脚本『千四百年の夜を越えて、君と』5
第五章:夜明けの奇跡
S41 病院・ICU(11月23日・未明)
鎮魂祭から数時間が経過。午前2時過ぎ。
ICU。穂積健吾は生命維持装置に繋がれ、ベッドに横たわっている。鎮魂祭で龍馬の呪詛の代償を負った影響か、そのバイタルサインは急速に悪化していた。モニターが危険を示すアラームを断続的に鳴らす。
医師
(険しい顔でモニターを見ながら)駄目だ……原因不明の多臓器不全に近い状態だ。生命力が急速に失われている……まるで、魂そのものが蝕まれているようだ……!
医師や看護師が懸命の処置を続けるが、効果は見られない。
廊下で待つ佐久間と静香に、別の医師が厳しい現実を告げる。
医師B
……残念ながら、手の施しようがありません。いつ心停止してもおかしくない状態です。……心の準備を。
静香
(崩れ落ちそうになるのを佐久間が支える)そんな……健吾さんまで……! 琴音を助けてくれたのに……!
佐久間
(唇を噛みしめ、壁を殴りつけたい衝動を抑え)くそ……! 何なんだよ、一体……!
S42 病院・琴音の一般病室(未明)
同じ病院の一般病室。
琴音は、鎮魂祭の後から嘘のように体調が回復し、穏やかな寝息を立てていた。しかし、看護師からの連絡で健吾の危篤を知った佐久間が、静香と共に病室へ駆けつけ、眠っている琴音の傍らで状況を伝える(※直接ではなく、小声での会話)。
佐久間
……健吾が……危ない。呪いの代償とか、非科学的だが、そうとしか思えない……。
静香
(涙声で)……あの子が助かったのは、健吾さんのおかげなのに……。このままじゃ、あまりにも……。
その声が聞こえたのか、琴音がゆっくりと目を開ける。
琴音
(掠れた声で)……健吾さんが……? どうしたの……?
佐久間と静香は言葉に詰まるが、隠しきれないと悟り、琴音に事実を告げる。
佐久間
……ごめんな、琴音ちゃん。健吾が……今、凄く危ないんだ。
琴音
(血の気が引き)……危ないって……どういうこと……!? 私が助かったのは、健吾さんが……健吾さんが、身代わりに……!? そんなの……絶対にダメ!
琴音、起き上がろうとするが、まだ体力が完全に戻っていない。
S43 病院・廊下(深夜)
琴音、看護師の制止を振り切り、点滴スタンドを押しながら病室を出る。まだ歩くのは辛く、壁に手をつきながら進む。
琴音
(荒い息で)健吾さんのところに……行かなきゃ……! 私が……助けなきゃ……! でも、どうすれば……?
途方に暮れる琴音。その時、脳裏に強く浮かぶのは、三輪山の神々しい姿。そして、古くから伝わる大神神社の強い神威。
(そうだ……大神神社……! 日本で一番古い神様……三輪の神様なら、きっと……! あの時、石上神宮で健吾さんが力を得たように……今度は私が、健吾さんのために……!)
琴音の目に、絶望の中の最後の光が灯る。
S44 病院前~タクシー車内(深夜)
琴音、夜勤の看護師に「少し外の空気を吸うだけ」と伝え、ふらつきながらも夜間の通用口へ。奇跡的に停まっていたタクシーに乗り込む。
琴音
大神神社……桜井市の、三輪の大神神社まで、お願いします! 急いで!
運転手
(驚きつつ)は、はい! かしこまりました!
タクシーは深夜の街を走り出す。琴音は窓の外の闇を見つめ、祈るように手を組む。
S45 大神神社・参道~拝殿前(深夜)
大神神社に到着。あたりは深い闇と静寂に包まれている。三輪山の気配が重くのしかかるよう。
琴音、タクシーを降り、よろめきながら参道へ。夜間警備の警備員が懐中電灯で制止する。
警備員
待ちなさい! 夜間は……
琴音
(警備員にすがりつくように)お願いです! どうか……どうか拝殿まで行かせてください! 命がかかっているんです! 神様にお願いしないと……!
琴音のあまりの必死さに、警備員は言葉を失う。
警備員
……分かりました。ですが、拝殿の前だけですよ。すぐに戻ってください。
琴音
(涙ながらに)ありがとうございます……!
琴音、最後の力を振り絞り、闇の中、拝殿へと続く石段を上る。
S46 大神神社・拝殿前(深夜)
巨大な拝殿が闇の中にそびえ立つ。神聖でありながら、畏怖を感じさせる空気。
琴音、拝殿の正面、冷たい石畳の上に崩れるようにひざまずく。凍える寒さも忘れ、両手を強く合わせる。
琴音
(絶叫に近い祈り)大物主神様! どうか……どうか、お聞き届けください! 穂積健吾さんを……彼をお救いください! 彼は私のために、呪いを引き受けてくれたのです! 私の命など、どうなっても構いません! どうか……彼に……健吾さんに、生きる力を……!
