なぜ、面白い要素を集めても面白いゲームにならないのか――プレイヤー体験とゲームデザインをつなぐUX階層モデル
はじめまして、もしくは再度いらしてくださりありがとうございます。
カクマルゲームズのカクとマルと申します。
普段は二人でボードゲームを作っていますが、今回はボードゲームデザインの考え方について僕らなりのノウハウをお話できたらと思います。
前回の記事はこちらとなっておりますので、タイトルを見てご興味がありましたら是非ご覧いただければ幸いです。
なぜ、面白い要素を集めても面白いゲームにならないのか
ボードゲームをデザインしていると、どこを直せばよいのかわからなくなることがあります。
魅力的な世界観を用意した。
珍しいコンポーネントを作った。
考え応えのあるルールも、驚きのある仕掛けも加えた。
それでも、テストプレイでは思ったほど盛り上がらない。
「ルールを簡単にした方がよい」
「カードの表示を直した方がよい」
「世界観の説明が足りない」
「もっと派手な仕掛けが必要だ」
さまざまな意見が出るものの、どの意見を採用し、どこから修正すればよいのかを決められないことがあります。
なぜ、面白いはずの要素を集めても、面白いゲームにならないのでしょうか?
反対に、一つひとつの要素は決して派手ではないのに、遊び始めると自然に集中し、終了後には「あの場面が面白かった」「次は別の方法を試したい」と語りたくなるゲームもあります。
この違いは、一つひとつのゲームアイデアが持つ魅力や効果だけでは説明できません。
ゲーム体験の面白さを説明するためには、ゲーム全体の体験を言語化する必要があります。
プレイヤーがゲームをどのように理解し、何を選び、何を感じ、何を記憶したのか。
そしてデザイナーが、その体験を実現するために、何を設計し、テストプレイで何を観察し、次にどこを修正したのか。
この二つをつなげて考える必要があります。
そのための視点が、ボードゲームにおけるUX(User Experience、ユーザー体験)です。
UXは、プレイヤーが最終的に受け取る体験です。
同時にデザイナーにとっては、ゲームの各要素をどの方向へ設計し、見つかった問題をどこから改善するかを考えるための目標でもあります。
では、目に見えない体験を目標として、デザイナーは具体的に何を設計すればよいのでしょうか?
その問いを考えるために、僕らはボードゲームを構成する要素と、そこから体験が生まれる関係を六つの層に整理しました。
それが、ボードゲームデザインにおけるUX階層モデルです。

このモデルには、二つの側面があります。
一つは、コンポーネント、ギミック、メカニクス、儀式、ナラティブが、どのようにつながってプレイヤーのUXを生み出すかを示す、ゲーム体験の構造の地図です。
もう一つは、デザイナーが試作とテストプレイを繰り返しながら、どの層を観察し、どの層へ戻り、何を修正するかを考えるためのゲームデザインプロセスの地図です。

この記事では、この二つの側面から、UX階層モデルの全体像を紹介します。
1.プレイヤーの体験と、ボードゲームデザイナーの判断はつながっている
テストプレイでは、プレイヤーからさまざまな感想が返ってきます。
「進行が遅い」
「何をすればよいかわかりにくい」
「考えることが多すぎる」
「最初は面白かったが、途中から作業に感じた」
「世界観は好きだが、プレイ中はあまり意識しなかった」
これらは、プレイヤーの体験に現れた重要な手がかりです。
ただし、感想がそのまま修正案になるわけではありません。
「進行が遅い」と言われても、手順を減らせばよいとは限りません。カードの情報を探す時間が長いのかもしれません。選択肢の違いが伝わっていないのかもしれません。ゲーム上の意味がわからず、毎回処理を確認しているのかもしれません。
プレイヤーに現れた一つの症状に対して、ボードゲームデザイナーが修正できる場所は複数あります。
だからこそボードゲームデザイナーには、
プレイヤーに何が起きていたのか
その原因はどこにあるのか
次に何を変更するのか
を分けて考えるための地図が必要です。
UX階層モデルは、プレイヤーの体験を分類するだけのものではありません。
