デジタル環境問題 #4: 若者もSNSやめたいけどやめられない
11/21 (金) の日経朝刊の Financial Times のコラムに、最近の若者も SNS をやめたいけど、やめられない、という話が載ってました。
多くの若いSNS利用者は、SNS依存から抜け出したいと考えているが、「みんなが何をしているかわからないと取り残される」との恐怖からSNS依存を脱却できずにいる。
全米経済研究所(NBER)が24年にまとめた調査結果では、米大学生1000人以上に「いくらもらえばティックトックのアカウントを4週間とめてもよいか」と聞いたところ、50ドルという回答だった。だが、すべての学生がティックトックを4週間遮断してくれるのなら24ドル払ってもいいとの結果が出た。
なんとなく「そうだろうな」とは思っていましたが、こういう風に定量的な調査結果があるのは知りませんでした。
というわけで情報源を探してみました。
“When Product Markets Become Collective Traps: The Case of Social Media” (Bursztyn ほか, 2023/2024)
という113ページもある論文です!
「SNSユーザーの多くは、『自分だけ辞めるのは嫌だが、いっそのこと全員一斉に使えなくなるなら、その方が幸せだ』と考えている」ということを定量的に実証しています。
それもアンケートではなく、実際にお金を「もらう/払う」実験をしたそうです。
取り残される恐怖
調査結果では、TikTokユーザーの60%、Instagramユーザーの46%が「存在しない方がいい」と思っているのに使い続けています。理由を聞くと、最も多かったのが 「取り残される恐怖」/ FOMO (Fear of Missing Out) でした。
個人としては使わないと損だが、全体としてはない方がいい。経済学でいう囚人のジレンマです。
具体的には二つの「価値」の概念を区別して、それぞれ定量的に測定しています。
「個人消費者余剰」 (Individual Consumer Surplus)
「他の人が使い続ける中で、自分が使うことの価値」を測ります。TikTokの場合、平均55ドルの価値がありました。
これはつまり、「周りの友人は使い続けている中で、自分だけが辞める(仲間外れになる)状況を受け入れるには、少なくとも55ドル(約8,200円)もらわないと割に合わない」と彼らが思っていることを意味します。
「製品市場価値」(Product Market Surplus)
「その製品が存在しない世界と比べて、存在することの価値」を測ります。TikTokの場合、平均マイナス24ドルでした。
これはつまり、「もし全学生のスマホからTikTokを一斉に消せるボタンがあるなら、24ドル (約3,600円) 払ってでもそのボタンを押したい」と彼らが思っていることを意味します。
つまり、TikTok の場合
自分だけが4週間止める: 55ドルもらわないと嫌 (+55ドル)
みんなが4週間止める: 24ドル払ってもいい (-24ドル)
この79ドルの差が「取り残される恐怖」(FOMO) のコストというわけです!
ちなみにGoogle Mapsでは
同じ実験をGoogleマップ(ナビゲーション・地図アプリ)で行った結果:
自分だけが4週間止める: 49ドルもらわないと嫌 (+49ドル)
みんなが4週間止める: 17ドルもらわないと嫌 (+17ドル)
どちらも「もらわないと嫌」です。
「払ってもいい」という逆転は起きませんでした。
地図アプリには確かに正 (プラス) の「製品市場価値」があるとみなされているわけですね。
この対比から、「払ってでも全員で止めたい」という逆転現象はSNS特有のものだと分かります。
解決への希望
囚人のジレンマは構造上、解決が難しいことが多いですが、このSNSの問題については希望があると思います。
ユーザーが平均24ドル/4週間「払ってでも」全員で止めたいと思っているということは、見方を変えれば、それだけの対価を支払う意思があるということです。
今はその価値が「取り残される恐怖の回避」という消極的な理由に使われていますが、もし技術的な工夫で取り残される恐怖を軽減できれば、同じ原資を、本当に自分の価値観に合った情報サービスに使えるようになるはずです。
このゲームの構造を変えるにはどうしたらよいか?
引き続き模索していきたいと思っています。
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