涙で声が詰まりながらも、必死に祈りを捧げる。
S47 大神神社・拝殿前~お百度石(深夜)
琴音、お百度石を見つける。
(これしか……ない……!)
ふらつく体で立ち上がり、お百度参りを始める。拝殿で祈り、石に触れ、また拝殿へ。
何度も倒れそうになりながら、転びながら、それでも歯を食いしばって往復を繰り返す。
「健吾さん……生きて……!」「お願い……!」
極寒の中、琴音の体からは、回復したばかりの清浄な生命エネルギーが、祈りの言葉と共に、まるで光の粒子のように放たれていく(ように見える)。
S48 病院・ICU(深夜)
健吾のモニター。心電図の波形が、ついに一直線に近くなる。
医師
……心停止……!
看護師
先生!
医師が除細動器の準備を指示しようとした、その瞬間。
健吾の閉じていた瞼が微かに動き、口元が何かを求めるように小さく開く。
(健吾の内面イメージ:深い闇の中、遠くから温かい光と、琴音の声が聞こえる。「……健吾さん……!」)
健吾
(心の声)……こと……ね……?
ピッ……! と、モニターに力強い心拍の波形が現れる。停止していたはずの心臓が、再び鼓動を始めたのだ。
血圧、呼吸数も、奇跡的に正常値へと向かい始める。
医師
(愕然)……馬鹿な……!? 何が起きたんだ……!?
看護師
(震える声)……生きてる……蘇生した……!?
佐久間
(ガラス越しに、安堵と混乱で)……健吾……! おい、健吾!
佐久間、説明不能な現象に、ふと大神神社へ向かった琴音の姿を思い出す。(まさか……琴音ちゃんの祈りが……?)
S49 大神神社・拝殿前(深夜)
琴音、体力の限界。百度を終えたか、拝殿の前で倒れ込むように座り込む。意識が朦朧とする中、最後の力を振り絞り、手を合わせる。
琴音
(息も絶え絶えに)……お願い……します……。
その瞬間、拝殿の奥、三輪山の方向から、金色とも虹色ともつかない、巨大で温かく、慈愛に満ちたオーラのようなものが、ふわりと降りてくるのを感じる。
全身が清らかな光に包まれ、心の底からの安堵感と共に、琴音は意識を手放す。
S50 病院・駐車場~廊下(深夜~早朝)
警備員が、慌てて駆けつけたタクシー運転手と共に、意識を失いかけた琴音を介抱する。そこへ、警備員の携帯に病院から連絡が入る。
警備員
(電話口で)……え? 穂積さんという方が……安定した?
警備員が琴音に伝える。
警備員
お嬢さん! よかった! 病院から連絡で、あなたの大切な人の容態が奇跡的に安定したそうです!
琴音
(薄く目を開け、涙を流し)……ほんと……? よかった……。
琴音、安堵と疲労で再び気を失いかける。タクシーで急いで病院へ搬送される。
病院の廊下では、佐久間と静香が待っていた。
佐久間
琴音ちゃん! 大丈夫か!? ……健吾は、本当に峠を越したぞ!
静香
(琴音の手を握り)信じられない……! あなたの祈りが……本当に……!
静香、長年の呪いから解放されたような、晴れやかな涙を流す。
S51 病院・ICU(早朝)
医師の特別な配慮で、琴音(車椅子)はICUの健吾の元へ。
健吾は穏やかに眠っている。顔色も驚くほど良くなっている。鎮魂祭の後に見えた黒い痣のようなものは、完全に消えている。
健吾
(ゆっくりと目を開け、琴音を見て微笑む)……琴音……。来てくれたんだ……。心配、かけたな……。
琴音
(涙が止まらない)健吾さん……! よかった……! 本当に、本当によかった……!
琴音、健吾の手をそっと握る。確かな温もり。健吾も優しく握り返す。
健吾
……君の声が、聞こえたんだ。遠くから……温かい光と一緒に……。それで……。
琴音
(泣きながら微笑み)……届いたんだね……私の祈り……。
二人は見つめ合う。言葉はいらない。ただ、生きて再会できた奇跡を噛みしめる。
佐久間と静香が、そっと病室の隅で見守る。医師は、首を捻りながらも安堵の表情。
医師
……奇跡、としか言いようがない。彼を蝕んでいた原因不明の衰弱が……まるで浄化されたように消えている……。
窓の外が、希望の色である朝焼けに染まっていく。長い夜が明け、新しい一日が始まろうとしていた。
第一章:古都の出会い、宿命の影
第二章:千四百年の呪い
第三章:石上神宮、破邪の誓い
第四章:鎮魂祭-光と闇の激突
第五章:夜明けの奇跡
第六章:千四百年の夜を越えて
#創作大賞2025 #エンタメ原作部門 #メディアミックス向け #青年マンガ #和風ファンタジー #伝奇ロマン #恋愛物語 #歴史ファンタジー #古代史 #奈良 #古都 #神社仏閣 #呪い #宿命 #運命の恋 #転生 #神話 #奇跡 #感動
いいなと思ったら応援しよう!
ありがとうございます!
これからも頑張ります。