おでん、レモン醤油、ソース味:父の沈黙、母の手、小学生の直感――我が家の80年代生活記
誰に教わったわけでもなく、父の書斎に入る際は自宅内職員室みたいなもので、ノックし、父の返事を待ち「失礼します」と入り、例えば母からの伝言など要件のみ伝え立ち去るようにしていました。彼は、数学や情報工学が専門なので、居間で再放送の時代劇を見ながら、頭の中で仕事をしていることもあるので、邪魔をしないことは意識していました。話しかけてくれたら、父との会話もできる、そんな感じです。
月光仮面が好きなので、オタク気質はあったと思います。変わった人でした。
彼は料理は出来ない古い人間です。彼の中の美学は「うまい・まずいを言うな。出されたものを食べろ」です。母からすると、張り合いないです。祖母から教わりニシン蕎麦とか、父の好きな料理を作っても反応無いのですから。
そんな父が唯一反応したのが、祖父伝来の手作り水餃子でした。僕も心身を壊して思うのですが、体力が落ちると食事して消化するのも負担になることがあります。小麦粉・細かく切ったニラ・豚ひき肉・細かく切ったにんにくの組み合わせだから、消化がめちゃくちゃいいので、療養している父からすると、美味いし体も楽だし栄養取れるので惹かれたのでしょう。
僕は酢醤油でいただきますが、彼はレモン醤油で食べるのが好きで、私と下の子を車に乗せてスーパーで食材を買ってきて、レモン絞りだけはやっていました。いや、父さん、皮を練ったり、整えてあんを包むの楽しいし、あなたは手先が器用なのだから向いてると思うぞ。みんなで手を動かしつつ、なんか話すのもいいものですよ。
そんな家で、母が仕事を持っているので、小学生が自転車で行ける小さなスーパー2軒(片方は商店街型)と、徒歩で行ける生協が一番近いお店で、80年代はコンビニはまだ駅前にある程度でした。駅ビルが進出する前だから、街に大きな書店が無い時代でもあります。父は大学生協や横浜の有隣堂が好きでした。それと、隣町で、専門書の取り寄せをし、酒屋さんみたいに届けてくれるお店もありました。
当時のその生協は小さくて、プレハブに近い内装でした。子ども心に華美ではなく、他のお店と方針が違うのだと感じました。ここに徒歩10分くらいで通えるから、とことこ通いました。
この時期になるとおでんセットが売られています。カレーとシチューは作り慣れているし、ゆで卵はサンドイッチの具として、扱い慣れています。だから、おでんは小学生に優しい料理でした。
じゃがいもはよく洗い皮付きにする。メイクイーンと、男爵で食感が違うから二種入れる。人参や大根も。おでん種は湯通しし軽く油抜きをする。ゆで卵は、つるんと出来るよう、手早く水でひやし皮をむきやすくする。薄皮をうまく使って殻をむけると達成感がありました。こんにゃくは、別売りを1つ買い、切ってサイズを揃えました。具を足しているので付属の調味料だけでは味が薄くなってしまうので、醤油と粉末の出汁で調整しました。
例えばカツの揚げ方や油の後始末は母から習いました。けど、カレーもおでんも、見て覚えたり、母の料理を食べて覚えた気がします。料理って、あの味は、こんな感じと、工程を分解したり逆算しますね。
下の子は4学年下(早生まれ)だから、僕が小学5年で小学1年。父は出来ない。彼のベストは、電気炊飯器でお米ととがずに炊くこと。仕事・家事・育児・父の療養の支援・父の仕事の秘書などを引き受ける母の負担を減らせるのは、消去法で私だけでした。洗濯物を洗い、干すだけになっているのを見かけると、スチール製の折りたたみハンガーや、回転するタイプの傘みたいに開くタオル用のハンガーで干すこともありました。
やると母が喜んでくれるし、小学生の僕の家事能力は母の下位互換に過ぎないけど、僕が出来ることは引き受ければ、母が自由に動けると、言葉に出来ないけど、直感的に状況を理解していました。
母は料理の感想はくれます。助言も。父は黙って食べるので、機嫌を観察します。下の子はご飯よりパンが食べたい小麦の国の人なので、おでんで具を取ってと食べてくれていれば問題ないです。その頃はまだ猫はおらず、庭に犬がいるだけでした。「今夜はおでんですね、分かります」って顔をされても、人の食べるものはあげられないので、ドッグフードに生卵をつけてみたり工夫しました。犬なりにドッグフードだけでなく、生卵トッピングは目先が変わって嬉しいみたいです。おまけがある特別感というか。
生協の商品は、生麺の焼きそばも懐かしいです。野菜炒めは当時の僕も簡単に作れるので、そこに投入し、絡めて温まり麺がほぐれたら味をつけて、あおのりちらしたりすればご飯になります。理由は聞きそびれましたが、父は縁日の屋台で出るようなソース味がソールフードの人なので、機嫌よく食べていました。
「トラガラ、焼きそば作ってくれ」とは言われないのですが、地元の神社に縁日が来ると「お前の分も買ってやるから、お好み焼き買ってきて」と頼まれることがありました。秒で買いに行き、冷めないうちに買って帰りました。振り返ると、彼が意思表示したのは、水餃子かお好み焼きでした。
人間の脳は、作業したり、体を使うとインスピレーションを得たりするから、父よ、息子程度でいいから、家事をやると、論文や授業の準備にプラスだと思うよ。関西のご家庭ほど上手に出来ないかもだけど、キャベツ千切りして、お好み焼き作るの、熱い中華鍋を予熱して作ると家庭用の火力でも美味しく出来る。毎日でも作ってやるから、たまには顔を出せ。
美味しくご飯を食べる妨げにならない程度の、説教に手加減するからさ。
さり気なく、目につくとこに、本書があるかもしれませんが。
関連note(家族の物語))
母と打ち合わせの際に、「囲炉裏? 詳しく」「家の前に川って危なくないの?(農業用用水路が小川スタイルなので川と呼んでた)」とインタビューしつつ、こつこつ10日継続しました。母の世界観が記事を重ねるごとに出ています。
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