ボードゲームのUXとは何か――「遊びたい」から「また遊びたい」までを設計する
はじめまして、もしくは再度いらしてくださりありがとうございます。
カクマルゲームズのカクとマルと申します。
普段は二人でボードゲームを作っていますが、今回は以前の記事で紹介した「ボードゲームデザインにおけるUX階層モデル」の中でもUXについて、より詳しく僕らなりの整理をお話できたらと思います。
前回の記事はこちらとなっておりますので、タイトルを見てご興味がありましたら是非ご覧いただければ幸いです。
1.ボードゲームのUXは、プレイ中だけに存在しない
UXという言葉は、製品やサービスを知り、利用し、利用後に振り返るまでに、利用者が得る体験全体を指します。
製品の使いやすさやわかりやすさは、UXの一部です。
それだけでなく、利用する前の期待、利用中の感情や判断、利用後の満足感や「もう一度使いたい」という気持ちまで含まれます。
ボードゲームのUXも、盤面に最初の駒を置いた瞬間から始まるわけではありません。
箱や紹介画像を見て、どのようなゲームなのかを想像する。
テーマや仕掛けを知り、「遊んでみたい」と感じる。
箱を開け、コンポーネントを並べながら、これから始まるゲームへの期待を高める。
ルール説明を聞き、自分が何者で、何を目指し、どのような行動ができるのかを理解する。
プレイ中には、状況を読み、選択に悩み、他のプレイヤーの行動に反応します。
終了後には、なぜ勝ったのか、どこで失敗したのか、次は何を試したいのかを振り返ります。
こうした一連の体験全体が、ボードゲームにおけるUXです。
たとえば、プレイ中のルールや仕掛けが優れていても、紹介文から想像した内容と実際のゲームが大きく異なっていれば、プレイヤーは期待を裏切られたと感じるかもしれません。
反対に、プレイ中に思うような結果を出せなかったとしても、自分の判断が結果につながったと理解できれば、「次はもっと上手くできそうだ」と感じることがあります。
ボードゲームのUXとは、そのゲームとの関係が始まり、記憶として残るまでの体験です。
つまり、ゲームの評価は、プレイ中に起きた出来事だけでは決まりません。
ボードゲームにおいてUXを考える事は、プレイヤーの期待に期待通りに答えるゲームを考えるという事です。
この期待感と結果の一致が成された時、プレイヤーにとって気持ちいいゲーム体験が生まれます。
2.UXは「楽しさ」という一つの感情ではない
UXについて考えるとき、「プレイヤーを楽しませること」をまず考えるのではないでしょうか?
もちろん、楽しさは重要です。
ただし、プレイヤーがボードゲームから受け取る体験は、単純な「楽しい」「楽しくない」だけではありません。
箱を見たときには、好奇心が生まれます。
ルールを理解したときには、安心感や期待が生まれます。
重要な選択をするときには、緊張が生まれます。
予想が当たったときには、達成感が生まれます。
自分の判断が裏目に出たときには、後悔が生まれます。
他のプレイヤーの意外な行動によって、驚きや笑いが生まれることもあります。
ゲームが終わったあとには、納得感や余韻が残ります。
こういった「楽しい」だけではない、感情の波をプレイヤーは面白いゲーム体験として受け止めます。
また短時間で遊ぶパーティーゲームと、長時間かけて状況を読み合う戦略ゲームでは、目指す体験が異なります。
協力ゲームであれば、一人では解決できない問題へ全員で立ち向かう一体感が中心になるかもしれません。
正体を隠すゲームであれば、相手を信じたい気持ちと疑う気持ちの間で揺れる体験が中心になるかもしれません。
当たり前ですがゲームによって、生まれる感情の種類も変わります。
大切なのはそのゲームがプレイヤーへ何を経験させたいのかを定め、それに応じて必要な感情や判断を適切なタイミングで生み、「没入感」と呼ばれる面白みのある波のようにすることです。
UXは「楽しいかどうか」を測る一本の物差しではありません。そのゲームが目指した体験が、時間の中でどのように生まれたかを見るための視点です。
3.UXは、直接作るものではなく目標として定めるもの
以前の記事では、UXに至るための要素を次の六つの層(UX階層モデル)として整理しました。

