逆回転と一回転 - 2026 F1マイアミGPレビュー

3月末の鈴鹿から、予定になかった1カ月ものインターバルを挟んで、ようやくF1グランプリが再開されました。「新時代」が始まったばかりだったこともあり、ずいぶん長いブレークだったような気がします。でも、中東での情勢不安がなかなか解消しないなか、とりあえず危険な地域でのイベントをスキップするだけでシーズンは続いていることを、ありがたく思うべきなのかもしれません……。

ウクライナ、ガザ、レバノン、イラン、ペルシャ湾沿岸に一日も早く平和が訪れますように。そして、各地で武力紛争をおっ始めた人たちが、足の小指をタンスの角にぶつけますように。

【このレビューは、いわばF1の感想戦です。リザルトは掲載せず、レースの展開を詳しく追うこともいたしません。では、いったい何を書いているかというと、そのイベントでの重要な見どころや、逆に重箱の隅をつつくような話題にフォーカスしています。気軽に面白がっていただければ幸いです。】


■アントネッリ3連勝!

アントネッリがイイですね。初優勝からの勢いが止まりません。マイアミのグランプリは3戦連続のポールポジション。レースではお約束どおりにスタートで後退したものの、その後はマクラーレン勢やピアストリと「ヨーヨー」で順位を入れ替えながら、スイスイとポジションをあげてきました。

そこからはノリスとの勝負になり、結果としてはピットストップの所要時間と、インラップの速さでアンダーカットを成功させたのが勝因になりました。そのあたり、チームの仕事も含めて、実にお見事でした。

ただ、スプリントでは予選2番手から、やっぱりスタートで沈んで4番手。まあ、そこまではいいとしても、あんまり意味のないトラックリミット違反で5秒のタイムペナルティをもらい、4位フィニッシュから6位に降格。2ポイントを失ったうえに、ラッセル兄さんに1ポイント献上するかたちになりました。

このあたりは若さというよりも、もしかするとイタリア人的な気質の問題かもしれないと思ったり。もちろん、若干の偏見も混じった推測にすぎませんけど。

しかし、メルセデスはこれだけ毎回スタートでポジションを下げていても、最後には勝っちゃうんだもんな。この唯一の弱点が修正されたら、どうなっちゃうんだろうな。というか、きっとそのうち修正してくるだろうけど、できたら直さないでほしいところです。ムリか。

■マクラーレンもイイ感じ

今回はマクラーレンも良かった。スプリントでノリスがポールスタートから優勝、グランプリではアントネッリにやられたものの、ノリスとピアストリが2位、3位で表彰台ですからね。

どうやらこのマイアミで投入したアップグレードが機能したようで、ノリスは「ダウンフォースが増えた。特にリアが安定して、挙動が予測しやすくなった。よりアグレッシブにスロットルを開けられるようになった」とコメントしています。

マクラーレンは「序盤戦では周囲の様子を見て、マイアミから本格的なアップグレードを入れる」と、以前から公言していました。まさに有言実行。そしてアップグレードに「ハズレ」がないのも、従前からのパパイア軍団の強みのひとつです。

次のカナダにも、いろいろと新しいパーツを持ち込むようです。これから中盤戦にかけて、メルセデスに次ぐ2番手チームは、フェラーリよりもマクラーレンという構図になる可能性が高いのかな。

ただ、メルセデスは次のカナダでビッグアップグレードを投入予定です。他のチームとはシークエンスが違うんですね。つまり、また2番手以降との差が開いてしまう可能性もあり、おそらくはそうなるんでしょう……。

■フェルスタッペン、華麗な360°

レッドブルもアップグレードがうまくいって、ここまでブゥブゥ文句ばっかり言っていたフェルスタッペンが調子を取り戻しました。鈴鹿までの低迷ぶりがウソのようで、グランプリ予選はフロントロウですよ。

それだけに、レースでも上位を争ってくれるものと期待していました。そして、ちょっと心配だったスタートも決めて、トップでアントネッリと並んでターン1に入ったまでは良かったんです。ところが、少々がんばりすぎたのかラインがワイドに。さらにルクレールと交錯するかたちになって、ターン2でリアを失ってまさかのスピン!

