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となりのトップランカー #09 | 運命の名前を纏うとき

体験入店中にリピートしてくださった
タナカ様から別のお店を勧められ、
私は迷うことなく、
新たな扉を叩くことに決めました。

二度目の面接

最初のお店も、面接から今日まで
丁寧に対応してくださいましたが、
移籍候補となった二店舗目のお店は、
さらに熱心に私をアシストしてくれました。

(どこも女の子の確保に苦労しているのかな……)

そんな冷めた思考が頭をよぎる中、
指定されたビルへと向かいます。

交通量の多い大通りに面したビルに
物々しさはなく、ごく普通のテナントビルと
いった佇まいでした。
やはり看板などは掲げられていませんでしたが、
ポストに貼られた「R18」のステッカーだけが、
ここが日常の裏側であることを
静かに告げていました。

指定された階に辿り着くと、
目の前には自動扉が一枚。
ここまで来れば迷う余地もなく、
ボタンを押して一歩中に進みます。

するとすぐに受付カウンターから、
スーツ姿の若い男性が「いらっしゃいませ!」
と活気ある声で迎えてくれました。

その明るい雰囲気に、二度目とはいえ少なからず
緊張していた私の心が、
ふっと軽くなったのを覚えています。

「面接の方ですね? こちらへどうぞ」

その方は笑顔のままカウンターを回り込み、
手際よく私を案内してくれました。

カーテンで仕切られた裏方のスペースに促され、
机に向かってプロフィールシートを記入します。
書く項目は、一店舗目と大体同じようなものでした。

少しして、先ほどの男性が戻ってきました。
背が高く、20代くらいの男性です。
着こなされたスーツも相まって、
清潔感が溢れていました。
街中で見かけたら「イケメン」と称されても
疑いありません。
まさか夜の世界で働いているとは、
誰も思わないでしょう。

(どうしてこのお仕事を選んだんだろう……)

正直、そう思わずにはいられませんでした。
昼の世界でも、どこでだってやっていけそうな、
そんな場違いな有能さを感じたのです。

後に知ることになりますが、この方こそが、
このお店の店長さんでした。

面接が始まりました。

私は現在、別のお店で体験入店中であること。
そして、そこでの本指名客である方に勧められて
ここへ来たことを、包み隠さず伝えました。
店長さんは一瞬、驚いた顔をして

「そんなお客様がいらっしゃるんですね」

と呟きました。


タナカ様の言葉は本当でした。

お手当は今のお店より良く、
広告戦略にも力を入れているとのこと。
キャストには1から10までのランクがあり、
人気に応じて上がっていく仕組みだという
説明を受けました。

「あなたなら3からのスタートで、
十分にやっていけますよ」

店長さんはそう言ってくださいましたが、
私はそれを(みんなに言ってるんだろうな)と、
冷静に受け止めていました。

(現に、ここでトップを取り続けている今も、
ランクではなく特別指名料が付いていく仕組みです。
求人にあった入店祝い金も、
結局はいただけずじまいでした。
お金の話はなんとなく、
後になるほど言い出しにくくなりますね)


「うちとしては、ぜひ働いていただきたいですが、
いかがですか?」

店長さんの真っ直ぐな問いに、
私もすぐに「お願いします」と答えました。

駅から近く、仕事帰りのサラリーマン層が
厚いという立地条件。
そして何より、同じ時間でも
今より高く評価してもらえるという好条件。

移籍を拒む理由は、どこにもありませんでした。

そのお店は掛け持ちが禁止されていたため、
今のお店でのシフトを全うした後に
出勤することを約束しました。


運命の名前

源氏名も、その場で決めておくことになりました。

「"かなえ"さんは、いかがですか?」

店長さんの提案に、私は首を振りました。
しっくりこなかったのです。

「それなら、"かな"がいいです」

私はそう言って、
"かな"という名前をいただきました。

偶然ですが、それはもし私に女の子が生まれたら、いつか付けたいと願っていた名前でした。
結局その願いは叶うことはなかったので、
何かのパスワードに"kana"と含ませたりして、
ひっそりと大事ににしていた名前だったのです。

私はその名前で、
この世界を歩くことを決めました。
それは偽りの名前ではありますが、
私にとっては大切な「もう一人の私」です。

誰のものでもない、私自身の物語を、
この名前で歩んでいこう。

そう思うと、少しだけ胸の奥が温かくなりました。

お世話になった今のお店に、
申し訳なさがなかったわけではありません。
けれど、こうなることも見越しての体験入店です。

私は一時の感傷を割り切り、
新しい名前で新たな場所へと
踏み出す決意を固めました。


2026年4月12日
KANA


▼社会的に成功した、あるお客様との出会いの記事はこちら


▽新たな扉を開くことになった、きっかけを与えてくれた前の記事はこちら



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執筆後記です。

源氏名の役割、だからこその願い。
それは……。


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