L0 - L4はそれを実現するための設計手段であることを忘れてはいけないのです。
UX階層モデルの詳細はこちらの記事をご覧ください。
この中で、今回デザインしたいUXはプレイヤーに届けたい体験目標ですが、感情や判断そのものを直接プレイヤーの脳内に送り込むことはできません。
つまりデザイナーは、「没入感」という部品を直接ゲームへ入れることはできないということです。

一方、デザイナーが実際に作り、変更できるものも確かにあります。
それはコンポーネント、ギミック、メカニクス、儀式、ナラティブです。
プレイヤーが見る情報、行う動作、比較する選択肢、繰り返す手順、そしてその行為に与えられる意味を設計する。
そして、それらが適切につながった結果として、没入感や緊張、達成感といったUXが生まれます。
つまりUXは目的地であり、ゴールです。
あたりまえですが明後日の方向に闇雲進んでも、ゴールにはたどり着けません。
ゴールにたどり着くためには、ゴールが最初に目標として存在する必要があります。
しかしここで、
面白いゲームにする
没入感を高める
盛り上がるゲームにする
という目標だけでは、ゴールの方向としては漠然としすぎです。
これではどのような体験や感情をを設計するのか、そしてプレイヤーのどのような反応を正解とするのかがわかりません。
UX目標を設計に使うためには、もう少し具体的にする必要があります。
たとえば、
終盤に近づくほど、プレイヤーが安全な選択と大きな逆転の可能性を比較し、リスクを取るかどうかで悩む体験を作る。
プレイ終了後に、勝敗だけでなく、自分がどの場面で判断を誤ったのかを話したくなる体験を作る。
と表現できれば、必要なメカニクスや情報、進行、意味づけを考えやすくなります。
UX目標は、感情の名前だけでなく、いつ、どのような状況で、何を考え、何を感じてほしいかまで言語化する必要があります。
4.好奇心が、体験への入口を作る
プレイヤーがゲームを体験するためには、まずそのゲームへ関心を向けてもらう必要があります。
そこで働くのが好奇心です。
好奇心とは、「これは何だろう」「一度試してみたい」「次に何が起きるのだろう」という気持ちです。
ボードゲームを知ったときには、箱の見た目、テーマ、紹介文、珍しい素材や仕掛けが、最初の好奇心を生みます。
ゲームが始まった後にも、好奇心は続きます。
まだ公開されていないカードには何が書かれているのか。
他のプレイヤーは何を考えているのか。
自分の選択によって、次のラウンドはどう変わるのか。
この戦略を続けた先に、どのような結果が待っているのか。
好奇心の対象が、ゲームの外見から、ゲーム内の状況や判断へ移っていくことで、プレイヤーは体験の内側へ入っていきます。
珍しい素材や意外な仕掛けは、強い入口を作ります。
一方で、珍しさだけでは、二回目以降のプレイで同じ驚きを保つことは難しくなります。
一度仕組みを知れば、「何が起きるかわからない」という好奇心は小さくなるからです。
そこで重要になるのが、その仕掛けをプレイヤーの判断や結果へつなげることです。
いつ使うのか。
使うと何を得られるのか。
使わなければ何が残るのか。
他のプレイヤーは、その行動へどう反応するのか。
こうした問いが生まれれば、好奇心は見た目の珍しさから、ゲーム内の可能性へ移ります。
珍しさは好奇心を始めることができます。判断と結果のつながりは、好奇心を持続させます。
5.没入感とは、注意が体験の中心へ向いている状態
好奇心によってゲームへ関心を持ってもらった後、その体験を持続させるものが没入感です。
没入感という言葉から、物語の登場人物へ感情移入したり、ゲームの世界を現実のように感じたりする状態を想像するかもしれません。
それも没入感の一つです。
ただし、ボードゲームにおける没入感は、物語への感情移入だけではありません。
目の前の状況を理解している。
自分の選択に集中している。
相手の行動を気にしている。
自分の判断がどのような結果になるかを知りたい。
こうした状態も、没入感に含まれます。
ここで、プレイヤーがゲーム中に手を止める場面を考えてみましょう。