プレイヤーに起きたことを、ボードゲームデザイナーが直せる具体的な問題へ整理するためのモデルです。
2.ボードゲームにおけるUXとは何か
そもそも、UXという言葉は、製品やサービスを知り、利用し、利用後に振り返るまでに、利用者が得る体験全体を指します。
製品の使いやすさや分かりやすさは、UXの一部です。
それだけでなく、使う前の期待、利用中の感情や判断、利用後の満足感や「もう一度使いたい」という気持ちまで含まれます。
ボードゲームのUXも、ゲームを知った瞬間から始まっています。
箱や紹介文を見て「遊んでみたい」と感じる。
コンポーネントを広げたときに期待が高まる。
ルール説明を通して、自分が何をするゲームなのかを理解する。
プレイ中には、選択に悩み、他のプレイヤーの行動に驚き、自分の判断の結果を受け止めます。
終了後には、勝敗や印象的な場面を振り返り、「もう一度遊びたい」「次は違う戦略を試したい」と感じます。
この一連の体験全体が、ボードゲームにおけるUXです。
では、一連の体験をUXとして捉えることで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
ひとつは、プレイヤーの行動を表面的な動きだけでなく、そのときに生じている体験まで含めて読み取れることです。
たとえば、プレイヤーがゲーム中に手を止めた場面を考えてみましょう。同じように手が止まって見えても、そこから読み取れる体験は一つではありません。
情報が見つからず、何をすればよいかわからないために止まることがあります。これは、設計によって減らしたい混乱です。
一方で、どちらの選択肢にも魅力と代償があり、決めきれずに止まることがあります。これは、ゲームとして際立たせたい葛藤です。
よいUXは、プレイヤーからすべての負荷を取り除くことではありません。
不要な混乱を減らしながら、意味のある葛藤へ注意を向けられる状態を作ることです。
3.UXは目標、六つの階層はそのための設計手段
最初に書いた通り、「面白い要素」をすべて盛り込んだからといって、ゲーム全体が面白くなるわけではありません。
同じように、ボードゲームデザイナーは「面白さ」そのものを部品としてゲームへ入れることはできません。
設計できるのは、あくまでプレイヤーが見るもの、触るもの、行うこと、選ぶこと、繰り返す手順、そして行動の意味です。
では、どのようにして設計できるものを「面白さ」に昇華できるのでしょうか?
そこで、目標と手段を次のように分けます。
UXは、プレイヤーに届けたい最終的な体験目標です。
そして、コンポーネント、ギミック、メカニクス、儀式、ナラティブは、その目標へ近づくためにボードゲームデザイナーが設計できる手段です。

L0 - L4はそれを実現するための設計手段であることを忘れてはいけないのです。
この図は、ゲームを下から順番に一度ずつ作る工程表ではありません。
どのような要素が、どのような関係によってUXへつながっているのかを示す構造の地図です。
ボードゲームデザイナーはこの地図を使って、
目標とするUXから、必要な設計要素を逆算する
テストプレイで現れた症状から、原因となる層を探す
複数の修正案が、どの層への介入なのかを整理する
ことができます。
4.プレイヤー体験を支える六つの層
ここからは、UX階層モデルを構成する六つの層を、下位のコンポーネントから上位のUXまで順に見ていきます。
それぞれの層について、プレイヤーの体験をどのように支えるのか、そしてボードゲームデザイナーが何を設計・調整できるのかという二つの視点から説明します。
重要なのは、六つの層を個別の要素として覚えることではありません。それぞれがどのようにつながり、最終的なUXを生み出しているのかを理解することです。
L0:コンポーネント
カード、駒、ボード、タイル、ダイス、素材、文字、図解など、プレイヤーが実際に見たり触れたりする物理的な基盤です。
読みやすい情報配置は、必要な情報へすぐアクセスできる状態を作ります。扱いやすい形状や素材は、プレイヤーの意図を自然にゲーム上の行為へ変えます。
