【やさしい夜遊び】桑田佳祐が描く理想のポール武道館ライブ。その夜私が涙した理由(No.3)
今回の放送ハイライトまとめ
桑田佳祐が架空の「ポール・マッカートニー日本武道館公演」を生実況中継形式で展開
ビートルズ期よりもウイングス全盛期(1970年代)の楽曲を中心に選曲
「Say Say Say」ではAIマイケル・ジャクソンとの共演を想定した2025年らしい演出
アンコールは『アビイ・ロード』B面メドレーで桑田本人が涙する場面も
北海道の夜、ラジオから流れてきた「夢」

北海道の夜は長い。窓の外は真っ暗で、たまに雪が舞っているのが街灯の光で見える。ストーブの音だけが部屋に響く、そんな12月の夜だった。
焼酎のお湯割りを片手に、いつものようにラジオをつけた。TOKYO FMの「桑田佳祐のやさしい夜遊び」。正直に言うと、桑田さんの番組をそこまで熱心に聴いているわけじゃない。でも、この日はたまたまチャンネルを合わせた。それが運命だったのかもしれない。
「桑田佳祐的理想のポール・マッカートニーライブのセットリスト」というテーマだった。
最初は「また音楽評論みたいなやつかな」と思っていた。でも違った。桑田さんは、自分が日本武道館のアリーナ席にいる観客になりきって、架空のポール・マッカートニーのライブを「実況中継」し始めたんだ。
「小野ちゃん、ワクワクするね」
番組スタッフを友人に見立てて話しかける。舞台監督の名前を叫ぶ。会場のざわめきまで演じる。ラジオから流れてくるのは、ただの選曲番組じゃなかった。桑田佳祐という一人の音楽ファンが見ている「夢」だった。
AIの時代に思う、人間の声にしかない温度
最近、私もAIの勉強を始めた。生成AIがどんな仕組みで動いているのか、どうすれば良い文章が書けるのか。そんなことを調べる日々だ。でも、あの夜のラジオを聴いて思った。人間の声には、データでは再現できない何かがある。桑田さんが「涙出てきちゃったよ」と言った瞬間の、あの声の震え。AIには、あれは出せない。
ビートルズよりもウイングス──1970年代への偏愛

オープニングは「Venus and Mars」から始まるメドレーだった。1975年、ウイングスの全盛期だ。私が二十歳になるかならないかの頃の曲だ。あの頃はまだ北海道にも来ていなくて、東京で学生をやっていた。ラジオから流れるポールの声を聴きながら、昭和の終わりの空気を思い出した。
桑田さんが選んだのは、ビートルズよりもウイングス時代の曲が多かった。これには少し驚いた。普通、ポール・マッカートニーと言えば「Yesterday」や「Let It Be」を思い浮かべるだろう。でも桑田さんは違う。「Let 'Em In」や「Silly Love Songs」、1970年代のきらびやかでポップなサウンドにこだわった。
「ポールがバンドマンとして再び世界を席巻した時代」
そう、桑田さんは言っていた。ビートルズが解散して、ポールは一度どん底に落ちた。でもウイングスで立ち直って、また頂点に立った。その姿に、桑田さんは自分を重ねているんじゃないだろうか。
人間らしい「間違い」の愛おしさ
途中、桑田さんが「Hi, Hi, Hi」を紹介する時、「1976年」と言った。でも調べてみたら1972年の曲だった。生放送だし、興奮していたんだろう。そういう「間違い」が逆に人間らしくて、私は好きだ。AIなら絶対に間違えない。でも、間違えないことが正しいわけじゃない。
AIマイケル・ジャクソンとの共演──2025年らしい演出

一番印象に残ったのは「Say Say Say」だった。マイケル・ジャクソンとのデュエット曲だ。桑田さんは「スクリーンにAIマイケル・ジャクソンが映っている」という設定を作った。2025年らしい演出だ。亡くなった人をAIで蘇らせる。それを「未来的」と呼ぶべきか、「切ない」と呼ぶべきか。私にはまだわからない。
ただ、桑田さんの声には温かさがあった。技術を使っても、そこに愛があればいいんじゃないか。そんな気がした。
『アビイ・ロード』B面メドレーで涙
アンコールは「Golden Slumbers」から始まるメドレーだった。『アビイ・ロード』のB面、あの伝説のメドレーだ。桑田さんは完全にファンになりきって、泣いていた。
「もう涙が止まりません」
ラジオから聞こえる、その声。私も気づいたら、少し目が潤んでいた。
技術が進歩しても、「思い」はデータにならない

番組が終わった後、桑田さんは「はっきり言って疲れました。生放送でやる企画じゃない」と笑っていた。でも、その声は満ち足りていた。83歳のポール・マッカートニーへの敬意と、音楽への愛。それをラジオという古いメディアで伝えようとする姿勢。
北海道の夜は、まだ長かった。でも、心は少し温かくなっていた。
最近AIを勉強していて思う。技術は進歩する。でも、人間の「思い」だけは、データにならない。桑田佳祐という一人の男が、ポール・マッカートニーという伝説に捧げた、この架空のライブ。それは、誰にも再現できない、たった一度きりの魔法だった。
焼酎のお湯割りは、いつの間にか冷めていた。
筆:健一
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桑田佳祐のやさしい夜遊び | TOKYO FM | 2025/12/06/土 23:00-23:55
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