必要な情報が見つからず、カードやルールブックを何度も確認しているために手が止まっていることがあります。
このとき、プレイヤーの注意は、ゲーム内の状況ではなく、情報を探す作業へ向いています。
一方で、今すぐ利益を得るか、後のために資源を残すかを決められず、手が止まっていることもあります。
このとき、プレイヤーの注意は、ゲーム内の選択と結果へ向いています。
外から見れば、どちらも「考えている」ように見えます。
ただし、そのときプレイヤーが何について考えているかによって、体験の意味は異なります。
複雑な処理を間違えないように必死になっている状態と、ゲーム内の葛藤へ集中している状態は同じではありません。
没入感を生むのは、負荷の大きさではありません。プレイヤーの注意が、ゲーム内の状況と判断へ向いていることです。
6.よいUXは、混乱を減らし、葛藤を際立たせる
ボードゲームでは、プレイヤーを迷わせないことが、常によい設計になるわけではありません。
プレイヤーが一度も悩まず、すべての選択を迷わず行えるのであれば、ゲームとしての判断の手応えが弱くなることがあります。
重要なのは、プレイヤーが何について迷っているのかです。
必要なカードが見つからない。
似た記号の違いがわからない。
手順を忘れ、何度もルールブックを確認する。
選択肢にどのような違いがあるのかわからない。
こうした迷いは、プレイヤーの注意をゲーム内の判断から遠ざけます。これは、設計によって減らしたい混乱です。
一方で、
今すぐ利益を得るか、後のために温存するか。
安全な選択をするか、大きな可能性へ賭けるか。
自分の利益を優先するか、他のプレイヤーを助けるか。
目の前の相手を信じるか、疑うか。
といった迷いは、ゲームの中心となる葛藤です。
どちらの選択肢にも魅力と代償があり、状況によって価値が変わるからこそ、プレイヤーは自分で判断する必要があります。
使いやすさを高めることは、ゲームからすべての難しさをなくすことではありません。
プレイヤーが判断するために必要な情報をわかりやすくし、本当に考えてほしい問題へ注意を向けられるようにすることです。
よいUXは、プレイヤーを迷わせないことではありません。何について迷うかを設計することです。
7.体験のピークは、出来事として記憶される
プレイヤーは、ゲーム中に行った全ての体験を同じように記憶できるでしょうか?
答えはNOです。
終了後に語られるのは、印象的な出来事です。
大きなリスクを取った瞬間。
相手の意図を読み切った瞬間。
残り一手で状況が逆転した瞬間。
大切な資源を手放す決断をした瞬間。
全員が同じ結果を待ち、カードやダイスへ注目した瞬間。
こうした場面は、体験のピークになります。
ただし、ピークは派手な演出だけで生まれるものではありません。
大きな音を鳴らしたり、珍しい部品を使ったりすれば、一時的に注意を集めることはできます。
しかし、その瞬間に生まれた「好奇心」はそれに続くゲーム全体の体験に接続ができているでしょうか?
その場面をゲーム体験に紐づいた記憶にするためには、そこへ至るまでの積み重ねが必要です。
プレイヤーが状況を理解している。
複数の選択肢を比較している。
それぞれに利益と代償がある。
自分の判断が結果へ影響すると感じている。
その判断に、ゲーム内での意味がある。
これらが一つの場面へ集まることで、プレイヤーは単なる処理ではなく、自分が経験した一連の出来事として記憶します。
たとえば、貴重な資源を一つ失う処理も、理由なく指示されれば単なる減点に感じられます。
一方、その資源を失うことで仲間を救えるものの、終盤の勝利が難しくなるのであれば、それはプレイヤー自身の決断になります。
重要なのは、演出の強さだけではありません。
体験のピークとは、それまで積み重ねられた理解、期待、判断、代償、意味が、一つの出来事へ集まる瞬間です。
8.終わり方が、体験の意味を決める
ゲームの勝敗の瞬間はゲーム体験を決める非常に重要な瞬間です。
人によっては、勝敗こそがゲームの全てと感じる人もいるでしょうし、勝利とは非常に気持ちが良い極上の体験です。
しかし、その体験をもっと気持ちよくすることはできないでしょうか?