ボードゲームデザイナーにとっては、情報設計、操作性、素材、製造方法などを調整する層です。
L1:ギミック
カードをめくる、駒を積む、部品を組み合わせる、紙を折る、カードを破るといった、プレイヤーの物理的な動作や仕掛けです。
直感的なギミックは、ルール上の変化を身体的な手応えとして伝えます。
ボードゲームデザイナーにとっては、プレイヤーの動作とゲーム上の変化を結びつける層です。
L2:メカニクス
選択肢、制約、資源、勝敗条件、リスクと利益の関係など、ゲーム内の判断を成立させるルールの構造です。
よく設計されたメカニクスは、選択肢ごとに異なる価値と代償を作ります。プレイヤーは状況を読み、自分の意図で選び、その結果を引き受けます。
ボードゲームデザイナーにとっては、どのような判断を、どのような条件で生み出すかを設計する層です。
L3:儀式
手番の進行、準備、カードの補充、宣言、得点計算、ラウンド終了時の処理など、ゲームを進めるために繰り返される手順です。
自然な儀式は、全員の注意を同じ場面へ集めます。重要な決断の前に間を作ったり、結果を共有する瞬間を作ったりすることで、ゲームのリズムやピークを形作ります。
ボードゲームデザイナーにとっては、プレイの流れ、テンポ、注目の集まり方を調整する層です。
L4:ナラティブ
世界観や物語だけでなく、プレイヤーが何者であり、何のために行動しているのかという意味づけです。
ナラティブは、ルール上の選択をゲーム内の出来事へ変えます。「資源を1枚捨てる」という処理を、「仲間を見捨てる」「契約を破棄する」といった意味のある決断として受け取れるようにします。
ボードゲームデザイナーにとっては、プレイヤーの行動にどのような意味を与えるかを設計する層です。
L5:UX・体験価値
プレイヤーが最終的に受け取る体験です。
緊張、達成感、好奇心、驚き、納得感、没入感、余韻、再挑戦への意欲などがここに現れます。
ボードゲームデザイナーにとっては、他の五つの層をどの方向へ調整するかを決める目標です。
この六つの層が同じ目標へ向かうと、個々の要素が互いを強めます。
読みやすいコンポーネントが理解を支える。
直感的なギミックが判断に手応えを与える。
メカニクスが意味のある選択を作る。
儀式がその瞬間を際立たせる。
ナラティブが行為に納得感を与える。
その結果、プレイヤーは処理そのものではなく、ゲーム内の状況と自分の選択へ集中できるようになります。
UXは、優れた要素の足し算ではありません。要素同士の関係から生まれる体験価値です。
5.UX階層モデルには「構造」と「プロセス」の二つの側面がある
ここまで説明した六つの層は、ゲームの構造を見るための地図です。
ただし、ボードゲームデザイナーが必要としているのは、構造を知ることだけではありません。
テストプレイで問題が見つかったときに、
いま何が起きているのか
どの層に原因があるのか
次に何を変更するのか
を判断しなければなりません。
そこでUX階層モデルは、ボードゲームデザインプロセスの中でも使います。
目標とするUXを決める
設計・試作する
テストプレイで観察する
症状と原因を診断する
必要な層を修正する
もう一度テストする
ボードゲームデザイナーは、この循環の中で六つの層を行き来します。

モデルの空間的な側面が「どこを見るか」を示し、時系列的な側面が「次にどう動くか」を示します。
6.ボードゲームデザイナーは二つの動きでモデル上を移動する
水平反復――同じ層の中で改善を重ねる
水平反復とは、同じ層の中で複数の案を試し、精度を高める動きです。
たとえばL0のコンポーネントであれば、カードの文字サイズ、情報の配置、記号、余白を調整します。
L2のメカニクスであれば、資源量、効果、コスト、得点の配分を調整し、選択に十分な違いが生まれているかを確かめます。
問題の原因となる層がわかっているときは、その層の中で試作と検証を繰り返します。
垂直層移動――層をまたいで原因と解決策を探す
垂直層移動とは、テストプレイで見つかった症状から、原因を探して別の層へ移る動きです。
たとえば「ゲームの進行が遅い」という症状があったとします。
