経験は、増やすためじゃなく比べるためにある
――俳優思考・第二十五回
しかしまぁ、京都は暑いです。本当に。
さすが盆地だなと思います。若い頃は当たり前すぎて気づかなかったんですが、東京に長いこと住んで京都へ戻ってくると、「京都って、こんな暑かったんだ」って思うんですよね。
他を知って、初めて暑さを知りました。
はい、この「他を知る」ってことは、引き合いができるってことですよね。比べるものがあるから、「ああ、こっちはこうなんだ」って分かる。
だから、知識や経験を増やすっていうのは、ただ物知りになることじゃなくて、物事を深く見られるようになることなんじゃないかなと思うんです。
「いろいろやってみる。」
そんなこと、言われなくても分かってるよって話かもしれません。
でも、やっぱり人は興味のあるもの以外には、あまり目を向けません。
これは稽古場でも、講師をしていても、本当によく感じます。
もちろん、一つのことに没頭する時期も必要です。ただ、それだけだと見えないものもある。
例えば、映画を一本しか観たことがない人に、「映画って素晴らしい!」って言われてもねぇ…。
いや、それが悪いって言ってるわけじゃないんです。
でも、10本観た人、100本観た人、さらに洋画も邦画も、コメディもサスペンスもアクションもホラーも観てきた人が同じことを言うのとでは、やっぱり重みが違ってきます。
観れば観るほど、「あ、この監督らしい演出だ」とか、「この役者さん、前とは全然演技が違う」とか、今まで見えていなかったものが見えてくる。
つまり、比較対象が増えるんです。
だから、とりあえず普段あまり観ないジャンルの作品を一本観てみてください。それだけでも十分だと思います。
そして、映画だけじゃありません。警察のご厄介にならないことなら、いろいろやってみたらいいと思います(…まぁ、警察のお世話になることも、ある意味では経験になるのかもしれませんけど)。
頭の中だけで「ああでもない、こうでもない」と考えているより、とりあえずやってみた方が早い。絶対いい。
実際、演出をしていても「一回やってみよう」と言うことが本当に多いです。
すると、案外そこから思いもしなかった演技が生まれることがあります。逆に、「違いましたね」って終わることもあります。
でも、それでいいんです。
やったから分かった。その経験は必ず残ります。
頭で分かったつもりになることと、身体で分かることは、まったく違いますから。
講師として教え子たちを見ていても、伸びる人ほど、とりあえずやろうとします。得意じゃないことにも挑戦するし、自分なら選ばないようなことをやってる。そりゃ、上手くいかないことだらけ。
でも、それが経験になります。
逆に、やろうとしない人は、失敗もしません。その分、周りから「すごい」と見られることもあります。でもそれは、一生懸命自分を守ろうとしてる状態でもあるってことです。(もちろん、否定はしません。ただ、勇気を持つようには仕向けます。)
これは俳優だけじゃないと思うんです。
仕事でもそう。人付き合いでもそう。
普段読まない本を読んでみる。
入ったことのない店に入ってみる。
食べたことのない料理を頼んでみる。
話したことのないタイプの人と話してみる。
そんな小さなことで十分です。
京都の暑さも、京都に住んでいるだけでは気づけませんでした。
東京を知ったから、「京都って暑いなぁ」と感じられたんです。
自分という人間も、きっと同じです。
他を知って、知れば知るほど、自分というものが見えてくるのだと思います。
自分の可能性というのは、自分が知っている世界の中だけでは、案外見つからないものです。だからね、興味がないものほど、一度、覗いてみてはどうでしょうか。
思いがけないところに、成長の根は落ちてるもんですよ。
次回はこちら→『反省って、悪いところを探すことですか?』
前回はこちら→『「とりあえず5つ」――世界はそこから広がっていく』
まとめはこちら→【俳優思考】
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