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マイケル・ジャクソンの苦悩⑥:マイケルから学ぶ観察眼 — 点の認知と流れの認知

第4回の記事の中で、初めての職場やサークルに行ったとき、私たちは、無意識に周りを観察している、と書きました。

何を話しているのかだけでなく、その場の雰囲気や流れを、自然と読み取ろうとしている、という話です。具体的には、次のようなことです。

  • みんなはどんな振る舞いをしているのだろう

  • 話題がどの方向に動いているのだろう

  • 誰の発言が会話の流れを動かしているのだろう

  • どんな反応・やり取りが生まれているのだろう

これを読んで、「なんとなく分かる気がする」と感じ、その場に流れている非言語情報までも無意識に読み取っていた自分に気づいた人もいるかもしれません。

一方で、「それよりも、何の話題かとか、何を話せばいいかばかり考えているかも」と、事実に着目し、現実的な対処法を見つけようとしていた自分に気づいた方もいるのではないでしょうか。

私たちには、「何かを見聞きしたときに、どこに注目し、何と結びつけ、どのように捉えるか」という、言葉になる前の無意識下での働きがあります。それをここでは「認知」と呼びます。

その認知には、二つの大きな傾向があります。

  • 一つは、ある「点」にフォーカスして捉える「点の認知」

  • もう一つは「流れ」として捉える「流れの認知」です。

さきほど、「事実に着目し、現実的な対処法を見つけよう」と気づいた方は、「点の認知」の傾向が強く出ているかもしれません。
一方で、「非言語情報を読み取ろうとしてしまう」と感じた方は、「流れの認知」の傾向が強く出ているかもしれません。

では、マイケル・ジャクソンはどうだったのでしょうか。


1. マイケルの観察眼を紐解いてみよう

インタビューの中で、マイケルは、子どもの頃に、アポロシアターの舞台袖から James Brown や Jackie Wilson のパフォーマンスを観察していたことを語っています。

I’d be in the wings studying every step, every move.

I’ve never seen nothing like that. That kind of emotion, that kind of fever, feeling.
…they had the audience in the palms of their hands.
I just loved how they could control them like that, that kind of power.

Interviewed by Brett Ratner, Interview Magazine (2004)

(意訳)
「舞台袖から、ステップや動きを一つずつ見ていたんだ。(中略)あんなのは見たことがなかったよ。彼らの内側から溢れ出てくる情熱、熱量、雰囲気。…(中略)…彼らが、観客を手のひらの上で転がすように、自在に動かしていた。あんなふうに会場全体を動かせる、あの力が本当にすごかった。」

この言葉から、マイケルの観察眼には、三段階の広がりがあることが見えてきます。

1. 外側から見える現象の観察

まずは、外側から見える現象の観察です。ステップや身振りといった「一つひとつの動き」をつぶさに観察し、「ここでこう動くのか」と見ていたのでしょう。これは「点の認知」に近いものです。

2. パフォーマーの内側からにじみ出るものの観察

次に、その動きの背後にある、パフォーマーの内側を観察しています。
内側からあふれる情熱。それが熱量として外に伝わり、周りへと広がりながら、やがてその人の雰囲気やオーラとなっていく。

ここでは、「内側にある想いがどのように外へと現れ、それがどのように広がっていくのか」という流れとして捉えているようです。

3. 観客との呼応と、会場全体への広がりの観察

そして、その広がりが、どのように会場全体へと波及していくのかを観察しています。

パフォーマーの生み出した流れに観客が反応し、それにパフォーマーが再び反応する。そうした互いの呼応が、さらに場の空気を少しずつ変えていく。

——まだ10歳にも満たないマイケルは、会場全体の空気の流れ方の変化まで捉えていたのです。

こうしてみると、マイケルは「流れの認知」で物事を捉えていたことが見えてきます。

2. 観察だけでは終わらない。研究する。

そして、「流れとして捉える」という観察が積み重なると、「なぜそうなるのか」を解き明かしたい、という問いが立ち上がってきます。

先ほどのインタビューの後で、音楽業界に参入したい人たちに向けて、マイケルはアドバイスを語っています。

Believe in yourself. Study the greats and become greater. And be a scientist. Dissect. Dissect.

Interviewed by Brett Ratner, Interview Magazine (2004)

(意訳)
「自分の力を信じろ。偉大な人たちを研究し、より偉大になろうとするんだ。そして、科学者になって、解剖し、分析するんだ。」

そして、また別のインタビューの中で、尊敬するパフォーマーの映像を収集している背景について聞かれたマイケルは、次のように語っています。

Before I do anything, it could be any situation, I love studying the whole history of it before I take the first step to innovate.

Interviewed by Anthony DeCurtis, Online Chat (2001)

(意訳)
「何かをやろうとする前に、それがどんな分野や領域であっても、まずその歴史的文脈を調べるのが好きなんだ。新しいことに一歩踏み出す前にね。」

これらの言葉から、事実だけでなく、なぜそうなるのか、その背後にどんな流れがあり、どんな関係性が働いているのかを解き明かそうとする、マイケルの観察眼が見えてきます。

「流れの認知」で観察していると、「見て学ぼう」から始まった観察が、いつの間にか「解き明かしたい」という研究へと、移り変わっていくのが「流れの認知」の特性です。

3. 深掘り研究の先に何があるのか

「なぜそういう流れになるのか」
「何がそうさせているのか」
——こうした背景や構造へと、自然に視点が向いていきます。

そうして、深掘り研究へと足を踏み入れていくと、出来事と出来事の関係性、あるいは、状況と出来事の関係性が見えてきます。

それが積み重なると、その背景に流れている「構造」が見え始めます。

すると次第に、それは、脳内や身体の中で「シミュレーションできるもの」へと変わっていきます。

次回は、流れの認知が、どのように「構造を捉えていく」のか、についてです。

(つづく)

おまけ1:認知とは、私たちのカメラのデフォルト設定

「点の認知」あるいは「流れの認知」は、私たちの無意識下で働いている認知の大きな傾向です。明日から「点の認知」に変えようと思って、簡単に変えられるものでもありません。

この認知の傾向は、生得的な要因と、生存の中で最適化されてきた後天的な要因とが絡み合って形づくられています。だからこそ、私たちは何かを見聞きしたとき、「どこに注目し、どのように捉えるか」を無意識のうちに選び取っています。そして、その観察の仕方や精度は、同じ認知の傾向を持つ人同士であっても、少しずつ異なります。

「認知」とは、私たちそれぞれが、世界を見るときに無意識に使っている「カメラのデフォルト設定」のようなものなのです。

おまけ2:「点の認知」と「流れの認知」に優劣はない

認知とは無意識下の働きなので、「点の認知」と「流れの認知」に優劣があるわけではありません。それぞれに、適した役割があります。

例えば、ビジネスの現場で、事実をそのまま捉え、迅速に判断を下さなければならない場面では、「点の認知」が力を発揮します。
一方で、その点をつなぎ合わせて全体の流れや方向性を捉え、より本質的な対処法を考えるには、「流れの認知」が役立ちます。ただ、こうした役割の違いがあるだけなのです。

点の認知:その瞬間の事実や明示された情報を切り出して捉える認知。起きていないことには踏み込まず、目の前の情報を正確に処理する。
流れの認知:前後の文脈や変化をつなげて物事を捉える認知。少ない情報から全体の流れを立ち上げ、「この先どうなるか」を自然に予測する。

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