手番の手順が長いのであれば、L3の儀式を調整します。
カードの情報を探す時間が長いのであれば、原因はL0のコンポーネントにあります。
選択肢の違いを理解するために時間がかかっているのであれば、L2のメカニクスや、L0のコンポーネントにおける情報表示を見直します。
同じ症状でも、原因となる層は異なります。
UX階層モデルを使うことで、ボードゲームデザイナーは、
どの層を観察し、どの箇所の修正に注力すべきか。
どの層に問題があるかを判断し、どの問題に取り組むことが効果的な修正につながるか。
を考えやすくなります。

7.二つの時間軸を分けて考える
このモデルには、二種類の時間軸があります。
一つは、プレイヤーがゲームを体験する時間です。
ゲームを知る
遊びたいと思う
ルールを理解する
プレイする
結果を振り返る
もう一度遊びたいと思う
ここでは、好奇心、理解、没入感、緊張、達成感、余韻、再プレイ意欲などを考えます。
もう一つは、ボードゲームデザイナーがゲームを作る時間です。
体験目標を決める
設計する
試作する
観察する
診断する
修正する
こちらでは、どの層を設計し、テストプレイの結果からどの層へ戻り、次に何を修正するかを考えます。
この二つは別の時間軸ですが、互いにつながっています。
ボードゲームデザイナーは、プレイヤーにどのような時間を過ごしてほしいのかを考えます。
そして、その体験を実現するために、自分たちの試作、観察、診断、修正の時間を使います。
プレイヤーの時間を設計するために、ボードゲームデザイナーの時間をどう使うか。
これも、UX階層モデルが扱う重要なテーマです。
8.実例:カードを破るギミックが体験へ変わるまで
層同士の接続と、ボードゲームデザイナーの往復運動を理解するために、「カードを破る」という仕掛けを例に考えてみます。
カードを破る行為は、日常的なカードゲームではあまり行われません。
そのため、初めて見たプレイヤーには、音や感触、取り返しのつかなさによって強い驚きを与えます。
では、この驚きを、一度きりの刺激ではなく、ゲームの中心となる体験へ育てるにはどうすればよいでしょうか?
ギミックを作業にしないために必要となるのが、複数の層との接続です。
L0:コンポーネント――行為を安心して実行できるようにする
実際に破りやすく、安全に扱え、破った後の状態も判別できる素材と印刷を設計します。
また、カードをプリントアウトして使う方式にすることで、製品の部品を永久に失う心理的・金銭的なリスクを小さくすることにも価値があるかもしれません。
破る位置や、破った後に残る情報をわかりやすくすることで、プレイヤーは迷わず行為へ集中できます。
L1:ギミック――決断を身体的な手応えへ変える
カードを実際に破る動作を成立させます。
破る音や感触、元に戻せない痕跡が、ルール上の変化を身体的な出来事として伝えます。
L2:メカニクス――行為に利益と代償を与える
破るかどうかをプレイヤーの選択にします。
破れば大きな効果を得られる一方で、そのカードは以後使えなくなる。
そうすれば、プレイヤーは「今使うべきか」「あとまで温存するべきか」を考えます。
ここで、動作が意味のある判断へ変わります。
L3:儀式――その瞬間へ全員の注意を集める
カードを破る行為を、通常の処理とは異なる場面として扱います。
効果を宣言してから破る。
他のプレイヤーが見守る中で実行する。
破った後に結果を確認する。
こうした進行上の区切りが、その決断をゲームのピークとして際立たせます。
L4:ナラティブ――行為をゲーム内の出来事へ変える
なぜカードを破るのかを意味づけます。
たとえば、カードを破ることが「禁術を使う」「契約を破棄する」「大切な記録を燃やす」といった行為であれば、物理的な破壊とゲーム世界の出来事が重なります。
ここで、ルール上の処理が物語上の決断へ変わります。
L5:UX――覚悟を伴う、記憶に残る選択が生まれる
各層がつながった結果、L5のUXには、驚きだけでなく、緊張、覚悟、後悔、達成感が生まれます。
プレイヤーは「カードを破った」という操作ではなく、「あの場面で、あの力を使う決断をした」という出来事を記憶します。
