人は失敗より、想像に負けている
――俳優思考・第十七回
演技講師をしていると、一概には言えませんが、男性よりも女性の方が思い切りがいいなと思う場面があります。
開き直っているというか、いい意味で責任感がないというか。見ていて清々しいんですよね。
もちろん逆の人もいますし、個人差はあります。ただ、長年見ていて、あることに気づきました。
思い切れる人は、自分より先に「やるべきこと」を見ている。
思い切れない人は、「自分」を見ている。
もちろん、これは極端な言い方です。
でも、演技を見ていると、案外そんなものなんですよ。
人前に立つ。セリフを言う。感情を出す。
ただそれだけのことなのに、
「失敗したらどうしよう」「変に見えないだろうか」「下手だと思われないだろうか」そんなことを考え始める。
すると途端に、身体が固くなり、声が小さくなり、芝居が小さくなる。
いわゆる『緊張』というやつです。
でも、よく考えたら不思議ですよね。
レッスンで失敗したところで、死ぬわけじゃない。
オーディションで落ちたところで、命を取られるわけでもない。
それなのに心臓はバクバクするし、足は震える。
おそらく脳は、それを「危険」だと判断しているんでしょうね。
失敗したらどうしよう。笑われたらどうしよう。恥をかいたらどうしよう。
そんな危険信号を、せっせと出している。
だから緊張する。
脳ってやつは、働き者ですが、時々余計なお世話をしてくれます。
昔、三船敏郎さんがオーディションで「泣いて下さい」と言われ、「悲しくもないのに泣けるか!」と言い放ったというのをご存知ですか?
それがきっかけで、黒澤明監督と三船敏郎という黄金コンビが生まれたわけですが。
今の時代に同じことをやったら怒られるかもしれませんね。
いや、たぶん怒られます。
ただ、この話の面白いところは、「どう見られるか」より先に、自分の中にある感覚が出てきたところだと思うんです。
評価を恐れる前に、自分が動いた。だから強い。
オーディションに行くと、審査員が偉そうに座っていることがあります。腕を組んでいたり、無表情だったり。
あれを見て萎縮する人もいます。気持ちはわかります。
でもね。審査員なんて所詮、審査員です。その前に人間です。
そして、その人間は、あなたを絶対に殺しません。
これ、オーディションに限った話じゃないんですよね。面接官もそう。上司もそう。取引先もそう。
私たちは相手を必要以上に大きく見積もることがあります。あの人は偉い。あの人は凄い。あの人に嫌われたら終わりだ。
でも、相手も人間なんです。失敗もするし、悩みもする。必死に生きている。案外、向こうだって余裕なんてありません。
なのに私たちは、自分で勝手に相手を大きくして、自分を小さくしてしまう。
もったいないですよね。
受かりたいなら、必死になってください。必死なだけでいいんです。
必死になると、自分を見ている暇なんてなくなりますから。どう見られているか。失敗しないか。嫌われないか。そんなことを考えている余裕がなくなってくる。目の前のことに集中するしかなくなるんです。
私は、その状態が一番強いと思っています。
芝居だけに限りません。
仕事でもそう、人間関係でもそう、何か新しいことに挑戦する時もそう、
結局、人は失敗に負けるというより、自分の想像に負けていることの方が多いんです。
だから、もし今、何かに挑戦しようとしているなら、少しぐらい怖くてもいいので、ぶちかましてきてください。
案外、世界はあなたが思っているほど危険じゃありませんから。
次回はこちら→『「なんかそっちの方が面白そう」が、人生を動かす――芝居が教えてくれた、イメージの使い方』
前回はこちら→『「もっと良くしたい」のに、その「もっと」が分からない』
まとめはこちら→【俳優思考】
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