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となりのトップランカー #08 | もったいない


「お姉さん、もったいないよ」

三度目の戯れを終えた後、
タナカ様はさらりとそう仰いました。

「知っている」という安心感

その日のご予約は150分。
前回の210分に比べれば短いものの、
それでも二時間半という長い時間です。

タナカ様をお迎えする前に、
私は新規のお客様の接客を終えたところで、
その方は、言葉で攻め立てることを好む方でした。

「こんなに濡らして、恥ずかしいね」
「そんなに気持ちいいの? 好きなんだね」
「我慢しなくて、いいんだよ」

それらは全て、言われて嬉しい言葉ではありません。
身体は反応を返しますが、
心には一滴の雫も落ちてきませんでした。

言葉による執拗な攻めを好む方との時間は、
私にとっては悦びではなく、
仕事と割り切ってただただ耐える時間に
なってしまうと痛感しました。


だからでしょう。
次のタナカ様の顔を見た時、私はほっとしました。

直前の方との落差がもたらした錯覚であることは
わかっていましたが、
それでも「知っている」というだけで、
この不確かな密室において何よりの救いとなります。

本指名様の有り難みを、
初めて噛み締めた瞬間でした。



戦う場所を選ぶ

私はいつも以上に念入りに身体を清め、
再びタナカ様を受け入れました。

一度境界線を越えてしまえば、
躊躇うことの方が不自然に思えてきてしまいます。
私はただ、目の前の男性との濃密な時間の共有を、
真っ直ぐに愉しむことに努めました。


お仕事である以上、
サービスを提供するのは当然の義務です。
けれど、人と人との関わりである限り、
一方通行ではうまくいきません。

肌と肌でより密接に交わるこういう場であれば、
より心の状態も鏡のように、表に現れるでしょう。

私が業務的に、
サービスをただの作業としてお仕事していたら、
今のようにたくさんの方に呼んでいただける
キャストにはなっていません。
それは、はっきりと言えます。


150分の時間も夢中のままに過ぎ、
タイマーが終了を告げました。

余韻の中で身を整えていた時、
タナカ様がふと口を開きました。

「お姉さん、もったいないよ」



唐突な言葉に、私は手を止めて聞き返しました。
「何がですか?」と。


「お姉さんは顔もスタイルもいいし、
性格もキツくない。ベッドの上でも申し分ない。
このお店では、安すぎる。もっといい店行けるよ


私は驚きました。
まさか、そんな風に言ってもらえるなんて。

初めてこの世界に飛び込んだ時、
私はただ検索結果の最上段にあったお店を
選んだだけでした。

相場を調べる余裕もなく、
三十代の私を雇ってくれる場所があるのか
という不安だけで、足を踏み入れたのです。

「ここは、中の下くらいの店だよ」

そう告げられて、初めてその事実を知りました。
高くはないと思っていましたが、
贅沢に選べる立場だとは露とも思っていなかったのです。


私は、自分に自信がありませんでした。
タナカ様の言葉もどこか心を滑っていくようで、
きちんと受け止められていなかったと思います。
けれど、お店を選ぶことは、
自分を大切にすることに直結します。


安いお店ほど客層の質は悪くなり、
衛生面への意識が低いお客様も増える。
逆に、比較的高いお店には、
経済的にも精神的にも余裕のある方が集まる。

自分がその場所で戦えるのなら、
少しでも安全な場所を選ぶべきです。
それは、早くこの状況から抜け出すという意味でも。

あらゆる風俗店の常連客であるタナカ様の言葉は、自信のなかった私の背中を押し、
新しい可能性を見せてくれました。

同じ時間、同じ熱量を注ぐのであれば、
より高い価値を認めてもらえる場所で働きたい。

私はその日の仕事を終えると、
タナカ様に教えていただいたお店の一つを、
すぐに検索しました。

大手グループが展開し、
今のお店より料金設定が高く、
集客にも力を入れている有名店。

私は迷うことなく、
面接の申し込みを行いました。



そこが、現在も私がトップランカーとして
在籍しているお店になります。


2026年4月8日
KANA


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