UXについて、詳細はこちらの記事をご覧ください。

9.同じ事例をボードゲームデザインプロセスとして見る
先ほどの第8章で説明したカードを破るギミックも、一度の設計で完成するとは限りません。
最初のテストプレイでは
最初は驚いたが、二回目からは作業に感じた
という反応が出るかもしれません。
ここで「もっと驚きを増やす」という案は、改善手段の一つではあっても、目標とするUXそのものではありません。
手段を先に固定すると、本当の原因が判断の不足、手順への埋没、行為の意味づけの弱さにあっても、演出だけを増やしてしまう可能性があります。
まずは目的であるUXへ立ち戻り、より広い視点から、どの層の接続を直すことが効果的なのかを考えます。そのために、どの層に原因があるのかを探します。
カードが破りにくく、毎回手間取っているのであれば、L0のコンポーネントを調整します。
破るタイミングが毎回決められていて、行為にプレイヤーの判断がないのであれば、L2のメカニクスを調整します。
カードを破る行為が、他の手順と同じように淡々と処理され、重要な決断として印象に残っていないのであれば、L3の儀式を調整します。
なぜ破るのかがプレイヤーに伝わっていないのであれば、L4のナラティブを調整します。
修正した後は、もう一度テストプレイを行います。
そこで、カードを破る行為がプレイヤーの判断や感情にどのような変化を与えたかを観察します。修正によって作業感が減り、目標とするUXに近づいていれば、その方向で調整を続けます。
一方、作業感が残っていたり、新たな問題が見つかったりした場合は、原因が修正した層だけにあるとは限りません。そのため、別の層とのつながりを確認し、より効果的な修正箇所を探します。
仕掛けを設計する
テストプレイする
プレイヤーの行動と感想を観察する
原因となる層を探す
必要な層を修正する
再びテストする
この往復を繰り返すことで、個別の仕掛けは各層との連携が整い、目標とするUXへ少しずつ近づいていきます。
10.問題が見える層と、直すべき層を分ける
テストプレイで見つかる問題には、症状が現れている場所と、実際に修正する場所があります。
たとえば、テストプレイヤーから「作業感がある」という感想が出た場合、ゲーム中の手順の長さを指摘しているように見えるため、L3の儀式に問題があるように思えます。
しかし、実際には、
L0のコンポーネントで、カードに書かれたマークが似通っていたり、文章が長すぎたりして、必要な情報を探す時間が長い
L2のメカニクスで、結果のすべてがサイコロやコインなどのランダム性に委ねられており、プレイヤーが選択や判断をする余地がない
L4のナラティブで、プレイヤーがどのような理由でその行為を行っているのかという意味づけが弱い
といった原因が重なっているかもしれません。
ここで、
症状が表面化している層
実際に変更する層
を分けて考えると、修正方針を決めやすくなります。
「進行が遅いから手順を減らす」
「盛り上がらないから派手な仕掛けを増やす」
とすぐに決めるのではなく、どの層の接続を変えると、目標とするUXへ近づくのかを考えます。
テストプレイの感想は、修正案そのものではありません。
原因を探すための入口です。
11.UX階層モデルでボードゲームデザイナーは何ができるのか
目標と手段を分けられる
UXを最終目標として定め、コンポーネント、ギミック、メカニクス、儀式、ナラティブを、その目標を実現するための手段として考えられます。
要素同士の接続を確認できる
珍しい仕掛けが判断につながっているか。
ルール上の選択に物語上の意味があるか。
コンポーネントがプレイヤーの理解を支えているか。
各要素を単独ではなく、関係として評価できます。
プレイヤーの反応を設計課題へ変換できる
「わかりにくい」「遅い」「飽きる」といった感想を、情報、動作、判断、手順、意味、体験のどこから生じたものかに分けて考えられます。
ゲームデザインの次の一手を決めやすくなる
同じ層の中で改善を続けるのか。
別の層へ移動して原因を探すのか。
現在地と移動先を意識することで、テストプレイ後の修正方針を決めやすくなります。
