「これは見てはいけない」─工藤公康監督のノートを覗いた日
「プロであってプロじゃない選手っているんです」
2015年から2021年まで福岡ソフトバンクホークスを率いた工藤公康監督の言葉です。
今回はプロ野球の元指揮官で、
“名将”と呼ばれた工藤監督を取材した際に感じたことをお伝えしたいと思います。
「生半可じゃないプロ意識」に触れたい方、
「なぜ工藤監督はあれ程までに勝てたのか」を
知りたい方はぜひ読み進めてみてください。
工藤監督が率いた7年間のホークスの強さは
凄まじかったです。
リーグ優勝3回、日本一5回。
福岡の放送局は毎年のようにビールかけの
準備に追われ、それが日常イベントと
錯覚するくらい”優勝”は身近なものと
なりました。
別に浮かれてなどいませんでしたが、
他球団の先輩ディレクターから
「当たり前と思うなよ」と怒られたのを
思い出します。
タイトルって難しい
私は工藤監督が退任された2021年の年末に
1時間番組を制作しました。
番組タイトルは、『不器用な監督 工藤公康の7年』
この「不器用」というフレーズを使ってしまったことを今ではかなり後悔しています。
葛藤を抱えながらチームの土台を作り上げた様を表現したかった。
「自分は不器用だ」という工藤さん自身のコメントもあったからだと記憶していますが…
今思えばその真意は伝わりづらく、
誤解を招くだろうなと思います。
番組タイトルを考えるのは本当に難しい。
「良い番組」と「見てもらえる番組」は別物だ
という考え方がありますが、
番組を見てもらうために「衝撃」や「独占密着」などと言ったタイトルで興味を引いた場合、
「全然中身伴ってねーじゃん」
となったら罪悪感やばいですよね?
だけど見てもらえない番組は
存在していないのと同じ。
結果として中途半端なタイトルに
なってしまうんですよね。作り手でであれば
一度は葛藤する部分ではないかと思います。
ちなみにこの番組における
私のこだわりは冒頭です。
開始十数秒に全力を注いでます。
詳しくはこちらに書いてますのでぜひ。
プロ野球監督の自宅
私が工藤さんの「プロ意識」に圧倒されたのは、
監督時代に過ごされた福岡の自宅を取材した時です。

すでにご本人は住んでおらず引っ越しのための
段ボール箱がいくつか置かれている状態でした。
その段ボールの中からあるものを見つけました。

ダイエーファンだった方なら見覚えのあるものかもしれません。
現役時代の工藤さんがFAで巨人に移籍する際に
集まった、残留を願うファンからの「署名」。
私も幼い頃の微かな記憶としてこの署名の存在は
知っていました。
会社に入ってからは過去のニュース映像として
何度か目にしていました。
しかしいざ実物が目の前に現れると、
当時の「ファンの叫び」に少しだけ触れた気がして
思わず息を呑んでしまいました。
20年以上前の書類なのに驚くほどきれいで、
大事に保管されていたことがわかります。
そしてもっと驚いたのが、
数十種類に渡るデータファイルや選手資料。



ラベルを見ればわかってもらえると思いますが、
ジャンルは多岐に渡ります。「捕手」だけで7冊...
他の監督がここまでやっているのかどうかは
私にはわかりません。
ただこの書類の数々を見た時に、
充実した戦力や采配の力だけで黄金時代を
築いた訳ではないという事がわかりました。
工藤監督にとって、
自宅は決して安息の場所ではなかったのです。
「勝利」と「選手」のために時間を費やす空間。
グラウンド外でも戦っていた形跡を知り、
これは番組として残さねばと強く思いました。
見極める力
工藤さんを取材するにあたって印象的だったのは
インタビュー時の私を見る目力です。
「プロであってプロじゃない」
冒頭にこの言葉を紹介しましたが、
それを見極める工藤さんの眼力は超一流です。
そしておそらくそれは野球の世界だけではなく、
取材する我々に対しても同じだったと思います。
表情や口調は穏やかなんです。
ただ、質問する私を見るその目から、
「君は作り手としてどんな準備をしてこの日を迎えたのか?」
それを常に問われているような気がしました。
(もちろん直接言われた訳ではありません、主観です)
「見てはいけない」と思ったノート
勝つため、選手のためならば「嫌われる」ことを
厭わなかったという工藤監督。
しかし周辺取材を進めていくと、
その厳しさ、言葉のウラにある真意を選手たちも
確実に感じ取っていたことがわかりました。
「いくらでもしゃべれます。この番組だけでは伝えきれないくらい感謝しています」
誰よりも厳しくされたという巨人の甲斐拓也選手は、そう言い切りました。
理想の上司の形ってこういうものなのかもなと
思いました。
続いて見せてもらったのはこのノート。
工藤監督は試合中もメモを細かく取っていたことは有名ですが、自宅に帰るとそのメモを整理し、また別のノートやスケッチブックに
思いを書き記していたそうです。


これは誰にも言ってなかったことなのですが、
最初ノートを見せてもらった時私は本能的に
「これは見てはいけない」と思いました。
なぜか?
なんというか、
強い信頼関係を築いているわけでもない、
深くプロ野球の世界を理解しているわけでもない、
30歳くらいの若造がノコノコ家にやってきて、
軽く覗いていいようなものではないと
思ったんです。
「いや、そういうのが撮りたくて自宅まで行っとるんやろ?」
そう思った方もいると思います。
否定はしません。
自分でも何言ってんだと思います。
もちろん個人的な感情だけで「見ない、伝えない」なんてことはしないので
仕事として取材した以上は番組で放送しますし、こうしてnoteでも公開します。
伝える意味があると思うから。
それとは別に、胸の内で
「これは見てはいけない」と思ってしまった
という話です。
この感情がなんだったのか?
単なる覚悟の差なのか?
一般人とプロの違いなのか?
答えはわかりませんがこの番組を制作する上で、
一番印象的だった思い出です。
最後に個人的に好きな工藤監督の言葉を
載せておきます。
番組中に出てくる言葉です。
「野球選手って器用だから上手くなるかというとそういうわけでもない。
不器用な人は一つのことしかできないからそれをずっとやって上手くなる場合もある」
因みにこの番組のちょっとした裏話は
以下の記事でも書いています。暇な方はぜひ。
独立後のリアルやAI活用の本音は、Substackで毎日コツコツ書いています。
🎙 ポッドキャスト「アナログ人間のAIアップデート論」を聴く
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
