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白杖が怖い、側溝が怖い、壁が怖い。臆病な彼女が、見えない私の目になる理由


我が家には、私より愛されている家族がいる。

しかも一人じゃない。
複数いる。

子どもも、妻も、注ぐ愛情の大半はそっちに向かっている。
私が土に帰るときも、きっとこうなのだろう。

その中のひとり。
いや、一匹。

超小型ポメラニアンの ゆず

漢字もある。甘くて、少し酸っぱい、あの柑橘の名前。
白くて、手のひらに乗るサイズ。

この子は、盲導犬ではない。
訓練も受けていない。
ただの、極度に臆病な、超小型ポメラニアンだ。

でも、見えない私にとっては、かなり大事な目でもある。


🐾 本当は、この子じゃなかった

ゆずは、我が家に来る予定ではなかった。

ブリーダーさんの家に行ったとき、3匹の兄弟がいた。
その中で、いちばん元気だった子。
活発で、人懐っこくて、目がキラキラしていたらしい。

本当はその子をお迎えするはずだった。

でも、ブリーダーさんが言った。

「初めてワンちゃんを飼うなら、この子のほうがいいですよ」

そう紹介してくれたのが、いちばん小さかった、今のゆず。

運命なんて大げさだけど、我が家に来たのはこの子だった。
そして今、見えない私のそばにいるのも、この子だ。


🦶 足の裏という、意外なセンサー

生き物を飼っていれば、必ずある。

ウンポッポ、である。

当然ながら、私には見えない。

「匂いで分かるでしょ?」と言われることもある。
でも、そこまでピンポイントに場所を特定できる嗅覚は、残念ながら備わっていない。

では私はどうやって、彼女のウンポッポに気づくのか。

足の裏 である。

そう、すでに踏んでいる。

踏んだ瞬間の、あの柔らかい温度。
それで私は、彼女の今日の体調を知る。

そこからケンケンで洗面所まで。
他の床に広げないように、片足だけで移動する。

もう5年以上、これをやっている。
なかなか良い筋トレだ。


🐕‍🦺 怖がりの全部が、私の助けになる

ゆずは、人間が大好きだ。
犬にはまったく興味がない。
そして、やたら臆病でもある。

誰かが家の前を通った。
誰かが来た。
誰かが外にいる。

そういうとき、彼女はとりあえず吠える。

うるさい、と感じる人もいるだろう。
でも私は、音が9割の人間だ。

離れた場所にいても、外の気配を先に教えてくれるのは、だいたいゆずだ。

散歩に出ると、その臆病さはもっと分かりやすい。

側溝が怖い
だから避ける。
すると私にも、そこに側溝があると分かる。

白杖が怖い
絶対に近寄らない。
そのおかげで、私と彼女のあいだにはいつも一定の距離ができる。
踏んでしまうこともない。

フェンスや壁も怖い
だから壁際を歩かない。
すると私も、壁に寄りすぎずにすむ。

ハーネスもつけていない。
訓練も受けていない。
ただ、怖がっているだけだ。

でも、その怖がり方の全部が、結果として私を助けている。

我が家には、ハーネスをつけていない盲導犬がいる。
そう呼んでも、誰も怒らないと思う。


🚪 見送りと出迎えは、この子の仕事

家族の中で、私をきちんと見送ってくれるのも、出迎えてくれるのも、ゆずだけだ。

出かけるとき、玄関までついてくる。
帰ってくると、全力で吠える。
もう本当に、全力で吠える。

人間が大好きなので、家族が帰ってきたと分かると止まらない。

吠えきったあとのゆずは、息が切れている。
肩で息をしている。
こっちが心配になるくらいだ。

そこまでしなくていいのに、と思う。
でも、ちょっと嬉しい。

家族の誰より、私の気配を覚えてくれている。
家族の誰より、私の帰宅に反応してくれている。

それが、ゆずだ。


💗 愛情は、返ってくる

父親より、動物のほうが愛されている。
それは、我が家の普遍的な真理だ。

異論はない。

足の裏で体調を教えてくれて、
吠えて気配を教えてくれて、
怖がることで、私の安全な距離を作ってくれて、
帰ってくれば、息が切れるまで騒いでくれる。

それなら、我が家でいちばん愛されていても文句はない。

私もその愛情の列に、ちゃんと並ばせてもらおうと思う。

ケンケンしながら。


📎 お時間があれば、こちらの家族たちにも会ってやってください

ゆずと同じく、我が家で私の目になってくれているのは家族です。白杖が、ある日家族の声を変えた話。

ミズノの白杖が、ある家族の声を変えたきぼうの話

ゆずは気配を吠えて教えてくれる。でも、家族の中でいちばん怖いのは、吠えない沈黙だったりする。

見えない父は、娘の沈黙がいちばん怖い

ハーネスをつけていない盲導犬が、我が家のゆず。ハーネスを持たずに私を導いてくれたのは、息子の手でした。

10歩で引き返した朝、息子の手が大人だった


🎬 見えない映像クリエイターが作った動画

外ではチャンピオンとして称えられる父親が、家に帰ればペットの下僕となる「家庭内序列」を描いた動画です。白杖を持って堂々と歩く私も、家に帰れば超小型ポメラニアンのゆずに振り回される一人の父親。外と内のギャップ、そして小さな家族への愛情という点で、今回の記事と同じ温度で響き合う一本です。


#視覚障害 #全盲クリエイター #散歩日記 #エッセイ #犬のいる暮らし #ポメラニアン #ハーネスをつけていない盲導犬

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