チーム内の議論を整理できる
「表示を直したい」
「ルールを変えたい」
「世界観を強めたい」
という異なる意見を、L0:コンポーネント、L2:メカニクス、L4:ナラティブという異なる層からの観察として整理できます。
誰の意見が正しいかではなく、目標とするUXのために、どの層をどう接続するかを話せるようになります。

12.まとめ
ボードゲームにおけるUXは、遊ぶ前に生まれる期待、プレイ中の理解と判断、選択に伴う緊張、印象的な出来事、終了時の納得感、そして再び遊びたいという意欲までを含む体験全体です。
UXは、プレイヤーに届けたい体験であり、ボードゲームデザイナーが目指す目標です。
そして、コンポーネント、ギミック、メカニクス、儀式、ナラティブは、その目標へ近づくための設計手段です。
コンポーネントは、プレイヤーの理解と行為を支えます。
ギミックは、判断を身体的な手応えへ変えます。
メカニクスは、利益と代償のある選択を作ります。
儀式は、判断を共有される場面として際立たせます。
ナラティブは、プレイヤーの行為を意味のある出来事へ変えます。
それらが同じ方向へ働いた結果として、プレイヤーの記憶に残るUXが生まれます。
さらに、UX階層モデルは、ゲームの構造を表すだけではありません。
ボードゲームデザイナーがテストプレイを通じて、同じ層の中で改善を繰り返し、必要に応じて別の層へ移動するためのモデルでもあります。
ゲーム体験の構造の地図
どの要素が、どのようにつながってUXを生むか
ボードゲームデザインプロセスの地図
何を観察し、どの層へ戻り、次に何を修正するか
この二つを組み合わせることで、目の前の問題を「なんとなく面白くない」で終わらせず、
プレイヤーにどのような体験を届けたいのか
その体験を支える要素はどうつながっているのか
テストプレイでは何が起きていたのか
次にどの層を修正するのか
まで考えられるようになります。
あなたがプレイヤーに届けたい体験は、どのようなものでしょうか?
その体験を生み出すために、どの層を強め、どの層同士をつなぐ必要があるでしょうか。
そして次のテストプレイで、ボードゲームデザイナーは何を観察するべきでしょうか。
UX階層モデルが、プレイヤーの体験とボードゲームデザイナーの判断をつなぐ地図になれば幸いです。
これからの記事について
この記事では、UX階層モデルの全体像と、ボードゲームデザインが層の間を往復しながら進むことを紹介しました。
今後は、各階層を個別の記事として掘り下げていく予定です。
L5:UX・体験価値――ボードゲームにおけるUXとは何か
L4:ナラティブ――プレイヤーの行動に意味を与える方法
L3:儀式――手順と進行によって体験のリズムを作る方法
L2:メカニクス――意味のある選択と葛藤を作る方法
L1:ギミック――物理的な仕掛けを判断と体験へつなぐ方法
L0:コンポーネント――情報、操作、素材を体験へつなぐ方法
さらに、UX階層モデルを実際のボードゲームデザインでどのように動かすのかについても、別の記事で詳しく説明します。
そこでは、
テストプレイ前に何を予測するか
プレイヤーの行動をどう観察するか
症状から原因となる層をどう探すか
症状が出た層と、実際に直す層をどう分けるか
複数の修正案から何を選ぶか
といった、具体的なボードゲームデザインプロセスを扱います。
ここまで長い記事をお読みいただき、ありがとうございました。
僕らがボードゲームを作る中で、「プレイヤーにどのような体験を届けたいのか」「テストプレイで見つかった問題を、どこから直せばよいのか」と悪戦苦闘した結果を、UX階層モデルとして形にしました。
読みにくい部分や疑問点があれば、ご感想とともに指摘や質問をいただければ幸いです。
皆さんの意見を受けながら、このモデル自体も更新していきたいと考えています。
この記事が、皆さんの作るボードゲームをほんの少しでも面白くする助けになればうれしく思います。
それでは、みなさん、ボードゲームを作りましょう!
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