勝敗の瞬間をより良いものにするには、プレイヤーがそれまでの出来事をどのように受け止めるかが重要になります。
なぜ勝ったのか、なぜ負けたのかを理解できるか。
自分の選択が、結果へどのように影響したのかわかるか。
予想外の結果であっても、ゲームの仕組みとして納得できるか。
終わりが突然訪れたのではなく、体験の区切りとして感じられるか。
こうした要素によって、同じ勝敗でも受け取り方は変わります。
たとえば、長時間考えてきたゲームが、最後に完全な偶然だけで決まったとします。
その偶然がゲーム全体で共有されてきたリスクであれば、意外な結末として受け入れられるかもしれません。
一方、それまでの判断とほとんど関係のない出来事によって突然勝敗が決まれば、プレイヤーは自分の選択に意味がなかったと感じるかもしれません。
結果の公開方法や得点計算も、UXの一部です。
各プレイヤーが何を達成したのかが順番に明らかになることで、緊張や驚きが生まれることがあります。
ゲーム中の行動と最終結果の関係がわかれば、プレイヤーは「次はここを変えてみたい」と考えられます。
終了後の短い会話も、体験を完成させます。
「あのとき、なぜそのカードを出したのか」
「実は途中から別の狙いに変えていた」
「もう一手あれば逆転できた」
こうした会話によって、個々の処理が、一緒に経験した出来事として整理されます。
ゲームの終了条件はプレイを止めますが、納得感のある終わり方は体験を完成させます。
9.余韻が、新しい好奇心を生む
よいUXは、ゲームが終わった後にも続きます。
あの選択は正しかったのか。
別の方法なら、どうなっていたのか。
相手は、あのとき何を考えていたのか。
まだ試していない組み合わせはあるか。
良いゲームの後にはこういった問いが心の中に残ることがあります。
この問いが余韻です。
余韻は、物語の感動だけを指すものではありません。
自分の判断を振り返ること。
他のプレイヤーの意図を知ること。
まだ理解できていない可能性を考えること。
次に試したい行動を思いつくこと。
こうした思考も、プレイ後に残る体験です。
そして余韻の中に残った問いは、新しい好奇心になります。
ゲームへの問い
理解
没入
意味のある葛藤
印象的なピーク
納得感と余韻
新しい好奇心

最初の好奇心は、「このゲームは何だろう」という外側からの関心です。
プレイ後の好奇心は、「次は何ができるだろう」という内側からの関心です。
一度遊んだことで、ゲームの仕組みや可能性を知り、その理解が次のプレイへの期待を作ります。
好奇心が体験の入口を作り、没入感が体験を持続させ、余韻が次の好奇心を作ります。
この循環が、「遊んでみたい」を「また遊びたい」へ変えていきます。
10.UX目標を、観察できる言葉へ変える
UXをボードゲームデザインの目標として使うためには、抽象的な感情を、具体的な状況へ変換する必要があります。
「緊張感のあるゲームにする」という目標だけでは、いつ緊張してほしいのかがわかりません。
「没入感を高める」という目標だけでは、プレイヤーが何へ集中している状態を目指すのかがわかりません。
そこで、UX目標を考えるときには、次の要素を組み合わせます。
誰が体験するのか
初めて遊ぶプレイヤーなのか、繰り返し遊んでいるプレイヤーなのか。
一人のプレイヤーなのか、卓を囲む全員なのか。
いつ体験するのか
ゲームを知ったときなのか。
序盤、中盤、終盤のどこなのか。
結果が明らかになったときなのか。
プレイ終了後なのか。
どのような状況を理解するのか
自分が不利であると理解する。
相手が大きな行動を準備していると気づく。
資源が残り少ないと認識する。
次の選択で状況が大きく変わると理解する。
何と何を比較するのか
