異なる。産地はシーズンに合わせて大量の容器を事前に発注し、倉庫に保管しておく必要がある。

つまり、農産物の容器には「輸送コスト」と「保管コスト」の両方がかかっている。中身を入れる前の段階で、だ。

これは食品メーカーの包装コストとは性質が違う。食品メーカーは工場内に成形ラインを持っていたり、容器メーカーの工場が近隣にあるケースが多い。だが、農産物の産地は地方に分散しており、容器工場から遠いことがほとんどだ。産地が地方にあるからこそ、容器の輸送距離が長くなる。

物流2024年問題が追い打ちをかけている

この構造に、2024年4月から始まったトラックドライバーの労働時間規制が重なっている。

農産物の輸送は、小口で手荷役が多く、鮮度管理が求められ、出荷量の季節変動も大きい。運送事業者にとって負担が大きい荷物の代表格だ。トラック輸送力の不足は農産・水産品で最も深刻とされ、2024年度には32%に達するとの試算もあった。

ドライバーの労働時間が制限されれば、長距離輸送のコストは上がる。農産物そのものの輸送コストが上がるだけでなく、「空容器を運ぶコスト」もまた上がる。

売上高に対する物流コスト比率は全業種平均で5.44%。だが農産物は、荷造運賃手数料が売上の中で高い比率を占めており、運賃の値上がりは生産コストを直接押し上げる。九州の農家などでは、この比率がさらに高くなると報告されている。

シートを運んで、産地で成形するという発想

ここで視点を変えてみる。

完成品の容器を運ぶのではなく、成形前のシート(フラットな板状の素材)を産地に運び、産地で容器に成形するという方法がある。

シート状態であれば、同じトラックの荷台に、完成品容器の何倍もの量を積載できる。かさばらないから積載効率が劇的に上がる。産地に小型の成形機を置けば、必要な時に必要な量だけ容器を作れるので、過剰な在庫を持つ必要もなくなる。

これは「物を運ぶ効率を上げる」のではなく、「そもそも完成品を運ばない」という物流構造の転換だ。

農業分野ではモーダルシフト(トラックから鉄道・船舶への転換)が議論されているが、それは「運ぶ手段」を変える話だ。一方、シートを運んで産地で成形するという発想は、「運ぶ対象」を変える話であり、より根本的な解決策になりうる。

「運ばない物流」は絵空事ではない

こうした考え方は、実は製造業では珍しくない。

たとえば、段ボール業界では、段ボールシートを工場で製造し、ユーザーの近くにある製函工場で箱に仕上げるという分業体制がすでに確立されている。シートメーカーとボックスメーカーの分業は、まさに「かさばるものを完成品で運ばない」という思想の産物だ。

プラスチック容器の世界では、この分業がまだ進んでいない。成形済みの容器を遠方の産地まで運ぶという、段ボール業界がとっくに解決した問題を、いまだに抱えている。

バイオマス素材を使ったシートであれば、前回・前々回の記事で書いた「石油価格への非連動」「容器リサイクル法の負担軽減」というメリットに加えて、この「物流構造の転換」というメリットが加わる。素材、コスト制度、物流。三つの構造問題を同時に解決できる可能性がある。

おわりに

農産物の容器を「空のまま運ぶ」という非効率は、長年にわたって業界の常識として受け入れられてきた。だが、ドライバー不足と物流コストの高騰がこの常識を維持できなくしつつある。

「容器は工場で作って、産地に届けるもの」という前提そのものを疑う時期が来ている。

次回は、バイオマス素材の市場で何が起きているかについて書く。

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鍛冶屋直虎
製造業経営者。廃材を素材に変えるところから成形まで、一気通貫で課題解決する事業を経営しています。

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