マックスはこの大ピンチを一回転(360度)のスピンで切り抜け、幸いどこにもヒットせず、誰にもヒットされずにレースを続けることができました。
でも、もちろんポジションは大きく下げてしまいます。1周目終わりで10位くらいだったかな。そのため、6周目にセーフティカー(SC)が出動したとき、まだ早すぎるのはわかっていながら、あえてタイヤ交換というギャンブルに出ざるをえなくなりました。

その後、上位陣は20周目から30周目あたりにかけてピットイン。マックスは予想どおり終盤にかけてタイヤオフセットの大きさに苦しみます。ペースも1秒ほど遅かったため、フィニッシュを目前にしてルクレール、ピアストリ、ラッセルに抜かれてしまいました。

スピンで順位を落とさず、タイヤの面でハンデを背負わずに戦っていれば、今回のフェルスタッペンは十分にポディウムに上がれたんじゃないかと思います。その意味では残念ですが、次戦以降も期待はできそうです。まだシーズンの先は長いし。

■逆回転マカレナ

今回、レッドブルが持ち込んだアップグレードは、かなり大規模なものでした。サイドポッドなんて、ウォータースライダー付きのまったく違う形状に変わっています。しかし、何といっても目を引いたのは、新型リアウイングでした。

フェラーリと同様に、フラップが「クルリンパ」するタイプです。フェラーリのマカレナウイングは、フラップの前縁が上に動いて回転するのに対して、レッドブルのものは反対に前縁が下へ動いて逆方向に回転します。フラップ自体もフェラーリより大きく、メインプレーンとの間にできるギャップが広いので、ドラック軽減にはすっごい効果がありそうです。

(私はニューウェイさんとは違って、空気の流れが見える超能力的な目玉は持っていませんけど。)

レッドブルのピエール・ワシェの話によると、「フェラーリのウイングをコピーしたわけではなく、昨年11月ごろから開発していた。オーストラリアでの導入を目指していたが、フラップが大きく動くので規定の0.4秒以内に動作を終えるのが難しく、その部分でちょっと時間がかかった」とのこと。

■ステアリングも良くなった

しかし、フェルスタッペンにとってより大きかったのは、ステアリングの改良だったそうですよ。「バルセロナのシェイクダウンで初めて乗ったときから、その問題を訴えていた。何かがおかしいのは明らかだったが、それがようやく直った」と、マックスは言っています。

また、ワシェさんは「ステアリングラック全体とサポートコンポーネントを作り直した。4月のブレークの間にパーツを製作できて、マイアミGPに間に合った」と語っていました。

ラックを作り直すということは、パワステの機能の問題だったのか、あるいはステアリングのギア比を変えたか、というあたりでしょうか。詳しいことはわかりません。さらには、12kgオーバーと言われていた車重も6kg軽くなったそうで、このアップグレードで「トップとの差は半減した」とフェルスタッペンは話しています。

優勝を争えるチームは多い方が面白いに決まっているので、とにかくレッドブルにはがんばってほしいところです。

■ガスリー、トバッチリを食う

6周目にSCが入ったのは、2つのアクシデントがほぼ同時に起きたからでした。まず、ハジャーがドライビングミスでウォールをヒットし、サスペンションを壊してコース上に止まってしまいます。これに加えて、ターン17ではガスリーとローソンが絡み、弾き飛ばされたガスリーのルノーがバリアに乗り上げたのでした。

当てた方のローソンは、それほどダメージはなさそうに見えたましたが、そのままピットに入ってリタイア。どうやら、ギアボックスが壊れてターン17のブレーキング中にいきなりニュートラルになり、それでガスリーを突っついちゃったらしいんですね。

それがデータからも証明されたので、ローソンにペナルティが科されることはありませんでした。ガスリーくん、自分は何も悪くないのにリタイアになって悔しかったとは思いますが、まあモーターレーシングではよくあることです。その無念を次のレースにぶつけてください。

■泣きっ面に蜂のルクレール

ガスリーのようにトバッチリを食ったわけではないけれど、ちょっと気の毒だったのがルクレールでした。最終盤まで3位を守っていながら、58周レースの56周目にノリスに抜かれて4位に後退。さらにその次の週には派手に単独スピンをやらかして、フロントサスペンションに軽いダメージを負ってしまいました。

そのため右に曲がるのが難しくなり、結果としてあちこちでトラックリミット違反を犯すことに。コース上でラッセルとフェルスタッペンに抜かれて6位でフィニッシュしましたが、20秒ものでっかいタイムペナルティをもらって最終順位は8位でした。

ペナルティが5秒加算ではなかったのには、ちゃんと理由がありました。トラックリミット違反を複数回にわたって犯したときには、タイムペナルティではなくドライブスルーが与えられることになっています。しかし、ルクレールがそれを消化しないうちにレースが終わってしまったので、ドライブスルー1回分に相当する20秒ペナルティになったわけです。

