【和陰少女】第三幕「三日月の夜」|オリジナル小説|連載|ダークファンタジー|和風
普段の父はテキトーでちゃらんぽらんなダメ親父だった。
威厳もなく、とても組の若頭には見えなかった。
でも、困っている人がいると、
ぶつくさと言いながらも放っておけない。
しのぎにならないような、
面倒なことでも勝手に引き受けて、
翌日には傷だらけで、酒を飲んで大の字で寝ていた。
うちの家訓に”鶴のように恩は忘れるな。
返すときは鳳凰のように豪華に”てのがあるけど、
それを地で行くような人だった。
まぁ、腕だけは確かで、
腕っぷしは城の武将も一目置くほどだった。
そういう意味では、
街では困ったときの用心棒みたいに頼られてた。
組員もそんな父に憧れてるやつが多くて、
真似してるやつも多かった。
まぁ、街の人とは良くも悪くも、
持ちつ持たれつの親しみやすい組だった。
そんな父を一番尊敬していたのが、
私の5つ歳上の姉の牡丹。
着物の着方や礼儀作法、
剣術、色んなことを姉から教わった。
うちには母がいなかったから。
母代わりだった。
街でも評判はよくて、良く気が利くとか、
美人なお姉ちゃんだねとか言われることが、
自分のことのように嬉しく、自慢の優しい姉だった。
姉はよく夜に父と剣術の修練に励んでいた。
父は乗り気ではなかったけれど、
酒と金は姉が管理してたから、渋々付き合ってた。
父もジジイも組員も、姉には頭が上がらなかった。
4年前のあの日も、
姉は父に食後に修練を頼んでいた。
私はその日何故か異様に眠かったから、
早めに床についた。
「俺は今日こそは牡丹ちゃんが一本を取るのに賭けるぜ」
「あっしは若を信じてます!」
「こいついい子ぶりやがって!」みたいな、
幼い頃から聞いてた、組員のいつものやり取りが、
子守唄のように聞こえて、私はいつの間にか眠っていた。
そんなに長くは寝てなかったと思う。
異常な老人臭で目が覚めて横を見たら、
ジジイが抱きついて寝ていた。
ジジイを蹴り飛ばし、
水を飲みに居間の方へ行った。
廊下に出ると、屋敷はやけに静かだった。
そんなに遅くはないのに。
居間の襖を半分くらい開けた時、
何故か体が動かなくなった。
半分空いた襖から覗いた居間は、
庭側の障子が全開になっているように見えた。
雲で月が陰って良く見えなかったが、
庭に姉が立っているように見えた。
何秒ほど突っ立っていたのだろう?
雲で陰っていた三日月が姿を表し、
月明かりが地を這う煙のように、
ゆっくりと、
庭を、
居間の畳を照らしたとき、
血の海が見えた。
その海に、父が、
兄のように慕っていた組員たちが沈んでた。
庭に立っていた姉は、
その光景を、静かに見ていた。
赤く血の滴る、父の大太刀を持って。
姉は私の方を見て、
「私が、殺した」とだけ言った。
私はその冷たい声を聞いた瞬間、
ふわっと気を失った。
薄れゆく意識の中で見た、
目に焼き付いた三日月を今でも鮮明に思い出す。
一通り話し終わった紫乃は少し震える手でお茶を一口のんだ。
「ま、そういうことで姉を探してるってわけ。」
「なるほどのぉ……
困った組員に嫌気がさすのも分からんことはないのぉ」
団子をモチュモチュしながら、
しろがちゃぶ台の団子をもう一本取る。
「はぁ!?そこ!?
絶対違うじゃん!
絶対何かあったじゃん!
そこが気になるところじゃん!」
「ふむ。その口ぶりじゃと、
お主は姉がそんな事するはずないと思っておるんじゃな?
探してどうするんじゃ?」
「そんなの何があったか問い詰めるに決まってんじゃん!」
「ほぉ。
望まぬ答えが返ってきたらどうするんじゃ?」
「それは……
仇を……」
「仇討ちか?出来るとは思えんな。
ーーもちゅもちゅ」
また一口団子を頬張る。
「出来るもん!今後は私が組を背負うんだから……
やらないと……」
「それで何が残るんじゃ?残り少ない姉を殺して、
臭いジジイと二人になってお主は満足か?」
「しろちゃん?……
臭いジジイ?……」
「……」
「まぁ、わしには関係ないがな。
良い結果が出ると良いの。
さて、団子も食ったし、わしはそろそろ行くぞ」
「はぁ?
ちょっと約束が違うじゃん!
旅に同行するって言ったじゃん!」
「わしは団子を食べに来ただけじゃ。
そんなふわふわした、
辛気臭い旅に付き合うつもりはないのぉ。」
「ちょっと!