現在の利益と将来の可能性。
安全な選択と大きなリスク。
自分の得点と、他のプレイヤーへの影響。
確実にわかっている情報と、まだわからない情報。
何を感じ、何を記憶するのか
緊張、安心、達成感、後悔、驚き、納得感。
そして終了後に、どの出来事を自分の経験として振り返ってほしいのか。
これらを組み合わせると、UX目標は次のように表現できます。
プレイヤーが【場面】で【状況】を理解し、【選択肢】の間で悩み、【感情】を経験し、終了後に【出来事】として振り返る体験を目指す。
たとえば、
終盤に、プレイヤーが残された資源の少なさを理解し、安全策と逆転の可能性を比較して緊張し、終了後に「あの場面で賭けに出た」と振り返る体験を目指す。
と書くことができます。
ここまで具体的になれば、どのようなメカニクスが必要か、どこで情報を提示するか、どのような手順で場面を際立たせるかを考えられます。
UX目標は、理想を掲げるためだけの言葉ではありません。設計とテストプレイの判断基準になる言葉です。
11.UXをテストプレイでどう観察するか
作ったゲームの現在のUXが実際どうなっているかは、カードや駒のように直接見ることができません。
プレイヤー達に「いま没入感が発生している」と目で確認することもできません。
ではデザイナーは、どのようにプレイヤーが感じているUXを観察すれば良いのでしょうか?
答えは、プレイヤーの具体的な行動です。
プレイヤーの行動、振る舞い、言葉、表情からプレイヤーの受け取った体験を読み取ります。
プレイ中の行動を見る
どこで手が止まったのか。
そのとき、何を見ていたのか。
どの場面で会話が増えたのか。
どの結果を全員が注目して待っていたのか。
どの選択肢がほとんど選ばれなかったのか。
どの手順を繰り返し確認していたのか。
こうした行動は、プレイヤーが何を理解し、何へ注意を向けていたかを知る手がかりになります。
たとえば、手が止まった時間だけを測っても、その場面が混乱だったのか、意味のある葛藤だったのかはわかりません。
プレイヤーがカード上の情報を探していたのか、複数の選択肢を比較していたのかまで観察する必要があります。
プレイ後の言葉を聞く
プレイ後には、単に「面白かったですか」と聞くだけでなく、具体的な出来事を振り返ってもらいます。
最も印象に残った場面はどこでしたか
最も悩んだ選択は何でしたか
そのとき、何と何を比較していましたか
やり直せるなら、どの判断を変えますか
次に遊ぶなら、何を試してみたいですか
なぜ勝った、あるいは負けたと思いますか
こうした質問によって、プレイヤーがゲームをどのように理解していたかが見えてきます。
終了後にルールの難しさばかりが語られるのであれば、プレイヤーの注意は処理へ向いていた可能性があります。
「あのとき安全策を選んだ」「相手を信用したのが失敗だった」と、ゲーム内の出来事や判断が語られているのであれば、設計された要素が体験へ変わっていた可能性があります。
もちろん、プレイヤー自身が自分の感情や判断を正確に説明できるとは限りません。
そのため、感想だけを答えとせず、プレイ中の行動と組み合わせて考えます。
UXは直接見ることができません。プレイヤーの行動、言葉、記憶に現れた痕跡から読み取ります。
12.UX設計で陥りやすい四つの誤解
さて、ここまでUXの為にデザイナーができる様々な、ゲームの設計アイデアや、テストプレイの観点を説明してきました。
しかし、ここまで説明した内容は入り組んでおり、ゲームのデザイン中にあーでもないこーでもないと悩んでいると、つい効果の無い安易な行動に飛びついてしまいがちです。(僕らでもあります)
ではここで、今までの説明したUXを実現するためのアイデアを考える際に起こりやすい誤解を改めて整理します。