結果としてスピンしてしまったことはさておき、そこまでルクレールが奮戦していたのは確かです。マシンとタイヤの物理的な限界ギリギリ、あるいはちょっと踏み越えちゃうような領域で走り続けていたのでしょう。そう考えると、むしろフィニッシュできてラッキーだったのかも。

ちなみに、フェルスタッペンもピットアウト時の白線カットのため、5秒のタイムペナルティを受けましたが、こちらは後続とのタイム差が大きかったので順位変動はありませんでした。

■スイッチが入ったっぽいコラピント

アルピーヌのコラピントくん、今回はグランプリ予選でガスリー先輩を上回る8番手グリッドを獲得しました。決勝ではガスリーが早々とリタイアを喫するなか、しっかり完走して7位入賞でポイントゲットです(ルクレールのペナルティでひとつ繰り上がり)。なかなかのパフォーマンスでした。

彼は4月の空白期間中に、母国のアルゼンチンでデモランをやってきたんですね。ご家族も総出で見に来ていたそうで、そのおかげでヤル気の過給圧が0.2バールくらい上がっていた可能性があります。

理由は何であれ、スイッチが入ったのであればいいことです。今季のアルピーヌはパワーユニットのハンディキャップもなくなり、クルマの出来も良さそうですから、このチャンスをうまく生かすかどうかで、彼自身のキャリアの今後も大きく変わってくると思います。

■ウィリアムズ、W入賞(他力本願)

ウィリアムズはサインツが9位、アルボンが10位に入って、こう言っては失礼ながら、まさかのダブル入賞。チームとしては3ポイント獲得です。まあ、本来なら彼らの上にいたであろうハジャー、ガスリー、ローソンがリタイアしたことが大きかったのは事実。さらに言えば、直近のライバルであるハースも今回はいまひとつ冴えなかった。

でも、こういう時にしっかりポイントを拾っておくことは大事です。というか、むしろ「タナボナのポイントをいかに多く拾うか」こそが、彼らのような位置にいるチームの戦い方ですよ。上位3〜4チームとそれを追うチームとの差がちょっと大きい、現在のような状況ではね。

■PUルール変更の効果

日本GPのあと、1か月の休止期間を利用して、FIAはとりあえずすぐにできる、つまりパワーユニットのソフトウェア更新だけでできるルール変更を行いました。オーストラリア、中国、日本の3戦で見えてきた2026年型PUの課題、ないしは問題点に対処するためです。

●スーパークリッピングでの回生を250kWから350kWに変更する:これにはスーパークリッピング状態になる時間を短縮する効果があります。

●予選でのハーベスティング量を減らす:1周あたりの回生量を8MJから7MJにする。つまり、使えるエネルギー量が減少するのでラップタイムは遅くなりますが、リフト&コーストやスーパークリッピングの必要性が減ります。そして、コーナーを攻めない方がラップタイムは速いといった「不自然な」現象が緩和されます。

●デプロイを制限:主な加速ゾーンとその他のゾーン(=アクティブエアロがストレートモードではない区間)を分けて、後者のゾーンでは電気の出力を250kWまでに制限する。また、レース中のブーストモードも150kWまでとする。鈴鹿でのベアマンのクラッシュで表面化した、フルデプロイと電欠時の速度差が大きすぎるという問題への対策です。

これらの変更により、マイアミのターン17までの長いストレートでは、確かにアルバート・パークのレイクサイドドライブで見られたようなスーパークリッピングでの「急減速」はなく、最後に「ふーっと速度が下がる」程度になっていました。

いかにも不自然な抜いたり抜かれたりはあまり見られず、いわゆるヨーヨーレーシングも減ったという印象です。ターン17手前でオーバーテイクしても、ホームストレートからターン1までの区間で抜き返されるというのは何度かありましたが。

ともあれ、あのヨーヨーが減ったことは歓迎したいと思います。オーバーテイクは多ければ多いほど良いという人もいるでしょうが、個人の意見としては、あれはもうホントに興ざめでしたから。

パワーユニットに関しては、さらに2027年に向けての話も出ています。しかし、それはちょっと長くなりそうなので、次の機会に譲ります。

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マイアミGPの日曜日は雷雨の予報が出ていて、その場合、法律により屋外イベントは中止を命じられる、とも言われていました。しかし、スタート時間を繰り上げたこともあり、結果としてはドライコンディションでレースが行われ、2026年レギュレーションで初のウェットレースにはなりませんでした。

次のカナダもわりと雨が降ることの多いイベントですから、そのあたりがちょっと心配です。まあ、いずれどこかでウェットレースがあるとは思いますが、できれば気温が高めの時期で、ストリートコース(またはそれ風のコース)ではないときがいいですよね。安全性という観点から言うと。


2026年5月25日

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