あんたーー」
「しろちゃん。」
興奮した紫乃の言葉を源一が遮る。
「しろちゃん。
じじいからも頼む。
確かに紫乃は未熟じゃ。
自分がどうしたいかも、
お前さんの言う通りふわふわしておる。
じゃからこそ、
お前さんのように冷静に見れる者に同行してもらいたい。
しろちゃん。
いや蛇神様よ。
今まで禄にお願いなどしたことはなかったが、
どうか頼めんじゃろうか?」
「ふんっ。しょっちゅう願い事に来ておったじゃろ。
それに”元”神じゃ。
聞く義理もない。」
「ふーむ……そうか。
さっきのお前さんの話を聞いた感じじゃと、
わしにはどうも無関係とは思えんのじゃがのぉ。
まぁ、仕方ないのぉ。」
そう言うと、源一はわざとらしい諦めた表情で茶を一口すする。
「どういう意味じゃ?」
「お前さん。
黒い蛇に因縁があるじゃろ?」
「……」
「まぁ、お前さんが神の座を降りて、
今はあの黒いのが神になっておるからの、
何かあったのじゃろうが。」
「お主。何を知ってる?」
しろの髪の数匹のヘビが首をあげ、源一の方を向く。
「まぁ、そう身構えなさんな。
妖怪の世界のことはようわからんから、深入りはせん。
実は黒い蛇じゃがな、
倅が昔調べておってな。
わしにはあまり教えてくれんかったが、
事件が起きたのが組員と何かしようとしていた矢先のことじゃった。」
「黒蛇がお主ら一家に関連があると?」
「まぁ、断定はできんが。
何かしらあるかもしれん。
あと、さっき言ったように、
関係があるのはわしら一家だけでなく、
お前さんもじゃないのか?」
「はぁ……勘違いしているようじゃが、
わしは特に神の座に未練はないぞ。」
「嘘だー
すぐ元神って言うくせに。」
少し落ち着いた紫乃が茶々を入れる。
「ホントじゃ!未練などない!
じゃが……まぁ…………
よく考えたら暇じゃしの。
ついて行ってやっても良かろう……」
「ほんと!?やったぁ!!
ありがとー!!」
紫乃がしろに抱きつく。
「ま、待て!!
く、くっつくでない!」
「何よ、照れちゃって。」
「照れておらぬ。
同行はするが、一つ条件がある。」
「何よ?条件って。」
「一つ、わしはもし戦闘などがあっても手助けはせん。
そもそも、そこまでする義理はないしの。
二つ、ちゃんと3食睡眠付きを保証してもらう」
「一つじゃないじゃない。
なんだ、そんなことならいいわよ。
あんた弱そうだしね。
守ってあげるわ。」
「決して弱くはないぞ!!
お主よりは強いぞ!!」
「はいはい。
じゃあ、善は急げってことで早速行きましょうか。」
「嫌じゃ!
今日はつかれた!」
「ちょっと!
行くわよ!」
「おい、じじい。
どうにかならんのか、この猪娘。
やっぱりやめたくなってきたぞ。」
「ハハッ倅譲りじゃな。
紫乃や。
お前さん、どこへ行くつもりじゃ?
どうせ決まっておらんのじゃろ?」
「山よ!山!
行商のおじさんが山でお姉見たって言ってた!」
「紫乃、それはいつの話じゃ?」
「知らない!でも見たって!
だから早くいかなきゃ!」
「待て待て待て!
お主、いつ見たか聞いておらんのか?」
しろが唖然とした顔で質問する。
「聞いてないわよ。
だって、その情報しかないからそこに行くしかないじゃない。」
「おい、じじい!
わしはやっぱりこんなバカと一緒に行くの嫌じゃ!」
「何よぉ!
だってそれ以外ないじゃない!」
「こやつは……あの山から繋がっておるのは赤沼村だけじゃ。
そして、赤沼村に行くには別にあの山を通る必要はない。
山の少し離れた道を行ったほうが早い。
おそらく、お前の姉は身を隠しやすいから山を通ったんじゃろう。」
「なるほど!じゃあ!
その赤沼村に今からーー」
「まぁまぁ、紫乃や。そう急がんでも良かろう。
それに今から出ても、途中で日が暮れる。
今日は一泊していきなさい。
心配せんでも、牡丹も睡眠位はとるじゃろうて。」
「わしは今日はもう動かん!
山から連れ回されて、足がパンパンじゃ!」
「ほら、しろちゃんもこう言っておるしな。
「うーん、じゃあ明日の朝出発ね!」
「うむ。朝飯は握り飯とーー」
「よし!じゃあ、
今日はしろちゃんも紫乃もわしと寝ようねー」
「それは嫌(じゃ)!!」
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