珍しさがあれば、よいUXになる
珍しい素材や仕掛けは、好奇心の入口を作ります。
ただし、それがプレイヤーの判断や結果へつながっていなければ、仕組みを知った後には、一度きりの刺激として消費されることがあります。
入口の強さだけでなく、その後の理解、選択、結果へどうつながるかを見る必要があります。
負荷をすべて減らせば、よいUXになる
必要な情報を探す負荷や、手順を覚えるための負荷は、プレイヤーの注意をゲーム外へ向けます。
一方、利益と代償を比較する負荷や、相手の意図を考える負荷は、ゲーム内の判断を生みます。
減らすべきなのは、すべての負荷ではありません。目標とする体験に貢献しない混乱です。
プレイ中だけを見ればよい
ゲームを知ったときの期待、ルール説明での理解、終了時の納得感、プレイ後の余韻も、UXを構成します。
プレイ中が面白くても、期待とのずれや、納得できない終わり方によって、体験全体の印象は変わります。
「没入感を高める」などの抽象的な言葉を目標にする
没入感や緊張感といった感情の名前だけでは、具体的な設計判断はできません。
いつ、どのような状況で、何を理解し、何と何を比較し、どのような感情を経験してほしいのかまで言葉にする必要があります。
UXという言葉を使うことが目的ではありません。
その言葉によって、プレイヤーに届けたい体験と、デザイナーが行う設計を結びつけることが重要です。
13.まとめ
盛り上がる瞬間は、重要な体験です。
ただし、ボードゲームのUXは、その一瞬だけで決まるものではありません。
ゲームを知り、「遊んでみたい」と思う。
何をするゲームなのかを理解する。
状況と選択へ注意を向ける。
利益と代償の間で悩む。
自分の判断によって、印象的な出来事を経験する。
結果を納得して受け止める。
プレイ後に出来事を振り返る。
そして、「次は別の方法を試したい」と思う。
こうした体験が時間の中でつながることで、一つのUXが作られます。
好奇心は、体験への入口を作ります。
理解は、プレイヤーがゲームへ参加するための土台になります。
意味のある葛藤は、プレイヤーの注意をゲーム内の判断へ向けます。
没入感は、体験を持続させます。
印象的なピークと納得感のある終わり方は、出来事を記憶へ変えます。
そして余韻が、次の好奇心と再プレイへの意欲を生みます。
デザイナーは、こうしたUXを直接作ることはできません。
目標とするUXを具体的な言葉で定め、コンポーネント、ギミック、メカニクス、儀式、ナラティブを通じて、その体験が生まれる条件を設計します。
テストプレイでは、プレイヤーの行動、言葉、記憶を観察し、目標とした体験がどのように現れていたかを確認します。
ボードゲームのUXとは、一瞬の面白さではありません。プレイヤーの期待から記憶までをつなぎ、「遊びたい」を「また遊びたい」へ変える体験の流れです。
さいごに
ここまで「ボードゲームのUXとは何か」に関しての、長い記事をお読みいただきありがとうございました。
本文で何度も言葉にしたUXという言葉ですが、そのままでは抽象的で実際にボードゲームデザインに活かすにはそのままではかなり大きな枠組みです。
そのため、そのボードゲームデザインにおけるUXという文脈でその実際の運用に関して記事にするとかなりの文量が必要となってしまいました。
読みにくい部分、疑問点もあるでしょうが、ご感想と一緒に指摘や質問を頂ければ幸いです。
最後になりますが、僕らの記事が皆様の作るボードゲームをほんの少しでも面白くする助けになれることを切に願います。
この記事が、皆さんの作るボードゲームで「どのような体験を届けたいのか」を考える助けになればうれしく思います。
それでは、みなさんボードゲーム作りましょう!
