見出し画像

鸚鵡返文武二道②~義経、為朝、小栗判官門人の武芸の稽古

 菅原道真すがわらのみちざね(845~903)は、太宰府だざいふ左遷させんされ、その地で没した。その後、みやこでは落雷が続き、道真の怨霊おんりょうのせいだといわれ、道真を天神様として祭り、太宰府天満宮は学問の神様とされた。物語の世界では、その息子が菅秀才かんしゅうさいといわれる。
 寛政の改革かんせいのかいかく(1787~1793)の松平定信まつだいらさだのぶ(1759~1829)を菅秀才にあてはめ、物語が展開する。
 黄表紙きびょうし鸚鵡返文武二道おうむがえしぶんぶのふたみち」(恋川春町こいかわはるまち作、北尾政美きたおまさよし、1789蔦屋重三郎つたやじゅうざぶろう刊)上中下三巻の中巻の現代語訳の紹介。

  鎮西八郎源為朝ちんぜいはちろうみなもとのためとも門人の弓矢ががくにされてちやほやされるのを聞いた他の人たちは……。

 



 源義経みなもとのよしつね小栗判官おぐりほうがんの門人は、これを聞いてくやしく思い、義経の門人は、京の五条の橋の上での千人斬せんにんぎりのがく、小栗判官の門人は、画家の狩野古法眼かのうこほうげんに馬を描かせた額を奉納する。この三枚の額のうち、馬の絵だけが現代に伝わり、画家の名前ばかり伝わるとは、そん奉納ほうのうなり。
男「ぶっさき羽織が今の流行だ。なんでも北野天満宮の若旦那わかだんなが着だして流行したようだ」
武士「向こうの長羽織を着た男は去年の流行だから、少し古くさい」

 


 天皇のおぼしにより、弓馬剣術、思いのほか流行し、そのうえ、天皇が寒い夜に高価な服を脱いで、粗末そまつな服に着替きがえられたことを聞き、
「われもわれも」
と、粗末な服になり、宮中に上がれる貴族たちは、粗末な服に、弓を持ってうろうろし、古道具屋にあるかぶと、瀬戸物屋にある兜鉢かぶとばち(大きなどんぶり鉢)、なんでも兜と名がつけば、観音のがくのように射貫いぬいてみようと、いきなりてはこわしける。
瀬戸物屋「売り物が壊れては、わたしは何度なんといたしましょう。お願いですから許してください」
武士「なんだ、やかましい。ぶつくさいうなら、亭主の頭を射貫いぬいてやれ」
公家「目にもの見せてくれん、瀬戸物せともの見せん。エイエイオー」

 


 源義経みなもとのよしつねの弟子はもとより、その他も、剣術を学ぶ者、観音のがくを見て、
「なんせ剣術は、先生が牛若丸うしわかまるという名のとき、京の五条の橋の上で千人斬せんにんぎりをされたように、たくさんの人を切らなければ上手にはなれないもの(本当は弁慶べんけいが千人の刀をうばった話)」
と思えども、人を切ったら後でつかまると思って、毎晩、五条の橋や辻の道へ出て、天気がよいのに高下駄たかげたをはき、日の丸のおうぎを持ち、木刀ぼくとう竹刀しないで、道行く人を千人ぶちのめそうとしたりける。
右の武士「餅つきペッタンペッタン。これで九百九十九人目だ。あと一人で千人だ。やったぞやったぞ」
公家「なんとどうだ。免許皆伝めんきょかいでん義経よしつねの門人だぞ」
左の武士「いたたたた。これが真剣なら、両腕は切られていた。そのつもりでお切りなさい。落ち着いて打ちなされい」

 


 馬の稽古けいこをする者は、小栗判官おぐりほうがんあばれ馬に乗った話を、陰馬かげうまに乗ったと聞き違え、陰間かげま男娼だんしょうに乗ったと思い、そのうえ、
「弟子同士で木馬になっても、互いに知っているあいだがらなので、おもしろくない。見ず知らずの者に乗ったならば、いろいろ変わったこともあるだろう」
と、男娼のいる陰間茶屋かげまちゃやがあるところへ馬具ばぐを持って行き、陰間を呼んで馬の稽古けいこをする。
公家「しげきちは南部産の大きな馬かの。土佐産の小さいのを呼んでもらおう」
武士「こりゃこりゃ、こいつは左が強い。酒に強い左党さとうのようだ」
馬の陰間「えろう上下のピストン運動の激しいお方じゃ。ヒンヒン」
茶屋のおかみ「おやおや、もう時間ですよ。それ以上になれば延長料金をいただきます」

 


 馬は生き物なので、一頭に乗れたからといって他の馬に乗れるものでもない。女郎もまた同じ。一人にもてたからといって、またほかにもてるわけでもない。ここに、陰間かげまも乗りつくし、各地の女郎にも乗れば、腕もあがるだろうと、日夜、女郎を相手に稽古けいこする。
女郎「あなたが終われば、次のお客をとりましょう」
客「なんでも二三百両もはらったので、はらった分は取り返せるように乗りましょう」
 店の若い者、景気づけにまといを当てる。バラバラバラ。

 


十一

 馬術稽古けいこの者も、金のなる木は持っていないので、遊郭ゆうかくの支払いができなくなり、往来おうらいの男女を誰彼なくつかまえて乗れば、さぞいろいろな味がして、稽古けいこになるだろうと、町中をうろついて、男女を見かければ、傍若無人ぼうじゃくぶじんに押し倒して乗りければ、とんでもない大騒動になり、けんかや口論が次々起こった。
女の従者「主人の奥方に不届千万ふとどきせんばん、なにをいたすか」
武士「なにが不届千万ふとどきせんばんだ。こっちは、おかみの命令で馬術の稽古けいこをしてるんだ。黙ってけつかれ」

 


 勝手気ままにむちゃくちゃな武芸の練習をするまま、最終回へとつづく、

 


いいなと思ったら応援しよう!